01:転生幼女と不思議なスマホ
気づくとオレは、土の上で倒れているようだった。
目を開けて周囲を見渡すと、そこは何処かの森であることがわかった。
だが目を瞑ればさっきほどの光景が、ありありと思い出される。
ずっと自宅の部屋に引きこもっていたオレは、不意に思い立ち、家の外に出たのだ。
お気に入りのスマホ片手に、久々にコンビニに向かい、買い物を済ませて家に帰る途中、どこかマンホールのような暗い穴に落ちたのは憶えている。
そして暗闇の中激痛の末に、意識を失ったのだ。
最後に記憶にあるのは、右手に握りしめていたその硬いスマホの感覚だけである。
長い銀髪に粗末なワンピース。靴は履いていない。それが今のオレの容姿だ。
そして体中を調べてみたところ、性別が変わり、小さくなっていることもわかった。
どうやらオレは前世の記憶を残したまま、幼女に転生してしまっていたようだ。
だが何の理由なのか、この年齢まで成長したこれまでの記憶がない。
もしかしたら記憶喪失の状態で、前世の記憶が甦ったのかもしれない。
だが待てよ? オレの右手にあるのは何だ? 何か硬い薄っぺらい物・・・
見るとそれは前世のオレの相棒・・・スマホだった。
オレは困惑した。なぜ前世でオレが持っていたはずのスマホがこの右手にあるのか?
だがそんなことより先に、考えなければならないことがあった。
とりあえずこの森からは、出ないといけないだろう。
熊や猪などの猛獣に、襲われる可能性もあるのだ。
「確かスマホに地図とGPSアプリを入れてあったはずだ」
オレは起動するかもわからないスマホを、条件反射的に起動した。
「あ・・・ついた・・・」
オレは前世から引き継いだと思われるそのスマホが、当たり前のように起動したことに、何故か驚きを隠せなかった。
しかしスマホを起動したところ、インストールされているアプリが、だいぶ変わっていることに気づいた。
「む~・・とりあえずこの地図アプリぽいのを使うしかないか・・・」
オレは地図アプリを開くと、まず現在位置を確認しようとした。
しかしその地図は真っ白で、表示されることはなかった。
「画像処理が追い付かないのかな? 地図が出ないぞ?」
ただ自分の位置と思われる緑の長い三角と、周囲の赤い点が非常に気になった。
「この赤い点は何か嫌な感じがするな・・・なるべく迂回して進もう」
ここがもし異世界であるならば、高確率でその赤い点はモンスターか何かだ。
この幼女がそんなのと遭遇すれば命はない。
まあなるべく異世界などという危険な場所でないことを願うがね。
「そうだ! 前世の親に連絡がつくかも!?」
オレはスマホの中に記憶された、前世の実家の電話番号に通話を試みた。
しかししばらく電話の呼び出し音が鳴った後に、雑音が鳴り、いっこうに人が出る気配はなかった。
その他にも記録された電話番号にかけてみたが、どれも同じような反応だった。
「まあ仕方ない・・・このまま歩いて何とか森を出るしかないか・・・」
ぐぅぅぅ~
気づけばオレのお腹は、空腹を訴えていた。
「この幼女はいったいどれくらいの時間、食べ物を口にしていなかったんだ?」
喉が渇いていないのは、おそらく腰に下げている、臭い布のような入れ物に入った、水のおかげであろう。これでも飲めなくはないのだろう。だがすぐに底をつきそうな量だ。
周囲には木の実や草、キノコはあるが、毒がありそうで食べるのが怖い。最悪口にするしかないのか?
しばらく歩くと周囲は赤く染まり、今が夕方であることをオレに告げる。
とりあえずすぐ先に見えている、安全であろう洞窟に身を寄せた。
洞窟の中は赤い光が差し込み、だが徐々に暗くなる様相を見せる。
ぐぅぅぅ~
いつの間にか頬に涙がつたい、悪い考えが次から次へと浮かんで来た。
「うぅ・・オレこのまま死ぬのかな? 転生早々死ぬとか嫌だな・・・」
涙をぬぐい、楽しいことだけ考える。
今頭に浮かぶのは食べ物のことばかりだ。
気分を晴らすために、寝転びながらもスマホを起動。通販サイトにアクセスして、食べ物を見る。
「パンとかなら解凍なしですぐに食べられるのがあるよね」
オレは配達されるはずのないパンを、ポチって注文する。
オレが引きこもりながらも、スキルマーケットで少量だがお金を稼いできたのだ。
プログラムや、3Dのモデリング、情報拡散サイトでの情報拡散がおもな仕事だった。
仕事をするたびにポイントが入り、そのポイントで通販などで買い物をしていたのだ。
「ぷふっ・・・」
そして無駄にポイントが減るのを見て、やや自嘲気味に笑う。
しかしオレが購入をポチってしばらくすると、不思議な現象が起こった。
ポト!
オレの寝ている真横に、不意に見覚えのある箱が落ちて来たのだ。
「こ・・・これは通販サイトの箱・・・・」
オレはその箱を見て、大きく目を見開く。
そして一心不乱に箱を開くと、通販で先ほど購入したカレーパンが、3つ入っていたのだ。
「ごく・・・」
オレは気づくと、その袋の一つを開けて、カレーパンを完食していた。
この幼女の胃袋はそんなに大きくないようで、カレーパンを一つ食べたらお腹いっぱいになった。
「あ・・・」
一息ついて、オレはようやくその不思議なスマホの力を自覚した。
そして気づいた。今のオレの生命線は、オレが前世で稼いできた、このポイントなのだと。
「の・・残り何ポイントだ?」
残りポイント:59615
どういう理由かわからないが、オレの持つ前世の物によく似たそのスマホは、通販ショップで頼んだ物を、何らかの方法で届けてくれるようだ。
カレーパンの空き袋と、残り2つのカレーパンと、商品の入っていた箱が、今も傍に散乱しているのがその証拠だ。けっして幻覚や夢ではない。
「とりあえず追加で水と・・・寒くなってきたから、ライターと薪くらいはいるかな?」
暖をとるために、火を付けるための、ライターと薪を購入してみる。
トン!
すると先ほどと同じように、通販の箱が落ちて来た。
残りポイント:58159
「さっそく火を付けよう」
時間はかかったが、何とか薪に火を付けることが出来た。
バチ・・・バチ・・・
「とりあえずこれで暖は取れるな。そういえば喉も乾いてきた」
喉の渇きを意識して、天然水2リットル2個セット726円を購入する。
残りポイント:57433
「んくんくんく! か~!! これで水の心配も当分はないね。
後は水や道具を背負うためのリュックとか、安いのがあれば購入しておくか・・・・」
その後オレは結局、リュックサック1個238円と、サバイバルアルミブランケット630円を購入した。
残りポイント:56565
オレは 購入したリュックに水を入れると、入りきらないカレーパンを鞄の上に乗せた。そして焚火の傍でブランケットに包まる。
「一息ついたら眠くなったな。
しばらくブランケットに包まって仮眠でもとろう。でも寝ている間に獣に襲われたらと思うと少し怖いな・・・」
オレはそう思いながらも、うとうとと寝息を立て始めていた。
「誰だお前は!?」
すると少女らしき人物が、洞窟の入口の方でそう叫ぶ声が聞こえた。
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