14:侯爵家からの招待状
「こちらエドワード侯爵家よりの招待状でございます・・・・」
そう言ってオレたちの部屋に訪れたのは、シャル様の護衛を務めていた女騎士だった。
今から二週間前、オレとコロンは、馬車の車輪が壊れて困っている侯爵令嬢、シャル様の馬車の車輪を修理して、感謝された記憶があるのだ。
改めてお礼をすると言っていたので、この招待状はあの時のお礼のために、家に招きたいと言うことなのだろう。
あれから二週間は経つと言うのに、招待状一つ出すのに、随分と時間がかかったものだ。
相変わらずシャル様とは、ホームルームや授業でよく会うのに、そんなそぶり一つないので、とっくに忘れ去られているのかと思っていた。
女騎士は招待状をオレに渡すと、一礼した後に挨拶の言葉を述べ、踵を返して去っていった。
「それはきっとこちらの為人を調査していたのでしょう」
フランちゃんによると、貴族によっては招待する前に、相手の為人や素行を調べ、それによって対応を変えてくるようだ。
オレたちの為人は、彼らにはどう映っただろうか?
招待状には三日後の正午に、部屋まで迎えに上がると書いてあった。
この学園の授業は、六の鐘が鳴る16時頃には全て終了するが、その後に待っていればいいのだろうか?
「手土産は何をもっていけばいいですかね?」
以前貴族であるトムおじさんの屋敷に招かれた時にも、お土産に白ワインを持っていった記憶がある。
やはり今回もお土産が、必要なのではないだろうか?
「あのですね・・・ヨーレシア様。手土産とはあちらの貴族に、こちらの力を示す物であります」
リュシーさんによると、どうやらこの国の貴族の手土産は、自分たちの裕福さや、領地の特産などを見せつけるもののようだ。
ようするに貴族の見栄のためにあるものらしい。
白ワインを渡した時は、トムおじさんは普通に喜んでいたし、そんな感じは微塵も受けなかったというのに・・・・。
「それはヨーレシア様から、全く悪意を感じなかったせいだと思いますよ?」
なるほど。つまり貴族でも、招いてくれたことへの感謝の気持ちを込めて、手土産を渡せば、喜んでくれると言うことなのだろう。
「なら手土産はお酒とか、簡単な食べ物とかがいいのかな? それとも以前トムおじさんにあげた、白ワインとかでいいんですかね?」
「う~ん・・・あの白ワインですか・・・」
するとリュシーさんが、白ワインを手土産にするという提案に、難色を示す。
確か白ワインをトムおじさんに渡した時は、この国での白ワインの価値を知らず、余計なことを口にしてしまい、注意された記憶がある。
今回は事前に話す内容を決めておけば、大丈夫なのではないだろうか?
「あの・・・・。その白ワインというのは何なのでしょう?」
するとライザさんが、白ワインが気になるようで尋ねてきた。
「確か白いぶどうのみでつくられた貴重なワインでしたね。味は悪くありませんでしたよ」
どうやらあの時リュシーさんは、白ワインを試飲させてもらっていたようだ。
「それはぜひともご相伴にあずかりたかったですね・・・・」
ライザさんは残念そうにそう言った。
この前の冒険科の時、不快な思いをさせた件もあるし、ここは試飲もかねて、機嫌取りのために出してあげるのもいいかもしれない。
「それでは白ワインが手土産に適切であるか、二人に試飲していただきましょう」
「本当ですかヨーレシア様!」
オレは通販ショップで白ワインを購入すると、アイテムボックスの中に出現させる。
これは最近見つけた小技で、通販ショップの目立つ箱の出現を、省くことが可能なのだ。
あの箱は嫌いではないが、出現して落ちてくると、皆びっくりしちゃうんだよね。
「これが白ワインです」
「わああ! 本当に白いんですね!」
白ワインを見せると、ライザさんは大はしゃぎする。
コロンとフランちゃんは、興味なさげだがね。
まあ二人はオレ同様に、リュシーさんの淹れてくれた紅茶で我慢するんだな。
つつつ・・・あち!
