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フェアリア・クロニクル・オンライン

フェアリア・クロニクル・オンライン

 フェアリア・クロニクル・オンライン〜妖精姫の祈り〜。


「フェアリア・クロニクル・オンライン?」


 偶然目に入ったタイトルに思わず声が出た。

 

 なんだろう?

 

 なんだったか……。

 

 唐突な既視感に天音久遠は首を傾げる。


 フェアリア・クロニクル・オンライン。

 どこか見覚えの……いや、聞き覚え?と、言ったほうが正しいだろうか。

 とにかく久遠はこのゲームを、ゲームのタイトルをどこかで聞いたことがある。



 このあと彼はたっぷり30秒使ってこの疑問を解消しようと考え込むことになる。

 その間に何故このような事態になっているのか解説しておこう。



 朝食を終えた久遠は、今日の予定をどうしようかと考えていた。

 エネルギーを充填し体に精気が満ちてきたとはいえ、睡眠不足であることは否めない。

 二度寝してしまおうか?

 いや、食後すぐに横になるのは胃に悪いと聞く。逆流性食道炎はゴメンだ。


 では、優雅にシャワーでも浴びるのはどうだろう?

 強い日差しのせいで寝汗もたくさんかいたし、気持ちの良い一日を過ごすために朝一でサッパリしておくのも悪くない。これなら頭もシャキっとするだろう。

 いい考えだ、と喜び勇んで脱衣所へ駆け出す天音久遠。

 しかしここで、はたと気がつく。


 ああ、いけない!

 中学生男子のシャワーシーンは需要がないのだ!


 誰も幸せになれない。

 不幸を撒き散らすと知りながら、裸体を晒すわけにはいかないのである。


 それじゃあ部屋でゲームでも……

 ダメだ、ゲームはシャングリラ・フロンティアしか持っていなかった。以前は他にもいくつか持っていたのだが、シャングリラ・フロンティアをプレイするようになって全て処分してしまった。

 あまりいい思い出がないのだ。

 そのシャンフロも、とてもじゃないが昨日の今日でプレイする気分にはなれない。

 そもそもVRゲームは横にならなければプレイできないではないか。

 本末転倒。逆流性食道炎はゴメンだ。



 どうしたものかと考えあぐね、久遠は椅子に座り込み背もたれに身を預ける。

 天井を仰ぎ、グイグイと背中を押し付ける。背骨がボキボキと音を鳴らした。

 心地よい。

 グーッと伸びをして、更に仰け反る。背筋がほぐされていく感覚がする。

 気持ちがいい。

 更なる快感を求めて、とことん仰け反る。

 


 ド派手にズデンと転んだ。



 後ろに体重をかければ椅子は倒れる。

 当たり前、自明の理だ。

 調子に乗っていい気になり最後に大失敗するという構図は、阿修羅会の誕生から終焉に至る道程を思い起こさせる。

 およそ一年の縮図をわずか数秒で体現するとは流石だな、と久遠は感心した。

 そしてしたたか頭を打ち付けた痛みに涙を流した。


 痛みに悶え動けずにいると、ふと背面の窓から外の光景が目に入った。

 雲ひとつ無い空だ。



 悲しいほどの青が視界に広がる。

 ああ、この青い空なら今のこの空っぽなオレを受け入れてくれるかもしれない……。



 ふいにそう思い、彼は今日一日外へ出かけようと決めた。

 この虫が沸いたようなものの考え方は、ひとえに久遠が中二病から卒業し切れていないことの証明であり、彼の長所でもある。決して頭を打ったからではない。

 どれほど歳を重ねようと、少年の心を忘れてはいけない。男とはそういう生き物なのだ。



「母さん、俺ちょっと出かけてくるわ」


「そう、珍しいね。今日はゲームしないの?」


「……ああ。あと昼もいいから。どこか外で食ってくる」


「こんな暑いのに物好きね。頭でも打った?」


「……。」



 たしかに頭は打ったがそういうことではないのだ。



 そうして久遠は家を出た。

 彼には友達がいないので、特に行くあてはない。

 あてどもなくほっつき歩く。

 近所の河原ををぶらぶら歩き、ファストフード店で時間を潰し、公園のベンチに腰掛けぼんやりと空を見上げ……。

 胸のもやもやも幾らか治まりぼちぼち帰ろうかといったその時、偶然ゲームショップを見つけた。

 シャングリラ・フロンティアはもう遊べないし別の面白そうなゲームでも置いてないかなぁ、となんとなく立ち寄ったところ冒頭のシーンに至るわけだ。

 



 さて、そろそろ30秒経ったころだろう。

 はたして天音久遠は記憶を取り戻すことが出来たのだろうか?



