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18話 夏休みの始まり

 暑い太陽よく照らす日々。その暑さすら楽しみに変えて、日ごろの疲れを癒し、そのうえで長い休暇を楽しむ、全国民の一大イベント、夏休み。

 俺の夏休みの入りにあった大会は、康介啓吾ペアが二戦勝って三試合目で終了。二年生はそこが最大だった。俺も終盤は応援に行ったし、まあいい結果だった、と結論づけるのは俺じゃないか。

 とまあ、終わってみればそんな感じで。ワクワクをため込みながら始まった夏休みは・・・・・。

「あっつぃー」

 それをちょくちょくこぼしながら、既に十日ほど過ぎ去った。

 部活で汗かいて、部屋で体温を冷やしてを繰り返し、気づいたら、だ。その間、何も成していなかった。芽衣と連絡は取っていたけど。

 無気力、暑さへの嫌悪感、そういうものが無意識に働いて、俺を外から遠ざけていた。まあ部活では出てたけども。

「・・・・・・・む」

 リビングで寝転んでいると、遠くから着信音。部屋のほうか。

 ゆっくりと体を起こして、足早のようでゆっくりと携帯の元へ向かう。芽衣かと思ったが、着信の画面を見るとどうやら違ったようで。

「もしもし」

「よう、琉生」

「なに?なんか急用か?」

 今日は午前練でさっきまで一緒にいた。用があったんなら、また用があるのなら部活で言えばいいのに。

「いや、急でもないけど、今決めたから今連絡した。三日、祭り行こうぜ」

「三日ってまだまだ先だろー」

「明後日なんだが」

「は?まだ夏休み初日だろ」

「現実逃避すんなよ」

「分かってるよ。八月一日木曜日晴れ、平均気温三十三度最高気温三十七度、日の出四時三十二分、日の入り六時十三分」

「詳しすぎだろ」

「後半適当に言った」

 正しくは、前半以外適当に言った、だけど。

 現実逃避だってしたくなる。七月中に宿題全て片付けるつもりだったのに、まだ宿題カバンに入れっぱだ。

 もう八月とか、馬鹿げてる。異空間にでも迷いこんだのか。

「お前馬鹿なこと考えてんな」

「沈黙だけで思考読むな」

「ま、んな事どうでもいいから、行くのか?行かないのか?」

「行くわ。あそこだろ、小さい公園の盆踊り」

 祭りということは夜。俺の活動時間内だ。

「うん。七瀬はいいのか?」

「あそこは小さいし、いつもお前らと行ってたしな」

 ほんと一時間で帰っちゃうくらいの規模の祭りだ。芽衣誘っても浴衣見れなそうだし、人混み苦手そうだし。

「よし、じゃあそういうことで」

「おう。そんだけか?」

「まあそうだけど。今から出るか?」

 そう言われると、外の暑さを思い出す。

「・・・・・FPS繋げるか」

「だったらこい。近いのに面倒くさがんなよ」

「えー、康介が来てくれよ」

 近くても暑いもんは暑い。汗かくのが億劫だし。

「やだ。って、まあいいか、今回は」

「ナイス康介。じゃ、やりますか」

 スマホのアプリを開いて、FPSを起動した。そしてその後は、涼しい部屋で夏をエンジョイした。FPSはオールシーズンだけど。

 そういえば、なんかで現実逃避したような・・・・・まあいいか。

 嫌なことを思い出してしまったので、その鬱憤をゲーム画面の向こう側、顔も知らない奴に銃弾ぶち込んで晴らすことにした。




 ※




 時間は順調に八月三日を運んできた。

 今日は午後休みなので、ゆっくりしてから夜出かけられる。

 そして夕方六時半。夜でも外は多分暖かいので、Tシャツに上着一枚で十分だな。下はジャージ。

 持ち物は、財布だけでいいか。小さい四つ折りの財布をジャージのポッケに突っ込んで、家の鍵をかけて集合場所の康介んちに急ぐ。

 今日のメンバーは康介と啓吾だ。小学生の頃はもうちょいいた気もするけど、中学になってからはこのメンバーでいることが多い。同じ部活だからな。

「おまたせ」

「おう、じゃあ行くか。啓吾」

「もうちょい待って」

 こいつのもうちょいは信用できない。平気で三十分とか待たせるからな。

「ほら、はよ行くぞ」

「もうちっとだから」

「せめて向こうでやれ、馬鹿」

 甘やかして痛い目見た経験があるんだろうな。ゲンコツを浴びせて無理やり立たせた。

 確かに、飯食ったらもう暇になるだろうから、それでもいいだろう。祭りは空気を楽しむもんだと、俺は思うしな。




 だらだら歩く啓吾を連れて、家から近場の公園へと足を運ぶ。普段ない光源が、公園の道中からもしっかり見えた。

 いつもとは違う夜。静かな住宅街を、正当な賑やかさが静寂を覆う。今日だけは浮かれて騒げる、そう人は笑う。

