16:リュシーの中華料理
エドワード侯爵家では、オレが手土産に持って来た白ワインと日本酒が、随分と好評のようだ。
エドワード侯爵、奥さんのイザベラ夫人、長男のエリックさんも、美味しそうにそのお酒を飲んでいるようだ。
だがそこには一人だけ手土産が口にできず、いじける人物がいた。
「皆狡いです! わたくしだけヨッシー様の手土産が口にできないなんて!」
それはシャル様だ。
未成年である彼女は、その珍しいお酒を口にできず、ぷんぷんとお怒りのご様子だ。
「それならもう一つ手土産があったろう?」
「はい。こちらにお持ちいたしてございます」
どうやらシャル様の様子を見たマルセルさんが、気を利かせてもう一つの手土産を持ってきていたようだ。
「ほう? 随分と変わった菓子だな? これは何という菓子だ?」
「そちらは月餅といいます。そちらは今ギーハテケナ領で流行っている中華料理の一つなんですよ」
「美味しい! とても甘いわ!」
さっそく月餅を口に入れたシャル様が、ご満悦な様子で良かった。
どうやら機嫌も直ったようだ。
「そうね! 濃厚で少し苦みがあるけど悪くないわ!」
「ほう? 美味いな」
侯爵家の皆さんにも、月餅は気に入っていただけたようだ。
「チュウカとはこれの他にどんな料理があるのだ?」
エドワード侯爵が中華料理について気になったのか尋ねてきた。
「肉まんやギョウザ・・・小籠包にスープ・・・他に言い尽くせないほど中華料理の種類はあるんですよ」
「随分と珍しい料理のようだな? ギーハテケナ領で手に入るのか?」
「こちらに試食がございます」
実はこんな時のために、リュシーさんが肉まんや餃子、シュウマイなどの持ち運びしやすい物を作り、オレに持たせていたのだ。
熱々のまま保温弁当箱に閉じ込め、スマホの収納に入れておいたので、いまだに熱々のままだろう。
もちろんこの保温弁当箱は、通販ショップで購入したものだ。
お弁当などを熱々のままで持ち運べる、まるで魔法瓶のような弁当箱なのだ。
オレがマルセルさんに保温弁当箱を渡すと、マルセルさんはエドワード侯爵一家からよく見える位置に置き、その蓋を開けた。
蓋が開くと蒸気がむわっと出てきて、こちらにも美味しそうな中華の香りが漂ってくる。
「ほう? これはパンか? 随分と白いようだが・・・どれも珍しい形をしているな?」
「貴方! 頂いてみましょう!」
「うむ・・・そうだな。マルセル。各自にこれを一種類ずつ配膳してくれ」
「かしこまりました・・・」
エドワード侯爵が命じると、マルセルさんは小皿に餃子と肉まんとシュウマイを、それぞれ一つづつ取り分け、四人に配膳していく。
「こちらに餃子のタレもありますので、少しずつ付けて食べてみてください」
餃子にはラー油やポン酢を合わせたタレが必須だ。
だがこの世界ではラー油もポン酢も入手が困難なので、今回のタレはリュシーさんがワインビネガーを使って作り上げた絶品のタレだ。
「美味いな! 酒がすすむ!」
「本当に! 癖になるお味ですこと・・・・」
「どれも柔らかいし、とても美味しいわ! 毎日でも食べたい!」
「むぐむぐ・・・・!」
どうやら中華料理はエドワード侯爵家でも、お気に召していただけたようだ。
「もしかしてこれを作ったのはそこのメイドたちか?」
エドワード侯爵がリュシーさんとライザさんを指し示しながらそう言った。
貴族間での手土産は、通常であれば使用人が造るのが習わしなのだ。
なのでエドワード侯爵は、あの二人が作ったと思ったのだろう。
また四人が美味しいと言っていた時に、リュシーさんの頬がわずかに上がったのを、見られていたのかもしれない。
「確かにこちらは、そちらにいるリュシーの作った物ですが、その製法を伝えられたのはそちらのヨーレシア様ですのよ。リュシーのチュウカもまだヨーレシア様の作るチュウカには遠く及びませんの」
そう答えたのはフランちゃんだ。
だが中華を広めるために、オレの名前を使うのは止めていただきたいのだがね。
照れるから・・・・。
まあリュシーさんの引き抜きを防ぐために、オレを盾にしたんだろうけどね。
王家の護衛であるオレならば、侯爵家が手を出せないのを、フランちゃんはわかっているのだ。
「ほう? ヨーレシア殿はその歳で随分と優秀なようだな?」
「こちらのチュウカは、今ギーハテケナ領で売り出そうと考えている商品の一つですの」
「それは楽しみだな・・・・。売り出す時はぜひ声をかけてくれ。吾輩も力になろう」
あの下っ足らずだったフランちゃんが、よくここまで舌が回る娘になったものだ。
オレが前世で八歳の時といったら、馬鹿みたいに遊び回っていたものだがな。
そう感心しつつ、オレは硬い肉と再び格闘する。むぎぎ!!
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