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11話 ゴールデンウィーク!!での懸念

 血を吸われるようになってから、四日が過ぎた。

 月曜に体の重い一日を過ごした後、体調的な問題が発生してしまったので、血を吸うのは一日一回にしてもらうことにした。芽衣は、

「正直こまめに飲みたいんだけど」

 と言っていたけど、発見される率が上がったりもするので、ここは芽衣に折れてもらった。

 血を飲まれるようになってから、少しだけど血の健康に気を遣うようになった。レバー食べたり、鉄分の入ったウエハースを買ったり。そのおかげか、多少飲まれても不調になったりはしなくなった。味の質とか、変わったりするんだろうか。

 そんなこんなで金曜日。今日はめっぽう気分がいい。なぜなら。

「明日からゴールデンウィークだー!ね、琉生」

「んー」

 朝の会終了直後、隣の那奈から声がかかる。返事はいつも通りだけど、内心はうきうきしている。

 そう、明日の土曜日からゴールデンウィークだ。部活はあっても勉強から開放される大型連休で、喜ばない中学生はいない。

「琉生はなんか予定あんの?」

「まあぼちぼち」

「なにそれー」

 わざわざ説明すんのは面倒くさい。

「結局部活で大変なんじゃないの?お互い」

「まあそうだけどさー。旅行とか行かないの?」

「んー」

「ってごめん。無神経だった」

「ん?」

 いきなりなんだ。真面目そうな顔して、本当に申し訳なさそうに。

「お父さんと二人じゃ行かないよね」

 ああそういうこと。那奈もその事情は知ってるから、少し気を遣ったか。

「いや、行くぞ。旅行くらい」

「え?行くの?お父さんと?」

「一人で」

 父さんと旅行なんて死んでもいくか。車出して欲しい時だけ、出してもらうくらいだ。

「そうだよねー、琉生は」

「でも予定はないな。二日前くらいに計画して行く派だから」

 わざわざ数日前に予定を立てて、綿密に計画を組むとか、面倒くさいことはしない。

「それ絶対回れないじゃん」

「まあそれでも、割と楽しいからな。足とか疲れるけど」

 たまにカフェとか入って、めちゃめちゃ時間無駄にするときある。

「ふーん。なーんか琉生って大人っぽいよねー」

「大人っぽいふりしてるからな」

「なにそれ、かっこつけるみたいな?」

「見かけだけってこと」

 俺は別に大人っぽくなんてない。むしろ子供だ。我慢と忍耐力が乏しいところなんて、まさに子供だ。

「でもさ、琉生料理上手いよねー。今度また作ってよ」

 以前那奈んちの両親がいない夜にごちそうした覚えがある。大したもの作らなかった気するけど。

「まあ別に・・・・・いや、それは芽衣さんに聞いてから」

「あそっか。ちゃんとしてるんだねー琉生」

「まあな。お前はなんか用事あんの?」

 なんとなく聞いてみる。

「んー特には。琉生んちでご飯食べるくらい」

「それ用事に入ってるのかよ。駄目じゃないだろうけど、駄目かもだからな」

 芽衣はいいって言うだろうけど、なんか微妙な素振りを見せたら、俺から自主的にお断りさせてもらう。

「どういう事よ、それ。由香里はどう?」

「那奈、遊び行こー」

「いいよー」

 今作るのか。

「というかさ、加瀬、七瀬さんとデート行かないの?」

「あ、そうだよ!デートは?」

「んー、多分部活の予定合わないんじゃないかな」

 ゴールデンウィークの休みは確か一日だけあった。けど、休みが合っているかどうかは聞いてみない限りは分からない。先生の予定とかもあるだろうからな。

「あーそっか。確かに」

「旅行、一緒に行けばいいじゃん」

「流石に早すぎるだろ」

 二人で一夜を共にするのは健全じゃない。もっと二人の時間を重ねて、ようやく辿り着ける段階だ。

「というか、俺行くの大体キャンプだし」

「そなの?」

「母さ・・・母の趣味だから、道具があるんだよ」

 母一人の趣味っぽいけど、家族で言ったことは何度かある。その後母がいなくなってから、俺が継承している感じ。

「キャンプって何すんの?」

「俺は普通に観光するけど。周り名所行ったり、美味しそうなお店行ったり」

 まあ疲れ感じたらキャンプ場で本とか読んでるけど。

「へぇー」

「って、もう時間ないし。一時間目音楽だろ?」

 時計を見たら割と時間が危うい感じだった。一時間目は音楽、遠い教室への移動教室だ。

「そだった。行こっか」

 あいつら、先に行ったのか。廊下走れば追いつきそうだったので、俺は二人を置いて急いで音楽室へ向かうことにした。




 金曜日のかったるさと、明日から連休というワクワク感の入り混じった変な気分で授業を受け、放課後。

 今日の俺は少しのんびり部活へ行くことにした。部活でちらほら人が消えていく中、椅子に座ったままラノベを読んでいた。

