(3)
高校は、花栄とは違う場所にした。
花栄は、中学2年に付き合った彼女とすぐに別れた。でもすぐに別の子と付き合い始め、何人かを経て、受験期間に入り、私も、花栄も、厳しい現実に押し流されていた。
花栄の高校は自転車で15分。私の高校は、電車で15分の場所にある。
その違いは登校時間にも差が出る為、花栄よりも先に家を出る私には、もう花栄の姿を見る機会さえない。
私に彼氏が出来たのは、高校1年の夏のことだ。
サッカー部の先輩に告白されたのは、夏休みに入る直前のこと。もしやからかわれているのかと思い、返事を保留にしたけれど、それからも彼は私を追い掛けてくれて、どうやら本気なのではと思い始めた頃、付き合いをOKした。
背が高くて細身ながらにしっかりとした体躯で、笑うとふんわりとした印象になる先輩は、私にとって初めての彼氏であり、男として認める初めての相手でもあった。
一緒に帰るのも、休みの日に約束をするのも、おやすみのメールも、手を繋ぐのも初めてで、ふわふわとした感覚に包まれ続ける何とも言えない幸せな日々。
たとえ花栄に悪いうわさが立っていようとも、私の心には響かない。そんな私だけの特別な時間。
花栄が喧嘩をして入院しても、私には関係のないことだった。
花栄はバカだ。
先輩と彼女を取り合ったという噂。
女がらみの噂ばかりが聞こえて来る花栄は、男であり、現実の中にある。
現実の中の花栄は、私と違う場所にいる。
私は幸せな私の現実の中にいれば良かった。
花栄のイメージは夏の夜空だ。
深夜の満点の星空の下、夢を見続ける花栄だけが、私の中の花栄だった。
私だけが知る、花栄の真実だった。
先輩とは冬に別れた。
飽きられたのか、飽きたのか。
なんとなく距離が空いたまま、連絡を取り合わなくなった。その期間が長くなり、空白を埋める手立てを見いだせないまま、先輩に彼女が出来たと噂で聞いた。
手を繋いで歩いた日々が、まだ背中側に張り付いている。でも先輩はもう、私の先輩ではなくなった。
無言の別れは、何とも言えない空しさを私に植えつけて行った。
花栄は腕を骨折し、ギプスをはめていたのだと母から聞いた。
冬、私は窓を開けた。
そこにない、花栄の姿をイメージして、そっと窓を閉めた。