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異世界転生は一度でいい!  作者: 大杉俊
一章 目覚めと気怠げな死神
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第26話 革命午前

 午後5時


 ハタツミ郊外、フリハラ広場。普段ならば仕事終わりの木こりや行商団が通るだけで、賑わいもへったくれもないはずの広場はその日、恐ろしいほどの人々でごった返していた。

 その広場には、今もなお続々と人が集まってくる。不安、期待、猜疑、それぞれの浮かべる表情は違うが、皆一様に辺りを見回し、小さな声で言葉を交わしている様子はまるで何者かの登場を心待ちにしているようにも見える。


 夕刻、今まさに日が陰ろうというその時になって、彼は現れた。

 二つの木箱を抱え、民衆のただ中に駆け込んだ彼は手早く木箱を積み上げるとその上に立ち、集まった人々を見回しながら言葉を発した。


「やあやあ皆さん、こんな時間に集まってもらって申し訳ない。でもまあ、思ってたより集まったことは嬉しいね」


 不遜に、高慢に言い放ったコウは、ヘラヘラと笑みを浮かべながら続けた。


「じゃあま、単刀直入に言わせてもらうが⋯⋯このままじゃ、俺たちは死ぬ。老若男女の区別なく、な」


——同日、午前——


 セナ達との楽しい談笑を終えたコウは、一度道場に戻った後、リグルを引き連れて魔道士組合役場に訪れた。

 もちろん、ペルシアとヘイズメルに魔法を教えにきたわけではない。

 革命、その大業を成すにあたって、非常に心強い人物を味方につけるため、コウは一応、大将に近い立場でありながらもわざわざ足を運んだのだ。


「いいか、リグル。お前は聞かれた事に思った通りに答えればいいからな、難しく考えるなよ?」


 さて、ここでコウは今回の交渉のキーマンである少年に声をかけた。 


「うん⋯⋯分かってます」


 声音こそしゃんとしているものの、リグルの表情は固く、その手はコウのシャツの袖を掴んで離さない。


(こりゃ、相当苦戦するかもな⋯⋯)


 コウは人知れず、心の中でため息をついた。


——


 交渉相手は、コウ達が扉を開けると同時に声をかけてきた。


「君ッ! こっちだ!」


 ホールの真ん中でしきりに指示を飛ばしていたヘイズメルは、第六感という能力があるのかと疑いたくなるほどに完璧なタイミングで振り返り、苛立ちを溢れんばかりに込めた声で呼びつけた。


「⋯⋯」


 ヘイズメルのあまりの剣幕に、カタカタと震えだしたリグルの手を取りコウは声をかけた。


「大丈夫だ、落ち着け」


 コウの内心は、こんなことで一々動揺しないでくれ、というようなたしなめる方の意味合いが強い言葉だったが、省略し表情を見せずに放たれた彼の言葉は、その堂々とした態度もあいまって、リグルの恐怖心を抑える。


 握る手から伝わるリグルの震えが治まったことを確認したコウはその手を離し、先を行くヘイズメルの後を駆け足で追いかけた。


——


「君⋯⋯これはなんなんだい?」


 部屋に入るなりヘイズメルは、一枚の紙をコウに突き出した、四隅が破れたその紙切れは疑いの余地なく剥がしとられた張り紙である。そこにはこう記されていた。


——本日夕刻、この国の主人あるじ、彼らの大いなる欺瞞と偽善を暴く——


「この張り紙が町中に張り出されているそうだ」


 疲れた表情で話すヘイズメル、


「ほっほー、さすがクロバ、仕事が早い」

 

 対するコウは満足げな笑みを浮かべて張り紙を眺めている。


「やっぱり、これを出したのは君らだね」


 怒りをにじませたヘイズメルの問いにコウは困ったような表情を見せた。


「いいや? こんなの知らないよ?」


 ここでヘイズメルが声を荒らげなかったのは事前のコウの態度からこの答えが想像できたからだろう。声をあげるかわりに怒りに震える手で、ヘイズメルは張り紙の一点を指し示した。張り紙の右下、そこにはこう記されていた。


