17:新たな世話役就任
「ヨーレシア殿・・・君はブラックナイツの傘下なのかね?」
晩餐会も終わりに近づき、珍しい異世界のフルーツを、シャクシャクと食べていると、エドワード侯爵がそんなことを尋ねてきた。
ブラックナイツとは王族の守護者と称される貴族家の一つである。
現在ブラックナイツの名を受けている貴族家は、ダングルベール侯爵家だ。
そのダングルベール侯爵家の現当主が、ヴァレリアン・ド・ダングルベール・ブラックナイツ侯爵という人物なのだが、彼もオレ同様に王都での戦いに参加し、功績を上げた人物である。
ダングルベール侯爵家は、実はあのギーハテケナ伯爵家の後見貴族であり、ギーハテケナ伯爵家は、ダングルベール侯爵家の傘下であるといわれているのだ。
当然ギーハテケナ領の一部を預かる子爵であるオレは、その傘下であると思われていてもおかしくはない。
まあダングルベール侯爵とは二度ほど王宮で会ったが、頭を丸めた豪快なおじさんだとしか覚えていない。
ぶっちゃけその傘下である自覚すらない。
だがまあ・・・・その是非を問われれば、こう答える他あるまい。
「シャク・・・まあそういうことになるんですかね?」
「それは武力が一部に集中しすぎていると思わぬか?」
エドワード侯爵の言わんとしていることもわからなくはない。
現在ダングルベール侯爵家の勢力に、王家の守護者と称されるほど強大な武力が2つもあるのだ。
財力のあるエドワード侯爵ならば、すぐに多く兵力を集められると思うが、この魔法のある異世界では、兵士の数より質を問われる場合が多い。
ブラックナイツにしてもレッドナイツにしても、自身の強さはもちろん、強力な配下を従えているし、その育成方法も心得ているだろう。
つまりその二家は、強大な武力を保有していると言ってもいい。
とくにダングルベール侯爵家は、自家もブラックナイツでもあり、ホワイトナイツという戦力も有していると考えられている。
エドワード侯爵はその武力が集中している、ダングルベール侯爵家を恐れているのだろうか?
「ヨーレシア・ド・ホワイトナイツ子爵・・・・うちの傘下に入る気はないかね?」
「ええ!?」
オレはそのエドワード侯爵の唐突な勧誘に、驚き、唖然とした表情になってしまう。
「お待ちくださいエドワード閣下!! ヨーレシア様は父であるバートム伯爵とも大変懇意にしております!! そのような要求にはお答えできないと思いますが!?」
そこに割り込んだのはギーハテケナの姫、フランちゃんだ。
フランちゃんは必死の形相で、エドワード侯爵に激しくまくし立てる。
オレが引き抜かれそうになり、慌てているのだろう。
だが今の話の流れからして、そういった言葉が、エドワード侯爵の口から出るのも不思議ではない。
だがオレの答えは、最初から決まっている。
「お断りいたします。バートム伯爵には随分とお世話になっていますので・・・」
「やはりそう答えたか・・・・君は噂どおり義理堅い人物のようだな」
エドワード侯爵は目を細め、まるで分析でもするかのようにオレを見つめる。
「では提案だが・・・君の世話役として、娘のシャルロッテを仕えさせてはくれぬか?」
「えっと・・・・侯爵家の娘を子爵のオレにですか?」
「そうだ。君でなければならない・・・」
エドワード侯爵家が武力的な庇護を受けたいのであれば、王族の誰かにシャル様を仕えさせればいい話だ。
だがエドワード侯爵家には、それができない理由があるのだ。
エドワード侯爵はアルベリヒ王子とレーティシア姫が派遣を争っていたころ、アルベリヒ王子にもレーティシア姫にも付かず、中立を貫いていた貴族だ。
エドワード侯爵が今なお財務省の役職にあるのは、その手腕と財力の力に他ならない。
だがそんな中、秘密裏にではあるが、レーティシア姫を庇護していた、レーティシア姫派の貴族がいたのだ。
それが現在ブラックナイツを務める、ダングルベール侯爵である。
なので王族は立場上、ダングルベール侯爵家の傘下以外の貴族から、世話役を選ぶことはない。
つまりシャル様は、王族の世話役にはなれないのだ。
ではなぜエドワード侯爵は、オレをその対象に選んだのか?
直接ダングルベール侯爵家の誰かの世話役を、買って出る方がまだいいとオレは思うのだが、それが出来ない理由がエドワード侯爵家にはあるのかもしれない。
「シャルロッテ様をわたくしの世話役に推す理由は何ですか?」
「それは君個人の武力をあてにしているからだよ。国王やダングルベール侯爵も、娘を君に仕えさせるだけなら良いと言っていたしな。疑うなら承諾書もこちらにある・・・」
エドワード侯爵は王族とダングルベール侯爵家のものと思われる、印が押された書類をオレに見せてきた。
なんという準備周到なことだろうか?
つまりエドワード侯爵は事前に、この話をオレにする前に、国王やダングルベール侯爵の許可を得ているということになる。
「ついでに言うと、王族はダングルベール侯爵家の傘下に君がいることを、快く思ってはいないようだぞ?」
まあ王族が権力の集中を恐れるのは、わからなくもない。
だからといってオレがホイホイと、エドワード侯爵の傘下に入るわけもないのだがな。
「わかりました・・・・。しかしわたくしはシャルロッテ様の意思を尊重しますよ」
この国の貴族社会では、親の命令には逆らえないという風潮がある。
だがオレはそれでもなお、シャル様の意見を尊重したいと思ったのだ。
甘いだろうがオレは、本人の嫌がることはしたくないのだ。
「わたくしはヨッシー様に仕えることに是非はありません。ですがわたくしのことは今後シャルさまではなく、ただシャル・・・とお呼びください」
シャル様は最後に、笑顔でそう締めくくった。
こういうところはフランちゃんと、そっくりだなと思わざるを得ない。
この国の貴族令嬢は皆こんな感じなのだろうか?
こうしてフランちゃんがぐぬぬ顔で見つめる中、オレに新たな世話役が付いたのだった。
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