表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

閑話~マリカとシアン<前編>

 マリカ・・・あんたと出逢って俺がどんなに救われたか幼いあんたには分からないだろう・・・何もかも嫌で自分が呼吸するのでさえも煩わしくなっていたあの頃。まるで不意打ちに後ろから頭を殴られたような衝撃を感じた出逢い―――何故なのか?どうしてこんなちっぽけな存在が?と思うよりも心が叫んでいた。


 〝見つけた!〟

 

 何を?何が?なんてどうでも良かった。ただ魂がこの子だと叫んだんだ!

 その彼女が歳を重ねあどけない幼子から少女へと成長していく―――狭い世界からどんどん広がる世界へと踏み出すマリカは眩しいくらいだ。以前はシアン、シアンと俺の名を呼び纏わりついていたのに最近ではよそよそしい・・・彼女に相応しい宝珠になろうと真面目に城勤めをしてきた。だから今では州公やタジリから少しは認められているような感じだと思う・・・それなのに肝心のマリカが俺を選ばなければ全て水の泡だ・・・

 シアンは大きな溜息をついた。

「マリカ様・・・俺、何かしました?はぁ~わかんねぇなぁ~」


 兌龍州の州城には極上の宝珠がいる。その容姿と珠力は並外れ貴重なのは何と言っても性別が男だということだろう。女の龍にとって同じ性の宝珠より人気があるのは当たり前だった。公式に城に雇われていると言うのに他州の龍達の申し込みは後を絶たずにやってくる。

 その宝珠の名はシアン―――数年前までは厄介者として扱われていたが今では近隣の名のある未契約の宝珠達の中でも一番の人気となっていた。誰がこの宝珠と契約をするのか?と言うのが皆の関心事だった。しかしその彼が他の誘いを一切受け付けず傾倒している龍は州公の末娘マリカだ。それなのに誰もがそれを信じずシアンを誘う。今もその真っ最中だったがマリカの顔が柱の影から、ちらりと見えた。


「マリカ様!」


 シアンは久し振りに見たマリカを見つけると話していた相手を捨て彼女に近寄って行った。しかしそれに気が付いたマリカは、ぱっと駆け出そうとしたのでシアンは思わず彼女の腕を捕まえた。一瞬二人の視線が合ったと思ったがマリカがそっぽを向いてしまった。

「マリカ様・・・お久し振りですね。お姿が見えないからシアンは心配していました。どうされていたのですか?」

「・・・・・・・・」

 マリカは何も答えない。シアンから放り出された相手が不満そうにシアンの名を呼んでいる。その相手はもちろん成人した女の龍だった。堂々とした龍力を放つその女性は自分の力と魅力を十分に分かっているようで自信たっぷりだ。

「シアン!話しの途中でしょう?早く来て!」

「マリカ様?」

 シアンは龍の女を無視してマリカに構った。

「シアン!そんな子供はどうでもいいでしょう?私の話しが先よ!」


「あんたとの話しなんかどうでもいい!もう消えな!」


 シアンは煩そうに肩越しに振向くと吐き捨てるように言った。

「なっ!何ですって!まさか本当に噂通りにそんな子供の後を追いかけているっていうの?あなた程の宝珠が?まさかでしょう?」

 マリカが、ぴくりと肩を揺らした。

 マリカは小さな頃からシアンが大好きだった。初めはお気に入りの人形よりも綺麗で優しい彼が一番の友達だった。それが段々と物を知り自分の世界が広がるにつれて分かってきたことがあった。シアンは誰もが欲しがる特別な宝珠という価値のある存在なのだと知ったのだ。

 宝珠―――龍が欲して止まない特別なもの。龍の力を増幅させる力を持つが一生にただ一人としか契約をしない。宝珠達が捧げるのは無二の誓い―――それを捧げられた龍は最高の栄誉を受けたようなものだろう。選ぶのは宝珠であり契約の主導権は龍に無いのだ。だから龍達は狙った宝珠にあの手この手と自分を選んでもらえるように攻勢をかける。


