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禁忌の貴石を求めて

「なんだって!ジェマ!ルカドが居なくなっただと!」

「そうなのよ。こんな置手紙を残してね。〝姉さん少し思う事があって出かけて来ます。兄さんには内緒にして下さい。なるべく早く帰って来ます〟だって!兄さん何処に行ったか検討つく?ルカドみたいな世間知らずの子がウロウロしていたら売りとばされてしまうわよ」

 イザヤはジェマがヒラヒラとさせていた手紙を奪うと内容を確認した。

 ジェマが駆け込んで来たのはカサルアの執務室だった。其処にはカサルアは不在だったがラカンとラシードがいた。

「やべぇ~やっぱあのせいかなぁ~」

 ラカンがラシードをチラリ、と見て言ったのにイザヤが反応した。

「何があった!」

「こいつ冷たいからさぁ~」

「ラシード貴様!」

 ルカドはやはりラシードを望んで彼に玉砕されたとのだとイザヤは思った。彼の何時もの宝珠に対して毒を吐くような言葉を、傷付きやすいルカドにあびさせたのだろうと―――想像するのは簡単だった。そのショックで砦を飛び出したのだろうか?

「イザヤ、落ち着けって。まあ実際きつい言葉だったけど本当の事だったからな」

「兄さん・・・・どうするの?連れ戻しに行く?このままだと絶対危ないわよ」

「・・・・・・・・」

 イザヤは激した感情を、すっ、と押さえ込んだ。彼には珍しい感情的な様子だったが今はそれがまるで嘘のように何時もの無表情に変わっていた。

「・・・・放っておく」

 個人的な事で自分が動く訳にはいかない。


「怖い男だな、イザヤお前は――」


 いつの間にか戸口にもたれかかっていたカサルアが揶揄するように言った。

「全くお前は・・・もう少し感情的になったらどうだ?イザヤ、お前が探してこい」

「カサルア!それは」

 カサルアは、ニッ、と嗤った。

「ルカドは大事な仲間だ。それもお前の言い方をすれば・・・戦力でもある貴重な宝珠だ。何かあっては一大事だからな。早々に保護するように――以上だ。反論は許さない。これは命令だ!」

 いいな?イザヤ?とカサルアは念を押した。金の瞳が微笑んでいる。

 イザヤにとってカサルアの言葉は至上のもの・・・逆らう事は出来無い。イザヤは頭を垂れ胸に右手を当てて受諾した。

 こうなれば一刻の猶予もならない。既にまる一日は過ぎてルカドの足取りが分からなくなってしまうからだ。イザヤは自分の持つ全ての情報機関を総動員して情報を集めた。そして程なく行き先が判明した。


―――そこは砂漠都『離龍州』だった。別名『貴石の都』


 その州は砂漠地帯で他に何もない荒れた土地だが、その別名の通り貴石や宝石の産地でもあり、貴石の中の最たる貴石と呼ばれる宝珠も多く現れるのでも有名な所だった。

 ルカドは一人、砂漠の地を歩いていた。無計画で飛び出したが入るのは難しい砦も出るのは以外と簡単で出入りする者達にまぎれて出た。それから話しに聞いた一瞬で遠い地へと飛ぶことの出来る次元回廊を商売にしている者から離龍州へと運んで貰ったのだった。これも運が良かったというものだ。次元回廊の生業は違法でありそれを行なっている者は裏の家業をしている者も多い。主無しの世間知らずの宝珠がフラフラとやって来れば金の成る木が舞い込んで来たようなものだ。

 だがルカドが尋ねて行った所はまともな人物で何かと親切にしてくれたのだった。しかし此処からが問題だった。禁忌の貴石の場所は直ぐに分かったから此処まで来た訳だがその在り処というのが州城なのだ。ルカドが知らなかっただけで禁忌の貴石というのは有名でその石は離龍州で発掘される。珍しい石だから貴重なものに違い無いのだがそれを管理しているのがそこの州城だったのだ。離龍州の州公クエント・オーガは宝珠好きで有名なのだが、宝珠に関する物を集めるのにも余念が無かった。しかも宝珠の命が危険にさらされる石は市場に出す事が無かったのだ。


 〝砂漠の真珠〟と呼ばれる州城をルカドは見上げると目眩がした。熱砂の砂漠を歩き過ぎたのだ。白く輝く城がゆらゆらと揺れたかと思うとルカドは倒れ込んでしまった。近くで騒ぐ声が聞こえたが耳鳴りのように遠くこだまして意識を手放したのだった。

 ひやりとするものが額に触ってルカドは意識を取り戻してきた。うっすらと開いた瞳に映ったのは心配そうに覗き込んでいる見知らぬ男だった。身分の高そうな服装をしたしかも龍のようだ。どうと言う特徴は無いが気弱そうな風貌だった。