「……思い出せない」



 思い出せなかった。


 ちなみに彼が思い出そうとしている記憶とは、実はつい昨日の出来事である。

 たしかに昨日は色々と()()一日だったが、それにしてももう少し頑張った方が良いのではないだろうか?若いんだから。

 ファイト、脳細胞!

 負けるな、脳細胞! 

 


”あ、一人プレイでゲームするならフェアリア・クロニクル・オンラインってのがオススメだぜ”



 その時、実に都合よく久遠の頭脳は活性化した。

 思い出したのだ。

 フェアリア・クロニクル・オンライン、そのタイトルを知った経緯と口にした人物を。



 何度も繰り返すようだがクラン『阿修羅会』は久遠の姉、永遠(とわ)の策略により壊滅した。

 しかし、実は彼女にはそれとは別の目的があったのだ。

 長くなるのでその内容は割愛するが彼女にとってはむしろそちらが本命であり、阿修羅会はその目的を遂げる()()()()潰されたと言っても過言ではない。

 決して『変わり果てたクランの行く末を儚んで~』などといったセンチな理由ではない。

 断じてない。

 ありえない。

 可愛げがない。

 なぜならば、天音永遠は畜生だからだ。


 そんな彼女には二人の協力者がいた。久遠は二人共に面識が無いため、PN(プレイヤーネーム)になるが。


 一人は、オ、オイ……オイガッツオ?とかいう女。こいつのことはよく知らない。


 そしてもう一人、この男こそが(くだん)の人物。名をサンラクという。


 そいつは完全に人をバカにした格好をしていた。

 やたら目力の強い鳥の覆面、胴と脚を剥き出しにした半裸スタイル、そこに刻まれた禍々しいタトゥー、武器は二刀流。

 見た目は完全に蛮族のそれだ。

 しかしこう見えてこの男、なかなか侮れない。

 伝え聞いた話だが肌に刻まれたタトゥーは強者に力を示した証であり、半裸はその代償に装備を制限された結果らしい。

 鳥マスク?たぶん趣味だろう。

 そもそも()()姉が自身の計画に引き入れている時点で、その実力は推して知るべし。

 ということは、もう一人のオイガッツオも相当な実力者なのだろうか?よく知らないが。


 閑話休題


ふざけた性根(天音永遠)ふざけた名前(オイガッツオ)ふざけた格好(サンラク)、どいつもこいつも気に食わないが、とりあえずこの三馬鹿の一人が話の流れでこんなことを言ったのだ。



”一人プレイでゲームするならフェアリア・クロニクル・オンラインってのがオススメだぜ”



 フェアリア・クロニクル・オンライン。


 元々それは知らないゲームだった。


 俺はその名前を聞いてしまった。


 そして今、ここでそれを見つけてしまった。



(サンラク……)



(アイツが勧めるゲーム、一体どんなシロモノなんだ……?)



 あろうことか興味が沸いてしまった。


 これは偶然だろうか?

 それとも運命だろうか?






 ”偶然”である。

 しかし、「偶然だよ」と教えてくれる友達が彼にはいなかった。 



 ソフトを手に取り、財布を取り出し、天音久遠はレジへと向かう。



 なんと、彼はここで”運命”を信じてしまったのだ。

 この最高にクールな思考パターンは、ひとえに久遠が中二病を卒業し切れていないことの証明であり、彼の短所でもある。決して頭を打ったからではない。

 


 結局のところ、久遠は何も変わっていなかったのだ。

 仮に運命というものが存在するならば、それは自らが切り開くべきものであり身を委ねるものではない。

 ただ”なんとなく”楽しんでいた阿修羅会時代、きっと運命だと”なんとなく”ソフトを手にしてしまった今回。


 まるで変わっていない。


 成長していない。


 若干15歳の少年に急な成長を求めるのは酷かもしれない。

 だが、手痛い一撃を喰らった昨日の今日。

 過去の失態を顧みれば、自ずと見えてくるものもあったはずだ。

 色々と反省することもできただろう。

 自身の未熟な点にも気が付くことができたかもしれない。 


 気が付かないまま久遠は代金を払い、フェアリア・クロニクル・オンラインを購入してしまった。

 そしてレジで会計をしてくれた店員のお姉さんが、何故かとても気の毒そうな顔をしていることにも気が付くことはなかった。




※ 頭でも打った?

テレビ大好き天音母。

彼女は物事に集中すると周りが見えなくなるタイプなので、久遠が派手にすっ転んだにも関わらずそのことに気が付いていません。

しかし人や動物の声には反応できるので、話しかければ会話は成立します。

得な性分です。

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