 俺はそんな空気が好きだ。祭りの、特別な一日を。人混みは苦手だけれど、安心感がある。

「琉生、何喰う?」

「そうだな、焼きそばとか、イカとか」

「普通だな」

 ま、祭りっぽいと言えばそうだけど、色がない。

「なんかな。俺もう家計を受け持つ立場だから、値の高さとか気にしちゃうんだよな」

 光熱費とか、水道代とかは父さんだが、食事を作るのが俺な以上、食費を管理するのは俺だ。

 そうすると、祭りの食べ物の高さは俺にとってはちょっとむっと来るものがある。子供の言い分を否定する主婦の気持ちがよく分かった。

 俺の場合は、食べたいものは自分で作れるからあんまり欲しいとは思わないのだ。

「大変だな、お前」

「いんや、そういうわけでもないな。お前ら以上に金は貰ってると思うし」

 労働と思えばなんのそのだ。

「じゃあ奢ってくれ」

 啓吾には遠慮とか全くないのか。

「俺奢られるの専門だから」

「いいじゃん別にー」

「断るー」

「ちぇ」

 俺の財布に余裕はあっても、俺の家計に余裕はあまりない。詳しくは知らないけど。

 それに、これは芽衣とのデート代だ。

「ま、あんま使わないだろ。小さいし」

「そうだな」

 他愛もない話をしてる間に、もう目的地にたどり着いた。

 小さな公園。滑り台、ブランコ、砂場、水道、木、そして砂利の広場。最近は来ていないいつもの公園に、たくさんの店がやぐらを四角く囲うように並んでいる。

「懐かしいな。琉生こっち来るか?」

「こないな。こっち何もないし」

 お店とかも何もない、ただの住宅街だ。こっち側に用があっても、この公園の前を通ることはない。

「じゃ、俺適当に行って来る」

 啓吾はそれだけ言って、さっさと屋台のほうへ行ってしまった。まあはぐれても大丈夫な規模だし、買い終わってどこに行くかは大体決まってるしな。

「じゃ、俺らもいくか」

「そうだな」

 続いて、俺と康介もゆっくり屋台へと足を運んだ。




 一通り見て回ったが、特に心惹かれるものはなく、当初の目的通りのものを買って、いつものたまり場に足を向けた。

 たまり場と言っても、ただの人の集まらない芝生のところだ。段差になっていて、腰を掛けられるところで、祭りのときはそこで落ち着く。

 俺が戻った時には、もう二人とも落ち着いていた。

「おかえり」

「んー」

 テキトーに返事して、焼きそばを開ける。腰を下ろして、一口口に運んだ。

「・・・・・まあ、上手いな」

「そうか?」

「こういうのはそのものってより、空気なんだよ」

 多分出来は俺が家で作るのとさして変わらないけど、外で食べると三倍マシに美味しく感じるのが焼きそばだ。

 一緒に買った炭酸のジュースで口の中を甘くして、また焼きそばを食べ進める。

 二人が買っているのも、まあ定番だ。フランクフルトに焼きそばに、かき氷に焼きトウモロコシに、まあそんな感じ。

「琉生、イカは?」

「なかった」

「まじ」

 むしゃむしゃ食べながら啓吾が相槌を打つ。まあ別になくてもいいけど、焼きそばじゃ足りないかもしれないな。

「でも、ここしょぼいなぁ」

「それ毎回言ってないか」

 康介のこぼすそれは、全くの事実だ。祭りというのに、りんご飴もたこ焼きも水飴もない。昔からラインナップが変わらない。

 小さな祭りで、いつも寄り道程度にここに来るけど、いざ前にするとその感想が頭をよぎる。それを前提に来ていたとしても。

「ま、いいんじゃない、別に。近いし」

 啓吾がフランクフルトを食いながらゲームしてる。少しは我慢したらどうなのか。

「ところでお前ら、宿題やってるか?」

 俺から一つ、話題を振る。まあ多分自分の持つ微妙な焦りからの問いだな。

「やってない」

「お前には聞いてねえ。知ってた」

「心外だな」

 実際やってないんだから心外じゃないだろ。

「俺はぼちぼち。今半分くらいか」

「・・・・・おい啓吾。裏切りもんがここにいるぞ」

「違う。救済者だ。俺らの宿題もろとも喰らってくれる」

「何言ってんだお前ら」

 今日の啓吾は気分がいいのか、ノリがいいな。

「琉生はやってねえのか」

「進行度ゼロだな」

「まじか」

「・・・・・まじだ」

 事実確認が意外と痛い。

「今回はやけに遅いな」

「いつもさほど早くないけどな。今年はなんか気分がな」

「変化と言ったら七瀬か」

「その話にすんな」

 確かに変化って言ったらそれがいの一番に出てくるだろうけど、そういうわけじゃない。なんせ夏休みに入ってから、芽衣と何かは特にないからな。たまに血を吸わせてるくらい。

