1話 1億回殺されて神になりました
新人冒険者の最初のクエストにされ、何も害がない存在にもかかわらず魔物と言うことで経験値稼ぎの為にただただ惨殺され続ける存在である『スライム』。
『スライム』は冒険者に殺された後一定時間の経過と共にランダムな場所にポップする。そして、また冒険者に殺される。
残酷ではあるが『スライム』には心が無く、その非情な冒険者に強い畏怖の念も危惧も抱くことはない。『スライム』は「魔力」を持つただの「物」なのだ。
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種族『スライム』個体名『ask222』は冒険者に一億回討伐されたことにより「転職権」が与えられ、創造神カイル様のとこへ転送されます。
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「やぁスライム君。元気かい?…って言っても君は僕の言っていることを理解するどころか、僕が喋っていることすら分からないんだろうけどね。」
何も無い白い空間で神とおぼしき一人の青年と一体のスライムが対峙している。
「んー…喋らないのか…。つまらないなぁ。あっ、そうだ早速君には身体と心と、最低限の知能をあげよう。」
神はしゃがみスライムに手を被せると瞳を閉じ、何かをスライムに流し始めた。すると、光がスライムから溢れだし、瞬く間にスライムの風貌から変体し人間の姿に変わっていった。
姿は目の前に対峙している神と同じなりをしていて、髪色はスライムの名残を残してか水色をしている。
「やぁやぁスライム君、僕の言葉分かるかな?今、君には心と知能があるはずだから会話をすることが出来ると思うよ。なぁ、喋れるか?」
「あー、と。僕はなんなんですか?…スライム?」
神の問い掛けにスライムはとぼけた表情で応えた。スライムだった彼の人生では自分が『スライム』だったことに気付くタイミングがどこにもなかったから。自分を客観的的には視る手段もなければ相手が何かを言っているか分かる手段もない。彼の記憶にはただただ一億回殺された事だけしかないのだ。
そんな彼に神は経緯を説明した。
「君はここに来る前までスライムという最も弱い魔物として生活していたんだ。そしてスライムとして一億回死んだことにより「転職権」が与えられ僕と謁見をしている。まぁそのついでで僕と会話を出来るように身体と心と会話できるだけの少しの知能を与えたって事なんだね」
「そうですか。スライムだったから僕は殺されていたんですね。スライムだったから何も悪いことをしていないのに殺されていたんですね。草を食べているときも、日陰で休んでいるときも、寝ているときも。納得です。」
淡々と今までの自分の記憶を思い返しているように見えたスライムだったがその声には怒気や悲哀、両方感じられる。
「まぁまぁ、そうそう焦らずに。怒らずに…。」
彼の感情を察した神は彼を宥めようとするが
「あははははは 怒ってないですよ。せっかく心を頂いたので『怒りの感情』と『悲しみの感情』がどんなのか確認したかっただけです。ちなみに僕、人間に恨みとか何にもないですから」
神の焦りとは裏腹に彼はおどけて笑った。
「へぇ、意外だね。「人間嫌い!」ってテンプレを言ってくれると思って期待したんだけどな…。残念。君って意外と強かなんだね。」
独り言のように神が言うと彼はピョンピョンと跳躍をし始めた。身体は青年だがその様はまるで少年のようだ。
「それよりもこの身体が楽しすぎて神さんには感謝しかないですよ。『動ける』ということは貴方が思うより楽しいことなんですよ」
「そういえば、君って名前無いよね」
スライムの無邪気で裏の無い感謝に照れたのか神は目を逸らし話も逸らした。
「まぁないですね。スライムに名前をつける物好きは居ないからだと思いますけどね」
少し落ち込んだのか声のトーンが少し低くなる。その変化に、鈍感な神が気付いたのか笑顔で振り返った。
「じゃあ僕が君に名前をつけてあげるよ」
「何から何までホント…ありがとうございます。これが嬉しいってことなんですね」
「はははっこんなに喜んでもらえるとなんかこっちも嬉しいな。…なんか緊張してくるな」
「何でもいいですよ。何でも嬉しいですから」
「君の個体名が『ask222』だから…シンプルに『アスカ』でどうかな」
「いいですね、アスカ。自分に個体名があったのを今知りましたが、そこから取られているということで何だか違和感があまり無い感じがします」
スライムの顔が、いいやアスカの顔がなんだか華やいだように見える。身体を与えられ知能を与えられ、心も与えられ更には神に名前まで与えられた。アスカには1億回殺された過去が、記憶があるがアスカは今生まれたようだ。物を生み出す創造神からしたらいつも行なっている只の仕事だがやはり誰かが喜んでいると自分も嬉しくなってしまうのか顔が気持ち悪いほどにニヤニヤしている。
「それはよかったよ。これから君は「アスカ」という名で、えー…その、なんだ…頑張ってくれ。」
そのせいかあまり気の利いた言葉が出ないようだ。
「…はい、分かりました。頑張ります。」
アスカの返事には少し戸惑いの色が見られる。
「どうかしたの?」
神がそう聞くとアスカは少し困ったように
「今まで何かをしたことがないので何を頑張ったらいいかが分からなくて…。すいません。」
謝り、答えた。どこか悲しそうに見えるのは自分の過去に引目を感じているからだろう。何も頑張ったこともない事の引目を。
「全部頑張ればいいよ。目の前のこと全部…」
神はアスカの目を真っ直ぐ見て答えた。その目にはおちゃらけた思いはなく澄んでいた。
「まぁ僕も昔色々あった時にある人に言われた言葉なんだけどね」
「神さんにも色々あったんですね。。」
「まぁ、一応ね。…って僕こんなに長居している時間なかったんだ!えーとこれから転職をしていこうと思います。何になるのかわからないけどとりあえず頑張ってね。転職は僕が居なくなった後、適正職が目の前に表示されるからなりたい職を選んでね。その後は選んだ職にあった場所に転移されるから。っと、これで説明は全部。じゃあ!!!」
「あ、まっt…」
神はアスカの最後の声を聞かぬまま消えていった。1人残されたアスカの表情は当然暗い。がそんなアスカの気持ちを汲み取ってくれる者など誰もいない。
その場に只、佇んでいるとアスカの目の前に言葉が表示された。
《貴方の適正職は以下の通りです》
【創造神】