第4話 暴力的解決
「落ち着け! べつに争うつもりはないんだって!」
女の猛攻を必死になって捌きながらコウはもう何度目かわからない説得を試みる。
それにしてもこの女、強い。
すらりと長い手足から繰り出される攻撃は変則的で読みにくく、こちらの攻撃が届かない絶妙な間合いで立ち回っている。その読み、予測はこの女がかなりの死線をくぐり抜けてきたことを物語っている。
(⋯⋯しかし、これじゃあラチがあかないな)
またもやこちらの問いかけを完全に無視して繰り出された三段蹴りを躱わしながらコウは和解を諦めた。
(まあ、ぶっ倒してから聞けばいいや)
途端、コウは動いた。女の懐、コウの手足が届く間合いに。対する女は瞬時に右足を薙ぎ、足払いを仕掛けた。
しかし、当たらない。
コウは地面に足をつけていなかった。滑り込むと同時にコウは思い切りその場で飛び上がっていた。その姿を信じられないような物を見る目で女は見つめる。
近接格闘でジャンプはご法度。
そんな初歩の初歩を、今まで自分の攻撃を捌ききっていた男がするはずがない。
何かがある。そう分かっていながらも、女は飛びかかってくるコウに対してナイフを突き出した。
ぞぶりと女のナイフが貫いたのは、コウの左手。その左手がナイフごと女の右手を掴む。そのまま覆いかぶさるように、コウは女を押さえ込んだ。
「ふぅ、じゃそろそろ話を聞いてもらおうか?」
「⋯⋯分かったわよ」
女はコウの手を振りほどこうとひとしきりもがいていたが、コウの余裕の声を聞くと以外にも素直に応じた。
「いくつか質問に答えてもらう。まず、なんで攻撃してきた?」
「⋯⋯それはあんたの方がわかってるんじゃない?」
しかし、女は反抗的な目線でコウを睨みつけてくる。困ったような顔でため息を吐いたコウは——
女の右手を容赦なく握りつぶした。
ゴキリと手の骨が砕ける音が辺りに響く。
「——くぅっ!」
くぐもった悲鳴をよそに、コウは尋問を続ける。
「もう一回聞くぞ? なんで俺を攻撃してきた?」
「⋯⋯殺し屋だと思ったからよ」
どうやらこの女は殺し屋に狙われるような人物らしい。
「んじゃつぎの質問だ、お前は何者だ?」
「⋯⋯セナ・フラット。賞金首かしらね」
女は冷めた目つきでそう呟いた。
「なるほど、納得だ。じゃ俺が賞金稼ぎのマンハンターじゃなければ敵対する理由は無くなるわけだな」
そう言うとコウは訝しげな表情のセナの手を離しその場に立ち上がった。
「よし、なら今から俺たちは対等だ。俺はコウだ、よろしく、セナ」
まるでこれまでの戦いがなかったかのように手を伸ばしてくるコウを、セナはあっけにとられた表情で見上げた。
「アンタ⋯⋯変わってるね」
セナは手を伸ばそうと右手を持ち上げ、痛みに顔をしかめる。予想外のコウの反応に忘れていたが、先ほどの争いで彼女の手の骨は砕けていた。
「ああ、痛い思いをさせて悪かったなぁ」
コウも思い出したように謝るとセナの右手をそっと握った。
「ハイヒーリング」
途端、コウとセナの手を緑の光が包み込んだ。柔らかな熱を持ったその光が収まった時、二人の手には傷一つ残っていなかった。
「アンタ、魔法使いだったんだ」
「いんや、使えるだけだよ」
「⋯⋯あっそ、まあいいわ、とりあえず何か飲みながら話しましょ」
コウの手を離してスルリと立ち上がったセナは、すました顔でそう言うとスタスタとカウンターに戻っていった。
(⋯⋯お前も充分変わってるけどね)
コウは先ほどまでの自分の行いを棚に上げてそんなことを考えていた。