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 魔力をもつ人間の減少と共に、魔物は減った。

 魔力を持つ者が減ったのは、人間だけではない。


 どうやらそれは魔物にも、同じことらしい。


「ゴブリン……であれば、万が一はないと思いますが」

「ええ、わたくしだけで事足りるわ」

「……とはいえ、無理はしないで頂けると」

「分かってるわよ。あなたの命が掛かっているものね」


 そういうことでは、ないのです。

 ……と言っても、貴女は聞き入れてくれないでしょうから、何も言えないのですが。


 領主の館を出て、街の郊外に着く。

 他の街へと続く街道とは離れた、深い森に入る。


「……今は、ゴブリンだけ。……けれど」

「……」

「この徒党を組む行為が、魔物同士に広がっていった時……。その時が、我が使命を果たす時ね」

「大魔導師の意志を、継ぐ者たち……ですか」

「そう。それが大魔女の、存在意義」


 かつて襲った、魔物の大群。

 種族に関係なく彼らの『人類を滅ぼす』という意思が統一された結果だ。

 その来たるべき時のために、大魔女たちは元は大魔導師のものであった強大な魔力を継承し続ける。


 なぜ。

 貴女たちにやさしくはない、世界を。人を。

 守れるというのか。


「あら、あそこね」

「数は……、二十ほどでしょうか」

「下がっていなさい」

「……御意」


 魔物。

 知能が低いとされ人間を無意味に襲い、身体の特徴が異なるもの。


 実害があるのならば、理由がある。

 やられる前に、やる。


 だが、彼女たちは──?

 人類に、いったい……何をしたというのだろう。


『ギィ……!?』


 こちらに気付いたゴブリンの一体が、声をあげる。


「──イグリース!」


 呼応するようメイラ様も声をあげると、そこには煌々とした炎が現れ、彼女に纏った。


「殲滅せよ」

『──容易(たやす)い』


 彼女の命を受けた炎は、徐々に大きな鳥を形作ってゴブリンたちを焼き尽くす。


「!」


 炎の精霊イグリースの炎を避け、直接メイラ様へと寄ろうとするゴブリンがいる。

 私は迷わず剣を抜き、彼女を傷付ける存在を(ほふ)った。


「頼りになるわね」

「……恐れ入ります」


 命のやり取りをしているとは思えないほど、普段通りの彼女はイグリース以外の炎も操り、簡単にゴブリンの拠点を制圧した。

 それらはまるで意思を持つかのように、不思議と対象以外には燃え移ろうとしない。


「……全部かしら?」

「そうですね、……少し見てきましょう」


 自然に出来た洞窟を住処としていたらしいゴブリンは、外にいた見張りのものと、中にいたもので全部のようだった。

 中にいたものも、戦闘の合図で全員外に出てきたらしい。

 他に気配は……ない。


「任務完了ね」

「はい、お疲れ様です」

「……うーん」

「? どうされました?」


 やるべき事を終えたにしては難しい顔をして、なにやら困った様子だ。


「足、痛いわ」

「……なるほど」


 彼女はどこへ行くにもヒールのある靴を履いている。

 それもきっと、自身の信条のためだろう。

 だが、確かにこのような場に相応しい履物とは言えない。


 そして、私はそれに気付いたとしても。

 決して、『靴を変えて欲しい』とは……言えないのだ。


「でしたら」

「!」


 言えないのであれば、こうするより他ない。


「……ふふ。まるで、お姫様ね」

「私にとっては、いつでもそうですよ」


 歩く度に足が痛むというのであれば、私が彼女を抱えれば良い。

 横抱きにすれば、彼女は私の首に腕をからめてくる。


 まるで、こうなることが分かっていたかのように。


「ふうん。……じゃあ、あなたは王子様?」

「……さあ、どうでしょう」


 いつもの軽口。

 他愛のない、やりとり。

 恐らく彼女も、深い意味では言っていない。


 でも、日々のそうした中に。


 ……私には、貴女の寂しさが透けて見えるようです。



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