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異世界転生は一度でいい!  作者: 大杉俊
一章 目覚めと気怠げな死神
34/141

第34話 精神攻撃にも種類があります


 革命軍最前線、正義に剣をとった戦士たちはゼルドロとクロバが離れてからも指示通り、ジリジリと後退を続けていた。

 さて、そんな戦場に、あいも変わらず野太い雄叫びが上がる。


「ムアアアァァァ!」


 気合一番、咆哮とともに腰だめに構えた大太刀を振り払ったウチツネの一撃は、凄まじい轟音を響かせて盾兵の構える大盾を打つ。

 木刀とはいえ、実戦を想定して補強されたその大太刀は、盾の抵抗など微塵も感じさせずに振り抜かれ、衝撃に耐えかねた盾兵を大きく後退させる。

 再び刀を腰だめに構え、迫るもう1人の盾兵を同じように弾き飛ばしてから、ウチツネはどかりと膝をつき、荒く息を吐いた。


「しかし、きりがないでござるな」

 

 コウ達が飛び出してからおおよそ1時間、その間ウチツネはひたすらに前線で押しよせる騎士達を押し返していた訳だが、後退の指示が出てからと言うもの、より騎士の勢いが増している。

 作戦として見た場合、そもそも囮として編成された前線部隊は騎士団の兵力の大半を釘付けに出来ている現状になんの文句もない訳だが、一兵士として前線を支えるウチツネからすれば、それは一瞬たりとも気の抜けない、ただただ辛い戦場だった。

 まあ、常人なら延々と続く極度の緊張感に参ってしまってもおかしくない土壇場で、プレッシャーなどものともせず、あっけらかんと不満を述べるウチツネの様子を見るに、彼の空気の読めなさ、鈍さが良い方向に働いているようだ。


「ウチツネさん! もういい、下がってくれ!」


 額を流れる汗を拭い、再び立ち上がろうとしたウチツネに、彼の後から彼を心配した青年が声を上げた。

 驚くべきことに、ウチツネは戦闘開始から今まで最前線で部隊を支え続けるという活躍によって、革命の発案者の中で最も民衆からの信頼を得ていたのである。

 普段の彼を知っている者からすれば、戦場というあらゆる意味で難しい判断が必要とされる環境でウチツネに付き従うなど恐ろしい限りであるが、人々からすれば、こそこそと策略を巡らし早々に前線を後にしたコウやゼルドロより、体を張って戦線を支え続けたウチツネの男気溢れる姿の方が心に響くのだろう。

 いや、単に表裏のない開けっ広げな彼の性格が人を惹きつけるのかもしれないが。


「なに、心配なさるな。拙者はまだまだやれるでござ——」


 ともかく、ウチツネは彼を心配する声に、青年を安心させるため笑みを浮かべて振り返った。


 そして、唐突に自身から外れた青年の視線に言いようもない危機感を覚えたウチツネは、その場から大きく飛び退いた。


 直後、立て続けに2度、耳障りな金属音が辺りに響いた。

 1度目は振り下ろされた両刃の直剣がウチツネの左足を掠めながら地面を打った衝撃音。

 2度目はそこからすぐさま切り返されたつるぎ咄嗟とっさに突き出されたウチツネの大太刀にぶつかり、ギリギリと火花を散らしながら弾かれた音だ。

 間一髪、刺客の不意打ちを捌ききったウチツネは大きく距離を取り、追撃を諦めた相手を睨みつける。

 

「あー、今のは惜しかったっすね。片足もらったと思ったんすけど」


 カチカチと剣の切っ先で地面を叩き、不満げな言葉を口にする騎士鎧姿の女。

 ベリーショートと表現したくなる程に短く切り刻まれたブラウンの髪と、その下から覗くナイフのように鋭い目鼻立ちは、彼女の言葉のままに攻撃的な性格を表しているかのようである。

 その人物を前に、ウチツネは警戒心を露わにこう切り出した。


「おぬし⋯⋯何者でござるか?」


 やたらと間をとった割には拍子抜けのウチツネのセリフに、女が微妙な表情になったのは言うまでもない。


「⋯⋯逆賊風情の質問に、私がわざわざ答える必要があるんすか?」


 バカにするような口調で問いかけた女の言葉に、


「逆賊とはなんでござるか逆賊とは! 拙者らは世のため人のために戦うれっきとした戦士でござるよ!」


 ウチツネは胸を張って答える。

 堂々たる彼の姿に鬱陶しそうに眉をひそめた女は、直後、思い出したように口の端を吊り上げ、嗜虐的な笑みを浮かべて口を開いた。


「あんたらはそのつもりでも、私らからすればただの暴徒っす。それに、あんたがここで喚いてる間に、後ろのお仲間はきっと大変なことになってるっすよ」


 彼女の含みのある物言いに、


「どういう意味でござるか?」


 油断なく刀を構え、ウチツネが問いかける。


「そのままの意味っす」


 澄まし顔で答えた女に、


「どのままの意味でござるか?」


 理解できず、ウチツネが問いかける。


「⋯⋯なんなんすか、ここが足りないんじゃないっすか?」


 呆けた顔のウチツネを、自分の頭を指差しながらなじった女に、


「足りないとはなんのことでござ——」


「奇襲っす! あんたらの後陣を今まさに騎士団選りすぐりのエリートが襲ってるんすよ!」


 何1つ理解できないウチツネに業を煮やした女は、怒りに任せて自軍の計画をぶちまけた。


「なんと! 奇襲とは卑怯な、今すぐ辞めさせるでござる!」


 ついに女の言葉の意味を理解したウチツネは、怒りを露わに女に食ってかかる。

 それに対し、やっとの事で一歩進んだ会話と、そこまでに使った労力を比較した女は、げんなりしたため息とともに、ひらひらと顔の前で手を振りながら口を開いた。


「ああー、もういいっすうるさい⋯⋯えー、騎士団諸君! 今からこの大男は王国騎士団序列3位、アンバー・ローウィーの名において叩き殺すっす! ⋯⋯って名乗っちゃったっす⋯⋯ま、いいや。それが終わり次第、目の前の逆賊どもをぶっ殺して前線を押し上げること、

 もいちど言うっすけど相手は逆賊っすから、遠慮はいらないっす。⋯⋯分かったら敬礼!」


 アンバーの鋭い一声に、今の今まで混乱の最中にあった騎士団が瞬時に秩序を取り戻す。

 横一列に並び、ぞんと盾を地に突き立て、一糸乱れぬ動きで右拳を左肩に打ち付ける。

 完璧に統率のとれた騎士団は、今までウチツネ達が戦ってきた彼らとはまるで別物であるかのような、圧倒的な存在感で革命軍の兵をたじろがせる。

 もう小細工は効かない。

 まず間違いなく、この決闘で勝った陣が、この戦闘を制す。

 戦場において、将同士の一騎打ちというものは必ずと言っていいほどにその結果以上の影響を戦局に及ぼす。

 後に戦術家たちの間で大ベストセラーとなる戦術書、『戦術的決闘の全て』の中で、『史上、最も戦局を左右した決闘』と称されるその戦いが、今まさに始まろうとしていた。

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