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17話 大会!・・・・・・・。

 一つの懸念だった期末テストを無事終えて、ようやく夏休みへと突入した。

 補修を命じられた奴はもちろんいなかった。英語以外八十点常連の俺に赤点なんてあるわけもなく。そもそも、英語以外五十点以下も取ったことがない。英語以外・・・・・・・。

 芽衣たちもエスケープできたようで良かった。当たり前のことだけどな。一番危なそうな亮もギリ大丈夫だったし、芽衣なんかは順位がかなり上がったらしくて、はしゃぎながら喜んでいた。

 かくいう俺も、少し順位が上がっていて、少し嬉しかったりもしたし、結果的には嬉しい期末だった。いつもより勉強させられたけど。

 そうしてテストを乗り越えてやってきた夏休みだ。

 と、言いたいところだが。俺には、いや俺達には、夏休みを満喫する前に、やらなきゃならないことがある。

「さて。久しぶりに来たな」

「一年ぶりだな」

 康介の隣でそう付け足す。まあ前回は応援だけだったけど。

 今日来たのはテニス部の一大イベント、総合大会その会場。立地の上がった出っ張っている敷地の真ん中に、へこんで上から見えるようになっているテニスコートが十個弱ほど並んでいる。一側面には屋根付きのベンチもある。

