第13話 似合わない
この世界に四季があるとするならば、この青空に鬱陶しいほどに熱く輝く太陽を見て誰もが夏を想起するだろう。
圧倒的光度を持って鎮座する天頂の恒星を見上げて顔をしかめ、大きく深くため息をついたコウは、そばを歩く長身の女性に声をかけた。
「バレてたな」
「そうみたいね」
二人の間に流れた重苦しい空気にはしかし、激しい落差があった。
「あーあ、明日からまた格好変えなきゃいけないわね〜」
予想外に軽薄なセナの口ぶりに、コウが疑問の声を上げる。
「軽いな、よくあるのか?」
「いや、初めてよ。だいたい、これまでずっと店にこもってたしね」
半ば笑い声も混じったような語り草に、コウは神妙な面持ちをといて呟いた。
「引きこもりかよ」
——
「てか、お前って何やったの?」
早くも歩き慣れてきた大通りを歩きながらコウが放ったこの抽象的な質問は、前後の会話の内容から見てもセナの過去についての質問と見て間違いはなかった。
「何って⋯⋯」
だからセナが言い淀んだのも、質問の意図がわからなかったのではなく、どう答えたものか考えていると捉える方が近い。
「あれよ、反逆罪よ」
「へえ⋯⋯」
その熟考の末に出された答えに、コウは軽く意外感を覚えた。
出会い頭に襲いかかってきたことや笑顔でナイフを振り回していた様子から、暴力的で衝動的な印象を抱いていたセナという人物。しかしその口から飛び出した反逆罪という頭脳的な犯罪とは彼女の印象はまるで結びつかなかったからだ。
「てっきり、殺人とかだと思ってたよ」
だからというわけでもないが、この失礼な発言がコウの口から滑り出したことには多少の驚きによる油断があったことも否定できない。
「ふふっ、そう言えばそんなのもあったわね。じゃあそれもあるかもね」
笑い声も交えて返されたこの言葉にコウはまじまじとセナの顔を見つめた。
殺人は、そんなの、それも、などという軽い言葉で済ませることの出来るものではない。
「そんなのって、随分と軽いな⋯⋯てか反逆罪って何やったんだ?」
しかし、セナがこの質問に答えることはなかった。
「それは⋯⋯この話はまた明日ね」
唐突に振り返ったセナは一瞬げんなりとした顔を見せた後、流れるように人混みの中に消えていった。
「あ、おい!」
慌ててコウが呼び止めたが、セナの姿を見つけることは出来なかった。
「なんだよ突然⋯⋯」
あぜんとした様子でセナが振り向いた方向を見やったコウは、慌ただしく駆け回る民衆の頭上ににょきりと飛び出した大きな旗を見つけた。
途端、目の前の人垣がざわざわと割れた。人混みに巻き込まれる形でコウも道の端に追いやられる。
突然の事態に混乱したのも束の間、コウはすぐに状況を理解した。
人の波を割って出てきたのは数人の騎士に続く形で出てきた数十人の衛士たちだったからだ。
(なるほどな、そりゃ逃げるわな)
セナが逃げ出すのも無理はない、前日の取り調べから今日のゼルドロの忠告と続いた後の騎士団凱旋だ。これ以上面倒なことになる前に逃げてしまうというのは至極真っ当な判断だ。
「すげぇや、騎士長様だ」
「いつ見ても美しいなあ」
コウの近くに立っていた男たちの会話につられてコウもその人物の方を見やる。
人混みを割って悠然と歩く少女。鬱陶しく無い程度に装飾が施された美しい甲冑は日の光を反射して優雅に輝く。そしてその上に流れる美しく長い黒髪は、セナの気づいたら伸びてましたとでも言わんばかりの乱雑な髪型とは違い、隅々まで整えられ、そこに収まる端正な顔立ちを引き立たせている。
(あれが騎士長か)
その少女は確かに他の騎士、衛士とは一線を画する風格を持っていた。
(しかし、随分と若いな)
騎士長の位にしては若いその少女は、凛々しい表情を一切変えることなく、騎士隊を引き連れて街の中心、城の方角へと去っていった。
さて、先ほどセナは別れる際に「この話はまた明日ね」と言った。ということはつまり次に会うのは明日という解釈でいいだろう。仮にセナが後で合流するつもりだったとしても、その意図は先のセリフから察することはできない。ならば、まだ昼にもさしかかっていない今日の残りの時間をコウは自由に使っていい、自由時間としてていいということであろう。
(じゃ、まあ、今日のところは好きにするかね)
そう自身を納得させたコウは、意気揚々と騒がしい街に消えて行った。