 マリカの憂鬱の原因はそこにあった。誰もがマリカを羨んだ。初めはシアンを煙たがっていた兄や姉もそして友達も皆が口々に羨ましいと言うのだ。それだけならいい・・・それだけなら何でもない。しかし羨む影には妬みも多かった。どうして龍力が微弱な・・・まだ子供と言ってもいいぐらいの子に極上の宝珠が何故?と言う声が大きかった。自分でも何故彼が自分を?と不思議で仕方が無かった。それでも力の違いは本当のことでマリカが自分のことを悪く言われるのは構わなかったが・・・シアンの頭がおかしいとか、変だとか言われ始めると嫌で堪らなかった。マリカは幼馴染のカズラに相談した。お調子者の彼女だが少し歳が上なだけあって頼りになる。


『そうよねぇ~シアンって昔からマリカ一筋よね。今更始まったことじゃ無いのは知っているけど・・・どうして?と聞かれると何でだろう??』

『やっぱり・・・カズラでも分からない?』

『ん・・・そうね・・・あっ、分かった!あいつは小さな女の子が好きなのよ!』

『えっ?』

『私ね、聞いたことあるの。小さな女の子が好きな大人の男の人とか、その反対に小さな男の子が好きな大人の女の人だとか、男同士、女同士が好きになるような人達がいるって!そういう普通じゃない趣向の人がいるらしいとか言っていた』

『シアンが小さな女の子が好き?』

『きっとそうよ!そうじゃないと変でしょう?あんなに良い宝珠が子供のマリカをって・・・あっ、ごめん』

 カズラは言いすぎたと思って謝ったがマリカは大丈夫と言って首を振った。

『カズラが言うのが本当なら・・・私どうしたらいいんだろう』

『どうしたらって?シアンから身を守る方法?契約してくれたって変態じゃねぇ~』

『違う!嫌われなくする方法よ!』

『え?どういうこと?』


 マリカは自分の言いたい事が上手く言葉に表せなかった。シアンが本当にカズラの言う理由で自分を構っているのならどうしようと思ってしまった。目の前の幼馴染は少しだけ歳が上なのに大人に近づいている感じだ。手足が長くなり胸は丸くふくらんで・・・直ぐに自分もそうなるだろう。時間は止まってくれないし、姿止めを出来るくらいの力が今は無い。今まで着ていた衣が窮屈になる度に怖くなった―――


(私・・・シアンに嫌われるの?)


 だからマリカは彼から逃げた。シアンの目に触れないように姿を隠すしか方法は見つからなかったのだ。

 ずっと避けていたシアンに腕を掴まれ胸がどきどきした。物陰からそっと見ていた筈なのに見つかってしまった。今日も自分の姿を鏡で見て落胆したばかりだ。少しでも成長を遅くしようと食事も少なくしているのにその成果が無いのだ。そんな自分をシアンに見られたくなかったのに・・・

「嫌!手を離して!マリカを見ないで!」

 マリカの拒絶にシアンは呆然となった。避けられていると感じていたがはっきりとした態度をとられたのは初めてだった。だから咄嗟に掴んでいた手を離してしまうとマリカはあっという間に走り去ってしまった。

「マリカ・・・どうして・・・」

 シアンはもうどうしていいか分からなかった。今はただ走り去って行った小さな龍の後姿を見つめるだけだった―――


 そして毎年行なわれるマリカの誕生会がまたやってきた。昔はこのお祝いの会がとても楽しみだった。祝い好きの父親の趣向で華やかに城を挙げて行われる会は本当に楽しかった。しかし今は苦痛としか思えない。マリカはもうこれ以上大人になりたくなかった。シアンに嫌われたくないのだ。それなのに周りはお構いなし準備されている。今も用意された衣を着たマリカはそれを脱ぎたくて仕方が無かった。

