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手と手を取り合い、友達の輪! 2

なにやらシャングリラ・フロンティアの方で我らが主人公 天音久遠さんの再登場フラグが立ったっぽいですね

おめでとうございます

「ああ、そういやそうだったな……」


 そういえば、と天音久遠は前回のチュートリアル(仮)での出来事を思い出していた。

 あの時も何かの拍子でフェアリアの手を握り、そのタイミングで彼女の好感度が上がったのだ。


「どうやらお仕置きしてやるつもりが、逆にご褒美を与えてしまったようだな」


 やれやれ、と肩を竦める久遠。

 手を握られただけで相手を好きになってしまうお手軽チョロインか、はたまた全身性感帯の淫乱クソビッチなのか。どちらにせよ関わり合いになりたくない類の人種である。あと、健全な中学生男子がそんなセリフを言ってはいけない。不健全でもダメだが。


(さて、と……)


 これからどうするべきか?

 天音久遠は次の一手を考える。

 このまま三度部屋からの脱出を図ったところで、この虫女(フェアリア)は即座に立ち上がり久遠の行く手を阻むだろう。

 だがしかし、だからといって他に手立てがあるのだろうか?

 

 ”二度あることは三度ある”。


 ”三度目の正直”


 相反する二つの諺が久遠の頭の中をグルグル廻る。

 前者は過去の失態から学び、慎重に行動すべきだという賢者の言葉。

 後者はどれだけ痛い目に合おうとも一切懲りることない愚者の言葉。


(どちらかといえば賢者な俺としては、前者を選びたいところだが……)


 ……?


 ちょっと彼が何を言っているのかは分からないが脱出は一旦諦めて様子を見ることにする、ということだろうか?


(変化が起こらないなら、自分で行動しない限り事態は動かないワケで……)


 なるほど、つまり”アホだと思われたくないから予防線を張っておこう”という魂胆らしい。

 なんと愚かしいことか。

 自分一人しか居ない状況で、一体誰に対して見栄を張ろうというのだろう?愚者丸出しである。

 そんな丸出しの愚者だから()()()()()()()()変化にすら気付かずに愚を冒そうというのだ。



「さーてと、それじゃあ俺はこの辺で……」


『 クオン殿』


「ひぁッ!?」



 変な声が出た。



(なんだ!? 今の誰だ!?)



 混乱する久遠。

 キョロキョロと大慌てで部屋を見渡してみれば、先ほどフェアリアに紹介された三人の旅の仲間……そのうちの一人、騎士風の大男の頭上にマーカーが出現していた。



 ”献身の大盾”神殿騎士団長 カーライル(lv3)



(なんだこれ、さっきまでこんなの出てなかったよな?)


 先ほどまでとは明らかに異なる変化だ。もしかしていま喋ったのもこの男なのだろうか?

 そんな久遠の疑問に答えるかのように男は更に言葉を紡いだ。


『確かに我々は貴殿の力に期待し、貴殿をこの世界へと召喚した。あえて立場というものをハッキリさせるならば……それは貴殿が上、助力を請う我らが下であることに間違いはない。それは事実だ』


「お、おう……」


『しかし立場に胡坐をかき、何もかもが自分の思い通りになるなどと思っているならばそれは間違いだ。勝手なマネは許さん。あまり調子に乗らないことだな』


「お、おう……?」


 長文でまくし立てられ咄嗟に打った相槌は、さながらオットセイの鳴き声のようだ。


(野郎、lv3のクセに随分レベルの高いマネしてくれるじゃねえか!)


 他者との会話に慣れていないものにとって、この手の長文早口は鬼門なのである。

 頭の中で悪態を付きながらも、久遠の心は更に混迷を極めていた。

 なぜ初対面の人に、敵意剥き出しでここまで言われなければならないのか。

 しかも相手の言い分は「罵倒」というより「叱責」という感じだ。

 自分は何をしてしまったのだろう?少なくともここまでボロクソに言われる筋合いはないハズだ。

 

(フェアリアさん、何とかしてくださいよ。アンタが引き合わせたんでしょう?)