 夏休み前の大勝負。テニスの大会は他にもあるが、テニス部は今日のために活動してきたと言っても過言ではない。俺はそういうタイプじゃないけど。

「流石に緊張するな」

「別に。俺はどうせ一回戦で負けるしな」

「諦めんなよ」

「手抜くつもりはねえよ」

 声を聞く限りは、言葉に反してたいして緊張してなさそうだ。そういうタイプでもないと思うし。

 ま、俺もそう。対してこのスポーツに愛着があるわけじゃないから、勝とうが負けようがどうでもいいって感じだ。勝ちたくて部活やってるわけじゃないし。

 ・・・・・ただまあ。

 芽衣が見るのなら、いいとこ見せたいとは・・・・・・・少しくらいは、思う。




 とりあえず荷物を置いて、開会式まで待機だ。

 俺らの荷物置き場は屋根付きなんてそんないいもんじゃない。ベンチのある側面の反対側、草むらに木で影を作っているところに荷物を集めて、休憩場にする。

 大会と言っても、そんなにすることはない。トーナメント表を見て自分の相手を確認して、そこまでしたら後は応援だけ。結構退屈、俺にとっては憂鬱な日だ。

 しかも、今日は生憎の快晴だ。熱中症っていう単語に関わりたくなかった。

「琉生、なんツー顔してんだ」

「なんの顔もしてないだろ」

 別に何か変えているつもりはないし、変わっている感覚もない。

 それとも康介には、いつも通りの無関心な俺の顔に見えないというのか。違うの汗かいてるくらいだろうに。

「ま、そだけど。そういう気分だろ」

「そうだけどな。応援は頼んだ」

「サボってたら怒られるぞ」

「上手くやるよ」

 先生は結構忙しくてあんまりいないから、割と簡単そうだけどな。

 持ってきた梅味のグミを口に運ぶ。こういう暑い中スポーツするときは、塩分チャージが重要なのだ。

「俺にもくれ」

「ん」

 袋ごと渡す。ササっと一個とって俺に返した。

「今日七瀬出るのか?」

「出るらしいよ」

 マインで聞いた。出番がいつかは当日しか分からないので知らないけど。

「見に行くか?」

「いや、別に」

「行かないのか?どうして?」

「部活と私生活は分けるタイプなんだよ」

「なに出来るOLみたいなこと言ってんだよ」

 俺は男なんだが。それなら出来るリーマンが正しいんじゃないだろうか。知らんけど。

「別に見たって仕方ないし」

 慰めも特にいらないだろうし。俺はテニス自体あまり好きじゃないから、わざわざ見ようとは思わない。特に女テニはなー。まだ球の速度の速い男子テニスのほうがな。

「そうなの」

「そうなの。ところで、啓吾と池上は?」

「見てなかったのか?コンビニ」

「ああ」

 ここの入り口のすぐそばにコンビニがあった。そこか。

「俺も買い物頼めばよかった」

「ところで琉生さ」

「んだよ」

「七瀬とはうまく言ってんだな」

 なんだいきなり。・・・・・いきなりでもないか。康介だって興味のない話題ってわけじゃないんだ。

「まだ三か月だぞ」

「三か月で破局する話良く聞くぞ」

「まじか」

 中学生ってそんなもんなのか。

「芽衣さんいい子だからな。喧嘩もしたことないな」

「そっかー。でも、適度な喧嘩って重要って聞かないか?」

 喧嘩するほどなんとやらッてやつだな。喧嘩しないことを重視してたら、内に溜まって破局してしまうという。

「しないようにしてるっていうわけじゃないしな」

「向こうは分かんないぞ」

「・・・・・」

 そういう性格であるということは、分かっている。そしてそれは、俺の無視できないことということも。

 でも、俺に出来ることはあまりない。言われない限り、出来ることはないのだ。見ただけで分かるほど、俺は察しが良くないからな。

「まあ、大丈夫だろ」

「ま、お前が言うならそうなのか」

「どうしたんだよ、康介。好きな人でもできたんか?」

「いや別にっ!そんなんじゃねえよ」

「いだっ」

 それは理不尽だろ。そんなこと聞くからそう思うのは普通だろうに、何故殴る。

「それより、頑張れよ。お前割と強いんだから」

 無理やり話を逸らしたような。いや、気のせいかもな。

「一番手様に言われると、自信付くなー」

「そうかよ。俺前衛だけどな」

「まあ康介の試合は応援行ってやるよ」

 康介の試合は面白いしな。知ってる奴の強い試合なら燃えるからな。

「も少し動けな」

「・・・・・考えとく」

