手と手を取り合い、友達の輪! 1
こんがらがってきたので2分割
フェアリアの手に引かれ、天音久遠は神殿の廊下を進んでいた。
豪華絢爛……絢爛豪華?どちらが正しい表現だったかは忘れたが、とりあえずそんな言葉が似合う豪勢な造りだ。
が……
「ひっでー廊下だな」
これはいささか度が過ぎる。
いかにも高級といったきらびやかな調度品が所狭しと敷き詰められた廊下は神殿というより王城だ。
何も知らなければ『成金趣味の貴族の屋敷だ』と言われても疑うことはないだろう。
「確かにあんまり貧相だと威厳に欠けるけどよぉ、ここまで来るとやり過ぎだぜ?もうちっと控えめにいこうや」
馴れ馴れしい調子で軽口を叩く久遠。
「謙虚は美徳だぜ?少なくとも日本人的な感性ではな」
『……。』
対するフェアリアは無反応。
どういうわけか、ついに頭の中までお人形さんになってしまったのだろうか?
「よく知らねーけどお前、ここじゃ結構偉いんだろ?やめさせろよ、こーゆーの。もっと……なんつーのかな、有効的に使おうぜ?カネは。大事だろ?慈善活動とかよ、そういうのに使えよ。な?」
愉快なモノローグは続く。しかし、語彙が足りない。
彼には友達がいないので一般的な中学生男子に比べ、対人経験値が圧倒的に不足しているのだ。
「……なぁ、そろそろ機嫌直せよ。悪かったって、さっきのはよぉ」
重苦しい空気に耐え切れず、久遠はとうとう謝罪の言葉を口にした。
実際には先ほどの暴力行為はあくまで正当防衛であり、悪かったなどとは微塵も思っていないのだが嘘も方便である。
「だからよぉ。いい加減足、離してくれねぇかな?」
そう、冒頭にて『フェアリアの手に引かれ』と言いはしたが、決して手と手を取り合いイチャコラしていたわけではない。
前回、フェアリアに屈した久遠は、そのまま足をひっつかまれ茶会の会場へと連行されていたのだ。
(この女、本当に人の足を引っ張るの大好きだよな……)
内心毒づく。
さながら荷物のように廊下を引き摺られ、久遠の体力と精神力がゴリゴリ削られていく。
体力の方はフェアリアの回復魔法により即時回復するので問題はないが、損なわれた尊厳は戻ってこない。そしてそれは現在進行形で失われているのだ。
従って、この状況は早急に何とかしなければならない。
「心配しなくてももう逃げやしねーって。なっ!?」
心にもない戯言を垂れ流す。
保身のためなら手段は選ばない、それが天音久遠という男なのだ。
『……。』
対するフェアリアはやはり無言。ジーッとこちらを見つめるも、一言も話そうとはしない。
「なぁ……?」
ヘラヘラと軟派な笑みを浮かべる久遠。
「せめて、前見て歩こうぜ?」
『……。』
フェアリアは相変わらず無言だったが何を思ってか、ただニコリと笑みを浮かべた。
「……。」
彼女の首はグニャリと折れ曲がったままである。
久遠は笑い返すことができなかった。
◇
案内されたのはどうやら客間のようだった。
無駄に豪華なソファーにテーブル、その上には茶菓子とティーポットを中心に人数分、計五つのカップが並べられている。
『紹介いたします、 クオン様。彼らは クオン様の救世の旅に同行を申し出た勇敢な戦士たちですわ』
ソファーには既に三人の男女が座っている。
なるほど、この唐突な茶会はプレイヤーと仲間NPCたちとの顔合わせの場も兼ねていたということらしい。
それはともかく、久遠は一言言わずにはいられなかった。
「お前、俺をバカにしてんのか?」
『……?』
これは未だに捻れたフェアリアの首を心配しているワケではなく、『さっさと冒険したいのにこんなイベントブッこむとか正気かよ!?』と文句を垂れているワケでもなく……。
「どう見ても人を歓迎しようって態度じゃねーだろうが、こいつらよぉ」
ソファに座る三人。
腰に剣を挿した厳つい鎧の大男。
弓を背負った軽装の優男。
”可憐”という印象を抱かせるローブ姿の少女。
順に騎士、弓使い……最後はちょっと分からないが、恐らく魔導士か薬師あたりだろうか?