 ……と虫女さん(フェアリア)を見やれば、彼女は痙攣しながらも奇跡的に久遠の意図を汲んでくれたらしい。



『まぁライル、そんなことを言ってはダメよ。今日は クオン様と貴方たちとの親睦を深める場なのですから』


『ですがフェアリア様、この者の振る舞いは目に余りますぞ』



 酷い言いがかりだ、と久遠は大男を睨み付ける。



『ボクもカーライル殿の意見に賛成ですね』



 今度は隣に座っている弓使い風の優男が口を開いた。

 さっきまで黙りこくっていたくせに、どういう風の吹き回しか。

 久遠は目まぐるしく変化する環境にワクワクしつつ、なぜか自分に対する風当たりが強くなりつつある現状にげんなりした気分になった。



『そもそもボクは勇者召喚という行為自体反対だったんですよ、今回の件だってボク一人居れば解決できるんですからね』


『まぁ、リュークまでそんなことを言って……』


(リューク、ね)



 それが奴の名前らしい。目を向けるとカーライルと同様に、彼の頭上にもマーカーが出現している。



 ”四属の賢人” 大魔導 リューク (lv5)



「魔法使いか!?」



 思わず声を上げた。が、誰も反応しなかった。


(このナリで魔法使い!? 弓背負ってんのに!? っつーか”四属の賢人”ってなんだよ。四属? まさかコイツ一人で四属性の魔法が使えるとかじゃないよな!?)


 キャラメイクの時に得た情報では確か、魔法使いは火・水・風・土の中から一つの属性しか選べなかったハズだ。もしも久遠の想像通りリューク一人で四つの属性を使いこなせるとするならば、それは最早ブッ壊れどころではない。

 なにせ相手の弱点にあわせて使用する属性を選べるのだ。もちろん後衛職である以上敵の攻撃を受け止めるタンク役の存在が欠かせないのだが、それでも攻撃役は彼一人で賄えてしまう。

 こうなるとプレイヤーの立つ瀬がない。特に一種類の属性しか使えない”魔法使い”などは完全下位互換であり、存在意義すら危ぶまれる。


(……しかし)


 ここで気になるのは、やはり奴の装備だ。

 弓を背負っている。

 何度もくどい様だが、奴は弓を装備している。

 魔法使いのクセに。

 これは一体どういうことなのだろう?


(ッ!!)


 この瞬間、ある仮説が久遠の脳裏を稲妻のように駆け巡った。


(矢に属性を纏わせ……いや、あるいは魔力そのものを矢の形にして……?)



 弓を背負った異端の魔道士


 炎・水・風・土、魔力によって生み出された四色の矢を自在に放つ魔を繰る狩人



「畜生ッ! カッコよすぎか!!」


 思わず叫んだ。叫ばずには居られなかった。

 これほど厨二心をくすぐられる設定を見せ付けられて、平静を保てる中学生男子などこの世に存在しない。くすぐられすぎて過呼吸を起こしそうだ。


(クソッ、許せん!)


 こういうジョブこそNPC専用ではなく、プレイヤーに就く権利を与えるべきではないか。開発者は一体何を考えているんだ?

 久遠は怒りのままテーブルのシュガーポットを手に取ると、リュークの頭の上に二杯、三杯と砂糖を振り掛けた。


「ケッ、ざまぁみやがれ! てめぇの低能なオツム(AI)じゃあこの行為を敵対行動だと判断できねぇだろ!」


 頭を白く染めキョトンとした顔をしたリュークに対し、愉悦を隠そうともせず勝ち誇る久遠。

 嫉妬に狂った男の顔の、なんと醜いことだろう。


「アリに喰われちまいな!!」


 ……決めゼリフのつもりだろうか?