 まあ結局は動くだろうな。一人で拠点にいるわけにもいかないだろうし。

 ・・・・・・・いや、別にそれでもいいか。

 ま、足が疲れるまでは付き合うとするか。




 とりあえず開会式を終えて、大会が始まった。

 俺の出番は中盤で、まだまだ何試合分も時間がある。あんまり声は出したくないが、応援行くしかなさそうだ。

 だが。

「・・・・・はぁ」

 一試合目が終わる前に、俺の腰が曲がってしまった。フェンスの後ろの大きな段差に腰かける。

「おい、早えな」

 俊介が呆れた目で俺を見る。こいつも俺と同じタイプだろうに、良く立ってられるな。

「暑いの苦手なんだよ。ちょっと戻って飲み物取ってくるわ」

「持ってきてなかったのか」

「ああ」

 忘れた。みんな持ってるのに、暑さでぼーっとしてた。

「一緒に来いよ」

 一応聞いておく。

「めんどい。あ、食いもん持ってきてくれ」

 ちゃっかりしてるな。まあいいけどさ。

「梅のやつでいいか?」

 流石に試合前にお腹に物入れるつもりじゃないだろうし。

「おう」

「んじゃ」

 暑くて汗かいてるが疲れてるわけじゃないので、日陰に逃げるように、足早に拠点へと向かった。割と遠いから確かに面倒くさい。

 拠点に戻ると、そこに他の奴はいなかった。ま、全員応援と観戦か。みんな熱心なこって。

 とりあえず少し息が上がったので、座って落ち着く。自分の荷物を漁って、スポーツドリンクの入った水筒を一飲み。

「・・・・・・・ふぅ」

 水で薄めたスポドリは、程よい甘さで喉を通りやすくて美味しい。

 おしりと足が張り付いているようなので、なんとなく空を見上げる。すがすがしいくらい青い空に、木の隙間から覗くまぶしい太陽。

 ・・・・・・・あっついな。

「だっるいなぁ」

 小声で弱音を吐きながら、後ろの草むらに背を預けた。もう・・・・・なんか、面倒くさいし、戻らんでもいいかな。

 そういえば、昨日の夜遅かったから、結構眠いし。いつもとあまり変わらない時間だったけど、俺はいつも眠いのだ。今日は特に退屈だから、三割増しで眠気を感じてしまう。

 流石にこのまま寝はしないけど、このまま涼んでいたい欲望が・・・・・。

 近くに置いたバッグを探って、秘密裏に持ってきたスマホを取り出す。暇つぶししてりゃ時間も流れてくか。

「何してんの琉生君」

「む」

 一瞬ビクッとしてしまった。少し叱るような口調で俺の名を呼んだのは、見るまでもなく。

「ちょっときゅーけい」

「また持ってきてるんだ」

「まあ・・・・・念のために、ね」

 緊急時とかあったら怖いし。携帯は携帯するためのものだと俺は主張したい。

 身体を起こして本人と顔を合わせる。芽衣さんがもう一人のテニス部員と一緒に立っている。隣の人知らないんだけどな。

「どうしたの?寝転がって」

「暑いなーと思って」

「応援行かないの?」

「暑いからなー」

「具合悪くなっちゃった?」

「いや、そういうんじゃないけど。暑いからね」

 心配されるとちょっと罪悪感。素直すぎるからなぁ。

「こいつ、サボってるだけだよ、芽衣」

 隣の人はなんか気の強そうな性格だな。初対面でこいつ呼ばわりだし。まあ向こうは俺のこと知ってると思うけどな。

「そうなの?」

「そうだな」

「ちょっと!」

「ん?」

 気の強いほうの子が一歩前に出て俺に近づく。

「芽衣と付き合って長いから、特に何か言うつもりはなかったけど!芽衣を悲しませたら許さないからね!」

「親か?」

 いや、親というよりは姉とか、幼馴染とかか。というか、本当に幼馴染っぽいな。

「ちょっと里奈ちゃん!」

「ごめんね。でも、思ったよりいい加減な奴だったから。余計なお世話かもしれないけどさ」

 それをそのいい加減な奴の前で言うのはどうかと思うけど。よくも知らずによく言うな。いうほどいい加減でもないと思うんだが。

 でも、そういう事軽々と言えることじゃないことも理解できている。

「じゃあ、気を付けないとね」

「・・・・・・・そうしてっ!」

 少し止まって俺を見た後、強めにそう言って顔を逸らした。

「行こ、芽衣」

 そのまますたすた前を横切ってしまった。

「ごめんね、琉生君」

「ううん、また」

 手を振り合って、短いやり取りを終えた。後であの人のこと色々聞こ。

