19話 子供
今年の夏は特別暑い。暑い暑いと、口から漏らしているうちに夏休みの半分が過ぎ去っていた。地球温暖化は伊達じゃない。
休みだというのに、毎日のように部活で半日がつぶれる。午前練の日はその疲れで午後が潰え、午後練の日は練習の前のリフレッシュに午前がつぶれる。休みなのに休まらない。
でも、長期休暇なんだし、遊びに行ったりは当然する。が、残念ながら例により、芽衣とのデートはあまり行けていない。残念な話だ。
そういうわけで、グダグダの前半だった夏休み。だけど、今日八月十四日からはお盆によって部活は数日休み。思いっきり遊びたいが、残念ながら今日は家の用事だ。
「全く、何のためのお盆休みだよ」
車に揺られながらぼやく。手にはスマホのゲームだ。
「それは、今日のためだろ」
「正論は聞きたくない」
車の運転席に座る父さんを突っぱねた。
今日はお盆ということで、お墓参りだ。祖父母の家を回って、一緒にお墓へとお参りしに行く。
「あんまり遊べてないのか?夏休み」
「そーだな、遊べてない」
「暑さに弱いからな、琉生は」
いつも通りの会話。なんにも気を遣ってないようで。
それでいい。もう昔のことで、お盆ごときで心を揺らされたりはもうしない。たとえ母のお墓であっても。
「父さんだって、会社行ってるだろ」
「夏休みだからって空けられる仕事じゃないからな」
「社畜だな」
「そーだな、何も言い返せない」
どう考えてもその表現が一番しっくりくる。楽な時期もあるにはあるけど、忙しい時期になるとボロボロだからな。
「でも、達成感ある仕事だぞ。やりたかったことだしな」
「ふーん。ま、身体は壊すなよ。見舞い行かんから」
「ひっどいな」
適当に話を終わらせて、本格的にゲームに身を入れた。乗り物酔いできつくなるけど、窓全開だし大丈夫だろう。
正直今日俺がすることはほぼない。ただ父さんの後ろをついて行くだけ。俺にはお墓参りに真剣に取り組む真面目さは持ち合わせていない。ただの石の前で手を合わせるだけだ。
俺がいなくても何も変わらない。はぁ、早く終わってくれ。車酔うし。
とりあえず車酔いでひっどい状態になりながらも、全ての墓参りを終えて、おばあちゃんちで休憩することになった。
吐き気を催すこの感じは、車を出てもそうそう抜けない。甘いジュースで気分を上向きにはするが、がっつり昼を食うとリバースしそうだ。
酔いと空腹の二重コンボで、たまらず俺は外の空気を吸いに行った。
「・・・・・はぁ」
これだから墓参りは嫌なんだ。計画した旅行とかなら、俺はしっかり酔いを収めるための準備を怠らないけど、こういう日は気を抜いてしまう。
休みだってのに、気分は最悪だ。
とぼとぼテキトーに道を進む。目的地は特にない。ただ、いつかも忘れたが、以前通ったことのある風景をなんとなく目に映しながら進んでいく。
そして辿り着いたのは公園だ。なんか変な遊具もある大きな公園。以前言った祭りの公園より断然大きい。
「懐かしいな」
小さくこぼす。変な遊具が記憶に残っていて、なんとなくそれが目に映るように、ブランコの周りの柵に腰を下ろした。
公園の中に人の姿は殆どない。昼過ぎのこの時間だからか、単にたまたまか。お盆だし、みんなお墓参りに行って、祖父母と過ごしているのかも。
俺はさほど祖父母が好きじゃない。おばあちゃん子じゃなかったし、なんつーか、コミュニケーションがちょっと面倒くさいとか思ったりして。
でも、嫌いなわけじゃない。お盆って祖父母と過ごす日だろうし、最近おばあちゃんちには顔出してなかった。
この頭に居座る頭痛が治ったら戻るとしよう。
そう思いながらその場を立つ。すると、俺のズボンを引っ張られた。
「は?」
「おにいちゃん、あそぼ」
「・・・・・子供!?」
小さな女の子が、俺のズボンを引っ張っていた。な、なんだこれ。迷子か!?
