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天音久遠の朝食で語る哲学的運命論 2

 PKクラン『阿修羅会』壊滅。

 不意に思い出した事実に天音久遠は動揺する。


「本当に大丈夫?ひどい顔だよ。」


 息子のただならぬ様子に母が怪訝な眼差しを向ける。久遠は咄嗟に誤魔化した。


「……男前だろ?」



 数秒の沈黙。



「アホか。」


 白けたように再びテレビに向き直った。うまくいったようだ。




 二口、三口と味噌汁をすすり、どうにか平静を取り戻そうと苦心する。それと同時に久遠は安堵した。

 以前述べた通り阿修羅会はクランサブリーダーの裏切りによって壊滅したのだが、なんとこのサブリーダーというのが久遠の()()()なのである。

 

『シャングリラ・フロンティアというゲームで阿修羅会というPKクランを立ち上げていたのだが、ある日大手クランの連合軍に襲撃を受け敗走。その後この事態がサブリーダーを勤めていた姉の裏切りによるものだと発覚し、結局メンバー全員がキルされてクランは壊滅に追いやられた。』 


 このクソややこしい文章をものすごく簡単に要約すると


『ゲームでお姉ちゃんにイジワルされた!』となる。


 クソダサい。

 ダサいことこの上ない。

 それではこれを平仮名にしてみよう。


『げーむでおねえちゃんにいじわるされた!』


 情けなさ100倍。

 クソである。

 母に誤魔化した理由はコレだ。

 こんな泣き言が許されるのはせいぜい5歳児までであり、使用期限を10年近くオーバーした久遠がこのセリフを使うことは許されないのである。

 たとえ世間様が許しても、プライドが許さないのである。クソクソのクソだ。


(……つか、さっきからクソクソ考え過ぎだわ。)


 久遠は梅干を口に放り込んだ。強い酸味がマナー違反でクソったれな自身の思考を戒める。



 さて、驚き、動揺し、羞恥に悶え、アスタリスクマークみたいになった口で酸味を堪能した後、天音久遠の胸中に去来した感情とは何か?

 それは意外にも虚しさであった。

 親しい身内に裏切られたことによる怒り、長い時間をかけて作りあげた組織を潰された憎しみ。そういったものが全く無いのかと問われるとそうではないのだが、今は胸に溢れる虚しさでそれらの感情に気を回す暇がないのだ。


 天音久遠にとって阿修羅会とは大切なものだったのか?


 自問自答


 答えはYES。即答である。


 それでは、天音久遠にとって阿修羅会とは必要なものだったのか?


 再びの自問自答


 


 ……答えはNO。躊躇いがちの否定。


 似たような質問に異なる回答。これらの結果は阿修羅会という組織の本質を突いていた。

 

(最初はただ、刺激が欲しかっただけだ。)


 そもそも阿修羅会はPKクラン、メンバーたちは同じ理念を掲げてはいるが信頼関係で結ばれた集団ではない。見知らぬ他人と即興で組んだ野良パーティの方がまだ信頼が篤いのでは、とさえ思う。

 

 味噌汁にパッパッと七味を振り掛けた。一口、二口。辛味が効いて味に変化が生まれる。

 

 それでは何故そんな連中が統制の取れたクランとして成り立っていたのか?

 それはクランサブリーダーである久遠の姉、永遠(とわ)の存在があったからだ。

 永遠がそのカリスマ性を遺憾なく発揮してクランを引っ張ってきたからこそ、一癖も二癖もありそうなメンバーたちが争うことなく協調できたのである。

 久遠はリーダーという立ち位置にはいたが、実際はお飾り。新参に睨みを利かす程度のことはできたが、実権などほとんど握ってはいなかった。

 

 計画を立てるのはいつも姉。

 

 現場で指示を飛ばすのも姉。


 姉。


 姉。


 姉。


 