「これすごく上等のワインじゃない!」
「はい。差し上げるには申し分ないですね・・・」
二人は白ワインを認めるが、オレ的には同じものを手土産にするのも何だと思う。
「他にこんなのもあるんですが、それと比べてどうでしょうか?」
オレが次に出したのは、フルーティーな味わいで評判の日本酒だ。
前世で大人であった時に、オレも何度か飲む機会はあったが、日本酒にも様々な味わいや特徴のものがあった。
中でもオレはこのフルーティな日本酒を、好んでいたことを思い出す。
「これも変わっているけど悪くはないわね・・・」
「確か遥か東方の異国から送られてきたお酒に、これとそっくりな味の物があったと思います」
リュシーさんは日本酒を飲んで、そう答えた。
どうやらこの異世界にも、日本酒と似たお酒があるようだ。
「あちらはこのように色が澄んではいませんでしたし、もう少し味に雑味があったと思いますが・・・・」
濁り酒のことかな?
「まあ余計なことさえ口にしなければ、白ワインでもこのニホンシュでも手土産としては最適でしょうが、ニホンシュという名には聞き覚えがないので、こちらのことは、ライスワインとお呼びした方がいいかもしれません」
なるほど。余計なことは言わないように肝に銘じておこう。
また日本酒はこちらでライスワインと言うそうなので、そちらも覚えておく必要があるだろう。
「どうせならギーハテケナ領で今はやっているチュウカも手土産に加えませんか?」
そう提案したのはフランちゃんだ。
ギーハテケナ領では、オレの持ち込んだ中華料理が、現在大流行りらしいのだ。
そこで特産として、他領にも売り込むという話もあるのだ。
「チュウカのレシピでしたら、わたくしが存じておりますが、手土産で食品であるならば、長持ちするものが好まれます」
この世界には冷蔵庫がないし、肉まんやギョウザなどの一般的な中華料理であれば、日持ちしないだろう。
ならあれならどうだろう。中華菓子で有名なあれだ・・・・。
「なら月餅なんてどうでしょう?」
「「ゲッペイ?」」
「始めて聞く名ですが、どのようなチュウカでしょうか?」
「月餅は中華で定番のお菓子で、日持ちする甘いお菓子なんですよ」
月餅はハス餡を薄い皮で包んだ、甘い焼き菓子である。
オレはとりあえず通販ショップで月餅を購入した。
「これが月餅なんですが、食べてみてください」
「ほう! ヨッシーの新しいお菓子か!」
「甘くて美味しいですね!」
「このアンは何でしょう? ギーハテケナ領でアンマンに使っている豆とは違うようですが?」
ギーハテケナ領では小豆が高価なため、あんまんにはレッドキドニーとよばれる、赤いんげん豆が使われているのだ。
「この月餅に使われている餡はこのハスの実ですが、ご存じありませんか?」
オレはさらに通販ショップで、ハスの実を購入して皆に見せた。
「あら? ロータスシードじゃない? これもライスワイン同様に、東方から入ってくる高価な豆だったはずですよ」
「これ皮をむくのか? ポリポリ・・・・。苦いが不味くはないな」
ハスの実は酒のつまみにもなると聞くし、好む人も多いだろう。
コロンは皮をむいてさっそく食べているが・・・・。
「わたくしの知るチュウカとは、また随分と違うようですが、このゲッペイであれば珍しがられますし、手土産にはよいでしょう」
どうやら皆の了承も得られ、手土産には日本酒、白ワイン、月餅を持っていくことになった。
「ちなみにこのゲッペイのレシピなどは、教えていただけるのでしょうか?」
「作り方を教えても構いませんが・・・・餡を作るのが大変ですよ?」
「頑張ります!」
この国にはフードプロセッサーなどの機械がないために、餡を作るのは大変苦労する。
まあ昔の人は手作業で餡を作っていたそうだし、リュシーさんであれば気合で完成させそうだ。
お読みくださりありがとうございます。
面白い!
また読みたい!
と感じた方はぜひ・・・・
《ブックマーク》 と
評価★★★★★を
お願いします。
いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます。
感想、レビューもお待ちしております。