「あそぼ?」
「あ、あそっ、え?」
こどもの相手なんて生まれてこの方やったことがない。どう対処すればいいのか分からん。やばい、俺の人見知りが本領発揮している。
「だめ?」
「あ、どうすれば・・・・・。んんっ、えっと、何して欲しいの?」
どうにか冷静さを取り戻し、上手く対処するよう努める。この子の目線の高さまでしゃがんで、どうにか乗り切らねば。
「あそぼ」
「は?」
今度は腕をひかれた。その方向に目を向けると、おんなじ顔の女の子がもう一人。
「は?んん!?」
なんだこれ、双子!?まじで?
この状況のおかしさのせいで、また頭が痛くなってきた。パラレルワールドに迷い込んだみたいな錯覚を覚える。
「ねえね」
「あ、はい」
なぜ敬語なのか。
「ブランコおしてほしいの」
「あ、うん」
なるほどそういうことね。とりあえず思考を止めて、深く考えるのをやめよう。保護者どこだろう。
すぐそばのブランコ二つに双子が座って、俺は後ろに回る。
軽く漕ぎ始めたのを確認して、背中を押して勢いをつける。
「わぁー!」
ぎこっ、ぎこっ、という音と女の子の声が重なる。徐々に勢いは増して、結構なふり幅が付いた。
「わたしもわたしも!やってやって!」
「うん、ちょっと待ってね」
もう一人の女の子の声に返事をしたところで、俺は通常の思考の一部を取り戻した。
待つのは俺じゃないか?こんなに小さな子供、怪我させたら・・・・・。慰謝料、賠償請求、犯罪者、一生残る子供の傷、大怪我・・・・・・・。
勢いよく漕がれるブランコが徐々に速度を落としていく。いや、俺が落としていった。
「あれ?どうしたの、おにいちゃん」
完全にブランコが止まったところで、その子の前に回り込む。
「これじゃなくて、あそこの滑り台で遊ぼうか」
「もうちょっとブランコー!」
「あたしやってないー!」
あーもう。やっぱ子供は嫌いだ。
「ほら、お兄ちゃんが漕ぐから、お兄ちゃんがつまらないの。だからさ、お願い」
「・・・・・そっか。じゃあそうしよー」
「そうしよー」
「ありがとー」
はぁ、と心の中でため息をついた。なんで俺がお願いしないといけないのか。
滑り台へと進む双子の後を遅れてついて行った。
「わぁ〜〜」
「足元気をつけてねー。・・・・・・・」
・・・・・何やってんだ俺。
滑り台を滑って来る双子を下でキャッチして立たせる作業を続けている。気分的には、握手会で人を捌くスタッフみたいな感じ。イメージだけど。
なんでこうなったのか、当事者なのによく分からない。誰か教えてくれ。
「わぁ〜〜」
さすが双子、同じ反応。
「はい」
慣れた手つきで体を起こさせる。何回もやってれば慣れもする。慣れたくはなかったけど。
「おにいちゃんもいこ」
「え?俺は大丈夫」
「いこ!」
「いこ!」
「ぐっ」
二対一で俺の負けか。多数決の原理なんて誰が提唱したんだ。いじめの発端だぞ、馬鹿が。
仕方がないので、一回は許容するしかない。階段を上って自分の身長と不相応な小ささのゲートを潜る。そしてまた窮屈な滑り台に腰を下ろし、スーッと滑った。
「・・・・・・・はぁ」
何やってんだ、俺。
「「わぁ〜」」
「いてっ」
背中の二点、思いっきり押されて後ろを見ると、案の定俺が退く前に二人が滑ってきていた。服が汚れるでしょうが。
などと言える訳もなく。後ろの双子に気を遣いながらその場を立った。
「危ないからそういうことするのは、」
「すなあそびしよー」
「しよー」
「・・・・・ちっ」
こいつら。
滑り台を降りて、さっさと砂場の方に行ってしまった。
ったく。本当に保護者どこだよ。辺りをぐるりと見回してみる。
人はちらほら。でも、おじいちゃんおばあちゃんと若い大学生くらいの女性しかいない。孫って感じじゃなさそうだな。