 面白くも無い。

 天音久遠は過去を思い出し苛立ちを募らせる。味海苔をパリパリしながら苛立ちを募らせる。

 だから彼はクラン内に自分の派閥を作ることにしたのだ。

 自分が唯一デカい(ツラ)ができる新人たちを徹底的に支配下に置き、クラン内における自身の地位向上を図った。


 久遠の派閥は日に日に勢力を増していった。

 取り巻き共を従え、一般プレイヤーを袋叩きにした。

 容赦なく奇襲を仕掛け、好きなように略奪した。

 時にはカルマ値や施設利用の関係上、敵対することが得策ではないNPCさえ手にかけた。

 自分が中心になり、自分が全てを仕切る。

 楽しかった。

 

 ほろ甘い玉子焼きを齧りながら思い出にふける。

 

 卑怯だの悪質だの、他人の迷惑だのとそんなことは関係ない。あのころはとにかく楽しく、全てが充実していたような気がする。

 

 余韻に浸りながら続けて本日のメインとなるおかず、照り焼きチキンに手をつける。

 箸を突き立て一口。

 

 冷たい。

 

 どうやら冷蔵庫で保存してあったものを、加熱せずそのまま出していたらしい。

 一瞬顔をしかめる。が、これでいい。

 すかさず飯をかきこむ。

 冷たいチキンと熱い飯。この二つの温度差が、口の中でえもいわれぬハーモニーを生み出した。


 

 (温度差……。)




 (そういえば、丁度あのころだったか。)



 阿修羅会内部で、久遠の率いる一派と古参のメンバーたちがギクシャクし始めたのは……。




 久遠自身はそれを知らないし、これから知ることも恐らく無いが。

 阿修羅会のPKerたちというのは、例えば仮想世界で悪役になりきるロールプレイが目的だったり、純粋にプレイヤーvsプレイヤーの真剣勝負が目的だったり。

 要するにそれぞれが明確な目的意識を持っていたのである。

 無意味、無目的。しいて言うなら”ただなんとなく楽しむ”ために悪事を働く久遠一派(小悪党)は、阿修羅会古参メンバーの多くにとっては相容れないものだったのだ。


 時が経つにつれて結成時のメンバーは一人、また一人と脱退していき、最終的には天音姉弟だけが残った。

 そして残った姉は組織を売り、残った弟は朝飯を食べている。



 天音久遠は感傷に浸る。

 浸りながら、昨晩対峙した姉の言葉を思い出す。 



今の阿修羅会(こいつら)はPKの()を理解していない()()ってるだけの三流だよ。”


(うるせーな、それのなにが悪いってんだよ……。)



 天音久遠は感傷に浸る。

 あくまで感傷なので、特に反省はしない。



”ぶくぶく太って痩せるのが怖いからってチキンになっちゃってさぁ……”


(笑えるな、腰抜け(チキン)鶏肉(チキン)食ってるぜ。)



 天音久遠はチキンを齧る。

 齧って、齧って、食いつくし。

 飯も一気に平らげた。



”だから私が腹パンして腹の中のもの全部吐かせた、それだけだよ。”


(……やめてくれ、いまメシ食ってんだから。)



 



 天音久遠はその日、全てを失った。

 

 しかし思い返してみれば、失ったのはキャラのレベルとアイテムと、一欠けらの信頼も無い薄っぺらな人間関係だけだったのだ。

 

 そんなものに果たして価値などあるのだろうか?

 

 それは当の本人にしか判断のつかないことなのだが。


 とりあえず、天音久遠のシャングリラ・フロンティアでのPKer人生はこうして終わりを迎えたのだった。


 残った味噌汁を飲み干し、お茶で締めくくり。

 天音久遠の朝食もまた、終わりを迎えたのだった。

※ 阿修羅会

阿修羅会の内情とかは本編で聞きかじった情報と、私の妄想とで出来ています。

コレおかしくね?的なことがあっても優しく流してください。

小説とか書いたの初めてなので慣れていないのです。

初めてなので優しくしてください。

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