親友の想い
キンコーンカンコーン―…。
「やっと四時間目、終わったぜぇー。なぁ、葵。」
前の席の同級生兼唯一信頼できる友達カテゴリーのトップにある男・吉田奏は、彼を振り返って笑った。
「ん、そうだな」
言葉少なに答えて、曖昧に笑う。
すると奏は困ったような顔をして、首を傾げた。
「なぁ、何か言いたいことあるなら、俺にだけでも言ってくれよ…。お前さ、嫌なこととか、辛いことあっても、何も言ってくれなくてさ…。オレそーゆーのって、すごくさびしいんだよ」
「……」
一瞬、ぽっけらと奏を見てしまった。
まさか親友がそんなことを思っていたなんて―。
彼の脳裏にふと昨日彼女――否、元カノに言われたことがよぎったけれど、すぐに相好を崩した。
心配させて悪いなとは、思うけれどそれを言えば心配するのもだめなのか、さみしいなぁとまた言われそうなので、ここは素直に嬉しいと感じることにした。
そんな風に言った後で自分の言ったことの恥ずかしさに気づいたのか、あーやこーやうなりつつも笑っている奏に安心させることを兼ねた表情で頷くと、席を立った。
「ほら、早く購買行こう?お目当ての物が売切れてしまうぞ」
「そうだな、うん。そうだっ!早くしないとうりきれる!!」
「だろー。じゃあ、いくか!」
「おう、行こうぜぇー!」
奏はゆっくりとした足取りで出入り口に向かう。
奏の横に並んだ彼もそれに倣い、人の多い(男子よりも女子のが多く感じるのは気のせいだろうか…)廊下へと出た。
奏があっと、突然何かおもいだしたような声をあげた。
「そういえばじゃなくてもさぁ、葵、また彼女と別れたんだってな。でもお前さ、別れても別れてもほぼ途切れることなく誰かと付き合ってるけど、疲れね?」
「いや、別に?付き合ってるって言っても、俺ほとんど気づかないうちにそうなってるだけで…。だから、自分から好きになって告白したりとかしたことないし、デートにも誘ったこと、無いよ?第一にそんなことしなくとも、むこうが休みになると誘ってくるし。あー…。でも、やっぱり、少し疲れるかな…。奏は誰とも付き合わないね、どうして?やっぱり疲れるから?」
「どうしてって、いわれてもなぁ。――てかさ、もうこの話、終わりにしね?」
さっきから何対もの視線をあちらこちらから感じるのだ。
「あ、うん。いいよ。おわりにしよっか」
「うん、もう終わりにしよーぜ…」
二人は互いの顔を見合わせると、ごくりと息をのんだ。
――いいか?
後ろをふりかえってはならない。
横を見てはならない。
ごくりき、出来る限り前だけを見据えて歩け―。
二人が話をやめた理由。
それは、あからさまに自分たちのくだらない話に真剣に耳を傾けている女子が多数いたからで。
まあ、そんなこんなで結局二人は購買まで走ったのだとか―。
彼は基本、何事にも頓着しないような性格をしているので、友達も少ないのです。
だけど、奏はズカズカと土足で彼の心に浸入し、初めは煙たがられましたがしつこく付き纏ってくる奏に折れて、今では親友に昇格!
そのことに一番驚いているのが彼自身です(笑)。