20:賊の襲撃
コロン視点~
ガタガタガタ・・・・
遡ること数分前、ワタシは護衛のために、シャルの乗り込む馬車に同乗していた。
最近ヨッシーの乗り物に慣れてきたせいか、馬車の揺れは不快に感じるが、こればかりは我慢する他ないだろう。
現在馬車の中には護衛対象のシャルの他に、同じく護衛で女騎士のフォセットと、いつもシャルの傍らに控えているメイドのアンナが同乗しているのだ。
現在馬車の御者を務めているのは、執事のマルセルのおっさんだ。
ワタシたちはエドワード侯爵の屋敷へ向かう途中に、シャルの我がままに付き合い、お店巡りをしているのだ。
シャルは服飾の店を好んで周り、ドレスや小物などを買いあさっているようだ。
ワタシは服飾には特に興味はなく、退屈な時間が続いていた。
まったくお屋敷に帰るだけで、どれだけ時間をかけることやら。
「あらコロン? 今日はいつもとは違う手甲をしているのね?」
「あ? これか? ヨッシーに貰ったんだ」
どうやら服飾に興味があるだけあって、ワタシのいつもと違う装備に気づいたようだ。
この手甲はヨッシーが造りだした新たな武器、風癒の手甲だ。
なんでもワタシの生まれた日を祝うために造ったようで、一昨日夕食の後に贈ってくれたのだ。
まあ生まれた日を祝われた記憶などないので、少し感激しちまったがな。
それはそうと今朝出かける前に、ヨッシーから預かった、魔道具があったのを忘れていた。
「シャル。これはヨッシーからお前にだ」
「まあ綺麗な赤い板・・・・。これは何ですのコロン?」
「これはスマホとかいう遠話の魔道具だ。ヨッシーが緊急時の連絡手段用に渡しとけってさ」
この遠話の魔道具は、板に映し出された名前に触れることで、その名前の相手と離れていても会話できるという、優れた魔道具だ。
「遠話の魔道具はダンジョンや遺跡で出土する、かなり希少な魔道具だと聞いていますよ!? そんな高価な品、本当によろしいのですか!?」
「彼奴は色々な奴にそれを渡しているからな・・・・。沢山もっているんだろ? 遠慮はいらねえから貰っときな」
「まあ・・・・それは随分と気前の良いことですね・・・・。ヨッシー様はあのお歳でそこまで財を築いておいでなのですか?」
「ヨッシーはあまり金を使わねえから、沢山ため込んでいるのかもな・・・・」
本当はヨッシーが作った魔道具なのだが、そのことは秘密だ。
それが広まれば彼奴にとって、良いことにはならないだろう。
「さっそくですがヨッシー様にお礼をの言葉を伝えて差し上げたいので、この魔道具の使いかたを教えてくださるかしら?」
「いいぜ。まずこの板に浮かんでいる文字を・・・・」
ワタシが遠話の魔道具の使い方を、説明しようとしたその時、前方に多数の悪意があるのを感じた。
魔族でも感覚の鋭い者は、周囲の魔力を肌で感じることが出来るのだ。
「馬車をとめろ! 前方に賊だ!」
ワタシはそのとげとげした魔力の奴らを、即座に攻撃性のある敵、賊だと判断した。
「そんなこと・・・? 特に怪しい人物などは周囲には見当たりませんぞ?」
マルセルのおっさんには、その多数の賊の存在が、感じ取れないようで困惑している。
だが賊の一人が矢をつがえ、マルセルのおっさんに、狙いを定めているのを感じた。
「おっさんが危ねえ! ワタシは前に行くぜ!」
「ここは動いている馬車の中なのだ! 危険だぞコロン殿!」
女騎士のフォセットが静止を呼びかけるが、今はそんなことにかまっている暇はない。
ワタシは外へ出ると、馬車の壁を伝い、するりと御者席に乗り込む。
そして即座に手を伸ばした。
パシッ!!
「ひいい!!」
「危なかったなおっさん・・・」
なんとか飛んでくる矢を、マルセルのおっさんの目の前で、掴み取ることができた。
そして行く先を見ると、ぞろぞろと覆面の男たちが、こちらに迫ってきているのが見えた。
ヒヒヒン!!
