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ヒカリの存在  作者: 水晶
19/19

屋上にて

 あるよく晴れた昼下がりのこと。


 屋上では大変なことになっていた。


 抱き合う美少年二人とそれに動揺しまくる美少女三人。


 事故の延長戦で不本意にも抱き合う二人。


 信じられなくもない光景を見てしまったが故に焦りに表情を険しくする三人。


 だが、一番混乱していたのは彼自身で。


 表は平然とした無表情。


 だが、内心では超パニックっていた。


 目なんかグルグルである。


 頭なんかグルグルである。


 そしてそんな中、一番いらぬ被害を被っていたのはその親友である奏であった。


 奏は内心も表も同じであった。


 超迷惑って思ってる。


 超迷惑って顔に出てる。


 最悪だって涙目になりかけてる。


 最悪だって叫んでた。


 この女達の俺を見る眼が超険しくて、刺々しくてマジで居心地が悪いんですけどー!!


 けれど、誰もその思いは汲み取ってはくれはしなかった。


 













 それは奏が彼のためにバラの形をしたウィンナーの入っている弁当を作ろうと決心したときにさかのぼる。















 彼は親友が自分のためを思って親切にもリクエストした弁当を作ろうと意気込んでいた隣で、むっしゃらむっしゃらと。


 厚かましくも奏の二段弁当の一段目に敷き詰められたタコさんウィンナーを全てたいらげ、そして卵焼きだけをぎゅうぎゅうに詰められた二段目も全ておなかに入れてしまった。


 残っているのはタッパーにもりもりに詰められた白いご飯だけ…。


 言っておくが、これは本当にただの白いご飯で塩で味付けもされていなければ梅干さえも乗せられておらず、あまつさえふりかけなぞないただの本当に白いご飯である。


 彼は気まずそうに視線をそれへ移した。


 …おかずはなくなってしまったけど、まぁ、ご飯タッパー一つ分丸々残されてるし、いいよな…?


 大丈夫だよな。


 これくらいあれば、放課後までもってくれるよな…あいつの腹。


 そう思いつつも彼の目は徐々に細く…気まずさ故から眇められてゆく。


 そして、彼はあることを思いついた。


 そうだ。


 気まずいならば、逃げてしまおう。


 そしてしばらく顔を合わさなければいいんだ。


 ということで、彼は立ち上がった。


 よこっらせっと、静かに年寄りくさい気合を入れて。


 だが、しかし。


 彼が立ち去ろうとするのに気付き、現実に引き戻された奏の視線は何故か彼にではなく、真っ直ぐに空になった自分の弁当へと走った。


 そして、ざわぁ…と乾いた秋風がうなった。


 パシッと手首をつかまれ、引き止められる。


 親友を振り返らない彼の顔色もざわぁ…と少し青くなった。


 「あ〜お〜い〜…?」


 低いうなるような声が腹の底から轟く。


 うーわぁ…やだな、その声やだな。


 超嫌な予感しかしないよ…っ!


 彼はとても嫌そうな表情をした。


 













 


 一方、結と瑠花は――。


 屋上への階段を上り始めていた。


 「…ねぇ、本当に屋上行くの?」


 タタタ。


 トントントン。


 「行きたくない?」


 「いや…人がいてないなら別に構わないのよ。」


 「…人、嫌い?」


 「葵は好きよ」


 「はははー…私もだよ」


 「……」


 「大丈夫だって。葵に相手してもらえなかった人ってたくさんいるじゃん。瑠花に後ろ指差す人なんかいないって!ね?」


 「なななななな何言ってんのよ…ッ!?わ私は別にそんなこと気にしてなんかない…わよ…」


 タタタ…。


 トントントン…。


 「ふふふー、そう?なら、いいんだ。ていうか、お昼に食パン一斤?」


 「…いつもはお弁当よ。今朝は時間がなかったから適当に持ってきたの。悪い?」


 「いや、んー…悪くはないよ。けどねー…あー…瑠花ってさ、気付いてないかもだけど、葵と同じタイプだよね?なんてゆーか…自分に頓着がないってゆーか、そーゆーとこ、ずぼらだよね」


 「やだ!葵と一緒にしないでよ!」


 「なんで?」


 「そりゃ葵のことは好きよ?けど、これとそれとはまた別問題。私は自分に関心がちゃんとあるもの。明日起きれるように夜の九時までには寝るとか一日三食、ちゃんととるもの」


 「んー…関心でそれかぁ…つくづく瑠花は損をしてるね。もっと本当の、そんな自分をさらけ出したら絶対今より人気でるよ?男女問わず。…てか、やっぱ葵に似てるね、そんなとこも。天然なんだね♪いいと思うよ」


