起床
カフカフと俺は咳き込む。
何かが俺の喉の奥から這い上がってくる。
俺はゲーゲーとあたり一面を満たしている黒いドロドロをたっぷりと吐いた。
ひとしきり吐いた。だが全くスッキリとしない。体中にドロドロがまとわりついている。
ここは建物の中だ。多分。真っ暗で風もない。
またゲーゲーと泥を吐いた。落ち着くまで身体を丸めて寝ることにしよう。
屋内で休み始めて30分は経ったと思う、ギンという金属音に驚いて飛び起きた。
まどろんでいた意識が警告音を出している。身体中の毛が逆立つ。寝ることはできなかった。
億劫な足を叱咤し俺は立ち上がる。
どこかからここから出られないか身体を壁に擦りつけて屋内をぐるぐる回る。
ネトネトのドロドロに足を取られた。
ボコッと音がして光のスリットが現れる。
身体すべてを持ってそこに体当たりを食らわす。
一回、二回、三回と四回目を考えたところでスリットが俺が出れるギリギリの大きさまで広がった。
瞳孔が収縮する。光に慣れていない、目が痛い。
隙間に頭を無理やり通せばあとはかんたんだった。肩も腰もするりと通った。
真っ青な空に太陽は、俺の真上に浮いておりそして――
WAVE 4
と文字が浮かんでいた。
俺の中からまたドロドロが湧いてきて、身体をブルブル震わせて絞り出すようにしてゲーゲーと吐く。
涙目になり、あたりを見回す。外の世界も黒い泥まみれだった。全体がブヨブヨと蠕動している。
壁に登れないほどの突起も何もついていない3mほどの高さの豆腐みたいな建物がずーっと碁盤の目のように並んでいる。
建物の壁を手で引っ掻くと軽いキズがついた。爪の中になんとも言えない壁のかけらが詰まっている。
登れそうだ。四肢に力を入れて、跳躍――壁を垂直に登った。