 部活が始まるまでに向こうに着けばいいので、まだ十分ちょい位は余裕があるのだ。適当に言い訳すればいいし。

「加瀬、部活行かないのか?」

 同じクラスのテニス部の奴に声を掛けられる。休みだったら言伝が必要だから、それを聞いてくれたのだろう。

「んー、後で行くー」

「わかったー」

 それだけ言って先に部活へ出て行った。

 まだ騒がしい教室の中、黙々と字を読み進めていく。周りの音も心なしか小さくなる。

 亮や龍吾も今日は俺に話しかけてこなかった。毎日話しかけてくるわけじゃないけど、俺を見て話しかけづらかったのかもな。

「じゃねー加瀬」

「んー」

 最後に那奈と言葉を交わして、数分は静かだった。人もゆっくり少なくなっていく。

 三ページ目をめくったところで、俺は顔を上げた。さっきから俺の席の傍で見てくる人影があった。誰かは分かる。

「どしたの、芽衣さん」

「残ってると思って、来ちゃった」

「そう・・・・・部活行く?」

 流石にこのまま本を読むわけにはいかない。まあ、部活遅れるのも、芽衣に悪いし。

「ううん、少し話してから行かない?」

 行かないのか。

「じゃあ、石野の席」

 とりあえず隣の席に座るように促す。長居は出来ないけど、立って話すのもなんかな。

 芽衣は大人しく従って、席に着いた。

「何読んでたの?」

「ん?これ」

 表紙を見せる。癖の強い主人公の学園青春ラブコメだ。

「ごめんね、借りてる小説読むの遅くて」

「全然いいよ。俺も遅いし、一冊読むの一か月くらいかかるときもあるから。無理して読まなくても、時間があるときにで。俺もそうだし」

 学校の休み時間とか、自習の時間とかにしか基本読まない。自室にいるとアニメ見がちだからな。

「そうなんだね。好きなのとかは読むの早いんじゃないの?」

「いや、逆にじっくり読み過ぎて時間がかかる」

 読んだばかりのページ戻ったりしてしまう。

「ちょっと分かる。早く終わって欲しくないもんね」

「そうなんだよねー。って今回も要件なし?てっきりゴールデンウィークの話かと思ってたけど」

 あまり本題に入らないのでこっちから聞いてみる。お互いに部活までさほど余裕はない。

「あ、そうだった。うん。休み中も合いたいなって」

「そうだよねー。そうなんだけどなー。予定が、ね」

 バッグから予定表を引っ張り出す。芽衣はすでに手元にあった。

「・・・・・・・合わない、ね。当たり前だけど」

「んー、この日。この日だけだね」

 一日、休みのかぶる日があった。休み六日目。両方一日オフだ。

「うん。けど・・・・・」

 ちょっと煮え切らない顔してる。まあ言いたいことは分からなくもないけど。

「この日空いてるの?」

「うん、空いてるよ」

「じゃあこの日はどっか行こう」

「うん!今から楽しみだね!」

「そうだね」

 とりあえず一日は会えそうだ。だけど、なんだか芽衣の様子は少しおかしい。言うなれば、物足りないのだろう。

「・・・・・・・じゃあさ」

「なに?」

 少し躊躇した。だけど、提案するだけしてみるか。

「俺んち、来る?」

「・・・・・・・ええ!?」

「ちょ、声」

 まだ教室内に生徒がいるので、目立つ。

「あ、ごめんっ。で、でも、家って」

 声が上ずって、顔が赤くなった。良からぬを想像しているようだ。

「俺んちすぐそこだから、部活帰り寄り道できるしってことなんだけど」

 父親は追い出せばいい。いるかどうかも定かじゃないしな。

「え、そうなの?」

「というか、あのマンション」

 教室の窓を指さした。校庭を隔てた目の前のマンション、それが俺の家。帰り道は逆方向だけど、時間伸びても十分程度だ。

「そーだったんだー、知らなかった」

「言ってないし。だって、一日だけなのが寂しかったんでしょ?」

「・・・・・・・言ってないし」

「顔に書いてあった」

「か、書いて、ないしっ!」

「そっかー、じゃいいか別に」

「え、っと、その・・・・・」

 掌返ししたらこの反応だよ、全く。正直なんだか、そうじゃないんだか。

「嘘だよ。俺がそうして欲しいんだよ、芽衣さん」

「・・・・・・・うん、じゃあ」

「いつでも大歓迎。だけど、事前に決めとかないと、父さん追い出せん」

 飛び入りでインターホン鳴らされると父さんにばれる。隠しておきたいことなので、マインで予定はくんどきたい。

「うん、あの・・・・・いつでも、いいの?」

「あー、父さんいない日調べとく」

 これ父さんいない日毎日来るのでは?まあ別にいいけど。

「うん!ありがとう!」

「いんや」

 まあ芽衣が午後練の時だけ来てくれれば楽でいいと思うけど、芽衣の家と俺の家でさほど距離はない。俺の帰宅時間に合わせれば俺が午後練の日も一応会える。というか、会いに来そうだな。

