第5話 金策は生存の秘訣
膨大な広さを誇る大陸に数百の国家がひしめき合う、群雄割拠の世界。
アースガルド、それがこの世界の名前だ。
そしてその中でも最も栄える大都市ハタツミ。
かつて商人だった王による巧みな内政としたたかな外交によって、たった50年で大陸内最大級の領土を獲得した奇跡の国。
セナによって語られたのはこの国の歴史、その要約だった。
「それで、聞きたいことはそれだけかしら、トラベラーさん?」
コウが飲み終えたワインのグラスを下げながら、セナは問いかけた。
「トラベラーさんはやめてくれよ、コウでいいよ」
自分でまいた種とはいえ、そう言われるとなんとも気恥ずかしい。
「あともう一つだけ聞きたいことがある。この国でのお金の稼ぎ方についてだ。なんか手っ取り早く大金を儲ける方法ない?」
問題提起と質問をミックスしたやけに尊大な問いかけに対してセナは肩をすくめて答える。
「手っ取り早く大金って⋯⋯アンタ、なんか資格持ってるの?」
「⋯⋯資格ってなんですか?」
呆れたようなセナの目線が突き刺さった。
——全術商業資格——
剣術、魔術、弓術、錬金術、美術、商術、エトセトラ、エトセトラ。
この国でなんらかの技術ないし手段を用いて直接的に収益を得ようとする場合、その者はそれに値する技術資格を持っていなければならない。
ほとんどの資格にはランクが存在し、下級錬金術、中級錬金術、上級錬金術などと三段階に区分されるが、例外として剣術、魔術、弓術には多数の流派が存在し、それに応じて20前後の階級が存在する。
「要するに、護身用に剣を使うのはいいけどそれを使ってお金を稼ごうとするには資格がいるってことよ」
「直接的って、具体的にどの範囲で?」
「そうね⋯⋯例えば剣を使ってモンスターなり動物なりを狩ってその素材を売るぶんには資格は必要ないわ。でも道場なんかでその剣術を人に教えたりして授業料を貰うとなると資格が必要になる」
「命の危険が常にある狩りと、街中でぬくぬくと剣を教える指導者。どっちが儲かるか、わかるわよね?」
皮肉げに頬を歪ませながらセナは問うた。
「そりゃ、指導者だろ」
コウは一切の迷いなく答えた。
「いつの世も、リスクってのは弱者が一方的に背負わされる宿命みたいなもんだからな」
コウのそのセリフは、セナがこれまで感じたことのない重さがあった。
「⋯⋯アンタ、本当に何者?」
セナの口からこぼれたそのかすかな問いかけに、コウは答えなかった。
「それで、その剣術資格を取るにはどうすれば良い?」
あくまでも現金なそのコウの態度に、セナは軽く鼻白んだ。
「お金がないならお勧めできないわ」
「というと?」
「剣術資格を取るには流派に入らなきゃダメって、言ったわよね?」
「おう」
「その流派の会費がシャレになんないのよ」
その言葉を聞いてコウは内心なるほどなと思った。
もともと、誰でもできることなら儲けがいいはずがない。一部の限られた人間しかできないからこそ、高額な金が動く。
コウはその限られた人間が才能ある人間のことだと思っていたのだがどうやらこの世界ではもう一つの関門があったようだ。
「なんかないの? 裏口入学みたいなやつ?」
最も、この程度で諦めるほどコウも素直ではなかったが。
これに対してセナも悪女的な笑みを浮かべて切り返した。
「あるにはあるわよ、どうしようもなく高難度の裏ワザ」