 ダサい。

 

 この上なくダサい。


 なんとも言えない微妙な空気が流れる中、未だ黙ったままだった仲間候補三人目の少女がおずおずと口を開いた。



『そ、そうですよリューク様。これからは私たち5人で一緒に旅をするんですよ?折角だから仲良くしましょう?』


『仲良くぅ?』



 何とか場を納めようとする少女の提案に、リュークは小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。



『エアリス、これは仲良し小好しのままごと遊びじゃないんですよ? 私は必要以上に馴れ合うつもりはありません』


『遊びじゃない? だからこそですよ! 私は必要最低限の協力は必要だと言っているんです!!』



 一見して気弱に見えた少女・エアリスは、見た目の印象に反し毅然とした態度で言い返した。この中で一番真面目というか、使命感が強いのは彼女なのかもしれない。

 

「でも最初に会ったときの反応で一番イヤそうにしてたのキミだからね。オレは傷付いたからな」


 言うべきことはしっかり言っておかなければいけない。久遠は空気を読まずに口を挟んだ。



『……。』


『……。』


「……。」



 沈黙が場を支配する。

 とりあえず自分が何を言ってもスルーされるということが分かったので、久遠はこの時間を有効利用すべくエアリスの頭上に視線をやった。彼女にも例の如くマーカーが出現している。



 ”献身の乙女” 少女 エアリス(lv1)



「……。」



 ”献身”がカーライルの二つ名と被っている。

 神殿騎士団長・大魔導と来て、少女である。前者二名に比べ大きく見劣りする。

 色々気になるところはあるが、そもそも”少女”とは? 抽象的すぎて意味不明だ。

 どんなジョブなのだ? というかジョブなのか? ……少女。


(っつーかレベル1て……)


 ツッコみ所満載な少女の肩書きに久遠は辟易とした。

 が、冷静に考えてみれば救世主たる久遠……もといクオン自身もレベル1である。

 神殿騎士団長がレベル3、大魔導がレベル5なのだから、この世界において普通の少女の力量とはこのあたりが妥当なのかもしれない。



『リューク、私たち5人はこれから一緒に旅をするのよ? 仲良くしなきゃダメでしょう!』


「ん?」



 不意に沈黙を破ったのは、案の定と言うべきかフェアリアであった。しかし……



『これは遊びじゃないのよ? みんなで協力して クオン様の旅をサポートするのが私たちの使命でしょう?』


『まぁ、フェアリア様がそうおっしゃるなら……』


 リュークは渋々といった風だが、一応納得したらしい。



『……ふむ、確かに我々も少々頭に血が上っていたようですしな』


 カーライルはやれやれ、といった感じに肩を竦めた。



「てめぇマジふざけんなよ!?」


 久遠はブチギれた。



「お前それたった今エアリスが言ったセリフにまんま被せただけじゃねーか! なに”自分がこの場を納めました”みたいな顔してんだよ!? ホンット性格悪いな、お前な! あとそこの自称大魔導! さっき同じこと言われたときはただムスーッとしてただけのくせに、今度はなんだよ!? 相手が違えば態度も変えるってか!? ざけんな!! それとデカブツ! お前だよお前! しれっと便乗してんじゃねーや! 窘めろ、コイツらを! お前はキャラ的にそういう奴だろ!?」


『フフッ、それじゃあ冷めない内にお茶を頂きましょう。お菓子もあるわよ』


「会話くらいしてくれてもいいだろう!?」



 久遠の悲痛な叫びに構うことなく、優雅な仕草でカップを口に運ぶフェアリア。

 しかし、覚えておられるだろうか?

 彼女の首は現在、通常ではあり得ない角度で捻じ曲がっているのだ。そんな状態でお茶など飲もうとすれば……



『キャアッ!!』


「あ~あ~、勿体ねぇなー」



 カップの中身は盛大に零れ、熱湯が彼女の胸元を紅く濡らす。

 と、同時に


 バッ!!


