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0話 「とある教祖の声明」

 とある教祖の声明



(壇上に男が上がる)

(拍手喝采が響く。男は手を振る)

(場が静まる)

 なぜ人は生きるのでしょうか。答えは簡単。遍くすべての生物には生存本能というモノがあるからです。生きたいから生きている、というわけです。

 しかし人間には知恵があります。頭脳があります。他の動物たちならそれでいいのかもしれませんが、我々はもう少し考える必要があるのではないのでしょうか。

 我々「生命の輝きブライト・オブ・ライフ」が信仰する「命」。その信奉者たる我々は常に考え続けることを義務づけられています。考えることは絶対的に善であり、考えないこと、思考の放棄は絶対的に悪なのです。

(一拍間を置く)

 逆説的ではありますが、動物たちと違い我々人間は生きる意味さえも考えなければ生きることができません。なぜなら、人間が考えることを必要とするということは、考えないものは人間ではないからです。

 生きてもいいと、生きることを必要とされなければ生きることもできない。故に我々は考えなくてはならない。自分の生きる意味を。自分のために。

(再び拍手が沸き起こる。今度はすぐに収まる)

 さて、話を戻しますが、動物たちは生きることに疑問など抱いてはいません。彼らは考えなくても生きることの重要さ、命の尊さに気づいているのです。考えるのではなく感じているのです。これはとても素晴らしいことなのです。

 ところが我々人間は自分の生きる意味を考える必要があります。だから考える。動物たちと同じように、生きていくために。考えることが我々に与えられたギフトだからです!

(パラパラとした拍手が上がる。男、今度は気にした風もなく話を続ける)

 私はその生きるために必要な意味、それを夢と呼んでいます。または希望とも。人はやりたいこと、なりたいモノがあるから、それを達成するために生きられる。そのために 生きられるのです。

(会場全体に不穏な空気が流れ始める。男、気にせず話を続ける)

 そうです。我々人類は本能に逆らうことができる。むしろ理性をもって欲望に打ち勝つ、そうした人間的な行動は理想とされてきました。現社会で野性的で獣のような思考は忌まれてきたのです。

(会場の雰囲気が変わる。戸惑うような声が聞こえる)

 しかしなぜそういった風潮が好まれたのでしょうか。なぜやりたいことをやりたいようにやるのではいけないのでしょうか。学生は勉強を強要され、できるだけ質の良い、評価の高い学校に入り、またできるだけ良い企業に入社し、そうして生きるために消え、快楽など一瞬のモノばかり。苦痛は生きる限り、一生続くのに。そうまでして生に執着する意味はあるのか?それはもちろん。後世のため社会のため己が未来のため。

 ならその社会や後世に意味は?なぜそんなモノのために生きる?結局人類のエゴの集積に過ぎないのに。死んで後、我々に何かを残してくれるか?

 社会を存続させることに意味なんてない。

 なら未来は?自分の未来なら?そんなモノはなくなった。誰もが気づいているのに!

(どよめきが大きくなる。動揺したような声が随所で上がる)

 人は皆、己のしたいことをすべきだった!もちろん、欲望に従い、集団のルールに背くというのではない。自分の夢や希望に従い、それらがなくなったとき、それから生きる意味など無いのだ!

(聴衆の群が乱れ始める。壇上に上がる者も現れる)

 人々は後悔の残らないような人生を送るべきだった!自分たちが明日死ぬかもしれないと、考えながら生きるべきだった!こうなってしまった今、生きる意味など何の価値も持たない!

(群衆が男の元にたどり着く)

 我々には生きることなどできやしないのだから!命の輝き?クソくらえだ!未来を奪われた我々にそんなモノありはしない!

(群衆が男を囲い、男の姿が見えなくなる)

 皆が気づくべきなのだ!今更平常を保つことに意味など無いと!もはや生きるということさえもその範疇では無いのだと!もはや――人生など――


 どうせ――――――。


(そこで映像は乱れるようにして終わっている……)



 ふー、と、一つため息をついた。



 どうせ――――――。

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