悪役?転生しました。2
お久しぶりです。ユーミリアです。
学園入学して3年が過ぎ去り、現在4年生をしております。
なのに…私、なぜか今、自宅の庭でド○トル先生をしてます。
いえ、動物語が話せる訳ではないのですよ。
なのになぜか、動物が集まって来るのです…
それもそのはず、ことの始まりは一週間前。
家の庭で、小鳥が血を流して倒れていたのです!!
それはもうダラダラ、ダラダラ、と…
キャー!!!と叫びながら、貧血を起こして倒れ…る令嬢のような神経を持ち合わせてない、私ことユーミリアは、傷口をよく確認し、傷が内臓に達していることから、まず内臓へ細胞分裂・活性促進の魔術を掛けました。
気づきまして?自分の指を直した後、魔法陣をさらに改良いたしましたの。
私、チート能力もあるみたい。
まあ、あの母の娘ですものね、魔術って素晴らしいですわ♪
ま、そんなこんなで、体表面の傷口も治された小鳥は、貧血?でフラフラしながらも、森へ帰って行きましたとさ。
めでたし、めでたし。
…では終わらなかったのです!!
次の日、朝早くから自室の窓をコツンコツンと誰かが叩く音で目を覚ました私は、身震いしました。
だって、私の部屋、2階ですよ?!
でも、だんだん頭が覚醒してきて、お!これは鶴の恩返し的な何かか?と期待してカーテンを開けましたら、窓の外には血だらけの鳥が…
いやあ、これには私も倒れたかったです。
どうみてもホラーでしょ?ホラー。
でも、気絶することは出来ませんでした。
私ってなんて丈夫な神経の持ち主なんでしょう…
自分を恨めしく思いました。
ので、そっとカーテンを閉めました。
この時には気づいてましたよ?
このままいけば、私は獣医を目指さなきゃいけなくなる、と。
だけど…やはり、見捨てることは出来なかったのです…
小心者の私を嘲笑って下さい。
良いのです、私はチキンなのです…
そして現在、庭で“さまざまな”動物に囲まれております。
どうやら、私の所へ運ばれてくる動物たちは、彼らの中でも上位者ばかりのようです。
そうですよね、例え治療してくれるとも、人間ですものね。
なるべく関わりたくないのが本音でしょうね…
彼らは術後の療養を勝手に私の庭でしているらしく、たくさんの僕がお世話をしに来ているようです。
そして私は回診をするよう呼ばれるのです…
「ふー…」
ユーミリアはやっと動物達から解放され、家の中へ帰ることが出来た。
「お前は、ド○トルなのか?」
横から不意に掛けられた父親の声に、ユーミリアは心臓が口から飛び出しそうになった。
「お…お…お父様…?!」
(私がしてること気づかれてる?!いや、気づかないでいる方がおかしいけど。
と言うか、ド○トルって…お父様ももしかして…)
「さっき、庭で叫んでいたではないか。私はドリ○ルか!って。
ユーミリア…」
「は…はい…」
「言葉遣いが宜しくないぞ。気をつけなさい。」
「え?あ、はい。申し訳ありません。以後気をつけます。」
ユーミリアは頭を下げた。
「まあ、よい。」
そう言うと、父親はその場を立ち去ろうと、後ろを向いた。
(あれ?動物に治癒魔術使ってることばれてない??)
ユーミリアは首を傾げた。
「そうそう、ユーミリア。動物に治癒魔術を施すことに関してだが、動物が魔獣化することはない。」
そう言うと、今度こそ本当に父親は去って行った。
「そうなんですわね。良かったですわ。」
ユーミリアはおしとやかに、微笑みながら呟いた。
(にしても、魔獣化はしない。と断言しましたわね。
動物への安全性は保障されたのね…。
それに、何も忠告しないということは、このまま動物の世話を続けてよいってこと?
