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小説家になれない

「……ふぅ」


 俺はキーボードから手を離し、大きく息を吐いた。

 たった今まで俺が格闘していたのは、インターネット上の『小説家になろう』というサイトに投稿している自作小説だ。


 タイトルは『竜征(りゅうせい)のアルトゥール』。

 剣と魔法が支配する世界の小さな村で生まれ育った、気弱な少年アルト。

 彼が数奇な運命に導かれて英雄となり、征竜神帝(せいりゅうじんてい)アルトゥールとして即位するまでの物語。

 ざっくり言ってしまえば成り上がり要素の強い冒険活劇モノだ。


 俺としてはかなり上手く書けてると思っている。

 薄っぺらいラノベみたく見えないように、普段使わないような言葉を駆使して重厚感を出している。

 さらには『所謂(いわゆる)』とか『(ようや)く』、『偶々(たまたま)』みたいに、日常的に使う言葉を漢字にしているのも、本格的な小説であることを伝える俺なりの工夫だ。


 だがそんな小手先の工夫は、この作品の魅力のごく一部に過ぎない。

 もっとずっと大事な、この作品の最大の武器といえるもの。

 それはキャラとストーリーの魅力だ。


 なにしろアルトは俺自身の理想を反映した最高の主人公だ。

 それからストーリーも戦略的に組み立てている。

 主人公がいきなり最初から理想のヒーローじゃ面白みに欠けるから、初めは気弱で優しい農村の少年として登場する。

 村のいじめっ子、閉鎖的な大人たち、傲慢な領主……様々な困難を乗り越えて、アルトは行方不明の父親を探すために旅に出た。

 旅先でも次々と苦難がアルトに襲いかかり、それを乗り越えるたび成長していく。

 一度は敵として立ちはだかった相手も、戦いを経てアルトの大切な理解者となり、より大きな壁に挑む際に力を貸してくれる。

 こうしてアルトは少しずつ実力を付け、仲間を増やしていくという流れだ。



 これまでに俺が投稿してきた文字数は、たった今書き上げた回で百万文字を超える。

 ルビで余計にカウントされてる分を考慮しても、九十万文字は余裕であるはずだ。


 ラノベ数冊に及ぶ数々の戦いを経て、冴えない少年だったアルトも今では《八大神》と呼ばれる世界最強の八人のうち二人と友好を結ぶ大物だ。

 その名は世界に広く知られ、最新話では若き英雄と呼ばれるまでになっている。

 プロットではこの先、八大神の一人である魔障邪神ミルディンとの一度目の戦いが待ち受けている。

 アルトとミルディンの戦いは決着がつかず、二人は今後も幾度となく戦いを繰り広げる予定だ。

 その激しい戦いの宿命を決定づけるのが今回のエピソードで、俺の想定では物語の中でも最も盛り上がる場面の一つだ。


――そんな中盤のクライマックスを迎えようとしているにも関わらず。


 竜征のアルトゥールは、どういうわけか全く人気が出ない。

 作品をブックマークしてくれている人数はたったの五人。

 作品評価もほんの少ししかついていないし、感想に至っては〇件だ。

 おかしい、絶対におかしい。


 小説家になろうの中には、その一万倍――五万以上のブックマークを集めてる作品だってある。

 まあ、流石にそういう作品に敵わないのは仕方ない。

 でも竜征のアルトゥールのポテンシャルなら、少なく見積もっても一万ブックマーク程度は余裕のはずだ。


 ストーリーはめちゃくちゃ面白い。

 アルトも最高の主人公だ。

 なのに本来あるべき数の二千分の一未満しかブックマークされていないのは何故か。

 必ず何か理由がある。

 その理由さえ解決できれば、あっという間にブックマークは二千倍に膨れ上がるはずだ。


「……気分転換でもするか」


 そうしたら、何かいいアイディアが浮かぶかもしれないじゃないか。

 だからこれは逃避じゃなく、前向きな創作活動の一環だ。

 心の中で自分に釈明しながら、俺は久々に家から出て書店へと足を伸ばした。

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