表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

死にたがり共の地雷原 2

 少女は空を舞う。

 光に包まれ空を舞う。


 なかなかに……いや、そういうのはもういいだろう。

 要するに地雷的なナニカによってフェアリアが吹き飛ばされたということだ。

 確かに美少女が炎を身に纏い空を舞う様はある意味では幻想的と言えなくも無いが……


(いっそ本当に幻であってくれ……)


 我らが主人公・天音久遠さんが濁った眼で現実逃避を始めてしまったので、このあたりでコメントは控えさせていただく。

 理解の追いつかぬ事態の連続に久遠の精神は疲弊しきっていた。

 しかし、そんな彼のささやかな現実逃避も長くは続かない。


「あ?」


 爆発で吹き飛ばされた天音久遠。

 その背後にいたフェアリアが、久遠と同じ方向から、同じような体勢で、同じ地雷(仮)に吹き飛ばされたのである。

 つまりどういうことかというと……


「ぐぼぁ!?」


『キャアッ!』


 見事に激突した。

 いわゆる”親方!空から女の子(フェアリア)が!”状態である。


「いってえェ……」


『 クオン様、大丈夫ですか!?』


 フェアリアの言葉と共に、久遠が光に包まれる。

 一瞬身構えたが、何も起こらない。どうやら回復魔法をかけられたようだ。


「あ、ああ、ありがとう」


『 クオン様、どうなさいましたか?』


「はぇあ?」


 反射的に礼を述べてしまった久遠。根はいい子なのだ。

 しかし、『フェアリア・クロニクル・オンライン』に搭載されているAIは上等なものではない

 案の定フェアリアは単純に”話しかけられた”と勘違いし、久遠に向かって選択肢のパネルを繰り出してしまった。


「ちょっ、近い……!」


 現状仰向けに倒れた久遠の上にフェアリアがのしかかっている様な状態である。

 そんな至近距離でパネルなど出されたらどうなってしまうか?


 

 ドカンッ!



 再び爆発が起こった。





 つまりは、だ。


 ① 倒れた久遠の体の右隣に爆弾(不可視)が仕掛けてあった


 ② フェアリアの出した選択パネルCが爆弾に触れた


 ③ なぜか反応して爆発した


 と、いうことらしい。

 NPCの出したパネルがNPCの体の一部として認識されたとでもいうのだろうか?

  

(たしかに指で”触れて”選択するタイプのやつだけどさぁ……)


 理屈は分かるが、納得はしかねる。

 というよりも、屁理屈で煙に巻かれたような気分だ。

 泥と煤に塗れながら天音久遠は考える。


(それよりも、だ)


 先ほどから気になっていたことがある。

 久遠は何かを探すようにキョロキョロと辺りを見回したが、やがて諦めたように溜め息をつきフェアリアの手を取った。


『フェアリアの好感度が上がりました』


(……?)


 なぜか好感度が上がった。


(なんだろう、痴女なのか?)


 ワケの分からない出来事にも段々と動じなくなっていく自分が怖い。

 手を握っただけで頬を赤らめ、潤んだ瞳でこちらを見つめるこの女も怖い。

 久遠はフェアリアの手を引くと、先ほど二人そろって吹き飛ばされた地点へ彼女を放り投げた。

 

『キャアッ!』


 恐怖のあまり乱心したのか?

 否、この行動は()()()()である。



 ドガンッ!!