 「…不服だわ」


 「えー、なんで?可愛いってことなのに…!朝時間なかったからって手近にあった食パンを一斤持ってくるとことか。しかも、それ三食は絶対取るんだってこだわりからきて持ってきてるし。瑠花ってつくづく面白くて可愛い子だと思うのになぁ…誰も知らないなんて勿体無いわ。葵だってきっと知らないんでしょう?…ってことは私だけか。私だけが知ってるんだぁ…うーわぁ…世界ってすごく眩しいのね!」


 「…あんた、変よ」


 「変じゃなくて素直なんだよ。正直者。私だけ知ってるってなんか優越感あって…あと、嬉しいもんなんだね♪」


 「な…!?何また恥ずかしいことさらっと言っちゃってんのよ!誰がそんなこと言っていいって言ったのっ?あんた私のことバカにしてるでしょう?!」


 「女王様だね!似合うと思うよ、とてもキレイだし、何より気品がある」


 「〜〜〜…っっっ!!」


 「あははー、瑠花、顔真っ赤!りんごみたいで可愛いー♪…いや、イチゴ?待てよ…トマトもあるな…それに何も食べ物だけに当てはめなくたって薔薇だってある…真っ赤でとてもキレイで、ちょっと棘が多いやつ」


 「そんなことどうでもいいのよっ!ばか!!ホント恥ずかしいわね!私みたいなのにそんなこというんじゃないわよッ!」


 「私みたいって…瑠花みたいのに言わなきゃ誰にも言えないよ、こんなこと。美人さんに使えないならそれ以下の…それこそ私みたいなのには使用不可だよ。だから、これはこれでいいの。それに私、嘘は一つも言ってないしね。全部本当だよ?」


 「あんた、絶対性別間違えて生まれてきたわね。お腹の中に居たとき、地震でも起きてアレ、ぽろっと落としてきたんじゃない?だから、胸もあんまないのよ。生理もないわよね…?あんた男だわ。戸籍上女でもあんた生物学上絶対男だわ…葵もこれくらい言って欲しいものだわ。そしたら絶対今よりモテてるのに」


 「これ以上モテる必要ないんじゃない?競争率今より高くなって大変だよ?で、それで葵が女は怖いってなって男にでも走っちゃったらどうするの?まだ奏君くらいなら許せるってか…目の保養になると思うよ?目の前でイチャつかれたらとてつもない悲しみと苛立ちが襲ってくると思うけどさ…てゆーか、危ないよね。あの二人ってどこか危うい…」


 タタタ…。


 トントントン…。


 「…よね?私もそれ、前々から思ってた。あの二人って本当にただの友達かしら?もしかしたら『おともだち』のうちはじめの三文字が『おほも』に変わってない?」


 「…奏君も女顔だしねー…判んないねー」


 「…でも、まぁ、もし仮にそんなことになってたしてもぉ?この私がちゃんとした道に戻してあげるわ!」


 「だねー。私も同感。けど、本人達が本気で愛し合ってたらその時はどうなるんだろうね…?」


 「…考えたくないわよ」


 「…でも、考えなきゃ…」


 そして、カチャリ…とドアノブに手をかけた。














 




 「ふふふーん♪今日は何かなーお弁当」


 鼻歌交じりでこちらも屋上に続く階段の一段目を踏み出そうとしていた。


 ご機嫌よく、弁当の入った布袋を胸に抱えて、実に嬉しそうに歩いている。


 屋上に人なんて、きっといないだろうし。


 それに週は七日あるんだ。


 使用者は少数だろうし、それでそのうちの一日が私とかぶるなんて、そんなわけないよね。


 そんなふう見当付けながら、のぼってゆく。


 確実に屋上に近づいて行っている。


 きゅ。


 きゅ。


 きゅ。


 きゅ。


 きゅ。


 そんな足音を立てながら。


 ツインテールの髪をゆらゆら揺らしながら。


 上機嫌に口元に笑みをかたどって。


 お腹空いたなぁ…とか思いながら。


 鼻歌を歌って。


 あともう少しだなって入り口が見えて。


 顔を上げる。


 「…光…?外の…お日様?」


 志穂は丸い目をぱちぱちと瞬かせた。


 上の方から光が漏れている。


 細く伸びた白い…太陽の光。


 なんで…?


 「先客…?」


 まさか上級生…先輩?