むしろ、続けろってことかしら。
私の知らないところで、データを回収してたのね…。)
ユーミリアは少し頬を膨らましながら、学園へ行く時間が迫ってきたので馬車へと乗り込んだ。
***********************************
ユーミリアが学園へ着いた頃、校内に人だかりが出来ていた。
何事かと気になったユーミリアが、人だかりの隙間からその中心を覗き込んだところ、そこではエルフリード殿下と一学園の女生徒がなにやら、劇のようなものをやらかしてる最中だった。
「エルフリード様…」
その様子を見て心を痛めたユーミリアは、悲痛な面持ちでその場を後にした。
あの、告白まがいのエルフリードの「これから君を一人の女性として見ていこうと思う。」は愛の囁きではなかったのだ。
その言葉どおり、一人の女性としてユーミリアをみなしたエルフリードは、ユーミリアを他の女性と同じように扱い始めた。
つまり、妹扱いから一般女性扱いに格下げされたのだ。
自分の席に着いたユーミリアはため息を吐いていた。
「おはよう!ユーミリア。」
エルフリードが颯爽と現れて、ユーミリアの前に立った。
ユーミリアが急いで立ち上がろうとしたところ、それをエルフリードが手で制した。
「おはようございます、エルフリード様。」
ユーミリアはそう答え、見上げながら優しく笑った。
エルフリードはじっと彼女を見つめたまま静止していた。
「?エルフリード様、どうされました?」
「あ、いや。…ユーミリア、君に会えなくて寂しかったよ。」
そう言うと、エルフリードは子供の頃と同じように、目を細め、愛おしそうなものを見るような目でユーミリアをみつめた。
その目線にユーミリアは鼓動が速くなり、自身の顔が火照って行くのがわかった。
(何度見ても、この目力には慣れないわ…。
でも…さっき、校門の前で、他の女生徒にも同じように笑いかけていたのでしょ?)
ユーミリアは自身の熱が急激に冷めていくのを感じた。
エルフリードが、最近、すべての女生徒に優しいと、噂になっている。
愛の寸劇まがいのことを校内の至る所でやらかしてるらしい。
どうやら、たらしに進化したようだ。
それに違わず、ユーミリアにもまた親しみをこめて接してくれるようになったのだが…。
(また、私を妹として見てた頃に戻ったみたい…。
でも、優しくされるのは嬉しいけど、私が特別って訳でもないのよね…。)
「エルフリード様ったら…、昨日会ったばかりでしょ?」
ユーミリアは沈んだ心を隠すかのように、大きな笑顔を作って軽口を叩いた。
「…君とは、一分一秒も離れていたくないよ。」
エルフリードの愛の台詞と優しいささやき声、さらにはとろけるような甘いマスクの王子様の切なそうな顔に、ユーミリアは気絶しそうになった。
「エ...エルフリード様...」
(うっわーどうしよう!! あ…甘いわーーーーー!!!
この空間、周りにハートが飛んでる!?
ち…違うわ…私の目がハートになってしまったのね!
目って本当にハートになるものなのね!!!)
「はーい、殿下、時間ですよー。
席に着きましょー。」
「「!!」」
2人は一気に現実に引き戻され、声のした方を振り返った。
エルフリードは、同じクラスの宰相の息子に首をホールドされたかと思うと、引きずられながらユーミリアの前から去って行った。
彼女はその様子を無言で見守った。
(す…すごいわ…。
さすが王道ルートの攻略対象…色気半端なっ。)
ユーミリアはノートを広げ、心を落ち着かせようと、一心不乱に何かを書き綴っていた。
********************************
昼休みの時間、エルフリードは殿下専用特別室で昼食を摂っていた。
「殿下…」
宰相の息子、マルコスはエルフリードに軽蔑の視線を向けた。
「...マルコス、不敬だぞ。」
エルフリードは食事を止めて彼を見返した。
「…殿下もこうもすべての女生徒に優しくされるとは、お心が広いですね。」
「…お前の言いたいことは解る。
だが、お前が言ったのではないか、4年前。
特別な存在を作ってはいけないと。」
マルコスは目を閉じてため息をつき、自身の眉間の皺を指で揉んだ。
「殿下…私が申したことを良いように解釈し直しましたね。
私は、ユーミリア嬢を特別扱いしてはいけません。と申したのです。」
「…だから、皆同じように大切に扱っている。」
