11:魔術の授業
礼儀作法の授業の次に、オレが向かったのは、魔術科の授業だ。
オレは魔法を無詠唱で使えるが、いまだに詠唱なるものに憧れがあったのだ。
魔術科の授業は基本青空教室で開かれる。
それはまれに魔力を暴発させ、教室を破壊する生徒が出るせいだとか・・・・。
「え~・・・・。では魔術の授業を開始します・・・」
魔術科の授業を受け持つ先生は、それはもう大きな、とんがり帽子が印象的な、ひげもじゃのおじさんだった。
あの無駄に大きくて、重そうな帽子はなんだろうか?
かぶると魔力でも上がるのだろうか?
それはまるであのハリーな男の子の物語に出てくる、ダンブルな感じのするおじさんだった。
おじさんの名前はレイスロン・ド・カジミールという。
ドラゴンの物語を知る人には、ちょっと惜しいと感じるような名前だった。
「え~・・・魔法を行使する上で必要なものの一つが呪文である。皆まずはこの呪文から学んでいくんだ」
まあオレはスマホからだったがな・・・・。
「では授業に必要な魔術の呪文を書いていくから、ノートに記述していくように」
この学園の授業には、教科書はない。
先生が黒板に書く内容を皆が書き写し、それが教科書になるのだ。
皆羽ペンでその内容を書き写すが、オレは通販ショップで買った万年筆を愛用している。
インクはうっかりこぼすこともあるし、いちいちつけるのが面倒なのだ。
前世の便利グッズを知り尽くしたオレには、もはや羽ペンなど使えまい・・・・。
ノートに書き込む呪文の文字は、まるで文字化けしたような文字だ。
オレはその文字に見覚えがあった。
スマホにスクリプトエディターというアプリがあり、それに命令文をかき込むことで、パーティクルを、命令文通りに発生させることができるのだ。
このパーティクルとは画像化した水や火などの自然現象を、スマホで再現可能なものなのだ。
つまりオレのスマホのアプリで、魔法を作ることが可能なのだ。
このアプリの命令文は全て英語で、この異世界の文字とは全く違う文字だ。
オレが使いやすいように、そういう仕様になっているのかもしれないが・・・・。
だがある種の命令を使うと、テキストファイルに、文字化けして出力されるのだ。
この文字化けの正体が今までわからなかったが、よく見るとノートに書かれた呪文の文字と似ていた。
しかもこの文字音声で、読み込むことも可能なのだ。
昔面白がって遊んでいたことがあるが、もしかしたらこのスマホ・・・・呪文も自由自在に作れるのではないだろうか?
「レイスロン先生質問があります!」
「ほう? なんだねヨーレシア嬢」
オレは思い切って、スマホから出力されたこの呪文の内容を、ノートに書き込んで、レイスロン先生に見せてみることにした。
「ほう? この呪文は君が書いたのかね?」
「はい。先ほどレイスロン先生が黒板に書かれた内容をアレンジして書いてみました」
「ほう? どれどれ・・・・」
その呪文の内容は、魔力を込めた物体を少しだけ浮遊させ、決まった命令通りに移動させるというものだ。
例えば異世界語で「前に進め」と言えば前に進み、「止まれ」と言えば止まるごく単純な内容のものだ。
「これには黒板に記述していない文字も書かれているが、どうやってこの文字を思いついたんだね?」
しまった・・・。スマホのことは秘密なので、ここは言い訳を考えないといけない。
「えっと・・・・。オレも実は魔法が使えまして・・・・」
「ああそうだったな。君はAランク冒険者で魔法も使えたんだったな」
なんとか単純な言い訳で、切り抜けることが出来た。
「どれどれ・・・実際に使ってみよう・・・・」
そう言うとレイスロン先生は、自分の杖に魔力を込めて、命令を実行した。
「前に進め・・・・・止まれ!」
レイスロン先生の杖は自由自在に、教室を移動する。
「わああ!」「すげえ!!」
その様子に生徒たちは大はしゃぎだ。
「ふむ・・・・よくできた呪文だ・・・」
ひとしきり呪文を試すと、レイスロン先生は満足したようにそう呟いた。
そしてこう付け加えたのだ。
「だがこのように自由自在に物体を制御できる術式は、いまだに見かけたことはない」
そのレイスロン先生の言葉を聞いて、オレはギョッとした。
もしかしてオレはとんでもないものを、書いてしまったのではないだろうか?
「君はこの知識を・・・どうやって知りえたのだ?」
「えっと・・・・。独学で身に付けました・・・・」
まあチートなスマホを使っての独学だがな。
「なるほど・・・・独学か・・・・。君は相当に優秀なようだ。もし興味があれば魔術研究部に顔を出しなさい。ともに魔術の探究を目指そう」
そうオレに言うとレイスロン先生は、授業を再開するために教壇へと向かった。
魔術研究部? 確かこの学園にもクラブ活動のようなものがあり、授業終了後に生徒が集まり、さらに興味のある学科の内容を探求していると聞いたことがある。
魔術研究部もその一つなのだろう。
面白そうだからいってみたい気もするが、スマホのことをあまり知られたくないので、悩むところではある。
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