子供ほっとくなよ、親。
「おにいちゃーん、はやくー」
「・・・・・・・はぁ、しゃーねーなー」
開放されるかもと期待したが、無駄な期待だったようだ。
二つの汚れをササッと払って、二人の元に小走りで追いかけた。
「おだんごおだんごー」
「わたしのはおつきさまー」
何分の一スケールだよ、それ。
砂場、やだなぁ手汚れるの。爪に入り込むのとか最悪だなぁ。帰りたいなぁ。
憂鬱な気分で砂をつついていると、俺に丸いものが差し出された。
「はい、おだんご」
「ふーん」
いらねぇ。ぐずぐずで、もう少し形整えろよ。
「おかえし、ちょーだい」
「・・・・・労働には対価が必要なんだぞ」
「?」
伝わるわけがないか。
しょうがないので、渡された土ボールを力いっぱい握り直して、ちょっと形を変えてそのまま返した。
「はい、お団子がおにぎりになった」
「・・・・・すごーい!」
大丈夫だったようだ。嬉しそうに受け取ってくれた。
「わたしのおつきさまも、はい!」
「・・・・・ありがとう」
さっきのと何が違うのか。
ああ、目でお返しを期待してる。どうしようか、なにか手頃なのあるかな。
「・・・・・・・お月様はないと困るから」
何も思い浮かばなかった。そのまま返却する。
「・・・・・そうだね!」
良かった。素直な子で。
「おやまつくろう!」
「つくろう!」
「・・・・・まあいいか」
二人で砂を集め始めたので、俺も手伝う。これならただ集めて固めるだけだし、爪とかも心配せずに済みそうだ。
無意味な作業は嫌いだが、坦々とこなす作業はあまり嫌いじゃない。
「おにいちゃんすごーい」
「手の大きさが違うからね」
手を広げて双子に見せる。よく見ると本当に全然違う。十年そこらでこんなに成長するものなのかと、少し不思議な感覚を覚える。
「おおきい!」
「そういえば、君たち名前は?」
「わたしひかり」
「わたしはあかり」
「・・・・・そう」
聞くんじゃなかったと、聞いてから思った。間違えずに呼ぶの大変そうだ。見分けられないほどじゃないけど、ぱっと見じゃあ分からない。
「おにいちゃんは?」
「俺は加瀬琉生」
「かせるい!」
「かせるい!」
「普通に呼ぶなら琉生にしてよ」
繋げるとなんかのモンスターのような名前になってしまう。嫌だし変だ。琉生って名前も十分変だと思うけど。主に漢字が。
「るいおにいちゃん」
「ん?」
「トンネルつくって」
「ああ、おーけー」
確かに、俺もトンネル好きな時期があった気がする。重力で落ちない不思議が面白かった、みたいな。
でも爪が。・・・・・しょうがないか。
「じゃあ二人は道作ってよ。こんな風に」
山の両側に溝を掘って見本を見せる。
「「わかった!」」
綺麗なハモりだ。声質が似ているからこその綺麗さだな。
出来るだけ爪を気にしながら掘り進めていく。腕の上の方まで砂がついてしまって、もううざい。半そでの服も汚れそう。
両腕を使って両方から掘り進めて、数分で両手の指が触れた。開通したようだ。
「とりあえず、出来たよ」
「ほんとー?」
「すごーい」
きらっきらした無垢な瞳で見つめられると俺は弱い。どうしても苦手意識が。
「両方から手入れてみ?」
俺の言葉に従って、右側は・・・・・あかりが、左側はひかりが手を突っ込む。
「うーんと」
「あ、触れた!」
「すごいすごーい!」
「そう・・・・・」
爪が・・・・・嫌な感じ。でもま、喜んでるし、まあ我慢だ。
「水流すと面白いけど、それは今度ね」
「「えー」」
不満声でハモらないで欲しい。
「手笑うよ」
「「はーい」」
近くの水場へと三人で向かう。俺て洗うのめっちゃ時間かかりそうだな。爪の奥は帰らないと無理か。
水場で二人が手を洗い終わるのを待つ。にしても、そろそろお母さん来てもいい頃合いじゃないか?