「おや、気がついたようだね」

「あの・・・ぼく――」

 ルカドは起き上がろうとした。その時カチャリという音がして自分の額から何か落ちたようだった。慌ててそれに手をだしたらひやりとした感覚が指から伝わってきた。

「駄目だよ。まだ寝ていないと。これは熱を取る貴石だからね。かわいそうに・・・太陽に照らされ過ぎたのだよ。大人しく寝ていればすぐに良くなるからね」

「あの、此処は何処ですか?貴方はどなたですか?」

 その人物はまるでとろけるかのように目尻を下げた。

「声も可愛いね。本当に姿も何もかも可愛い」

「あ、あの・・・」

「私は離龍州の州公でクエント・オーガだよ。怪しいものでは無いから安心して休むが良い」

「えっ?州公様?」


 ルカドの問いに頷くその人物は、宝珠の収集家で有名だった。自分の力の増幅の為に宝珠を欲するのでは無く愛玩する為だけに集めているのだ。

 ルカドはひと目で宝珠と分かる雰囲気を持っていたので、城の門前で倒れた時は直ぐに州公へ報告があがったのだった。まして珍しい少年の宝珠なのだから公は直ぐに手当てを指示した。収集家の公でさえもルカドは非常に貴重な様子で、公務を無視して傍にいたようだった。

 ルカドは勢い良くこの地へ来たものの州城へどうやって入るかなどは考えてはいなかった。だが難無く入る事も出来、更に州公にまで会えたのには幸運だった。後は目的の物を譲ってもらうだけなのだ。しかし、どう切り出したら良いのだろうか?と迷っていた。正直に言っても断られるのは目に見えていたし、かと言って嘘は言いたく無かった。

 ルカドは決心した。

「あの・・・オーガ様。助けて頂いてありがとうございました。少し休ませて頂きましたからもう大丈夫です。本当にありがとうございました。それで――」

 話の途中にオーガはそれ以上、ルカドが何も言え無いように言葉を遮った。

「まあ、ゆっくりしていきなさい。ところでそなたの名は?」

「ルカド・ラナです。あのオーガ様!実は――」

「ルカド!おお、名も良い名だ。さあもう暫くゆっくりするが良い。その後、城の中を案内いたそう。きっと気に入ると思うよ」

「いいえ、あの・・・」


 ルカドの返事を聞こうともせずに州公は背を向けて退室してしまった。結局、ルカドに何も喋らせ無いままと言うよりも、彼が喋るのをわざとらしく避けたのだ。

 ルカドは大きく溜息をついた。外はとても暑かったのに此処は別世界のように涼しかった。外界の明るさは取り込んでいるが、巧みな構造で直接日光が当たらないのだ。

「何やっているんだろう・・・ぼく」

 そう呟くと勢い良く寝台に仰向けに寝転ぶと、天井をただぼんやりと見つめた。

 どれくらい時間が経っただろうか?侍女達が現れてルカドの身支度を整え始めたのだ。運び込まれた豪華な衣装は、まるで女性用かと思うような華やかな色合いと柔らかな生地だった。

「あの、これは?」

「オーガ様のお申し付けでございます。さあ、お急ぎ下さいませ。オーガ様がお待ちでございますから」

「でも・・・こんな豪華な衣は頂けません。あの、ちょっと」

 ルカドの抗議は空しく着替えさせられてしまった。

 その姿に侍女達は、ほぅ、と溜息をついていた。楚々とした少女のような容姿のルカドは華やかな衣装がとても似合っていたのだ。


 その頃、オーガ公は突然現れた訪問者を歓待していた。その訪問者とは自州には無くてはならない、大切な存在の相手だった。だからルカドを呼びにやっていた事を忘れていたのだ。

 そうとも知らず係りの者はルカドをオーガ公のもとへ届けたのだった。通された一室は賓客をもてなすのに相応しく、金銀宝石を散りばめた豪華な内装で、思わず瞳を細めてしまうくらいだ。