 なんかちょっと失礼な人だったけど、良い人そうだったな。芽衣が大事だからこその失礼だろうからな。

 芽衣と合ったらなんかサボる気失せてしまった。スマホを再びバッグに閉まって、色々もってその場を立った。

 もう少し頑張るか。

 ・・・・・って。

「何してんだよ加瀬」

「戻って、来たのか」

 少し遅かったか。

 それじゃあ仕方ないか。適当に探してて見つからなかったっていう嘘は、残念ながら通用しなかったけど、そこは梅のお菓子で許して貰った。

 その後はまあ、なし崩し的にごろごろしてしまった。




 そういう感じで時間を潰してると、割とすぐに自分の試合の番が回ってきた。

 で、普通に負けた。

 あっさりと終わった。でも、結構粘ったほうだ。最終セットまで行って、それなりに奮戦した。

 で、負けた。妙な悔しみがあって、結構新鮮な感覚だ。俺も負ければ人並みに悔しいってことだ。

 ・・・・・・・次は勝つ。

 その意気込みを自分の内で終わらせて、荷物置き場まで戻った。

「お疲れー」

「おう」

 戻ると、殆どがそこで休憩を取っていた。俺の試合のとこにいたし、他に試合してる人がもういないのか。

「ふぅ」

 自分の荷物の傍に腰を下ろして、水筒を開けて一飲みする。

 試合終わりで、フルセットやって確かに疲れたはずだが、気分は割とすっきりしている。暑さもまだまだ健在で、汗もかいているのに。もう帰るだけだからだろうか。

「お前公式試合極端に弱いよな」

 隣に座っている康介が俺の肩を軽くたたく。

「なんか、感覚がいつもと違うっうーか」

 慣れない感覚だ。ボールがいつもより跳ねる、弾む。視界が狭くなったり、手が震えたりはないけど、緊張が無意識に力を加えているのかも。

「ま、今回は欲しいところまで行ったのにな。体力尽きたか?」

「普通に負けたんだよ」

 息は切れていたが、体力には余裕があった。単純にミスとか技術で負けたと思う。

「ま、そうか。それと、気づいてたか?」

「ん?」

「途中、七瀬来てたぞ」

「まじか」

 それは気づかなかった。いれば気付くと思うんだが、どこにいたんだろうか。

「お前の背後だったし、気づかなくても当たり前だな」

「あーそういうこと」

 後ろに応援がいたら後ろを振り向けるわけがない。正面に応援がいても捉えないようにしてるし、必然的に芽衣さんも目に入らないか。

「気づいてたら勝てたんじゃないか?」

「無駄にかっこつけて、かっこ悪く負けてたと思う」

「なんじゃそりゃ」

 かっこつけようとすると、ボールから集中それるし、コントロールも鈍るから、本当にいいことない。力も入りすぎて、調子を悪くする。そうならなくてよかった。

「お前は?行かなくていいの?」

「いや、俺はいいよ。いつかも分からな、い・・・・・・・おい、なんで芽衣さん俺の試合時間知ってたんだ?」

「いや、知らなかったろ。来たの試合の終盤だったし」

 そうか。見かけたから来たのか。

 ・・・・・いや、そうか?結構コート奥の方だったけどな。

「知らないなら聞いてくればいいだろ。神谷とかその辺にいるだろ」

「まあ面倒くさいし、俺も見かけたらにするよ」

「お前動かねえんだから見かけることないだろ」

「良く気付いたな」

 目の前のコートでやらないと見れないな。試合直後で疲れているし、オーバーワーク厳禁だ。疲れたらしっかり休むべきで、だから応援はちょっっと休憩。

「ま、俺はいいから。来て欲しいって言われれば行くけど、そうじゃないから」

「本心はそう思ってるかも?」

「いいから。はよ行けよ応援」

 考えても見てみろ。試合中に観戦から「頑張れ芽衣さーん」なんて言おうものなら、すっごい目立って芽衣のパフォーマンス落ちること確実だぞ。

「ったく、お前に言われたかないわ」

「っで」

 理不尽に頭を殴られた。まあ今回は理不尽でもないけど。少しだけ俺が悪いかな。少しだけ。

 殴って満足した康介はテニス部一年と二年を引き連れて応援しに行ってしまった。

 残ったのは俺と、数人だけ。その数人もすぐに後を追うだろう。

「頑張るなぁ」

 芽衣の応援には行きたいけど、やっぱいい。俺は気づかなかったからいいけど、応援行って負けて帰ってきたら少し気まずいし、そういうのはなるべく避けたいというのが、俺の正直なところだ。芽衣のことだし、「負けちゃった。ごめん」って言いそうで、なんか嫌だ。

