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ヒロインが書けない

 数時間後、俺は現実の厳しさを味わっていた。


 とにかく可愛くて、誰もが好きにならずにいられない。

 そんな最強のヒロインを作り出し、アルトと出会わせようと机に向かった。

 そこまではいい。


 しかし、全く展開が思い浮かばなかった。

 それどころか、何時間考えこんでみてもヒロインのイメージすら湧いてこない。

 はっきり言って俺は行き詰っていた。


 今まで作者の俺が全く思いつかなかっただけで、若き英雄と呼ばれるようになったアルトなら言い寄る女はきっといくらでもいるだろう。

 そこはどんな女キャラを登場させても違和感がない、大丈夫だ。


 しかし、そんなポッと出のキャラがヒロインで良いのだろうか?


 アルトが村で虐められていた時。

 旅に出てすぐに盗賊団に襲われた時。

 街の酒場でゴロツキに絡まれた時。

 領主に馬鹿にされ、通行手形の発行を断られた時。


 そんな今までアルトが苦労してきたその瞬間、隣にヒロインは存在しなかった。

 それなのに、英雄と呼ばれるようになった途端にヒロインが現れる。

 苦難の道を歩んできたアルト少年を一切知らず、華やかな若き英雄アルトだけを見て擦り寄ってくる。

 ヒロインって、そんな存在で良いんだろうか?


 いや、ダメだろ。

 そんなキャラ、作者の俺がそもそもヒロインと認識できない。

 やっぱりヒロインは主人公と苦労を共にして、強い部分も弱い部分も知っている存在じゃなきゃダメだ。


 じゃあどうすればいい?

 これまでに登場させたアルトの支援者のうち、誰かを実は女だったってことにするか?


 いや、無理だ。

 大半のキャラははっきり男だって書いてしまったし、それにアルトと同年代が少ない。


 ならいっそ序盤から書き直して、最初からヒロインが存在していたことにしてしまうべきだろうか?

 うーん、それしかないか。

 それが俺が進むべきベストセラー作家への道だ。


 でもヒロインを登場させるって、その場に居合わせてセリフを数個話すくらいでいいんだろうか?


――そんなわけがないよな。


 ヒロインはモブキャラじゃない。

 戦いで活躍するかどうかは別として、ストーリー上の存在感は必要だ。

 それにアルトとの仲も少しずつ進展してった方がいいよな。


 どうやら結構な書き直しは覚悟しなきゃならない。

 そう思った途端、誇らしくさえ思っていた百万超えの文字数が、重苦しくのしかかってくる。

 百万のうち、一体何万文字を書き直すことになるんだろう。


 いや、そこは考えても仕方ない。

 ベストセラー作家になるためにはヒロインを登場させることは必須。

 覚悟を決めるしかない。

 それよりヒロインの設定を考えるのが先だ。


 さて、どんなヒロインがいいだろうか。

 主人公のアルトが俺の理想像をキャラクターにしたものだから、ヒロインは俺にとっての理想のヒロインがベストだろう。

 でも、俺にとって理想のヒロインってどんなキャラだ?


 結局行き着くところはそこだ。

 この最高の小説に相応しい最高のヒロイン。

 それが俺には思いつかない。


 最初は自分の好みのキャラをモデルにしようと思った。

 別にパクろうってわけじゃなく、モチーフにしてインスパイアされたオマージュってヤツだ。

 しかし、それは上手くいかなかった。

 何しろ今俺がハマッている作品に登場するヒロインたちは、全員まるで方向性が違う。

 それぞれに好きな要素があるけれど、その好きな要素の全部を無理やり組み合わせても、変なキャラが出来上がるだけだった。


 そんなツギハギだらけの寄せ集めじゃない、たった一人の理想的な――究極の女の子。

 アルトの恋人になるのは、そんなヒロインじゃなきゃいけない。

 いっそ、竜征のアルトゥールの世界に入り込んで探し回れればいいのに。


「……気分転換でもするか」


 本日二度目に発した言葉は、一度目と一字一句同じものだった。

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