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ヒカリの存在  作者: 水晶
11/19

彼は天性の無自覚色男

 「お前さぁ…元カノとより戻したって噂は本当か?」


 食堂で昼食についていると奏が唐突に訊いて来た。


 彼はモゴモゴと動かしていた口の中の物を飲み込んで、目の前の席についている親友の険しい顔を見た。


 たまたまお昼に誘ってその場に居合わせていた結は奏の唐突に持ちかけた話題に、『え…』と目を見開いた。


 別に知らなかったわけではないが、今自分がいるときに彼の親友が学校中が騒然として注目している話題を持ち出すとは夢にも思わなかったのだ。


 彼は奏の視線を面白くなさそうに受け流して、隣でどきどきしている結に話を振った。


 「結も…俺の噂、知ってるんだよね」


 「う、うん…。今、その話題で学校中持ちきりだから」


 『むしろこのことを知らない人がいるほうが有り得ない』と、結は心の中で付け足した。


 「ふ〜ん。もう全校に広まっちゃったのか…。俺のことなんだから、少しは放って置いてくれたっていいのにな」


 その美貌と細くしなやかなスタイルを持った男にも女にも憧れの的の彼の色恋の行方が気になるのは一人間として仕方がないことなのだろう。


 皆人気者のスキャンダルという学生の青春的潤いが欲しいのだ。


 そこに美少年で来るもの拒まずの彼というかっこうのえさがあったならば、ためらいもなく喰いついてしまうのはいつの時代になっても変わらないものだ。


 彼ははぁと、大きなため息をわざとらしく吐いてみせると、また結を覗き込んだ。


 『うっわ!!その少し憂いに満ちたっぽい顔で私を覗き込まないで!いくら小さい頃から側にいて多少免疫がある私だからって、その顔のドアップはなしだって!駄目だって!!』


 結は気になる噂の答えそっちのけで彼の端正な顔が自分に近づいたことにドクドクと、先程までとは少し意味の異なった高鳴りを胸に響かせる。


 だが、彼は女も男もその顔で無自覚に落とすタラシ魔で、無意識に口説き伏せる色男のクセにほんのりと色づいた結の頬の訳がわからずに、軽く首を傾げればもう結でさえもノックアウトだ。


 『……ヤバイ、やばい!私、鼻血でそう…』


 内心本当ぎりぎりの理性と気力と根性とで、何とか女の名にかけて鼻血は免れたが、顔の熱は更にあがった。


 ぼんっと、音を立てて結の顔は赤く染まった。


 「葵、反則だよぉ…」


 「は?」


 「ううん!なんでもない!」


 ぶんぶんと結が胸前で手を振っているとき、奏が彼と結の会話に割って入った。


 「おい。ちゃんと訊かれたことには答えろよ、葵」


 ぶすっとした表情で奏は彼を睨みつけ、また親友に睨みつけられた彼は面倒くさそうにカリカリと後ろ頭をかいた。


 「なんで、そんなに怖い顔して俺に突っ掛かって来るんだよ。どうしたんだ?どうして今回のことにはそんなに首を突っ込んで来るんだ?いつもみたいに俺の色恋沙汰を黙ってみていればいいのに…今回はそんなに気になることでもあンの?」


 奏は彼が無表情に言った言葉にぎりっと、拳を握り締めた。


 「どうしてばっか訊いてくるけれど、お前こそどうしたんだよっ?!今まで誰かとより戻すとかなかったじゃん!なのに、どうして急により戻す気になったか気になるんだよ…。しかも、より戻そうって言ったの、葵の方だって言うじゃんか…――」


 「またあの人はホラを吹いて…――。言っとくけど、俺から言い出したんじゃないよ。彼女から言い出したんだ」


 彼の隣で結がおろおろと事の成り行きを見守っていたが、どうやら雲行きが怪しくなり始め、何事かと振り返った生徒達がざわめきだしたので、とりあえず食堂から二人を連れ出そうと立ち上がったとき、食堂の出入り口付近から彼を呼ぶ明るい声が聞こえた。