『キャアッ!』



 爆発した。


「なるほどな、やっぱりそういうことか」


 腕を組み、したり顔で頷く久遠。

 賢明なる読者諸兄姉は先ほどの解説で気付いていたかもしれないが、この草原に設置された地雷は一度爆発しても同じ場所に再配置されるのだ。

 最初に自身が爆発した位置とフェアリアが吹き飛んだ位置が近すぎると感じた久遠はその可能性に思い至り、彼女を爆破地点へ投げ飛ばすことでそれを確認したのである。

 ちなみにフェアリアで試したのは、近くに石ころや棒きれなど適当な「投げられる何か」がなかったからだ。

 

「心の痛むことだぜ」


 久遠は心にも無いことを言った。


 さて、疑問を解消したならば次のステップへと進まなければならない。

 即ち、この「見えない地雷が大量に設置された大草原」をどうやって突破するかということだ。

 爆破された地雷が再配置されるという事実が確定した今、「トライ&エラーを繰り返していればそのうちクリアできるよね」という甘い考えは通用しない。

 しかし、必ず突破する方法はあるハズだ。





 まだ子供の頃、姉を「花火みたいな人」だと思っていた。

 いつもキラキラと輝いて皆の中心となっていた姉。

 そんな姉を久遠は誇りに思っていたし、いつかは自分もああいう風になりたいと憧れを抱いていたものだ。

 まぁ一年、二年と歳を重ね、姉の人間性が理解できる年齢になる頃には、そういう考えは鳴りを潜めたのだが……。


 とりあえず今日一日爆発しまくって(人間花火になって)分かったことは、花火もそんなに楽じゃないということだ。

 あの姉も意外と気苦労が多いのかもしれない。

 今度会ったらウーロン茶でも奢ってやろう、と久遠は密かに心に決めた。

  

 それはともかく、一日だ。

 丸一日地雷を踏み続け、満身創痍の天音久遠はいまだこの草原から脱出できずにいる。

 一日中……いや、『一日』とは少し盛った。それでも一時間や二時間程度ではきかない程の時間をこの場に拘束されていることは確かだ。


「一日どころか、ヘタすりゃ一ヶ月近く彷徨ってる気がするんだよなぁ……」


 さすがにそれはない。盛りすぎである。




 結論から言えば、この草原から脱出するのは不可能だったのだ。


 久遠はまず、爆弾の設置場所に何らかの規則性は無いかと考えた。

 目に見えない爆弾とは確かに脅威だが、ギミックとして仕掛けられた以上、クリアできなければ意味がない。

 何らかの法則性、または目印になるようなものはないかと注意深く観察すると、草原の所々に小さな白い花が群生していることに気が付いた。 

 咄嗟にひらめく。


(これこそ爆弾の設置場所の目印、もしくはこの花自体が爆弾の正体で『少しの衝撃で爆発を起こす爆性植物』とかいう設定のアレに違いない!)


 喜び勇んで花の群生地を避けたルートを突き進むと、案の定爆発した。



(いや、逆にこの花が安全地帯だったのか?)


 恐る恐る花の群生地を掻き分けると、予想通り爆発した。



 花は関係なかった。振り出しに戻った。 



(むしろ一気に駆け抜けてはどうだろう?)


 疾風の如く走り抜けようと試みれば、あざ笑うかのように爆発した。



(匍匐前進で進めばなんとかなるんじゃないか?)


 一縷の希望を胸に地を張って進んだが、どうにもならずに爆発した。



(もうゴール地点まで爆風に吹っ飛ばされていくしか……)


 徒歩での到達が無理ならばとあえて爆発を繰り返してみたが、事がそううまく運ぶわけも無く同じ場所を右往左往するばかりだ。



(もうダメだ、打つ手がねェ……)

 

 黒コゲの満身創痍で倒れ伏す天音久遠。八方塞がりで天を仰げば……



 ズガンッ!!


 

 何の脈絡も無く爆発が起こった。


「何故だ!?」


 理不尽を超える理不尽に、怒りの咆哮をあげる久遠。


『 クオン様、大丈夫ですか!?』


 瞬間、体が光に包まれ癒しの魔法がかけられる。


(……?)


 心配そうな眼差しでこちらを見つめる少女。

 コイツは誰だっただろうか?