「・・・私・・・これは嫌。そうだ!前にお母様の誕生会に着た両袖がふくらんで花が付いていた衣があったでしょう?それがいい」

「マリカ様、それはもう小さくて着られませんよ。それに子供っぽいでしょう?今お召しのものはとてもお似合いで素敵ですよ」

 マリカは鏡に映る自分から瞳を逸らした。それは今までのような可愛らしい装飾は省かれ大人の女の人が着るような刺繍をあしらった衣だ。

「・・・・・・私・・・嫌だ・・・」

「え?何ですって?」

「私は会場に行かないって言っているの!頭痛がするの!」

「何を急に、主役のマリカ様が行かれなくてどうするのですか!州公から怒られますよ!」


 家族の誕生会は半分、政治的なものだというのはマリカも知っている。祝いにこじつけた外交のようなものだった。それでもマリカは出たくなかったが皆に迷惑がかかると言われ嫌々ながら出ることとなった。シアンに自分を見られるのが嫌なのもあるがもう一つ嫌な事があった。それを見れば胸がむかむかして気分が悪くなるのだ。それは直ぐに目に付くもの―――シアンを取り巻く女達の群れだ。シアンは彼女達を相手にしている様子は無くても女達は馴れ馴れしい。主役よりも華やかに装った女の龍達がシアンの気を惹こうと躍起になっているのだ。マリカは昔のようにシアンは自分のものだと言ってその場から引っ張りたい気分だ。今思えば子供だから出来た行動だった。大人たちの隙間を掻い潜り歓談中のシアンの手を我が物顔で掴んで引っ張った。


『シアン、むこうへいこうよ。ここはつまんないもの』

『マリカ様?いいよ、行こうか』


 シアンは直ぐに笑って言う事を聞いてくれた。彼の口から駄目だかと出来ないとかいう言葉を聞いたことがない。だから今もそうあって欲しいとマリカは思うのだが小さな頃のように素直に言葉に出せなかった。


―――マリカとずっと一緒にいてくれる?マリカをずっと見ていてね―――と。


 主役の登場で誕生会は盛り上がっていた。年々娘らしくなってくるマリカに言い寄る者もいれば、公女という立場の彼女と縁続きになりたいと思う野心家の者達が年を追う毎に増えているようだった。マリカは公女としての役目を果たすようににこやかに微笑んでいたが早く時間が過ぎればいいと願った。シアンを見たくないのに自然とその方向を見てしまう。

 未契約で城勤めをしている彼だが、どういう訳か後ろ盾として四大龍の銀の龍と、その妻乾龍州の州公の名が囁かれていた。だからその二人のどちらからかの贈物だろうが見事な衣に身を包んでいるシアンは誰よりも輝いているようだった。マリカは小さかったので彼らの経緯は覚えていない。だから先日城を訪れたその二人とシアンが仲良さそうに話しているのを見て胸がもやもやしたものだ。意地悪を言うものはその二人のどちらかとシアンが契約するだろうと囁いた。取り分け宝珠を持っていない乾龍州の州公サーラが有力だと言うのだ。

 マリカはそれを思い出して考えを振り払うように首を振った。


(違うもの・・・シアンはあんな大人の女の人は好きじゃないもの・・・たぶん・・・)


 そう自分に言い聞かせながらも不安で一杯だ。マリカは自分の想いに耽っていてシアンが近づいて来ているのに気が付くのが遅かった。はっとした時はもう目の前に彼がいたのだ。

「マリカ様、お誕生日おめでとうございます」

 諦めの悪い女達はまだ後ろに群がったままだ。そしてひそひそと話しをしている。何て言っているのか想像出来るものだ。

「・・・・・・・・・」

「マリカ様?」

「・・・めでたくなんてないもの・・・」

「え?何って言われましたか?」

「誕生日なんて嬉しくないって言ったの!」

 マリカはもう自棄だった。頭も心もぐちゃぐちゃだ!シアンが自分には眩しすぎて堪らなかった。相応しく無い自分が大嫌いだ!大きな瞳からぽたぽたと大粒の涙が落ちる。

「マ、マリカ様・・・」

「ねぇシアン、そんな癇癪おこしている子供なんかどうでもいいでしょう?私の話しをもっと聞いて頂戴。悪いようにはしないわよ」

 先程からしつこく誘う何処かの州の公女がシアン達の間に割って入って来ると彼の腕に絡んできた。シアンも流石に賓客だからと失礼な態度をとっていなかったのだが・・・

「煩い!あんたに用は無い!引っ込んでな!」

「何!その態度!私を誰だと思っているの!」

「誰だろうが関係無い!俺からその手を離せ!」

 シアンは自分の腕に絡む公女を払いのけた。

「まっ、失礼な!私が声をかけただけでもありがたいと思いなさい!ちょっと自分が良い宝珠だからっていい気になって元は貧民窟出身らしいじゃない?泥棒猫のような真似していたのでしょう?生まれは隠せないわよね」