マルコスは目を半分開き、エルフリードを蔑んだ。
「あなたはナターシャ嬢にさえ優しくしてればいいのですよ。
分かっているんですか?この間、彼女との婚約を発表したばかりでしょ。
それなのに婚約が決定したとたん、好色家になってしまって。」
「好色家?!」
エルフリードは持っていたフォークを落としそうになり、慌てて握り直した。
「誰彼構わず、女性とあれば愛を囁く。そのような人物をたらしと呼ばず、何と言うんですか。」
「…すべての女性に愛を囁いてはいない。」
「はいはい。ユーミリア嬢と親しくした殿方の彼女限定ですけどね。
それも、やれ会話をしただの、やれ微笑み掛けられただの、ぶつかって体が触れ合っただの、教科書を借りただの。」
「…後半は故意だ。
私は見ていた。彼らはユーミリアが来ると分かって柱から飛び出したんだ。
それに、教科書はきちんとカバンに入ってたいた。」
「…人のカバン勝手に開けたんですか…」
エルフリードは気まずそうに目を泳がせた。
「危ないではないか。急に飛び出したら、怪我をする。
それに嘘はいけないだろ嘘は。」
「…別に良いのです。国政さえきちんとやってくれれば。
例え愛人の1人や2人。あなたが恋愛に関して腑抜けになろうとも。
だがユーミリア嬢は魔術団の団長の娘。国にとって大切な駒なのです。
しかも、あの団長と副団長の娘。魔術師としても、大事な逸材でしょう。
あなたの愛人にされては不味いのです。」
「!?愛人?!
ユーミリアは…妹…のようなものだし…。」
「あなたはタラシのうえにヘタレですか。妹として見てるうちは多目にみていました。例えあなたの魅力に翻弄されようとも、どうせあなたは捨てるのですから。
寧ろ、大切にしていただき感謝しております。殿下のお陰で、身体も強くなられた様ですし。」
「さらっと侮辱された気がするが。私のおかげでユーミリアが強くなったのか?」
「はい。あなたに守られるまいと、一緒懸命に体力作りを頑張っていたようですよ。」
「私の保護下から逃れるために?!」
「お陰で、病気もほぼ完治しているようです。
それに関してはあなた様に大変感謝しております。」
「…どうせ、良い駒に育ったと言いたいのだろう…」
「よくお解りで。」
「でも、タラシと思われているのか?!
ユーミリアは…私のことを幻滅しているであろうな…。」
エルフリードは目を細めて遠くを見つめた。
「まあ、あなたが妹扱いを辞めた時点で、ユーミリア嬢のほうから距離を取り始めましたけどね。」
「それはお前のせいだーーーーー!!」
「まだまだ殿下も子供ですね。
色恋で結婚相手を決めるなどと。」
「お前も同じ年ではないか!」
「殿下のお部屋、騒がしいですわね。」
ちょうど真下にある、ユーミリアたちのクラスでは、頭上の殿下たちがバタバタと部屋であばれまわってるであろう地響きが伝わってきていた。
「ええ…そうですわね。」
「ユーミリア、元気がないようだけど、どうしたの?」
「え?いえ…こんなこと相談するのも恥ずかしいんですけど、今度殿下の婚約披露パーティーがあるでしょ?
学園の生徒同士で参加をしなくてはならないに、私、まだ誰にもパートナーに誘われてないの…」
「まあ!私もですわ。
どうでしょ?ここは女同士で参加してみませんこと?」
「あら!私もまだ誘われていませんのよ?」
「私もですわ。」
ユーミリアが沈んでいると、一緒に昼食を摂っていた3人が、私もよ。とユーミリアを励ました。
(なんて素晴らしい親友達でしょう…。
幼少の頃より傍に居てくれたらしいのだけど、最近まで気づきませんでしたわ…。
私ってほんと周りが見えてませんのね。いけませんわね…。)
「ふふ。女4人で参加したいものですわね。
それにしても…女性から誘っても宜しいのかしら?
そろそろ決めておきたいですわよね…」
ユーミリアの発言にみんなが、うんうん。と頷いた。
「全く、最近の男はがっつきが足りませんわね!!」
「殿下を除いてですけどね!!」
ふふふ…
彼女達はおしとやかに笑い合った。
(それにしても…こちらは美的センスが前世とちょと違うのかしら…
私、結構な美人と思っていましたのに。
あの父と母の娘ですよ?そこそこ良い作りをしているはず…
しかも、完治しかけているとは言え、病気を患っていたので、そこはかとなく儚げな雰囲気を醸し出していて、庇護欲をそそると思いますのに…。
誰一人として殿方が声を掛けてくれない!!
