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 その日、雪の舞い散る深夜。ベランダの窓を開けた。

 吐く息が白く流れる。その先、隣の家の屋上で、望遠鏡を覗く花栄の姿が見えた。熱心に眺め続ける花栄の視線の先にあるのは、月でも、星でもなく、その先の何かであることがわかる。

 遠目で見る花栄の姿は、あの頃の花栄の姿に重なって見えた。


 触れたい、と思った。

 もう一度、触れたい、と。


 そうしてあの日、父が不機嫌な顔をしたあの日の意味を、現実のものとして受け止めた。

 私は無知を利用して、花栄を欲しいと思っていた。

 何の恐れもなく、無邪気に隣にいた花栄を、男女の境もなく、ただ欲しいと思っていたのだと知る。


 欲しいと思う気持ちが恋なのか、どうなのか。ただ、花栄が、現実の花栄が、私だけのものであって欲しいと願った。

 初詣で願ったのは、世界中の人たちの幸せだった。けれど今は、私の幸せを願わずにはいられない。離れていた間の花栄さえも手に入れたいと思うほどに。私の考えにはなかった現実の中から離れ、異世界への扉を開きたいと願うほどに。


「何が見えるの?」


 心臓が早鐘を打つ。

 花栄を見て、こんなにも気持ちがざわつくのは初めてだった。

 花栄が「何も」というポーズを取る。あの頃に見た不思議な光景を、なぜ今また見ようと思ったのか。花栄もまた、過去の気持ちを懐かしく思い、取り戻したいと思っていたら良い。


「何が見たいの?」


 私は願う。

 私の欲しい答えが返って来ることを、期待して、待った。


「三つ回って見える世界?」


 胸が苦しくなった。

 花栄が戻って来た。そう思えた。


 私は逸る気持ちを宥めながら、花栄から姿を隠すように、ベランダに続く窓を閉めた。

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