 ルカドもあまりの煌びやかさに大きな銀灰の瞳を細めた。眩しさに慣れないが中に居た者達が一斉に此方を見たようだった。その中から声が発せられた。

「ルカド?お前、なぜ此処にいるの?」

 その声は聞き覚えがあった。凛として何にも動じない響きのある声―――

「サ、サーラ様?」

 瞳が明るさに慣れてくると間違い無く乾龍州の公女サーラだった。

 サーラは靴音も高々にルカドに近寄ると、周りに聞こえないように小声で話かけてきた。

「お前、イザヤの所に行ったのでは無かったの?」

「ぼ、ぼく大事な用があって・・・」

「用?此処が何処か分かっているの?宝珠キチガイの城よ。捉まったら最後出られないわよ。それとも早々にイザヤから逃げて来たわけ?此処なら贅沢三昧だものね」

「そ、そんな・・・ぼく、そんなつもりじゃ・・城の前で倒れてしまって気がついたらこんな事に・・・だからぼくは!」


「しっ!黙りなさい!」


 サーラは短くルカドを制すると、今度は急に大きな声で喋り出した。

「そんなに私と離れているのが寂しかったの?駄目じゃない一人で勝手に出てくるなんて!」

 ルカドは驚いて目を、ぱちくりさせた。

「サーラ殿?その宝珠は貴女のでございますか?」

 オーガは彼女達の様子を探るように問いかけた。

 サーラは、くるり、と公へと向きなおり、きっぱり、と言い切った。

「ええ。私が目にかけている宝珠です。今度、正式に契約を結ぶ予定でございます。この者がオーガ公に世話になったとか?礼を申します」

「そ、そうですか・・・・貴女のですか・・・」

 オーガは未練がましくルカドを見たが、何か閃いたようににっこりと微笑んだ。

「サーラ殿。我が城にはまだ沢山の宝珠がいましてね。どうでしょうか?彼と交換して頂けませんか?此方からは二人、二人だしましょう!なんなら三人、三人でも・・・如何でしょうか?」

 オーガは余程ルカドが気に入ったらしい。破格の申し入れだった。

 周りに居た者達も公の申し出には驚いた。彼一人に掌中の宝珠三人も出すと言ったのだから―――

 確かにルカドにはそれだけの価値があると納得出来た。その容姿と貴重な男型は誰が見ても龍なら手に入れたいと願う宝珠だろう。

 サーラは両腕を組み、ルカドをじっと見て少し考える素振りをした。


「サ、サーラ様――」


 ルカドは不安になってきた。

 オーガはもう少しだと思った。あと一押しだと・・・・所詮、歳若い小娘だから魅力的な何かで釣れば良いと心の中で、ほくそ笑んでいた。

「サーラ殿。それに先日採れた珍しい宝石もお付けしよう。それは素晴らしくゼノア様でさえもお持ちでは無い代物ですぞ。それに、これ!先程来た織物商人を此処へ通せ!珍しい衣を沢山持参している者がちょうど来ておりますから、お好きな物をお好きなだけお選び下さい」

 サーラは無言だった。

 彼女の前には宝石の数々が並べられ、更に織物商人が華やかな衣を運び込んで来た。

 その商人は一風変わった格好をしていた。砂漠を渡る商人達は皆同じような服装だが一般的には見慣れないものだ。離龍州は灼熱の太陽に負けない鮮やかな色調を好むが、砂漠の商人達は光線を弾くように真っ白の衣を頭からすっぽり被るのだった。公達の前まで頭を垂れながら進み出たその商人が、そのまま一度深く礼をとって顔を上げた。


 ルカドは驚き声を上げそうになって両手で口を塞ぎ、サーラは不思議な色をしたその瞳を一瞬見開いたが平静な振りをした。その商人はルカドを追ってきたイザヤだった。

 イザヤも内心驚いた。当然表情には全く出ない。ルカドの足取りを追って州城への潜入することになったのだが、その手段として織物商人とすり替わったのだった。運良く、州公が宝珠達へ衣を貢ために商人を呼んでいたのだ。潜入してからルカドを探し脱出する計画だったが、まさか直ぐに会えるとは思ってもいなかったし、この場にサーラが居るのは予想外だった。

「お前――」

 サーラの言葉を遮るようにイザヤが動いた。

「これなど如何でしょうか?貴女様にはとてもお似合いかと思いますが?」

 彼はそう言いながら鮮やかな紅色の衣を広げてサーラに手渡した。柔らかな口調とは裏腹に、鋭い銀灰の瞳は十分威圧していた。


〝合わせろ〟と―――


「・・・・・こんな鮮やかな色、私は似合わないわ」

 サーラはそう言うと、その衣をルカドの肩にふわりとかけた。

「ほら、お前の方が似合うわ。ほら、これも、あれも・・・・」

 目の前の宝飾もルカドにかざしては放り投げる。

「馬鹿らしい。オーガ公、せっかくの申し出ですが私、自分に似合わない物を付ける趣味はございませんの。興味もございませんわ。それにこれが一人いれば十分でしょう?万の貴石にも相当するのですから。そう思いませんか?それはそうと私大変疲れましたから休ませて頂ますわ。明日は早くに此処を出ますから――よろしいでしょうか?公?」

 サーラはきっぱりそう言うとルカドの手を引いてその場から去ろうとした。そして控えるイザヤの横を通りながらそっと声をかけた。

「明日にはこの子を連れ出してあげるわ」

 サーラは彼らの事情は知らない。だが変装して現れたイザヤを見たルカドの様子からして、彼に内緒で何か行動をしているのでは無いかと予想できた。しかもこのような場所で穏便に済ませるのは難しい状況だ。ルカドを狙っているオーガ公の手の中から連れ出すには自分が動く方が無難だと思った。憎まれ口をたたいていてもイザヤは好きだし、ルカドも結構気に入っている。

 素直になれない自分がうらめしいが―――


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