「じゃあそろそろ部活行こうか」

「ん、一緒に行こう」

 もう部活の始まりそうな時間。ゆっくりしすぎたかな。

 少し足早に、テニスコートへと二人で向かった。




 ※




「父さん?」

「おう琉生、おはよう」

「・・・・・おはよう」

 ゴールデンウィーク二日目の日曜。今日は午後練で、朝八時に起きた俺は不快な表情になっていた。最初の疑問形で説明してくれよ。

「ああ、説明してなかったか。昨日寝るの早かったからな、琉生」

「・・・・・で?」

「この子は笹原葵ちゃん。俺の友達の娘さんだ」

「笹原葵です。お世話になります」

 まじ、か。

「友人の娘を手にかけるとは。もう話しかけんなジジイ」

「いやいや違うって!?」

「・・・・・・・」

「ちょ、琉生ってばー」

 話しかけんなって言ったろうが。無言で部屋に向かう。

「この子は友達の諸事情でゴールデンウィーク中少し預かることになったんだって」

「待て、おかしいだろ。預かるって?そういう歳か?」

 身長芽衣くらいだけど、大人しい表情とかを見ると見た目中学生だ。そのくらいなら、何かあるとしても一人で留守番できる歳だろうに。

「いや、それには理由があって」

「その友人の諸事情とやらを説明しろ」

 どんな諸事情があって、中学二年生の息子のいる友人に娘を預けることになるのやら。こんな大人に預けて何かあるかもと、心配にならないのか。

「それは、言いずらいんだが、家を空けなければならない用事があって。この子一人を長い間一人にするのは流石に良くないと思ったみたいでな」

 長く家を空ける用事、ね。仕事だろうけど、娘がいる中でそんなの引き受けるかね普通。

「・・・・・・・」

「いや、だったか?」

「嫌だな」

 こんなこと、事前連絡なしに許可するわけがない。それに、芽衣のこともある。これを芽衣が知れば、多少なり負の感情が出てくると思う。それを知らない父さんには、説明のしようがないけど。

「どうにか我慢してくれないか?」

 というか、朝早くにいるってことは、昨日の夜既に来てたのか。早く寝ちゃってたから知らなかった。

「あの」

「ああ、ごめんね、葵ちゃん。うちの息子が」

「いえ、こちらがお邪魔してる側なので。息子さん、いきなりすみません。極力干渉しませんので、どうか」

 この子だって、親元離れて知らない人のいる家へなんて来たくなかったはずだ。ここで俺が駄々をこねるのは何ともみっともないな。

 ・・・・・・・全く。

「いいよ、別に、気遣わなくて。俺は加瀬琉生。いつまでいるかは知らないけど、とりあえずよろしくってことで」

「よ、ろしくお願いします」

「ん?」

「あ、いえ。もっと嫌がってるのかと思って」

 確かに、そう見えたかもしれない。けど、俺が拒む理由は実質芽衣だけだ。後でちゃんと説明しておかないとな。

「別に。歳は?」

「十二、中一です」

 年下か。なら、俺が年上らしくしないとな。

「そっか。大変だろうけど、何かあれば何でも言って」

「ありがとうございます」

 長い黒髪を持つ清楚そうな子で、あまり苦労はなさそうだな。眼鏡似合いそう。

「あ、でも。お手伝いはさせてくださいね?」

「ああ、うん。お願いするよ」

「でも、料理は心配しなくていいよ。琉生料理できるからね」

「部活ある日は夕飯遅くなっちゃうけどね」

 いつも基本自分だけだから遅くてもいいんだけどな。人様がいるなら下準備くらいはしてから部活行かないと。

「じゃあ琉生、葵ちゃん頼んだぞ」

「ん?なんて?」

「いや、俺ゴールデンウィーク中も仕事あるから、基本二人だぞ」

 お前が世話しないなら、俺に許可取ってから引き受けろよ。

「時給出せよ」

「え?いやそれいくらかかんの!?」

 時給千円×二十四時間で一日二万四千円だな。大金すぎてやばいな。まあそんな金払えるわけがないけど。

 かくして、こんな突然に、見知らぬ子との共同生活が始まってしまったのだった。

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