「何!? マルセル!?」
馬車が急に止まり、異変を感じたシャルが、状況確認のために尋ねてくる。
「シャルロッテお嬢様!! 襲撃でございます!!」
「何ですって!?」
「私も出ます!!」
「待て!」
その状況にフォセットもすごい剣幕で外に出てきた。
だがワタシはそれを制止する。
「敵はあれだけじゃねえ! 他にも隠れていやがる!」
「何!?」
「あいつらはワタシに任せて馬車を頼む!」
「だがあの人数では・・・・!!」
賊の数は12人はいて、全員剣を抜いている。
背中に弓矢を背負っている奴も二人いるので、そのいずれかが、マルセルのおっさんを狙ったのだろう。
「シャルロッテを置いて行け!」
どうやら賊の狙いは、シャルロッテの誘拐のようだ。
賊のその言葉を合図に、ワタシは自らの手を前にかざした。
「吹き飛べ!!」
そして魔力を風癒の手甲に込めると、そう合言葉を述べた。
「「ぐわああ!!」」「「ぎゃああ!!」」
すると手甲から暴風が、賊に向けて吹き荒れ、賊を6~7人巻き込んで吹き飛ばしていく。
この手甲のすごいところは、これほどの暴風を低魔力で巻き起こすところだ。
しかも長い詠唱もいらず、魔力さえ込めていれば、短い言葉で魔法が発動するのだ。
ドカ! バキ! ドボ!
「ぐあ!」「ぎゃ!」「ごっ!」
その後瞬時に賊に接近して、数人を蹴りや拳で殴り飛ばす。
あっという間に賊の大半が、地を転がるはめになった。
「化け物め!! 退避だ!! 退避いいいい!!!」
すると賊はあっけなく退避を始めた。
倒れている者も立ち上がり、または助け起こされ、次々と退避していく。
だが遠くでこちらの様子を窺がう悪意は、動く様子もない。
それを不気味に感じたワタシは、次なる襲撃を警戒し、即座に飛ぶように馬車に戻る。
「この場をすぐに去るぞ! 賊がこの付近でまだ様子を窺がっている!」
「他にも賊がいるのか!?」
「急いで馬車を出します! はっ!」
パシッ!!
「ヒヒヒヒヒヒン!!」
馬車をしばらく走らせると、どうやら周囲の賊らしき気配は消えたようだ。
「ようやく屋敷が見えて参りました」
やがてエドワード侯爵家の屋敷が見えてくると、安堵のため息をつくのが聞こえる。
「コロンのおかげで、大事には至りませんでしたね。ヨッシー様にはコロンを護衛に付けてくれたお礼を述べておかなければなりませんね」
そう言うとシャルは、遠話の魔道具を先ほどワタシが教えたとおりにいじり、どうやらヨッシーにつなげたようだ。
『こちらヨッシーです。どうなさいましたシャルちゃん?』
「ひっ! 本当に通じましたわ! どうしましょう!」
だが初めて遠話の魔道具を触るのか、ヨッシーの声が聞こえた途端に、しどろもどろになってしまう。
『お~い! もしも~し!』
「ほら。ヨッシーが待っているぞ。遠話の魔道具を耳に当てて、何か話しかけて!」
「ああ!! はい!! ヨッシー様ごきげんよう!」
『ごきげんよう・・・。どうしました? 何かありました?』
「ああぁ・・・! あのですね・・・!」
どうやら遠話の魔道具は、無事に使えたようだ。
その後先ほどの出来事をヨッシーに伝え、王宮にもその報告が伝わったようだ。
襲撃してきた賊については、その後の調べで数人が捕縛されたらしい。
だがいずれも金のために雇われた、評判の悪い冒険者で、例の二家とのつながりの証拠となりそうなものは、見つからなかったという。
そうなるとこちらの様子を窺がっていた、もう一つの賊の一団について、気になるところだが、そちらの方については、手掛かりすらつかめなかったようだ。
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