死にたがり共の地雷原 1
少年は空を舞う。
光に包まれ空を舞う。
なかなか詩的な表現だ。
80点くらいくれてやっても良い。
しかし、それは比喩として用いられる場合の評価であり、物理的にブッ飛んでいる今回のケースには当てはまらない。大きく減点して20点である。
更に言えば便宜上”光”としているそれは、実際には炎に焼かれている様をそう表現しただけなので評価は更に下がる。0点、文句なしの赤点だ。
かつてVRゲーム『シャングリラ・フロンティア』において”赤点のオルスロット”の異名で恐れられた元PKer・天音久遠は、この世界『フェアリア・クロニクル・オンライン』においても”赤点”の名を冠することとなってしまったのである。
宙に吹き飛ばされながら久遠は考える。
(他プレイヤーの攻撃か!?)
真っ先に思いついたその考えは、元PKerとしては至極当然のものだった。
しかし残念、現在のプレイ環境はオフラインである。それはあり得ない。
(なら、敵モンスターか!?)
地に打ち付けられ無様に転がり、それでも素早く体勢を立て直した久遠は腰の杖に手を掛けながら周囲の様子を窺う。
だが、ここはチュートリアル空間だ。こんな凄まじい攻撃を仕掛けてくるモンスターが配置されているものだろうか?
(いや……)
頭に浮かんだ疑念を即座に打ち払う。
攻撃を加えられたことは事実なのだ、事実は事実のまま受け入れるしかない。
(ナメたマネしやがって……!!)
激情を押し殺し、怒りをモチベーションへと変え、目を走らせる。
前方、異常なし。左方、右方、共に変わった様子は無い。
と、いうことは……?
「上かッ!!?」
バッ、と顔を上げ空を睨み付ける天音久遠。
しかしそれがいけなかった。
「ぐあああッ!?」
直射日光だ!
久遠の眼に16のダメージ
堪らずうずくまり膝をつく。
しかし妙だ。自然の驚異に対し不覚はとったものの、上下左右のどこにも魔物の姿は確認できない。
となると後ろか?
いや、後ろにはフェアリアがいる。背後から脅威が迫れば彼女が何かしらの反応を……
(まさか……)
慌てて後ろに向き直る。
(まさか、コイツが……?)
『……』
少女フェアリア、精霊の姫にして神殿の巫女。そして天音久遠、もとい世界の救世主クオンの最初の仲間である。
通常ならば仲間キャラクターが攻撃を仕掛けてくるなど考えられない。あったとしても乱戦時のフレンドリーファイアくらいなものだ。
だが、現在この草原には久遠とフェアリアの二人しかいない。
そのうち一人が何者かによって攻撃を受けた。
となれば、必然的にもう片方の人物が危害を加えたと考えるのが自然である。
しかもこの女、さきほどの会話イベントによって何故か好感度が下がっている。
そしてこのタイミングの襲撃だ。
”気に食わないから攻撃した”
なんてこともあり得る。そんなサイコな理由でと思うかもしれないが、クソゲーに対し常識を求めてはいけないのだ。
杖を構え意識を集中させる。
(もし本当にアイツの仕業なのだとしたら、こちらも迎撃せざるを得ない。しかしできるのか?俺に。魔法の撃ち方も分からねーのに。いや、四の五の考えても仕方ねェ。いざとなったらこの杖でブン殴ってやれば済む話だ。それより観察だ。ヤツを見極めろ。さっきの爆発は十中八九”魔法”攻撃だ。なら詠唱が必要なハズ。その隙を突け。詠唱してる無防備な隙に近付いて脳天に一発……いや、見たとこアイツに近接戦闘の心得があるとは思えねぇ。なら、ンな面倒なことしなくてもとっとと近付いて殴ればいいんじゃねーか?いや、まだヤツがやったと決まったワケじゃない。チクショウ、”推定無罪”ってヤツか。こっちからは手が出せねぇな。動くならまずヤツが動いてから……あ?所詮ゲームのキャラなんだから別に気にする必要はないのか?あーでも濡れ衣だったらキャラの好感度が更にヤベーことになるし……)
打つ手を悩み悶々と371文字、ちなみにここまでの経過時間は0.3秒。
脳ミソはかつてないほどにフル稼働している。
が、結局結論は出なかったので出たとこまかせで頑張ることにした。
大丈夫、今の久遠は無敵だ。
(さあ来やがれ、フェアリア!)
……
…………
(あれ?)
来ない。
(てっきり追撃の爆裂魔法を撃ってくると思ったんだが……)
恐る恐る様子を窺う久遠。
『……』
フェアリアは一言も発さず佇んでいる。
しかしよく見ればその姿は両手を口に当て、眼を大きく見開き、まるで何かにショックを受けているような……?
『 クオン様!!』
(!?)
突如久遠の名を叫び駆け寄ってくるフェアリア、それに対し思わず身構える天音久遠。
が、その声には焦燥や心配の色が強く現れていて、こちらに危害を加えようとしているようには見えない。
シチュエーション的には明らかに『傷付き倒れた主人公に駆け寄るヒロイン』のそれなのだが、仮にそうだとしたら説明のつかないことがある。
(アイツじゃなかったのか?それじゃ一体……)
誰が攻撃してきたんだ?
一つの解決は新たな疑問を生み出す。
しかしてその疑問は次の瞬間、即座に解消された。
ズドンッ!!
「キャアッ!」
「!?」
フェアリアが爆発した。
正確には”地面が”爆発したのだ。
つまり先ほど久遠を襲ったあの爆発も敵の攻撃などではなく、コレが原因だったのだ。
……で、コレは何だ?
何故地面が爆発するんだ?
どうしてチュートリアルで地面が爆発するんだ?
これを何の教訓にしろというのだ?
一つの解決は新たな疑問を生み出す。
が、分からない。
先ほどまでギュンギュンと高速回転していた脳ミソは、すっかり目を回して使い物にならなくなってしまったようだ。
どういうことかは分からない。
分からないが、とりあえず……
「クソがっ!、やっぱ地雷ってことかよォ!!」
久遠は心の赴くまま、全身全霊の叫び声を上げたのだった。
ちなみにこの台詞は『フェアリア・クロニクル・オンライン』というゲームに対する評価であり、爆発の原因を看破したわけではない。
従って、天音久遠の爆発地獄は
もうちっとだけ続くんじゃ!
※ ”赤点のオルスロット”
シャングリラ・フロンティア74話にて登場した単語
由来は以前にオルスロットがサンラクに対して行った脅迫行為が赤点級のお粗末さだったためか
恐らくその場のノリで発言しただけの可能性が高い
が、響きが面白いのでこの作品内においては彼の二つ名だったということにしておく
オルスロット君の名誉には犠牲になってもらおう