序章2
走り出したサカキは門を通過することなく、助走をつけたまま飛び上がった。すばやく柱に飛び付くと、さらにバネのようにしなやかに飛び上がり、あっさり門を飛び降りる。
『ゴテゴテ装飾された門は飛び上がりやすいねー!』
ヒャッホウと言わんばかりのサカキの叫び。
門突破に、わずか30秒。
そのまま一直線に本社玄関に向かって走り出す。
一方で、サカキのどなり声を至近距離で拾ったラルフが眉間にシワを寄せた。トランシーバーを外すと後ろに放り投げる。
「おい、あんたの相棒の命綱だろうが。」
おっさんがあまりの所業に後ろで喚く。
「怒鳴るあいつが悪い。」
慌てておっさんがトランシーバーを持ってくるが、ラルフはちらりとも見ない。
「そんなもの、もう必要ない。」
「はあ!?」
「そんなものなくとも、オレの耳は、聴こえるように出来てる。」
ラルフがそういって耳と鼻を覆うマフラーを外した。その手には先程作った火薬管。
その頃、サカキは無数の銃器が鳴り響くセパレートを全力疾走していた。
一気にトップスピードまで持っていったらしいサカキの動きは、もはや直線の残像しか追えない。足になんらかの仕掛けがあるのだろうか。バイクほどの速度は出ているはずだ。
150m地点をそのまま突破。
左右の固定銃器の銃声が聞こえなくなると、迎撃に来た甲装兵が正面から銃器を鳴らした。
サカキの時速、110kmほどでているだろうか。そのまま左右に体をふるように動く。
トップスピードのままジグザグ走行で銃弾を避けると、真後ろに回って柄に手をかけた。
『オレ、メリーさん。今、200m地点までいったかな。』
居合い抜きの動作。
流れるように振り抜かれた斬撃は、文字通り爆発した。
「なんだありゃあ。サカキの旦那が振り抜いたら爆発したど!」
「あれがあいつの居合いだ。
どうやって鉄鋼製の兵器を刀で切ると思ってる。」
「走る速度といい、無茶苦茶だ。なんなんだ…?」
ラルフが面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「摩擦により最高1000℃まで上がった金属の棒を打ち付け、鋼鉄をぶったぎる荒業。
日本刀の型が叩き込まれた肉体、それをトップスピードで振り抜ける筋肉。
それがあるから実現できる。」
『オレ、メリーさん。今、500m 辺り。
あ!5分経った!休憩入りまーす。』
荒野では甲装兵とサカキの動きで砂ぼこりが舞い、混戦していた。脇にある自動銃器も狙いをつけられずにいるのか、作動していない。サカキはどうやら甲装兵をぶったぎった後、砂ぼこりのど真ん中で休憩中のようだ。よく生きてたものである。
休憩の声を聞くと、ラルフは手元の火薬を放り投げた。火薬は施設まで150m地点で落下。すかさずセンサーで自動感知した銃器によりガラス管は簡単に撃たれ、火薬は大きな爆発を起こした。
「あんた、味方になにするんだー!馬鹿かぁ!」
味方を爆破してどうする?と詰め寄るおっさんにされるがままのラルフはポツリと一言。
「こんなんで死ぬタマなら苦労しない。」
なんだか、それは心の声のような気がした。