 周りがざわめき始めた。シアンの過去を知るものでも彼の普段の努力で忘れられているような感じがあった。それが再び表に引きずり出されたのだ。

 マリカは、かっと頭に血が上った。自分が馬鹿にされるのは構わないがシアンが色々言われるのは許せない。


「シアンを悪く言わないで!」

「マリカ様、俺は言われ慣れているから黙って」

 憤るマリカをシアンはいいからと言って慌てて止めた。自分を庇ってくれるマリカに心浮き立ったがこんな公式の場で面倒を起こすわけにはいけない。

「あら?何?そう言えば・・・あなたはこのおちびさんを追い回しているとか聞いていたけど本当なのね。傑作だわ!何がいいの?こんな貧弱なお譲ちゃんのどこに魅力がある訳?私より良いっていう理由を聞かせてくれる?」

 自分の事を何と言われてもいいがマリカを馬鹿にされたシアンは許せなかった。案の定マリカは真っ青な顔をしている。シアンが立場も何もかも忘れて反撃を開始しようとした時、軽やかな笑い声が聞こえてきた。

「ねぇ~それくらいにしたら?公女様」

 銀色の髪に銀灰の瞳をした見かけない女龍が近寄って来た。

「あなたは誰?部外者は口を挟まないで頂戴!」

 敵愾心を燃やした言葉を受けた銀色の女龍は小さく肩をすくめたが笑っていた。

「口を挟まないで、と言われてもね・・・一応この宝珠の見届け人の身内だし・・・」

 シアンはあっと声を出した。見覚えあると思ったら・・・

「あんた銀の・・・」

「そうよ、妹のジェマ。似ているとか言わないでよ。初めまして。あなたへの用事を兄さんから頼まれて来たのだけど・・・あなたも噂通り色々大変ね」

「まあな」

 シアンだけが突然現れたこの人物を知っているようだった。マリカはシアンと親しそうな綺麗な龍に心が騒いだ。

「ちょっとあなた!誰よ!私は――」

「はいはい、何処かの公女様って言うのでしょう?私は代理のものだから名乗るような身分は無いわ。でも・・・余程田舎の州なのかしら?シアンの後ろ盾を知らないなんて?」

「後ろ盾?誰よ」

 ジェマが楽しそうに笑った。

「聞かない方が言いと思うけど・・・あなたのお父様が真っ青になる名前よ」

「馬鹿言わないで!私の父はね――」

 ジェマは彼女の言葉を遮って言った。


「銀の龍イザヤ。もちろん知っているわよね?一応四大龍だし」


 その名を聞いた途端、啖呵を切っていた女は真っ青になって小さな声で謝ると走り去って行った。

「うわぁ~流石ねぇ。兄さんの名前の威力って!」

「そりゃそうだろう?誰もが一番睨まれたくないし関わりたくない相手だろうさ」

 シアンは敵を撃退してくれたジェマと笑い合ったが、はっと下を向いた。マリカがいつの間にか自分の衣の裾を握っていたのだ。

「マリカ様・・・大丈夫ですか?」

 握り締めるその手にシアンがそっと触れるとマリカは驚いてその手を離した。そして始末が悪そうに後に手を回す。彼女がよくする仕草だ。

「すみません。俺の為に嫌な思いをさせて・・・」

「・・・・・・・・・」

 マリカは答えない。目を合わそうとしない彼女にシアンの落胆は手に取るように分かる。


(サーラ様に色々聞いていたけど・・・思ったより大変そうじゃない?)


 ジェマは兄夫婦が肩入れする宝珠に関心があったが、もう小さな龍のものだから駄目だと言われていた。だからジェマは二人を見て成程と納得したのだ。


(宝珠の方はルカドの時みたいにもうこの子一筋みたいね。それに男として恋しているかな?瞳が違うもの・・・そしてこの子は見かけと違って既に女ね。宝珠を欲しがる龍の瞳じゃない・・・ん~難しい乙女心?)


 何かと首を突っ込むジェマのお節介心が疼きだした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