用事以外で男子生徒と喋ったことがない!!
これじゃ、殿下以外の男性に惚れる要素がないじゃない!!)
ユーミリアはまたしても大きくため息を吐いた。
彼女は知らなかった。彼女の親友達が、男達を遠ざけていたこと。
ユーミリアの親友の座を手に入れた彼女達を、男女関係なく多くのクラスメイトが羨望の眼差しで見ていたことを。
******************************
午後、授業中にユーミリアが何気なく外をみると、窓枠に小鳥がとまっていた。
可愛いわね、と目をそらしたユーミリアはその小鳥を二度見した。
(この鳥ってもしかして…)
初めにユーミリアが治療を施した、以後動物達の伝達係に昇格?した小鳥に似ていた。
(あくまでも“似ている”ですわよ。いくらチート能力を持ってるとは言え、小鳥の区別までは出来ないわ。それは望まないで頂戴。)
ユーミリアは自分に言い訳をした後、小鳥を凝視した。
小鳥は顔を1ミリも動くことなく、じっとユーミリアを見ていた。
「…」
(疑いが確信に変わりましたわ。
学校まで来るなんて、いい度胸してますわね!!
私をなんだと思ってるのかしら!!)
心の中では強気に出ているものの、ユーミリアは早く授業が終わらないかと、そわそわしだした。
なにせ、この間、家で小鳥を無視していたら、フン攻撃を仕掛けて来たのだ。
(学校でフンまみれになりたくないわ…早く授業終わらないかしら…。
ちょっと待っててよー。授業中なのよーーー。)
ユーミリアはクラスメイトに気づかれないよう、小鳥に“後で行くから!”と手で合図をしていた。
伝わったかは疑問だが。
授業が終わって急いで外へ出ると、小鳥が空を旋回していた。
「これでも、急いだのよ!!」
ユーミリアの訴えを尻目に、小鳥は校舎の横にある植物園の中へと飛び込んで行った。
「ど…どうやらフン攻撃は免れたようね…」
ユーミリアは安心して植物園へと向かった。
あくまでも優雅に、散策をしているように。
園の大きなドーム状のビニールハウスの中に入り、暫く歩くと、そこには鹿が一匹佇んでいた。
「?重体ではないみたいだけど…」
ユーミリアが近づくと、鹿は彼女にお腹を見せて横になった。
(あ…三日前に治療した鹿?傷跡がまだ残ってるわね…)
しゃがんでユーミリアが傷跡を眺めていると、鹿が口でお腹の傷の一部をトントンと叩いた。
(?なに?
…少し膿んでるわね。)
「ちょっと待ってね。」
ユーミリアはポケットから裁縫道具を出し、持っていた針を自身が出した火で消毒した。
その後、膿の部分に刺して膿を絞り出した後、消毒液をかけてまた治癒魔術をし直した。
「これで良いわよ。」
(まだまだ陣の改良の余地は沢山ありそうね…。)
鹿は立ち上がると、ユーミリアのお腹を軽く口で押した後、何事もなかったかのように後ろを向いて、ドームの奥へと立ち去って行った。
小鳥もまた鹿の頭上をクルクルと回りながら、奥へと消えた。
(裏の森と植物園って繋がってたのね。知らなかったわ。
それにしても何よあれ、最後の腹ドン。ちゃんと治療しろよー。ってこと?!
ま!タダでしてあげてるのに厚かましいわー!!!)
ユーミリアは鹿に向かって文句を叫びたいところだったが、どこで父の部下がデータ収集のため見ているか分からないので、淑女らしく、端正なたたずまいで鹿たちを見送った。
*******************************
時は戻って、ユーミリアが小鳥に糞を掛けられるまいと、授業が終わるのを今か今かと待っていた頃…
(ユーミリア…さっき、窓の外にいる鳥に手を振っていなかったか?)