 と、効果音が聞こえそうなくらいの勢いで仲間候補の3人がこちらを睨み付けてきた。


「へっ?」


 何事かと、こちらも見返す。



『……。』


 神殿騎士団長カーライルがこちらを睨んでいた。

 その瞳の中では憤怒の炎が燃え上がっている。

 そのような目を向けられる謂れはないと思ったので、久遠は負けじと彼を睨み返した。



『……。』


 自称大魔導リュークがこちらを睨んでいた。

 その瞳は極寒のように冷たく、刺すような視線を感じる。

 そのような目を向けられ興奮する性癖(たち)ではないので、久遠は負けじと彼の頭頂部に砂糖を追加した。



『……。』


 職業不詳エアリスがこちらを睨んでいた。

 その瞳には最初に出会った時のような恐怖の色が強く見て取れる。

 そのような目を向けられてちょっとドキドキしてしまったので、久遠は出来うる限り精一杯の笑顔を彼女へと送った。



『『『……。』』』



 三者共にただこちらを睨むだけで、何か言ってくるわけではない。

 だが、よくよく観察してみると彼らの視線に含まれたある意思を読み取ることができる。



『フェアリア様になんてことを!!』



 彼らの目はそう訴えているのだ。


(えっ? いや、ンなこと言ったってオレ今回何もしていないじゃん?)


『『『……。』』』


 しかし、彼らは黙らない。

 一言も喋らぬままに抗議の声を上げ続ける。



(……ん?)



 こちらに反応しないNPC


 マーカーが現れたタイミング


 再び言葉を失くした人形たち



 これは一体どういうことなのかとしばらく考え、ある結論へと思い至った久遠は


(……。)

 

 その手を床へ倒れ伏すフェアリアへと差し伸べたのだった。





『 クオン様ぁ! クオン様ぁ! クオン様ぁ!』


『フェアリアの好感度が上がりました』


『フェアリアの好感度が上がりました』


『フェアリアの好感度が上がりました』



 天音久遠は精霊姫フェアリアの手を握る。



『流石は クオン殿、貴殿が居てくださればこの世界の未来は明るいですな!』


『私の魔力と貴方の勇気、二つが合わさればこの世に倒せない敵はいないでしょうね!』


『わ、わわ、私も微力ですが! 頑張って クオン様のお手伝いをさせていただきましゅ……ますね!!』


「……。」



 天音久遠は巫女フェアリアの手を握る。



『 クオン様ぁ! クオン様ぁ! クオン様ぁ!』


『フェアリアの好感度が上がりました』


『フェアリアの好感度が上がりました』


『フェアリアの



 なんか、もうメンド臭くなってきたのでテキトーに揉みしだいてやることにした。



『クオックオックオックオッククオックオッククコケーッ!』


『フェアリアのフェアリアのフェアリアフェアリアのフェアフェアフェア……』



 巫女から虫へと転落した女は、今度は鳥類への進化を果たしたようだ。

 鳥女さん(フェアリア)の成長を噛み締めていると、再び三人が話しかけてくる。



『貴殿は本当に素晴らしい方だ!』


『確かに、貴方ほどの逸材はこの世に二人と居ないでしょうね!』


『当たり前じゃないですか! なんたって クオン様は世界を救う勇者様なんですから!』


「……。」



 世の中にここまで酷い手の平返しが他にあるだろうか?

 先ほどまでの汚物を見るような目が一転、やれ勇者様、救世主様と崇められている。

 なんだか人間不信になりそうだ。



『 クオン殿!』


『 クオンさん!』


『 クオン様!』


「……。」



 この日、久遠には3人の友達が出来た。

 頼れる騎士長、聡明な魔導師、可憐な女の子、なんともファンタジーな3人組である。

 唯一つ、不満があるとすれば……




「人間の、友達が欲しかったなぁ」


『クオクオックオックコケーッ!!』



※ 好感度

フェアリア・クロニクル・オンラインの世界はありとあらゆる事象がヒロイン・フェアリアの一挙手一投足に左右されるというとてもイヤな世界である

早い話フェアリアの好感度が高ければ善人、低ければ悪人として扱われる

好感度はフェアリアとの会話で前後の文脈に関わらず相手を肯定する選択肢を選ぶと上昇、それ以外を選ぶと減少する。理不尽

フェアリアがダメージを負った際も理由を問わず、問答無用でプレイヤーの責任と判断されて好感度が下がる。理不尽

一部のイベントは一定以上の好感度がないと進まないため、このゲームに挑むプレイヤーは例外なくフェアリアのご機嫌取りに勤しまなければならない

ちなみにプレイヤーへの好感度がある数値を下回るとNPCはこちらの言葉に反応しなくなり会話が成立しなくなる為、詰み防止の救済要素として”手を握ると好感度が上がる”という仕様がこっそりと仕込まれている




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