 「あー、見つけたっ!葵っ」


 「この声は…――」


 結がこの声の主が誰であるかまだ新しい記憶の糸を頼りにたどりついた女に、『あ!』と声を上げるのと彼が振り返ってその名を口にしたのは同時だった。


 「瑠花…」


 「葵ィ!も〜昨日、私と一緒にお昼食べようって約束したじゃん。忘れるなんてひどいじゃん〜!」


 パタパタと駆け寄ってきた注目の的の彼とよりを戻した瑠花はするんと、彼の細い腕に自分のそれを絡めて甘えた声を出した。


 彼ははぁと今度は小さいため息を吐くと、瑠花を腕から引き離して目許を和らげて微笑んだ。


 そのことに一部始終傍観していた周囲が更にざわめき、動揺の波が流れ出す。


 何故なら、今まで彼が恋人に向けてこんな風にやわらかく微笑んだところを誰一人として目撃したことがなかったからだった。


 これにはさすがの結も僅かに目を瞠り、次いでごくりと生唾を飲み込む。


 嘘だと、結は口の中で呟いた。


 だって、彼が恋人にこんな風に笑うなんて。


 結は呆然といったていで彼と瑠花を凝視していて、奏は馬鹿かと怒りと呆れの混じった風で彼を睨んでいる。


 瑠花は絶句して突っ立ったままの結をちらりと横目で見て、勝ち誇ったようにクスリと嘲笑った。


 そして、結にだけわかるように口を動かして、ある言葉を紡いだ。


 『葵はね、私のことを愛してくれてるの。貴女の入る余地はないのよ』


 「ッ!?」


 瑠花は結の彼に対する秘めた想いを知っていた。


 だから、それを知った上での忠告…宣戦布告をしたのだ。

 

 『彼は渡さない』と。


 結は的確に瑠花の言葉を受け取ると、ふんと鼻を鳴らして笑い返した。


 だが、彼には何も聞かれたくないので実際には声を出さずに口だけを動かして言い返す。


 『自惚れないでよね。貴女なんかに葵は絶対に渡さない。渡してたまるもんですか!』


 バチバチと彼のあずかり知らぬ水面下で女同士の壮絶な戦いの幕が切って落とされた。


 一方、奏は彼を睨みすえたまま、皮肉気に顔を顰めた。


 彼は痛くもかゆくもないと、さらりと先程から注がれる睨みを受け流し、そして、さも可笑しいと一笑した。


 「これが俺に本当の恋愛を教えてくれる女だよ、奏。俺はね、いままでに本当に恋愛面で言う本気で誰かを好きになったことがないんだ。瑠花と別れるときに、『一生本気で恋はできない』って言われて誰とも付き合う気になれなかった。だけどね、瑠花がそれを俺に教えてくれるらしいんだよ」


 「だからって、お前さ…そんな女よりずっとお前を想ってくれている女がいつも近くにいるんじゃないのか?そこの女にもう一度付き合えと言われたとき、葵の頭をちらり掠った女はいなかったか?」


 「………ん?いたけど、何?奏」


 奏の諭しに似た言葉に先程までの小馬鹿にしたような表情を一瞬にして消し去ると、彼はそれが何だと、眉を顰め首をかしげた。


 ――…どうやら本当に解らないらしい。


 まぁ、とりあえず、いたわけだ。


 それだけでも彼自身から聞けてよかったと、奏は思った。


 そして、少し彼のその解らないに脱力しつつも、目にかかる鬱陶しい髪を掻き揚げて気を持ち直し、くっと目に力を入れて更に畳み掛けた。


 「お前の頭を掠めた女がいたら、それはきっと今お前が気になっている女だ。お前はそこにいる女とよりを戻すよりも、今気になっている女と付き合え!それに、お前の頭を掠めた女がいたならば、そんな女の誘いに乗らなくてももう立派な本気の恋だよ。だって、そうだろう?今までお前が女のことを考えるなんてことなかったんだから!」


 「おお!!!」


 彼が気づかなかったと、感嘆の声を上げる。


 そして、尊敬に満ちた目で奏を見つめて、だが、次の瞬間『あれ?』と首を傾げ、疑問符を頭の上に飛ばし始めた。


 得意げになっていた奏が、彼のその困惑気な様子に気づいて声をかければ、彼はポツリと衝撃的なことを呟いた。


 「どうしよう、奏…。俺、俺…ッ!奏の論理からすれば好きな人が二人、いることになるかも!?」


 『「「「えぇ〜〜ッ!!?」」」』

 

 奏、結、瑠花、その他周囲の者の驚愕の声がお昼休みの学校に響き渡った。


 お前、本気の恋まで天性の無自覚色男かよっ!?

 


 


 

 いやぁ!よかったです、予定通りに結と奏を登場させることができて。


 そして、思ったよりも早くに更新できました!これには自分自身が一番驚いております(笑)。


 さて。どうなるかと思われましたが、瑠花とは早々にまた終わっちゃうのでしょうか?


 そして、彼が天性の色男だったことが発覚!!


 次回も頑張りますので、楽しみにしていてください!

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