04:試験当日
「教室はこちらになります」
学園の案内係についてやってくると、そこは階段状で幅広い机が多く配置された貴族専用の教室だった。
オレはこれからここで、筆記試験を受けるのだ。
ここでは座席が上に行くほど、家格が上になるのだそうだ。
だがオレの場合は立場が複雑だ。
一般的に爵位を持つ者は、家格が上の者であっても爵位を持たない者よりも、立場が上とされているのだ。
だがこの学園に入学するほどの幼さで、爵位を持つ者などあまり前例がない。
「ヨーレシア様の席は一番上の席となります」
どうやらオレは一番上の家格と、認識されたようだ。
だが見ると机は三つ用意されていた。
あの席の位置に、上下関係は存在するのだろうか?
「一番上の机は三つありますけど?」
「ヨーレシア様は一番右の席にお座りください。念のために申しますと、同列の席による身分の差は、特に決められておりませんので・・・・」
どんな事情があるかわからないが、同列の席での身分は、この学園では決められていないようだ。
身分の優劣に拘るこの国の貴族だが、身分の優劣を付けると、ややこしくなる事態もある。
最悪貴族同士の争いに、発展しかねないのだ。
身分差の優劣を、ある程度アバウトにしているのは、そういう事態を避けるためなのかもしれない。
オレはコロンを伴って、指定された一番上の席に向かう。
「わたくしはこちらですので・・・・」
フランちゃんはオレのすぐ下に、机が用意されていた。
この列は伯爵家の列だろうか? こちらにも机は三つ用意されている。
「それじゃあワタシは外で待っているぞ」
オレが座席に到着すると、コロンは手をひらひらと振りながら、教室を出ていった。
護衛や付き添いの使用人は、テスト中は教室の外にいなければならないのだ。
「あら? 貴女は先ほどの・・・?」
席に付いてすぐに、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
見るとそこには、先ほど馬車を直して差し上げた、侯爵令嬢がいた。
彼女は護衛の女騎士を一人と、メイド一人を引き連れ、一番上の座席までやって来ていた。
先ほどで出あった執事のマルセルさんの姿はないようだ。
「確かヨッシー様だったかしら? 先ほどは驚きましたわ。まさか噂とたがわぬその幼さで、あれほどの魔法をお使いになられるなんて」
「これは挨拶が遅れまして申し訳ありません侯爵家の姫君。わたくしヨーレシア・ド・ホワイトナイツと申します」
オレの慣れないカーテシーで、その令嬢に挨拶した。
「あら? わたくしったら恩人に名も申しておりませんでしたのね? わたくしシャルロッテ・ド・エドワードと申します。気軽にシャルとお呼びください」
「ではシャル様と・・・・」
オレのその言葉を聞いたフランちゃんが、なぜか勝ち誇った表情だ。
たぶんオレが最近フランちゃんのことを、立場上呼び捨てか、ちゃん付けでよぶことがあるせいだと思われる。
「横から失礼いたします。わたくしフロランス・ド・ギーハテケナと申します。ヨッシー様の友人であり、世話役でございますのよ」
「あら? 貴女のお父様のバートム伯爵のことはよく存じていますのよ。あれほどの功績を立てておきながら、昇爵の話を全て断った変わり者でございますものね」
フランちゃんのお父さんである、トムおじさんの功績とは、レーティシア姫をかくまい、無事に王都に送り届けたことと、魔王国との戦争の時にレーティシア姫の無理を聞いて、護衛を務めたことだろう。
冒険好きのあのトムおじさんは、功績よりも自由な道を選んだようだ。
オレも同じ立場ならそうしただろうから、気持ちはわからなくもない。
立場が高くなるとやはりしがらみも多くなり、冒険などできなくなるからね。
まあ伯爵の立場でも、自由気ままに過ごすことなど、普通は出来ないんだけどね。
それをやっているトムおじさんを、オレはある意味尊敬する。
「席についてください! これから筆記試験を開始します!」
すると下の方から、大人の男性の声が聞こえて来た。
どうやら今から筆記試験が開始されるようだ。
係の者から試験問題の用紙が配られ、合図があるまで中身を見ないように告げられる。
「それでは開始してください!」
開始の合図とともに、問題用紙を確認していく。
問題用紙は三ページほどの少ないものだ。
これを解いた答えを、他に用意された、答案用紙に記入していくようだ。
筆記試験は思った以上に簡単で、数学は足し算引き算程度だ。
国語も日常会話程度の、簡単な内容ばかりだ。
拍子抜けはしたが、ケアレスミスや思いがけないミスも、発生する可能性を視野に入れ、いちおう答案用紙を見直しておく。
「筆記試験は終了です! 次は面接がありますので、よばれた方は手を上げて返事をしてください。隣の部屋にご案内いたします」
筆記試験が終わると、面接試験が始まるのだ。
面接試験では志望動機などの他に、歴史などに関する質問があったが、無事に良い返答が出来たと思う。
そしてこの後すぐに、魔力測定があった。
「80MP!!」
「まあまあかな・・・・」
「200MP」
「おおお!!」「なかなかの数値だ!」
次々と計測を終えていく受験生たち。
「△〇□MP?」
だがオレの魔力測定では、再び文字化けが起こり、数値が図形で表示された。
しかも△〇□MPと前回と図形の並びが違うようだ。
その数値を出した直後に、再び周囲は微妙な空気となる。
「おほほほほ! きっと魔力測定器の不調ですわね!」
そんな空気を払拭するために、シャル様のフォローのような言葉が入るが、測定を行った先生はなぜか苦笑いを浮かべていた。
だが後日オレは知ることになる。
オレのその測定結果が、異常であったことを・・・・。
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