『 クオン様?』


 ああ、そうだ。たしかフェアリアとかいう名前だった。

 鬱陶しいので、存在自体を意識の外へシャットアウトしていたのだった。


『 クオン様?』


(……。)


 これだ。

 語彙が貧弱。

 ボイスパターンが少ない。

 中身の無い台詞ばかり何度も繰言のように聞かされれば、いくら見てくれが良くても嫌気がさしてくる。

 ましてやこの状況、精神力の減りは死活問題だ。

 苛立ちに顔を歪ませる天音久遠。


『 クオン様?』


 頭に血が上る。


(このアマ、いっそブチ殺してやろうか!?)


 苛立った勢いか、なんとも物騒な思考が頭をよぎる。


(……ん?)


 が、ふと考えてみれば、それは意外にも妙案のように思えた。



 ゴール地点であるワープポイントまで地力で辿り着くのは不可能。

 この草原から真っ当な手段で脱出することはできない。

 ただし、()()()()()()では、だ。裏技は通用するかもしれない。


 即ち、死亡によるリスポーンである。

 HP全損からのリスポーン、これならば正規の手段を踏まずとも神殿まで戻れるかもしれない。

 となると、この女は邪魔だ。

 フェアリアの回復魔法。

 こちらの体力が減るたびいちいちかけてくるので、これまでどれだけ地雷を踏んでも命を繋いでこられた。が、死を望む現状にあっては障害にしかなり得ない。



「殺すか……」



 いや、ちょっと待って欲しい。

 こういったセリフはもう何十話か後に、もっとこう、精神的に病んで闇墜ちとかした時に使用すべきだ。

 少なくとも第9話で、あまつさえ主人公が使っていいワードではない。

 従って、結論を急いではいけない。もっと別の方法を模索するべきである。


「別の方法?」


 そう、例えば……対話だ。

 人は獣と違い、対話によって平和的解決を図ることが出来る。 

 真摯な気持ちでフェアリアと向き合い、回復魔法の使用を控えるよう呼びかければ心置きなく自殺できるはずだ。

 さあ、天音久遠! 見事対話を成立させ、自分が血に飢えた(PKer)から理性ある人間へと生まれ変わったことを証明するのだ。


「……なあ、フェアリア」


『 クオン様、どうなさいましたか?』


「その、回復魔法をな」


『 クオン様、どうなさいましたか?』


「俺に使わないでほしいんだわ」


『 クオン様、どうなさいましたか?』


「ダメだな、まだサルの方が空気読めるわ」


 いやいや、まだだ。

 いくらコミュニケーション能力がサル以下とはいえ、味方を、ましてや女性に手を上げるなど許されるワケがない。


(……。)


 が、よくよく考えてみたら美少女のガワを被った連中など『シャングリラ・フロンティア』時代に散々狩り尽くしていた。

 今更取り繕う必要もなければ、人目を気にする必要もない。

 

「やっぱ殺すか。安心しな、死こそが救いだ」


 なんだか邪教の信徒みたいな台詞だが、彼は至って真面目である。これでも根はいい子なのである。


「死ねよやぁぁぁ!!」


 狂気に顔を歪ませ杖を振り下ろす久遠。殴る!殴る!殴る!


『キャアッ!』


『キャアッ!』


『キャアッ!』


「うるせェェ!!」


 文字通りにワンパターンな悲鳴が久遠の狂気を更に加速させる。

 少女の体力と勇者の精神力、先に尽きるのはどちらか?


 この上なく不毛な戦いがいま、始まろうとしていた。



※ リスポーン

実はこのゲーム、最初の街から外へ出るまでプレイヤー及び味方NPCに不死属性が付加されている

故に『フェアリアを殺害して回復手段を無くした後、地雷を踏んでリスポーンしよう!』という久遠の目論見は見事に外れることになる

彼がその事実に気が付くのはこれから30分ほど後の出来事


最終的にフェアリアの『死なない』『呼べば近寄ってくる』という2つの性質を利用し


1.前方にフェアリアをブン投げる


2.何もなければそのまま進む


3.爆発したら大声で呼びつけ、別の方向にブン投げる


という極めて原始的な作業を繰り返して生還を果たした

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