13:集団模擬戦
「止さないか君たち! 今は授業中だぞ!」
フランちゃんと少年たちの険悪な状態を見かねて、冒険科の講師であるマルク先生が注意に入る。
「だいたいの喧嘩の事情は俺も見ていたから理解はしている。どうだろう? ここは冒険科の授業だ。冒険者の流儀にのっとって解決しないか?」
マルク先生は、そう提案してきたのだ。
冒険者同士のいさかいは、決闘などでつけるのがほとんどだ。
ならばこの講師の提案とは、決闘で白黒とつけるということだろう。
「おもしれえ!」
「こちらも異論はありません!」
最近のフランちゃんは、冒険者などに師事して、剣の腕を磨いていると聞いている。
なのである程度は自信があるのだろう。
だが相手は四人もいて、その中でもリーダーと思しき少年は、フランちゃんの二回り以上は体が大きい。
これは勝ったとしても、下手をすれば怪我ぐらいするかもしれない。
「私もフラン様とともに戦いましょう!」
そこへ現れたのはバリーだ。
冒険者に憧れていたバリーも、この授業を受けていたのだ。
これで二対四となったがまだ足りない。
「それじゃあオレもやりますよ」
オレももちろん、その中に加わる。
ライザさんは大人のせいか、やはりこの中に加わることは出来かねるようだ。
「君はずいぶんと小さいが・・・・本当に戦えるのか?」
マルク先生は小さなオレを心配してか、そんなことを聞いてきた。
だがオレの返事は決まっている。
「ええ。問題ありませんよ」
「あとでびーびー泣くことになっても知らねえぞチビ!」
そんなオレを挑発するように、大柄の少年が煽り立ててくる。
子供相手で少し引け目もあったが、そういうことならオレも遠慮なく、相手を叩きのめすことができそうだ。
「では四対三になるが・・・・双方とも異論はないな?」
「「はい!」」「「勿論です!」」」
こうしてオレたちは、三対四の模擬戦をすることになった。
「見ろよあのチビ! 本当に戦えるのか?」
「双剣とかカッコつけているつもりか?」
「ダントン負けんなよ!」「バリー負けんな!」
オレたち三人と、少年四人のグループが向かい合う。
全員が武器は木剣のようだが、オレだけは少し違う。
今回は両手に木剣をもち、双剣にしているのだ。
その剣先はすでに標的に狙いを付けているがな。
周囲を冒険科の生徒たちが取り囲み、罵声や声援を送りながら見学している。
ライザさんはオレの実力を知ってか、心配する様子はない。
腕を組んで少し不機嫌な様子だ。
もしかしたらこんな展開になったことに、少し腹を立てているのかもしれない。
「始め!!」
冒険科の講師マルク視点~
俺が合図を出すと、お互いが武器を構え走り寄る。
俺は開始を出してすぐに、そいつに目を向けた。
だが不可解なことにそいつは、その時木剣をにぎっていなかったのだ。
「ぎゃ!」「ぐあ!」
ドサリ!!
早々に少年の誰かが倒されたらしく、そちらに目を向ける。
俺がそいつに気をとられている間に、二人は倒されてしまったのだろうか?
腹を抱えて地面にうずくまっている。
いや! 何かがおかしい!?
俺が飛び道具の気配を感じて再びそいつを見ると、先ほどまでなかった木剣が、その手に再び握られていたのだ。
鉄腕ヨッシーが何かをした?
まさか木剣を飛ばして、再びその手に戻したのか!?
それが本当だとすれば、とんでもない妙技だ。
だが本当にすごいのはそこではない。
そいつは自らは動かないことで、まるで突撃した二人が、四人を倒したかのように見せかけようとしたのだ。
つまりそいつは、二人の友人に花をもたせようとしたのだ。
こんな短時間でそこまで考えが及ぶとは・・・・さすがAランク冒険者は違うようだ。
ヨッシー視点~
マルク先生が合図を出すと、同時に双方がお互いに詰め寄る。
だがオレだけはその場を動かない。
それはすでに大柄の少年ともう一人を、オレが仕留めてしまっているからだ。
オレは開始と同時に、双方の手にもつ木剣を、標的の少年に向けて、ノーモーションで発射していたのだ。
即興の命令式だったが、上手くいったようだ。
腹に木剣を受けた二人の少年は、走り出すと同時に前のめりに転び、腹をおさえてうずくまっている。
そして木剣は何事もなかったように、オレの手の中に戻ってきているのだ。
「とう!」「やあ!」
見るとバリーとフランちゃんも、あっという間に相手を、仕留めてしまったようだ。
フランちゃんが鍛えていることは知っていたが、どうやらバリーも剣の鍛錬を積んでいたのだろう。
「「わああああ!!」」
「何だ今の!?」
「二人が四人とも、のしちまったのか?」
この模擬戦はフランちゃんとバリーの二人だけで、四人を倒したように見えたようだ。
まあオレは目立つのはあまり好きではないので、結果的には良かったがな。
「見事に二人に花を持たせましたねヨーレシア様・・・・」
そんなことを笑顔で言ってくるのは、この模擬戦を画策したマルク先生だ。
まあそんな意図はなかったのだが、この先生にもオレの飛び剣が見えていたようだ。
学園の講師になるほどの実力者だ。
そんな攻撃も見えていて当然なのかもしれないが・・・・。
「出来れば俺も貴女に挑戦させていただきたいのですがね?」
マルク先生は笑顔でそんなことを言ってきた。
「え!? マルク先生があの小さいのに挑戦!?」
「いったいなんなんだあのチビは!?」
そのマルク先生の発言に、周囲の生徒が驚きの声を上げる。
この兄ちゃんオレが目立つ状況を作り出して、いったいどういうつもりだ。
「こんな幼女に挑戦だなんて、冗談がお上手ですのね」
とりあえず冗談ということにして、その状況を笑顔で回避しておく。
冒険科の授業は色々と楽しそうだが、この先生には注意が必要かもしれない。
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