周りを見ても、さっき見たときとさほどいる人が変わっていない。大学生の女性は変わらずいるし、さっきの方じゃないけどお年寄りがちらほらくらい。
もしかしてこの子たち、複雑な、
「冷たっ!」
「つめたーい!」
「つめたーい!」
蛇口から水を飛ばしながらきゃいきゃい笑っている。服が濡れる!そしてさっきは条件反射で言ってしまったが、あんまり冷たくない。ぬるい。
「やめ、やめてって。濡れるから」
「ごめんなさーい」
「なさーい」
ああ、駄目だ。子供のすることだ、大目に見なければ。
とりあえず終わったらしいので、俺も手を洗う。その間にまた水を飛ばしてきたが、もう何も言わなかった。暑いし、ちょうどいいか、うん。
爪のあたりに汚れを残しながらも蛇口を閉めた。これだから砂は嫌いだ。めっちゃ気にになる。
「おにいちゃん、のどかわいた」
「ん、確かに」
今日は暑いからな。日差しも強い。
そして、ここで言うからには、この水じゃダメなんだろう。
蛇口上に向けられないタイプだし。
「二人とも、おか、」
それを聞くのは、少しためらわれた。無垢な子たちだけど、何にもないだろうけど、なんとなく。
「んっ、まあいいか。おいで」
俺の声に従順についてきた。行先は自販機。
持ってた小さい財布から小銭を取り出し、硬貨を入れる。
「えっと、なにがいい?」
「ジュース!」
「オレンジ!」
「はいはい。・・・あ」
これ、いいんだろうか。アレルギーとかはいいとして、健康とか、歯とか。勝手に与えても大丈夫なのか。
「なにか、飲んじゃいけないとか言われてる?」
「ううん」
うーん、でもなぁ。少し怖いし、水とかで我慢してもらった方が。
「ジュース、だめ?」
「・・・・・まあ、いいか」
多分大丈夫だろう。子供は甘やかすものだしな。
缶のオレンジジュースを押して、下から取り出し、ふたを開けてあかりに渡す。しっかり「気を付けて」と一言添えて。そしてもう一度、財布から硬貨を取り出す。
「ひかりはちょっと待って、」
言いながら後ろを見ると、一口飲んだあかりがひかりに手渡しているのを見た。
「もう一つは、要らないかな」
レバーをひねって、硬貨と財布をしまった。
とりあえず自分の分はいい。戻れば飲めるし。
「おにいちゃんも、はい!」
一口飲んだひかりが俺にも差し出してくれた。子供は嫌いだけど、この子たちはいい子なんだろうな。
「俺はオレンジ苦手だから大丈夫だよ。二人で飲んで」
「すききらいはだめなんだよ?」
「ままがいってた」
「ははは」
俺に好き嫌いはない。苦手なものはあるけど、食えと言われればなんでもいける、と思う。今までの人生の中では。
と、今あかりから「まま」って単語が出てきた。今なら聞けるか?
