目覚め
その後2日間奏は眠り続けた。マリアはただ眠り続ける彼のそばをずっと離れなかった。
「いい加減部屋に戻ったらどうですか?」
いつものナイフの代わりにティーカップを持ったガーゴイルにそう言われ、そういえばもう2日も椅子で寝ていることを思い出した。
「骸骨たちは?」
いつもは骸骨CとDがお茶を運んでくるのだが今日は朝から顔を見せない。
「今日は骸骨組の防衛訓練日ですので。」
「あぁ…」
いやな夢、いや、夢なら良かったのに。現実をトレースしている。ここはこうすれば良かった、ああすれば良かった。でもどんなにやり方を変えようが最後には顔を思い出せない誰かをかばって死ぬ。もう何度目だ?…あぁ、見つけた。これが…こうすれば、生き残れる。トリガーを引くとボルトが前進、弾丸をすくい上げそのまま撃針がプライマーを叩く。次の瞬間には首を撃ち抜かれた敵が倒れた。後ろで倒れこんでいる小柄な同僚の手を引いて起こす。
「かなえ…ありがと…」
「立てる?---。」
あれ?誰だっけ…? 彼女の顔を中心に急に目の前が白くぼやけていく。
「起きたのか⁉︎」
目を開けると目の前に角の生えた少女がいた。その後ろにはクリーチャー。反射で奏は銃を取り出そうとするがそれは手の届くところにはなかった。
「すまんな、回収させてもら…おい、まだ動くな!」
少女の制止を振り切って奏はベッド脇の銃に手を伸ばす。届かなかった。
「まだ動ける体じゃない。」
「…あんたらは?」
「知らんのか?魔王じゃ。」
いきなり理解しがたい単語が出現し困惑する。
「ごめん、ちょっとよくわからない。後ろの君は?」
「マリア様にお仕え…」
「あぁ、はいはいわかったわかった。俺は陸自の…日本って国の軍隊の品川 奏一等陸尉。国際基準だと大尉だから、Captainだな。」
奏には未だ状況が全く飲み込めていない。だが状況が読めなくてもなんとかなるだろう。この2人に敵意は感じない。無理矢理納得するしかない。
「この世界、此岸じゃないよね?」
「まぁお前からしたらな。」
「あぁ…俺死んじゃったのか…」
どうせあの状況じゃあいつも…あいつって誰だ?
「何があったんだ?」
「アカと手を組んだ政治家が日本で戦争起こしたんだ。」
腐敗した共産主義者と倒錯した平和論者によって引き起こされた戦争。敵対する隣国と内通していたことくらい別班の調査で分かっている。
「それでこのザマ。いっつつ…」
「まだ動くな…」
「もう大丈夫。ありがとうございました。」
「おい、止まれ!」
奏はマリアの制止を無視して立ち上がる。
「戻らないと、まだ戦ってる奴がいる。まだ守りきれてない奴がいるんだ。」
名前も顔も思い出せない。だけど、ようやく見つけた生き残る道。
「待て、お前はもう…!」
「死んでおられます。」
ガーゴイルが奏をベッドに叩きつける。
「グァ…!」
「ガーゴイルF!何をしている!」
「大丈夫です。もう傷は完治しております。」
「どういうことだ?F。」
「もうお気付きでしょう?」
奏はガーゴイルに促され認めたくなかった事実を自覚する。
「ゲホッ…まぁ、常識的に考えりゃここは常識的にありえないとこだよな…あぁあ、死んじゃったかー、あーぁ…」
「なぁ、麻里香とは誰だ?」
「麻里香…?」
どこかで聞いたことのある名前。いや、俺が最後に呼んだ名前。
「俺の同僚の名前だな。やつも多分死んでる。」
「そうか、すまない。」