しかし、いま問題とすべきはそんなことはではない。
『……。』
大男は腕組みをしたまま硬く目を瞑り、仏頂面で押し黙っている。
『……。』
優男は我関せずといった様子で、興味なさげに紅茶を啜っている。
『……。』
少女は目に涙を浮かべ、怯えを隠し切れない様子で俯き震えている。
「ふざけるなよッ!?」
天音久遠の怒りが爆発した。
「俺はプレイヤーだぞ!? 主人公だぞ!? 勇者で救世主だぞ!? ナメてんのか、ああッ!?」
かなりメタい発言だが、彼の言い分も尤もである。
怒りの咆哮は尚も止まらない。
「大体アレだよなぁ!? たしか”復活した邪神を倒すために異界から召喚された勇者”とか、そんな設定だったよなぁ!? 俺はよぉ!」
説明書に書いてあった物語の設定では確かにそういうことになっている。わざわざ金を払ってソフトを購入したという点では”彼自身が進んで首を突っ込んだ”と取れないこともないのだが、今はそのことについて目を瞑ることにしよう。
「テメーらの都合で勝手に呼びつけたクセに、何なんだその態度はッ!?」
テーブルをダンッと殴りつけ、ビシィッと効果音が付きそうな勢いで面々を指差す久遠。
心のまま思いの全てを吐き出し、言うべきことはぶつけたつもりだ。
『『『……。』』』
が、案の定答えは”沈黙”。3秒ほど待ったが誰も何も話そうとしない。
「ンの野郎共……」
激情を吐き出したことで一旦は落ち着きかけた久遠の怒りが再び爆発……
(ん……?)
するかと思われたが、ここで彼は違和感を覚えた。
このゲームのNPCと会話が成立しないなんてことは今に始まったことではない。こちらとしてもそれを承知の上で話しかけ、理解した上でキレているのだ。
しかし、会話できないまでもプレイヤーが発した”言葉”に対しては何かしらの反応を示すハズである。少なくともフェアリアはそうだった。
そう、フェアリアだ。
思い立って彼女へ視線を走らせる。
いつからだ、いつからコイツはおかしくなった?
(いや、元からおかしいんだけど……)
おかしい奴が更におかしくなったら、一周回って正常になるのだろうか?
答えは”否”だ。コレがまともに見えるというなら、そいつは既に手遅れである。
閑話休題
この異常事態の原因は一体何なのか?
考えろ。
考えろ!
考えろ……!!
(……分からん)
分からなかった。
(分からんが……)
分からないが……?
久遠は決意めいた表情を浮かべるとスッと立ち上がり、巌の如く押し黙ったNPC達を見渡し宣誓するかのように言い放った。
「こんな所にいられるか! 俺は部屋に戻らせてもらうぜ!」
なんと彼は敵前逃亡を図った。
状況はよく分からないが、とりあえずここから脱出するチャンスだと思ったらしい。確かに物言わぬ人形共が相手なら、逃げ出すことは造作もないことだろう。
しかし、安直に立てたフラグというものは早々に回収されるのが世の常である。
『 クオン様、どこへ行かれるのですか?』
フェアリアに手を掴まれた。
「言っただろ?自分の部屋に戻るんだよ、現実世界のな」
臆することなく言い返す久遠。どうやらただフラグを立てたのではなく、彼なりにウィットを効かせた発言だったらしい。
『……。』
が、彼女は再び黙り込みこちらに反応しなくなってしまった。渾身のユーモアをスルーされ、顔を真っ赤にしながら久遠は叫びを上げる。
「だーっ! なんなんだよ、さっきから! 喋ったり黙り込んだりよぉ!」
『……。』
「もしも~し? 頭大丈夫か? お?」
フェアリアの頭をトントンと叩いてみる。無論、敵対行動と判断されない程度の力加減でだ。
すると……
『キュァアッ!!』
フェアリアは突如奇怪な悲鳴を上げると床に昏倒。
ギュルンギュルンと首を2回転させた後、ビクビクと痙攣し始めた。
「いやお前、それキュアっつーかデスだろ……」
この光景を前に、天音久遠の胸中に悲しみの感情が去来する。
その昔、この国の年号がまだ昭和だった時代。具合の悪い家電製品は軽く叩いてやればその調子を取り戻したという。
機械なんてのは世代を経るほどに性能が上がるものだと相場が決まっているものだ。技術は常に進歩し革新を続けているのだから、それが当たり前なのである。
だというのにこの女はどうだ?
軽く小突いただけでこの有様である。平成産まれのVRゲームが昭和の家電に劣るとは全く情けない限りだ。
(もっともお前もそんな上等なオツムだったら、こんなクソゲーのヒロインなんかやってないんだろうけどな)
倒れ伏し無様に痙攣するその姿は、さながら死にかけの昆虫である。
身も心もバグに侵された哀れな虫女に憐憫の眼差しを向けると、寂しげに顔を伏せ久遠は部屋を後に
『 クオン様、どこへ行かれるのですか?』
フェアリアに手を掴まれた。
この世で最も嬉しくない天丼だ。
「……。」
久遠はウンザリした表情を浮かべながら手に思い切り力を込める。
『キャアッ!!』
堪らず悲鳴を上げるフェアリアだが、そんな彼女に構うことなく久遠は更に力を強める。
「綺麗にオチてただろうがよ~、そのまま倒れとけよなぁ~!?」
もはや先ほどの小突きのような手加減は一切ない。
味方への攻撃ペナルティをも全く恐れない、修羅の覚悟で彼女の細い手を万力のように締め上げてやれば……
『フェアリアの好感度が上がりました』
何故だか、好感度が上がった。
※ 昭和の家電
作中世界は未だ平成です




