天音久遠の朝食で語る哲学的運命論 1
ジャンルがVRゲームではなくコメディな時点でお察しですが、この作品に本家シャングリラ・フロンティアと同じ類の面白さは求めないほうが良いと思います。(保険)
うだるような暑さで天音久遠は目を覚ました。
容赦ない8月の朝の日差しによって部屋はさながら蒸し風呂のようだ。
頭がボーッとする。昨晩は確か……何があったのか、よく思い出せない。首を傾げる。
頭がボーッとする。脳は睡眠を求めているが、体はカロリーを寄越せと駄々をこねる。腹がグゥっと情けない音を鳴らした。
このまま二度寝するか、階下に降りて朝食を摂るか。しばし悩んだ後、結局起きることに決めた。このままここで干物になるより、干物を食って生き延びることこそ生物として懸命な判断である。
そうだ、今日の朝食はアジの干物に違いない。自身のひらめきに運命的なものを感じ、久遠はなんの根拠もなくそう確信した。
暑いならクーラーを使えばいいじゃないか、と気が付いたのは階下に降りた後のことだった。
カタツムリの様にゆっくりと洗面所へ入り、ナマケモノの様にのっそりと顔を洗う。頭はまだスッキリしない。
仕方が無いのでリビングへ向かった。ゾンビの如くノロノロと向かった。
ゾンビのように、リビングへ。
(これが本当のリビングデッド。)
などと心底頭の悪そうなことを考えていると、そこでは母がソファーに座ってテレビを見ていた。
「おはよ、メシは?」
「んー。」
と、テーブルを指差す。
ご飯、味噌汁、玉子焼き、お茶、味海苔に梅干。そして昨日の夕飯の残りだろうか、照り焼きチキンが並んでいる。なかなか豪勢な朝食だ。
しかも湯気が立っている。夏休み中で、しかも夜更かし常習犯なこの息子は昼前まで起きてこないこともザラだというのに……。
久遠が起きてくることをあらかじめ察知していたのか?
それとも階段を降り、顔を洗うまでの短時間でここまで支度をしたのだろうか?
どちらにせよこの母、のほほんとしているようで只者ではない。
しかし。アジの干物が、無い。
そうなのだ。
今朝の気分はアジの干物だったのだ。
久遠は運命を呪った。干物を求め、なお得られぬ自身の運命に深く絶望した。
恨めしげに母を睨むが、彼女はテレビに夢中で全く気付いていないようだ。
気を取り直して席に着き、味噌汁を一口すする。優しい味が口一杯に広がり、飲み下せば胃の腑がポカポカと暖かくなる。
いい匂いだ。ゆらゆら揺れる湯気とは対照的に、意識は次第にしっかりしてくる。
脳が目覚める。
ぼんやりとした頭が徐々に覚醒していき……
「あっ!」
「え、なに?」
突然上げた大きな声に、母がこちらへ顔を向けた。
「あー。いや、なんでもない。」
「……?」
そう、なんでもない。
ただ昨日、阿修羅会が壊滅したことを思い出しただけだ……。
なぜかこの流れで次回に続きます。
なんでこの主人公は丸々2話使って朝飯を食おうとしているのでしょうか?
分かりません。
まともにゲームをやり始めるのは4話か5話か6話になると思います。(ノープラン)