エルフリードはユーミリアと小鳥を交互に見ていた。
小鳥もユーミリアの手の振りに合わせて、何か合図をしているようだ。
(なんて可愛らしいんだ…。彼女は動物とも仲良しなんだね。)
エルフリードは2人(一人と一羽)のやり取りを優しく見守っていた。
すると、授業が終わった途端、ユーミリアが席を立った。
(めずらしい…。あ、さっきの鳥の所に行ったのかな?
私も行ってみよう。)
エルフリードは意気揚々と教室を出…ようとして、マルコスに捕まった。
「…トイレだ。」
「先ほど、ユーミリア嬢も珍しく席を立たれましたね。」
「…」
エルフリードはスタートダッシュをこのようなときのためにと密かに練習していた。
(今、練習の成果を発揮する時!!)
マルコスをかわすと、エルフリードは外へ続く廊下を走った。
授業が終わってすぐなため、ユーミリアを除いてはまだ誰も校舎から出てはいなかった。
ユーミリアの上を鳥が旋回していたかと思うと、その鳥はどこかへ去って行ったようだ。
ユーミリアが植物園の方へ行くので、エルフリードもそっと後をついて行った。
エルフリードはドームの中に入ると、草むらに隠れてユーミリアの様子を窺った。
その時、横からマルコスが顔を出した。
「尾行ですか?殿下、いつから変態になったんですか?」
「!?もしや他にも!?」
エルフリードが周りを見渡すと、同じ草むらの中にユーミリアといつもいる女友達や、その他に男女数名隠れていた。
「お…お前ら…」
「うるさいですよ。」
マルコスは冷たい目をエルフリードに向けた。
「…」
「まあ、鹿がいますわ!!!」
「え???鹿がユーミリア様にお腹を見せてますわ!!!」
「わっ!!さすってます!!!
ユーミリア様、動物にも愛されてますのねーーー!!」
「おい。
解説まがいの女子の会話の方がうるさいぞ?」
「自分で注意したらどうですか?」
「マルコス!!」
「殿下、静かにしてください。」
マルコスとは反対側に居た男子が呟いた。
「…みんな、いい度胸しているな。」
「殿下、この際、はっきり言わせて頂きます。
学園にいる間の言葉は不敬には当たらないと聞いたもので。
ユーミリア嬢は私たちの中のいずれかと婚姻を結ぶのです。」
「私たち!?」
「ユーミリアを愛でる会ですわ。」
自称ユーミリアの親友が口をはさんだ。
「身分的にもそれが宜しいかと。
このような魔術師を国外に出すおつもりはないのでしょ?」
「...ああ。…だが、なぜ…」
「私たちは幼少の時よりユーミリア様を見守ってきました。
いわゆる同志です。
この中の誰かと結婚するなら、私たちは納得できます。
ですが、他の方には譲れません。
なので、将来、ユーミリア嬢にこの中から選んでもらおうと思っています。」
「ならば、私も…」
「殿下にはナターシャ様がいるではないですか。
この国は一夫一妻制ですよ?
だから、これ以上、ユーミリア嬢に関わらないで頂きたい。
今はユーミリア嬢をのびのびと育て、みんなで見守っているのです。
あなたのありがたき後光で彼女を惑わさないでください!!」
「彼、ユーミリアを愛でる会の会長ですの。」
先ほどの女生徒がまたしても呟いた。
「ユーミリア様が帰られますわ!!」
皆は静かに草むらに隠れた。
「!!おい!!
外にナターシャ嬢が居るぞ!!」
一番入口に近い所に隠れていた、男子生徒の慌てた声が、小声でみんなに伝わった。
「ええ?!なんでこんなところに彼女がいますの?!」
「ユーミリア様と鉢合わせしちゃう!!
誰かユーミリア様を別の所に誘導して!!」
「だめだ…会のメンバーはすべてドームの中に居る。
今、ここで出て行ったら、つけていたことがばれてしまう…。
くそ!一生の不覚!!」
その会長の言葉で、みんながエルフリードに期待の眼差しを向けた。
「…無理だ。」
そう、エルフリードは一言、断言した。
ユーミリアがドーム状の植物園を出たところで、ナターシャに出くわした。
「あら、ナターシャ様…」
ユーミリアは、両手を腰に置き憤然としているナターシャに優しく笑いかけた。
「やっと話せるわね!!」
「やっと?」
「あなたの周り、いつも人がいて全然近づけないんだもん。」
(?何を言ってるのかしら?私、大抵いつも独りよ?)