 「…誰だろ」


 とりあえずのぼりきってみない事には判らないので少しペースを速めて駆け足でのぼり切った。


 とそこにいたのは。


 屋上のドアを開けようとして立っている女の子二人。


 「…結さん?」


 名を呼ばれて振り返る少女。


 「ん?」


 その際に耳の後ろあたりで二つに結った髪がふわっと翻る。


 一人は知っている。


 彼のいとこで自分より一つ上の女の子だ。


 「…と、もう1人は葵さんの元カノさん…?」


 もう一人も、一応知っている。


 本名も一応知っているけれど、こっちのほうがしっくりくる気がして失礼なぞとは気がつかずについ声に乗せてしまう。


 すると、自分に気付かないでいた背中がそれに反応して、こちらを振り返ってキッと睨まれてしまう。


 ずいぶん過剰に反応したことから本人が余程気にしていただろうことがうかがい知れてしまって、なんだか申し訳ない。


 だが、怒りの矛先は志穂へとは向けられなかった。


 何故かその隣にいた結へと向けられた。


 「ほらっ!言ったじゃない!元カノって言われたじゃない!」 

 

 「でも、後ろ指は指されてないよー」


 「ほぼ同じでしょ!」


 「でもでも、きっとちゃんとした名前よりこっちのが先に思い浮かんだんだよー。ね、志穂ちゃん?」


 「えっ!あ…はぃ……――ぁ!い、いえ!…いや、あの…すみません」


 「あんたもなの?!あーもうどうして、こうどいつもこいつも私のことそれで呼ぶのよ…いい加減耳タコよ。それ以前の問題としてもやめてもらいたい限りだわ」


 「…すみません」


 「別にあんたひとりが悪いんじゃないわ。もとを正せば私がひろめた様なもんだし」


 「あははー。よかったね、志穂ちゃん♪」


 「…はい」


 「んー、もうはいはいはいはい…それ以外も喋んなさいよ。面白くないわよ」


 「…そう言われましても…何を話せばいいのか、」


 「じゃあ、あんた名前は?一年でしょ?二年に見ない顔だし、三年がこんなに小さくておどおどしているわけないし」


 「瑠花ぁ〜♪こういうときはまず自分からだよぉ〜?」


 「ったく…あんたはうるさいわね。馴れ馴れし過ぎるのよ。てか、私の名前なんて名乗らなくたってここの生徒なら誰だって知ってるわよ!」


 「そうでありましたか!それは大変失礼致しましたであります!」


 「…気持ち悪いからやめてくんない?」


 「だって、なれなれしいって瑠花が言うからぁ…」


 「だからって、それはおかしい!極端すぎるっ」


 「ぁ、あの…」


 「ん?」


 「私、春日志穂って言います。…ツッコミ、お上手なんですね」


 「な…!?」


 「志穂ちゃんはナイスボケだね!」


 「…ボケ、ですか…?バカってことですか?」


 「ちがうちがう。ツッコミと対の言葉だよ」


 「…私、ボケました?」


 「そんなことより、志穂ちゃんも屋上でお昼?私たちもなんだぁ…気が合うね。ご一緒していいかな?」


 「私は構いませんが…そちらの元カ、」


 「瑠花!木田瑠花って言うのよ!いい?ちゃんと覚えときなさいよね」


 「…すみません…どうしてもその先入観というか…印象が抜けなくて…」


 「直しなさい」


 「…はい。木田…さん?先輩ってつけたほうがいいですか…ね?」


 「いや。私のことも瑠花でいい」


 「瑠花さん…で?」


 「そう。で、お昼なんでしょ、これから。早く食べてしまうわよ!こんな鬱陶しい奴となんかは早くおさらばよ!」


 「鬱陶しいって…私のことですか!?うわっ、すすすすみません!!」


 「違うわよ。私の横にいるこの女の事よ。まぁ、いいわ。とりあえず行きましょ」


 「はーい!」


 「はい」


 ガチャ。


 「……へ。」


 「……は。」


 「……え。」


 少女達は一斉にして間の抜けた声を出し、目を丸くする。


 というよりも目が点になる。


 三人はその先にあった光景に硬直して絶句する。


 …何してんの?!


 三人の少女の思いを表す言葉はこれに尽きた。


 


 

 


 

 







 「ちょっとぉー葵ィ…?」


 「ハハハ…何かなぁ…?」


 「何じゃねぇよっ!!何?!俺がお前のために考えてるときにお前は人の弁当のおかずなんで全部食っちゃってんのっ?ちょっとこれひどくね?ひどくねぇっ?!」


 ガシガシガシ!!と、胸倉をつかまれて揺すられる。


 怒りに任せて揺すられる。


 ガシガシガシガシ…!!!


 「ちょ…首絞まる…!首絞まる、」


 「うっわ!?ちょ、葵!顔つかむな、顔!」


 「じゃ、手ぇ離せ!息、苦しいって」


 「「うわっ!!」」


 ずるっ。


 まず先に彼が倒れこんだ。


 空を上に倒れた彼の数秒遅れで続き、奏が空を背に倒れ――。


 そして、屋上の扉が開いた。


 ガチャ…――。

19話、やっとのことで完成。


会話文でほぼ構成されていて…ちょっと状況判りにくいかも…すみません。


今回の志穂はおろおろしてました(私的にはそういう感じでした)。


瑠花に対しておろおろ…。


私は執筆に対しておろおろ…(生意気)←


次回も…いつになるかは判らないですが、頑張ります!!


……読んでくださる方っていらっしゃるのでしょうか……――。

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