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2話 心機一転

 アスカの正面に『創造神』という文字が表示された。


「ん?これなんだ?」


 一億回の死を経験しているアスカも今置かれている状況はあまり理解が追いついていないようだ。表示されている文字を触ろうと手を伸ばすも、文字は近寄ると離れて一定の距離を保っている。


「まぁいいか。」


 触れないことを悟り早々に興味を無くしたアスカ。

 文字に気を取られていたがアスカは転移までの5秒を過ぎた事に気づいた。


「…?」


 景色が変わっていないようだ。先程いた白い場所からまた白い場所に来たということなのだろうか。だが空に、先程までは存在しなかった白い扉が在る。白い場所に白い扉、目立つ事のない筈なのにその扉には異様な存在感が有り、目が惹かれてしまう。

 気づけばアスカはその扉に足が動いていた。何も無い場所で空に佇むだけで「道」は無いはずだがアスカは白い扉の目の前にたどり着いた。


 拳を裏返しアスカは扉をノックする。神から授けられた最低限知識には一応礼儀も含まれていたようだ。ノックをしてすぐ、扉の向こう側から男の声がした。


「入ってきていいよ」


 それだけ言って。アスカは不信感からか躊躇するが、不信感を遥かに凌駕する好奇心でノブに手を掛け笑みを浮かべ開けた。


 

 6畳程度の狭い部屋の右手と左手には棚に几帳面に整理された大量の書籍。部屋の奥には椅子に腰掛け机上の書類を整理している男が1人いる。


「ごめんね。ちょっと仕事が片付いていなくて。一瞬で終わらせるから部屋でも見てて時間潰してて」


 と言われても勝手に本に触るのは気が引け、出来ない。それ故に特にする事がなく、男の後ろに在る窓から景色を見ることしかない。


 そうこうしているうちに男は仕事を終えたのか、立ち上がりアスカに声をかけた。


「はいっ!終わった。これでやっっと話ができるよ。…大丈夫?」


 男がアスカに声をかけるがアスカは返事をしない。

 数秒した後アスカがハッとした表情で声を出した。


「…声の出し方忘れてました。すいません、まだ慣れていなくて」


 アスカは頭をかきながら頭を下げる。


「そう言えば君は元スライムだったな。ゆっくり慣れればいいよ」


「ありがとうございます、慣れるよう頑張ります」


 アスカの前向きな発言に男はにっこりと笑い、話を再開した。


「まずは自己紹介からかな。俺の名前はタナカ・ウミ。みんなからはタナカさんと呼ばれていてここで『創造神』をしている。君に身体をあげた神、カイルは僕の弟子みたいなものかな」


 男、タナカが簡単に自己紹介を済ませるとアスカもそれに続いて口を開いた。


「僕はアスカです。1億回殺され、僕はここに来ました。」


「おぉ。そのワールドクエストをクリアしたんだ。すごいな」


 ぼそりとタナカが言った言葉を気に留めずアスカはタナカを問いただした。


「ここは何処なんですか?僕は違う世界で新たな『生』を過ごせるんじゃないんですか、ただただ殺されるだけではない『生』を」


 カイルに身体をもらい、知能をもらい、心をもらい、新たな生活を出来ると思ったら転移された場所はカイルと謁見していた場所とほぼ変わらない。スライムとして過ごしいていた景色を別の視界で過ごせる事に期待を膨らませていたアスカにとって今の状況はただただショックである。


 タナカに問いただし少し息を荒くしたアスカは呼吸を整えるため窓に写る街を羨ましそうに眺めた。ここでふとアスカに疑問が湧く。扉の周囲には何もなかったと。


「タナカさん、窓から見える景色は(うつろ)なんですか?」


 アスカの問いかけに待ってましたと言わんんばかりの笑みを溢し勢いよく机に手をつき立ち上がった。


「この窓の奥に広がる景色は俺が『創造神』として一から『創造』した世界と繋がっているんだ!!美しく、悲しく、虚しく、楽しくて実に素晴らしい世界だ!!今写ってる世界はヒューマン、ドワーフ、エルフ、ヴァンパイア、魔人、数多の種族が存在し争いも起こるがなんだかんだ平和な世界である」


「『創造神』って僕の適正の?」


「そうだ、これから君には世界を『創造』してもらう。一億回も殺されたんだ、これからは君の生きたいように自分で世界を作ってみろ!!きっと楽しいはずだ」


「僕はただ笑って過ごしたいだけなんだよ。別にそんな大層な事やりたいわけじゃない。ただこの身体を謳歌してみたい。それだけなんだ…」


 タナカはアスカの意外なリアクションにテンションが少し落ちたように見える。だがめげない


「で、でもあれだよ何でも作れるよ。すごいよ」


 語彙力の欠如


「どれくらいすごいんですか?」


「めっちゃ!!!」


 語彙力の大欠如


 何故だか、タナカの語彙力が低下した辺りでアスカの顔がニヤつき始めた。


「『創造神』の適正が出るのなんてめっちゃ稀だからね!!めっちゃすごいんだから乗り気になってよ〜…」


「へぇ、そんなにすごいんだ。だったら…」


 どうやら単純に「すごい」という事が嬉しいようだ。一億回殺された過去があるとは言え、さっき心を貰ったばかりでまだまだ精神的には年齢は子供だということだ。ストレートに「すごい」と言われると嬉しいのだろう。


「まぁそんなに嫌だったら神の権限でどうとでもできるけど、どうする?」


 少し俯きがちにタナカが言うとアスカが口を開けた


「やる!!!!めっちゃやる!!!絶対!!!!!!はやく始めて!!!!はやく!!!」


 タナカがニヤリと笑った。


『さぁさぁ早速では有りますがスタートしましょうか!!君の人生に幸があらんことを!!!!心機一転、頑張ってね』




 アスカの視界が一気に暗転した。急な黒に不安が押し寄せるがアスカは高揚している。


 何かを思う隙なく、胸を躍らせるアスカの視界が明るくなった。



「…またか…。また白いよ」


 アスカの見る景色はまた何もない白の景色だ。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「アスカの作る世界、楽しみだなぁ…。一億回殺されたスライムはどんな世界を作るのか。…そういえば魔物討伐数一億回のワールドクエストクリアした勇者が『創造神』になったんだよな…、そっちも楽しみだ」






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