「二人とも、ままどこにいるか分かるか?」
「ままはあそこだよ」
「・・・・・まじか」
あかりがさしたのは、大学生だと思ってた若い女性だった。
最初見た時はまあこちらを微笑ましく見つめるお姉さんって感じだったが、今はうとうとして眠っている様子だ。
双子がその母親の元へと駆け寄る。
「まま、起きて!」
「もうかえるじかん!」
「んー、え?もうそんなじか、あ!」
「え」
俺を見て、思い出したように声を上げた。
「す、すみません、子供たちの世話してもらっちゃって」
申し訳なさそうに俺に頭を下げた。そうだ、最初の方は見ていたのだから、意図的に任せてたということになる。付き合ったのは俺の意思だが。
「ま、まあ、別に」
何とも言えない反応しかできない。子供の無邪気さの持つ不可抗力でやらされてたに等しい。正直にいえば迷惑だったし。
「私ったら、疲れちゃって。え?それお兄ちゃんに買ってもらったの?お金払います」
「いえ、勝手にすみません、大丈夫ですそんくらい」
百数十円くらいなんともない。父さんから十倍で徴収すれば済む話だ。
「そういう訳には」
「ほんといいです。お金触りたくないし」
お金を触ると猛烈に手洗いたくなるのでそういう部分はあまり好きじゃない。お金自体は好きだけど。
「すみません、ありがとうございます」
分かってくれたようで引き下がってくれた。勝手に飲ませたのは大丈夫だったようで、何より。
「いえ。お疲れですか?」
「あ、はい。私も働いてるので」
「そですか」
夏休みなのに、か。働き者だなぁ。大人の世界は厳しそうだ。
「あの、お幾つですか?」
「それこっちの台詞ですけど。中二です、十三歳」
「やっぱ若いですね。若いのにしっかりしてると思って見てました」
見てたなら助けて欲しかったんだが。
「子供達が話しかけに行った時はどうしようかと思いましたけど、楽しそうで良かったなと。子供に好かれやすいんですね!」
「そんなの今日初めて知りましたけど。というか、なんで敬語?」
向こうが丁寧な敬語で、こっちが失礼な感じで、俺が年上の気分だ。
「気にしないでください、クセです」
そう言って、にっこり笑った。そういう顔をするとますます若く見える。
「私は二十四です」
「わかっ」
「学生結婚しまして、今は二児の母をしながら働いています」
「へぇ」
二十四で子持ちというのも凄いけど、ナチュラルに大学生だと思わされていたのも凄い。美人で若いお母さんだ。
「すみません、ちょっと仕事が忙しい時期で、うたた寝するつもりはなかったんですけど。子供たち、助かりました」
「俺の事怪しいって思わなかったんです?ロリコン野郎かもしんなかったですよ」
自分で言いたくはないけど、その辺の危機感が欠如しているのなら言っておくべきだろう。
「それはないかと。私、人を見る目はあるんです」
「自慢ですか」
「まあそうですね、夫がって意味もあるけど、君感情が顔に出てたから」
「は?」
「嫌そうな顔」
表情の硬さには定評があったんだけど、顔に出てるわけ。喜の感情も出せないのに、その逆の感情を出せるだなんて、笑うよりも難しいぞ。
「あなたが分かりやすいんじゃなくて、私が分かるんですよ」
顔をぺたぺた触る俺を見て、笑いながらフォローを入れた。なんかイラつく。
「っていうか、分かってんなら止めてくださいよ」
嫌がってるのが分かってたのなら、普通は子供たちを止めるだろうに。
「まあ疲れてたから。だから本当にありがとう。嫌な感情全開なのに、変な人だとは思わないでしょう?」
なんか上手く使われたようでいい気がしない。
まあもう何を考えても後の祭りだ。
「まあいいか」
そんな感じで割り切った方が断然楽だ。
「君、彼女とかいる?」
「・・・・・・・いますけど」
知らない人だし、隠す必要性は特にない。少し恥ずかしいくらい。
「将来いい子供が出来ますね」
「今日で子育ての不安が膨れ上がりましたけどね」
「そう?そこは自信を持つところじゃないです?」
「いや、正直子供苦手です」
それを自覚したのが今日だ。
「そうですか。でも、可愛いでしょう?」
「・・・・・そですね」
だからこそ苦手なのかもしれない。無邪気な笑顔を出されたら、もう全部許すしかなくなってしまうから。
まあ多分、苦労を知らない立場だからではあると思うけど。
「じゃあ俺はそろそろ」
「またお願いしたいですね」
「勘弁してください。それに、今日はお盆で来ただけなんで」
「そっか、残念」
もう子供の相手はごめんだ。今日は本当疲れた。精神的に。
「そんじゃ」
「あかり、ひかり、おにいちゃんにありがとうして」
「ありがとうるいおにいちゃん!」
「たのしかった」
「んー。じゃあねー」
手を振りながらその親子と距離を取った。
まあなんだかんだで、貴重な体験だった。あの元気よく手を振る双子を見てると、悪くない時間だったと錯覚する。
・・・・・子供、か。
芽衣と俺の子供を想像しても、工程吹っ飛ばしの彼方のことで遠すぎて、何も思い浮かばなかった。
でも、芽衣に似た子だったら、きっといい子になるんだろうな。