——主催者、魔道士組合お抱え教員——


 その文面を見てなお、コウは飄々(ひょうひょう)と呟いた。


「ああ、これは書き写さなくてよかったんだけどな」


「貴様! これのせいで我々が朝からどれほど面倒な釈明をッ! ⋯⋯」


 大声でわめき散らしたヘイズメルは、その言葉を言い終わることなく頭を抑えて机に手をついた。


「どした? 大丈夫か?」


 心配などかけらもしていないような声でコウが呼びかける。


「⋯⋯ただの頭痛だ、この紙切れのせいでこっちは大変なのだよ⋯⋯」


 どうやらヘイズメルは相当に参っているようだ、普段の彼ならばよっぽどの事がない限り弱音を漏らすことはない。


「⋯⋯それで、何が目的だ⋯⋯」


 頭を抑え、俯いたままヘイズメルが問いかける。その声音には、これ以上面倒ごとを増やさないでくれという彼の意思が見て取れた。


「話が早くて助かるよ、実はこいつも含めての話なんだけどさ」


 リグルを指し示しながら語り出したコウの言葉は、唐突に開け放たれた扉の音によって遮られた。


「もう疲れた⋯⋯疲れました〜」


 情けない悲鳴をあげながらソファーに飛び込むペルシア、座っていたヘイズメルが慌てて立ち上がり、彼女にソファーを明け渡す。


「ペルシア様、だから無理をなさらないよう申しましたのに」


 ペルシアに寄り添うようにかがみ込んだヘイズメルは、先程までの不調をおくびにも出さずにペルシアを気遣う言葉をかけた。


「うう〜、ヘイズ〜」


 弱った、すがるような声を出すペルシア。普段、組合員の前で見せる凛々しく、しゃんとした姿からは想像できないだろうが、普段の彼女は意外とこんなものなのだ。


「あれ? コウ様? 今日の授業は午後からのはずですけど⋯⋯」


 さて、ようやく顔を上げたペルシアは向かいに座るコウの姿に気づいたようだ。


「今日は授業をしにきたんじゃないんだ」


 そう言いながらも、ペルシアの視線が自身からその横に座るリグルに移ったのを確認したコウは狙い澄ましたように口を開いた。


「こいつはリグル、エルフの子供なんだが⋯⋯昨日まで奴隷商に捕まってたんだよ」


「えっ⋯⋯」


 驚愕の表情で息を飲むペルシア、その横で同じく目を見開くヘイズメル。


「でだ、その奴隷商団にこの国が関わってる可能性が高いんだよ」


 事のあらましを説明したコウはほうと息をついてソファーに深く腰掛けた。


「そんな事が⋯⋯」


 瞳を潤ませ、リグルを見つめるペルシア。


「なるほど、そういうことかい」


 ヘイズメルは張り紙の内容を思い出し、納得の表情で頷いた。

 さて、大事なのはここからだ。出せる情報を全て伝えた今、彼らを引き込むには純粋な話術が試される場面である。

 気合を入れて姿勢を正したコウ。しかし、彼の考えはリグルの手を取り、涙を溢れさせたペルシアによって打ち砕かれた。


「ああぁぁぁ、リグルくんはそんな苦労をしてきたのですね、泣かせる話じゃないですかああぁぁぁ⋯⋯」


 唐突な展開についていけなかったのはコウだけではない。ヘイズメル、そしてリグルも驚いた表情で、泣きはらしたペルシアの瞳を見つめる。


「分かりました、リグルくん、何か困った事があればなんでも私に言ってください。あなたのことは魔道士組合まどうしくみあい組合長くみあいちょうであるこの私が全力で助けますから」


 おうおうと泣きながらリグルを抱きしめるペルシア。彼女は緊張に震えるリグルに何を見出したのだろうか。

 

「ら、ラッキー⋯⋯」


 予定外の展開ではあるが、今回の最重要人物を味方につけたコウはその場で軽い打ち合わせを済ませた後、リグルとともに魔法組合役場を後にした。


 


 


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