 単純に暑いだけだと思う。

 ・・・・・・・そういえば、芽衣は夏大丈夫なんだろうか。吸血鬼ってのは、元来日光を嫌う。灰になってしまうくらいだ。

 でも、芽衣は日中普通に普通に生活しているから、そういうのは関係ないのかも。本人に分かるかどうかって話だけど、今度聞いてみるか。

「黙るってことは、思い当たる節が?」

「ない。というか、芽衣さんとの夏はこれからだしな」

「どっか行く予定とかあんの?」

「・・・・・デートが数回」

 そういえば、あんまりそういうの話してなかった。毎日のように話していて何してるんだか。

 まあでも、当然と言えば当然だ。俺は昔から暑い時期の活動力だけ著しく低い。

「反応が怪しい」

「・・・・・あれだ、花火大会行く」

「それって夏休み終盤じゃなかったか?」

 くそ、啓吾知ってたか。

「お前ら、大丈夫か?」

「心配されんでも。んー、夏だし水族館とか行くか」

「今決めんのかよ」

「映画ショッピング食べ歩きにゲームとエトセトラ、色々やってんだから、心配いらん」

 やっている方だとは思う。現実問題、デートをするには絶対的にお金がいる。中学二年生の財力の限りは意外と浅くて、そうポンポンと色々行けるわけじゃない。

「心配はしてないけどな」

「というか、どうでもいい」

「啓吾はそろそろ、って、何してんの」

「こいつ。硬すぎてうざい」

 どうやら、でかい二足歩行型のモンスターに手こずってるらしい。

 なるほど、これは確かに。強そう。あ、敵の溜め攻撃。あ、啓吾が瀕死になった。

「ちっ」

 一旦避難して回復。ヒットアンドアウェイの精神で頑張ってるっぽい。

 なるほど時間がかかるわけだな。

「ところで、」

「おーい、康介ー」

「お」

「ん?」

 康介を呼ぶ声の主はもちろん知り合い。那奈と由香里。

「お前らも来てんだ」

「うん。そっちは三人なんだー」

「あれ、加瀬芽衣と来てないの?」

「まあ小さい祭りだしね」

 何かあるとみんなそういうの気にするから面倒くさい。

「ところで、啓吾は何してんの?」

「こいつは空気と思え」

「ふーん。で、みんな何しに来たの?」

 確かに、この光景だとその疑問か。

「まあ、飯食いに?」

「夜出る機会なんてそうそうないからな。そういう気分を味わいに」

 正直、祭りでやることなんあまりない。いや、祭りは楽しむものだが、この祭りは小規模すぎてそういうのがあまりないのだ。だから手持ち無沙汰にもなる。

「踊ればいいじゃん」

「お前がいけ」

「琉生は行けよ」

「お前ら二人で行け」

 なんで康介が那奈側に回るんだよ。

 さっきから真ん中で太鼓叩いて曲流してはいるが、それに混ざるとかどんな羞恥プレイだよ。躍る前提でいる皆様にとってはそうじゃないけど、中学生なら十分罰ゲームだ。

「ま、ここじゃあ一歩引いて喧騒を眺めるくらいがちょうどいいかもね」

「じゃあ私たちは行くよ。来たばっかだし」

 そういって二人はその喧騒とやらに突入していった。

「騒がしいな、あいかわらず」

 那奈と康介も腐れ縁みたいな間柄だ。詳しくは知らなけど。

「どうにかしろよ、あのでかぶつ。康介の仕事だろ」

「那奈はお前と同じくらいの身長なんだから、自分でどうにかしろ」

「どういう理屈だ。いや、そもそも俺のほうが小さいから勝てないんだよ」

「どういう理屈だ」

 変な言い合いだな。実際、那奈があんな感じで害あるの同じクラスの俺だけだし、こんな感じにもなるか。

「実害はないんだろ?」

「そりゃそうだが」

「ああじゃない那奈は逆に調子狂うだろ、多分」

 しっかり否定できないとこをついてくる。全く、たちの悪い。

「そもそも、女子の扱いは琉生だろ」

「啓吾いきなり何言いだすんだよ」

「違いねえ」

 面白そうに笑う康介を見て、俺にはちょっぴり殺意が沸いた。なんだよ、それ。そもそも俺はコミュ障、人見知りよりの人間だぞ。

 ま、これも祭りも世迷言。浮かれた気分に同調して、不意に出た冗談みたいなものか。啓吾にそういうそぶりが全くないのが引っ掛かるけど。

 でも、なんだかんだ楽しい夜だった。今日が本当の夏休みの始まり、かもな。

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