 結局は俺の妄想に過ぎないけど。無駄に波風立てる可能性を出したくない。

 しばらくして、俺はまた一人になった。

 終始騒がしい周囲の雰囲気が少し遠くに感じる。その感覚を感じたまま、上半身を寝転がらせて、木の枝とその隙間から差し込む木漏れ日を薄く見た。

「・・・・・・・暑いな」

 その一言ともに、俺の視界は黒く染まった。




「おーい、加瀬?どしたの?」

 俺を呼び起こす声がする。その声で誰かはすぐわかった。

「んー、寝てる」

「起きてんじゃん。こんなとこで寝るなよ」

 相手は神谷だ。目に当てた腕の隙間から軽く周りを見たところ、他に人はいなさそうだ。通りすがりに話しかけたって感じか。

「ほら、もう帰るよ」

「試合終わったのか?」

「うん、もうみんな行ったよ?」

「流石に騙されんし」

「流石に無理か」

 別に完全に寝てたわけじゃない。しっかり意識は保ってたし、まだ数分しか経ってないはずだ。

「で、どうなの?そっちは」

 上半身を起こして、軽く体を伸ばしながらとりあえず話題を見つける。

「まあ一回戦は勝ったよ」

「流石時期部長殿」

 俺らの学校はテニス弱小だから、一回戦で大体負けるのだ。まあほとんど組み合わせの運で勝敗が決まる。一回戦勝てただけで十分凄い。

「そっちはほしかったね」

「ん?知ってたか」

「ま、まあね」

 芽衣と一緒に見てたのかな。

「あ、そういえば・・・・・いや」

 芽衣のことを連想したら、勝手に口からはみ出てしまった。

「なに?」

「あーいや、一応・・・・・芽衣さんの試合って?」

「芽衣は今試合中だよ。行かないの?」

「別に。そっちは?」

「私は一旦戻って来ただけ。すぐ戻るよ」

「そう」

 次期部長だし、応援のかなめだろうからな。俺みたいにはサボれない。

 というか、呼び捨てで呼んでるのか。仲いいイメージはあまりなかったんだけど、同じクラスになったからか。

「・・・・・・・やっぱ、ちょっとだけ休もうかな」

「ん?」

 それだけ言って俺の隣に腰を下ろした。さっきと言っていたことが違うけど、大丈夫だろうか。

「ちょっと休憩付き合ってよ」

「別に・・・・・いいけど」

 なんとなーく、嫌な予感が。

「あのさ、ずっと聞きたかったんだけど」

「・・・・・なに?」

「芽衣とさ、いつ知り合ったの?違うクラスだったじゃん」

 結局何か喋らされるのか。

「部活入部して、最初のほう。少しアクシデントがあって、それで」

「アクシデント?」

「俺が少しかっこよかったってことだよ」

 出来るだけはぶって答えた。しっかり話すのは流石にな。

「加瀬がかっこいい?そんなことある?」

「芽衣さんの話によれば。俺だって忘れてたわけじゃないけど、印象薄すぎてそこが初対面だって気づかなかったし」

「・・・・・・・そうなんだ」

「同じクラスになる前でも、名前くらいは知ってたけどな」

 そう考えると、そこは芽衣が頑張ってたのかも。俺人の名前とか覚えるの苦手だし、実際交流のない女テニの人の名前全員知らないし。

 いや、覚えやすかっただけかもな。

「・・・・・・・」

「・・・・・神谷?」

「あ、もう戻らないと。じゃ、邪魔したねー」

「あ、うん。頑張れよー」

「加瀬も頑張りなよ」

 そう言い残して、話を素早く切って颯爽と去っていった。

 なんだったのか。ま、大したこと話してないし、少し疲れただけか。ずっと帰らないわけにもいかないだろうし。

 少し話してまた疲れた、気がするような。とりあえずまた地面に背を預ける。

 手持無沙汰でスマホを手に取る。すると、珍しく着信があったようだ。

 それはマインの無料通話ではなく、番号も珍しい。時間もついさっき。

 周りに見られちゃまずい人がいないことを確認して、折り返した。

 三コールほど鳴った後に、スマホが鳴りやんだ。

「もしもし」

「もしもし。琉生さん」

 番号は相手のもので、相手も葵だ。

「今大丈夫でしたか?」

「うん。周りうるさいけど。久しぶりだね、葵さん」

「はい、久しぶりです」

 ちょくちょく連絡を取ってはいたが、声を聞いたのは久しぶりだ。

「で、なんか用あった?」

 今は言うほど暇ではないので、用がないなら後日改める必要があるよな、流石に。

「はい、用あります!あの、おかげさまで、お母さん良くなりました」

「そっか。良かった、本当に」

 病気の後に不調とかなくて本当に良かった。病気の怖さや辛さは、俺も身を近くして感じているからよく分かる。

「もう退院して、家へ帰れるまで回復しました」

「退院おめでとうって、伝えといて」

 俺からの言葉ってのもおかしいような気がするけど。

「はい!それで、お母さんが琉生さんに会いたいって言ってて。お礼もかねて」

「そっか。じゃあ」

「あの・・・・・出来れば泊って欲しいって」

「・・・・・そう」

 お返し的な意味合いなのかな。そういってくれるのは嬉しいけど・・・・・。

「・・・・・流石にそれは、ね」

「ですよね。はい、分かってます」

 芽衣もいるし、そこまでは無理かな。退院明けの葵さんお母さんの家へ二人で行くのも身が引けるし。

「でも、お邪魔はしようかな。夏休み中に一回は」

「来てくれるんですか?」

「うん、行くよ。観光後に休憩に寄ろうかな」

 そう言ってくれるなら、応えてもいいと思う。江ノ電の海とか江の島とか鎌倉とか、色々行くのも悪くないな。

「ありがとうございます。お母さんにそう伝えますね」

「うん」

「でも・・・・・早めに来てくださいね」

「あーうん、了解」

 早めに家を出るとして、色々回った後なら昼食後くらいになりそうだ。

 日程あれこれは、後で連絡し合って決めると約束して、通話を終えた。

 夏の海、一人旅か。海ならまだいいけど、暑そうだ。その日部活サボれるからいいけど。

 でも、なんだかんだ楽しみになっている。今回は配慮の上で一人だけど、今度芽衣やみんなとも行きたいな。

 それだけじゃない、きっと。海じゃなくとも、みんなでどっか行って、芽衣とデートして、多分一番楽しい夏休みになる予感が、俺の心をワクワクさせていた。

 ・・・・・・・本当に今日は、夏の始まりって感じの暑さだ。

 素早くスマホをしまって、みんなのいるところへと駆け足で向かった。

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