12:冒険科の授業
翌朝二の鐘の後には、冒険科の授業がある。
冒険科の授業は、学園の庭であるようだ。
冒険者としては、ぜひその冒険科の授業は、受けておきたいものだ。
オレが冒険科の授業に行くと言うと、フランちゃんも一緒についてきた。
どうやら父親のトムおじさんの影響か、フランちゃんも冒険者に興味があったようだ。
フランちゃんは乗馬用パンツをはいて、気合は十分だ。
コロンは用事で出かけ、ライザさんが付き添いとしてついてくる。
リュシーさんには部屋の掃除や、片づけを担当してもらった。
オレが冒険科の授業がある庭の一角に行くと、すでに多くの生徒が集まっていた。
その生徒のほとんどが平民で、貴族は数人しかいないようだ。
やはり自ら進んで、冒険者になろうという貴族は少ないようだ。
冒険科の担当の講師も来ており、生徒たちの様子を窺がっていた。
担当の講師は逞しい体の、冒険者らしい出で立ちをした、二十歳くらいのお兄さんだった。
冒険科の講師マルク視点~
そいつは貴族の令嬢らしき少女を引き連れ、悠々とそこに現れた。
腰まである長い銀髪で、容姿は端麗なのだが、その眠たげな目が、全てを見透かしているようで、とても不気味にも感じる。
冒険者のライザが付き添っていることから、そいつが噂のAランク冒険者で間違いないだろう。
ライザはギーハテケナ家子飼いの冒険者で、今はメイドの真似事のようなことをしていると聞いている。
こいつが付き従うのはギーハテケナ家のお嬢様だが、そのお嬢様が例のAランク冒険者に付き従っていると聞いている。
俺がそいつに固執する理由は、俺がAランク冒険者に憧れているからという理由もある。
俺は長いことBランク冒険者として活躍してきたが、Aランク冒険者への壁は思った以上に高く、全く超えられる気がしないのだ。
Aランク冒険者に直接会い、その糸口を探ろうとも思ったが、Aランク冒険者自体数が少なく、めったに出会える存在ではなかったのだ。
だが今回俺にチャンスが巡ってきた。
それは俺が講師を務める冒険科の授業に、今飛ぶ鳥を落とす勢いの、Aランク冒険者の鉄腕ヨッシーが、参加すると言う情報を掴んだからだ。
そいつの正式名称は、ヨーレシア・ド・ホワイトナイツというらしい。
オーク集落掃討戦で頭角を現し、瞬く間にAランクに上り詰め、ついには子爵位まで得たほどの傑物だ。
だがその容姿は小柄で、五~六歳の幼子ほどの身長であるという。
性別は女性で、とても冒険者とは、思えない姿だという。
巨大な鉄の腕を振り回し、あのビッグボアをも片手で投げ飛ばすようだ。
その噂は眉唾だと思ったが、眉唾どころかそいつの容姿は、幼女そのものだったのだ。
だがAランク冒険者に上り詰めるほどの実力者だ。
見た目だけでその全てを判断するのは、早計というものだろう。
「え~・・・。俺が君らの講師を担当するマルクだ。よろしく頼む。それじゃあさっそくだが、まずは君らの実力から見せてくれ・・・・」
生徒たちの実力を測る方法は、生徒同士に一対一で模擬戦をさせ、その動きを見ていくというものだ。
まあ俺の本命は、鉄腕ヨッシーという幼女だがな。
そいつはどうやら付き従っている、ギーハテケナ家の令嬢を相手にするようだ。
そいつはそのお嬢様と同じ、木剣を構えていた。
そいつの武器が剣だという話は聞いたことがなかったが、一流の冒険者ともなると、剣ぐらいは扱えて、当然ということなのだろうか?
そして生徒たちは、お互いに武器を構え、俺の合図を待ち受ける。
「始め!!」
カッ! カキン!
俺が合図すると、生徒たちは一斉に木製の武器を打ち付け合う。
そいつと同様に木剣を振るう者もあれば、長棒を槍に見立てて振り回す者もいる。
そう思えば木盾を使用する者もいる。
戦い方は生徒によって様々だ。
「ぎゃ! こけた!」
「まあまあ・・・・大丈夫ですかヨーレシア様。ほらお立ちになって・・・・」
だがそいつは開始早々何かにつまずいて転倒し、対戦相手のお嬢様に、助け起こされている有様だ。
その様子はどこからどう見ても、普通の幼い少女にしか見えなかった。
こいつが本当にAランク冒険者なのだろうか?
もしかして金でAランクの地位を買ったのか?
いやそれは不可能なはずだ・・・・。
Aランク冒険者になるには、国と冒険者組合の承諾が必要と聞いている。
以前金でその地位を求めた貴族がいたらしいが、一部の冒険者ギルドの反発が出て、失敗に終わったと聞いている。
つまり本当に実力のある冒険者でなければ、Aランク冒険者などにはなれないのだ。
いや・・・。実力だけならせいぜいBランク止まりだろう。
Aランクに上り詰めるような冒険者には、国と冒険者組合が認めるような、特異な何かがあるのは確かだ。
それがAランク冒険者の、類まれなる強さにつながるのだろうが・・・・。
ヨッシー視点~
フランちゃんとの模擬戦で、無様にこけたオレは、地面に打ち付けた鼻を、パーティクルの回復の光で癒しつつさする。
毎日のジョギングで体力はついたと思うのだが、慣れない動きをしたためか、体がついていかなかったようだ。
「まあまあ・・・・大丈夫ですかヨーレシア様。ほらお立ちになって・・・あら大変、鼻から血が出ていますわ!」
見かねたフランちゃんが、オレを助け起こしてくれる。
そしてオレの打ち付けた鼻を、ハンカチで拭いてくれる。
これではまるで、かいがいしく世話をやかれる幼い妹のようだ。
「ヨーレシア様! 今治療を・・・!」
そう言ってライザさんも、駆けつけてきた。
傷はもう治っているのだが、思った以上に周囲に心配をかけてしまったようだ。
「はは! 貴族のお嬢様が調子にのって木剣なんか握るからそんな目に遭うんだ!」
「ちげえねえ!」
「「あはははは!!」」
すると数人の少年が、それを見てあざけるように笑い出した。
「ちょっと貴方たち!! ヨーレシア様に対して失礼ではないですか!?」
そんな少年たちの態度に、たまりかねたフランちゃんが、激怒状態で抗議する。
「なんだとこのチビ! 俺たちは貴族だからって容赦はしないぞ!」
「面白いじゃないですか! 二度とその無礼な口がきけないようにして差し上げましょう!」
そしてついにはフランちゃんと少年たちは、一触即発の状態となってしまう。
うん・・・これ収拾がつかなくなっちゃうな・・・・。
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