ユーミリアは軽く頭を傾げた。
「誰かと間違えていません?」
「……。…あなた周りが良く見えていなくてよ?」
ナターシャが怪訝な面持で忠告してきた。
「あら、私も最近気づきましたの!
周りが見えていなかったと。」
的確なナターシャの言葉に、ユーミリアは少し驚いて目を見開いた。
「…気づいてるのならいいわ。
そんなことより、私、殿下と婚約したのよ!」
ナターシャは胸を張って顎を上げ、自慢げにユーミリアを見下ろした。
「おめでとうございます。」
ユーミリアは本心から、切なそうに顔を歪めながらも、そう言葉を綴った。
「お屋敷の方にはすぐに祝電を送らせて頂いたのですが、ナターシャ様には直接、お祝いを言いたくて…。
でも、クラスが違うとなかなか会うことが出来ませんのね。」
ユーミリアは肩をすくめた。
「…あなた、やっぱり周りが見えていないわ。」
「?」
ナターシャは呆れ顔で、まあいいわ。それだけだから。と言い、去って行った。
(ゲームの流れには逆らえないのかしら…。
エルフリード様とナターシャ様の婚約は、この国において必然ではあるけれど…。
可哀そうなナターシャ。このまま、主人公に取られちゃうのかしら。
きっとエルフリード様は、ナターシャ様にも愛まがいの言葉を呟いているのね…。
あれじゃ、誰もが“私が本命だから、他は気にならないわ”って思っちゃうわよね。
…私もその一人よ…。彼、ホストに向いているわね。)
「あら、いけない。授業に遅れちゃうわ。」
いそいそとユーミリアは教室へ向かった。
ユーミリアが教室に入ろうとすると、後ろの廊下から荒い息づかいが聞こえた。
彼女が振り返ると、親友が3人、肩で息をしていた。
「あら、どうされました?」
「…はあ…はあ…はあ…トイレに…行ってて…」
「え?みなさんで??」
「…そう…。…混んでて…。」
「…それは大変でしたわね…」
親友の後ろでは数名の男子生徒が同じように息を切らしていた。
(どうやら、私だけパーティーのお相手がいないようですわね…
きっと皆さま、ダンスの練習をしていたのでしょ?)
ユーミリアは、パーティーどうしよう…と心の中で嘆いていた。
「ユーミリア嬢。」
「!!マルコス様?!」
ユーミリアの前にマルコスが、何処からともなく急に現れ、いきなり膝をついた。
「遅くなって申し訳ない。今度のパーティー、私と一緒に行って頂けないだろうか?」
彼は懇願の眼差しをユーミリアに向けた。
「え?!は…!はい!!もちろんです!!!
宜しくお願いします!!!」
ユーミリアはマルコスの出した片手に手を置いた。
(わー!!すごい!マルコス様にエスコートして頂けるなんて。
棚ボタ?きっと一緒に行くはずだった相手が、だめになったのね!!)
ユーミリアは、笑顔で心が弾んでいるようだった。
その様子を見て、ユーミリアを愛でる会のメンバーは、彼女がナターシャ嬢の言葉に傷ついてないことを確認し、安堵のため息とともに暖かく彼女を見守った。
ただ一人、エルフリードだけがわなわなと震えていた。
*******************************
「マルコス、お前も、ユーミリアを愛でる会の会員なのか?」
「ええ。もちろん。」
帰りの馬車でエルフリードがマルコスに問うと、彼はさらりと認めた。
「なぜ…なぜ私をエスコート争奪戦に参加させてくれなかった!!」
「…あなた、アホウですか?
なぜあなたとナターシャ様の婚約披露パーティーに、あなたがユーミリア嬢をエスコートして現れるのです。
ジョークですか?
誰も笑いませんよ。残念ですね。」
マルコスの無慈悲な物言いに、エルフリードは返す言葉も見つからなかった。
「そ…それにしても、お前が勝つとは、頭脳勝負だったのか?」
「…体力勝負でも負けることはありませんけど。
でも、今回は不戦勝です。」
「不戦勝?」
「人間、どうしても勝ちたいと願うと、必ず不正をしてしまうものなのです。
私はそれを暴くだけでいいのです。まあ、ぎりぎりまでかかってしまい、ユーミリア嬢には寂しい思いをさせてしまいましたけど。」
マルコスは物憂げにため息を吐いた。
「お前を想って寂しがっていた訳ではない!!」
エルフリードは、勢い余って馬車の中で立ちあがり、頭上の天井で頭を打つという、べたなボケをかましていた。
「…。どうせ、不正するよう仕向けたんだろ。」
「まさか、そんな。」
マルコスはボケに見向きもせず、平然と言葉を返していた。
**********************************
パーティー当日、ユーミリアはわたわたと準備をしていた。
(マルコス様のパートナーだなんて…粗相がないように気をつけなきゃ。)
「ユーミリア様、宰相御子息がお迎えに来られました。」
使用人の言葉で、ユーミリアは応接間に移動し、母と話しているマルコスの横で膝を折った。
「あ…あの…マルコス様…。今日はよろしくお願いします…。」
「ユーミリア…今日は呼び捨てにさせてくださいね。
顔をあげてください。」
「はい。」
ユーミリアは自身の目の色と同じ、淡いグリーンのドレスに身を包んでいた。
幾度ものレースを重ねて広げられた裾は、フワフワと風に揺れる草原を想像させ、その白い首筋が草原に生える一輪の花のようで、そっと包みたくなるような彼女の儚さを見事に際立ていた。
「すばらしい。」
マルコスは無意識に呟いていた。
「え?」
「いえ。…では行きましょう。手を。」
「は…はい。」
ユーミリアは顔を真っ赤にしながら、マルコスの肱に自分の腕をまわした。
母に挨拶をするとマルコスに先導されて、2人は馬車へと向かった。
「ユーミリア。君は素晴らしいよ。完璧だ。」
馬車の中でマルコスはユーミリアの手をとり、彼女の目を見ながら呟いた。
「マ…マルコス様!?
いえ!ありがとうございます!!」
(え!?いきなりなんですか!?
今までクラスメイトとしてもほとんど喋らなかったのに、最初の会話が口説きですか!?
あれですか?殿下の周りではタラシが流行ってるんですか???)
ユーミリアは焦った。
(それにしてもマルコス様、綺麗なお顔…睫毛、長いのですね!切れ長の目をより一層引き立てていますわ!!
そして深い青色の髪がさらに神秘さを醸し出していますー。
素晴らしいですわ!この世界、美形をこんな近くで見れるなんて...転生って最高ですわ!!!)
「マルコス様..そんなに誉めないで下さい..あなた様こそ、完璧に素晴らしいですわ。」
「ありがとう、ユーミリア。でも、私は君の足元にも及ばないよ。君は私の理想だ。今でも素晴らしいが、君が大人になる頃にはさらに完璧になっているだろう。」
マルコスは目を細めて優しく笑った。
(いやーーー!!いつも上から目線の人が...美形の殿方が...私に..私なんかに笑い掛けてるーーー!!!
やだなにこれ。ギャップ萌え?
やばいです!!やば過ぎますわ!!!)
ユーミリアは顔が火照るのを感じた。
(わ...私が好きなのはエルフリード様なのに...。
…恐れ多いことだけど...)
「君は気づいているのだろ?
エルフリードの王としてのオーラにやられているだけだと。」
「え?」
(マルコス様何を…。私が殿下に想いを寄せていることについて??
心を読まれた!?
でも…そうなのかしら…。
私、ただ単に殿下の神々しさに圧倒されているだけで、男性としては惹かれてないのかしら…)
ユーミリアは突然の言葉に、心の中で迷い始めた。
「私は、君のすべてが欲しい。君のこれからの時間を私にくれないか?
君が傍にいて初めて、私は完璧になれるんだ。」
し...至近距離で美形に愛を囁かれました。
たらしでもいいです…。はまりそうです…
王太子殿下ルートのライバルから宰相子息ルートのライバルへ、ジョブチェンジでしょうか?
読んで頂きありがとうございました!