受神-2
「しょた?」
「水の神は知らなくていい言葉ですよ」
相変わらず口に出てたのだろうか。水の神がなんだろうと首を傾げているところに、光の神が声をかける。
「な、なんでもないですなんでも!水の神は子供の姿なんですね」
「うん!この姿だと皆優しくしてくれるんだよ!」
誤魔化すように話題を変えると水の神は満面の笑みを浮かべる。
っく、無垢な笑顔が眩しいっ。
思わず水の神の頭を撫でると「えへへ」と笑いかけてくる。やばい幼女神に続きこのショタ神からは犯罪者いらっしゃいの香りがする。マジ開発者でてこい!
「俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い俺にその趣味は無い」
「声に出てますよ」
念じるように思ったはずが思いっきり声に出していたようで光の神から冷静な突っ込みが入る。
「大丈夫?」と下から見上げてくるショタ神の視線が痛い。
しかし土の神の時から思っていたがかなり高性能なAIを積んでいるようだ。さすが大企業、金の力を感じる。明日の通学の時にでも祝のイベントはどんなのだったか聞いてみよう。
「君が僕のお嫁さんなんだよね。」
「えーっとお嫁さんというかなんというか」
なんとも肯定しがたい単語にもごもごしていると「違うの?」とう心なしか潤んだ瞳で問われ罪悪感が半端ない。結局「イエチガイマセン」と答えてしまい項垂れる。「よかったー」とほっとしているショタ神を光の神は暖かい目で見守っている。
「さぁ水の神、始めましょう」
「うん、土の神と雷の神も寂しがってるかもしれないし早く僕もいってあげないとね!」
とか言いながら俺の腹をとんとんと叩いたり耳を当てたりしてる。
「えーっと何してるのかな」
「叩いてみたら土の神と雷の神が返事しなかなーって!」
はい元気よく答えられましたねーってなんか違う気がするんだ。こ、こら臍に指を入れるんじゃありませんぐりぐりするなー!
くすぐったさに思わずショタ神の腕を掴むがそれと同時に、俺の臍を弄っていたショタ神の指先が俺の中に入っていく。
「ふ……くぅ……」
不意打ちだったことに加えて幼女神の時よりもはっきりとした不快感に声が漏れる。今度は身体の中を軟体生物が這いずっているような感覚に軽く吐き気がする。感覚設定を調整しようとするがイベント中だからなのか設定画面が開かない。始める前にちゃんと確認すればよかったと心の中で涙した。
「っつぅ……いきなりは勘弁してくれっ」
「うーびりびりするよ~」
ショタ神の腕がこれ以上入ってこないように強く掴むが、ショタ神もなんだか嫌そうな顔をしている。
「んー、仕方ないか、仕方ないよね。光の神もいいよね?」
「何が仕方ないのか何がいいのかわからないけどとりあえず一旦この手を引き抜いてくれ!」
「本当は避けたかったのですが負担が大きいようですし仕方ありませんね、貴方にお任せします」
光の神はこちらを一瞥すると水の神に判断を任せた。とりあえずさっきみたいにこの不快感を軽減して欲しいんだけどっ。
「よし!やっぱり安全安心辛くないのが第一だよね」
水の神は明るい顔になり脇に抱えていた鯨の浮き輪を放す。鯨の浮き輪が地面に落ちると跳ねることなく地面に沈み込み、そこからは大量の水が舞い上がりショタ神を包み込んだ。水は俺の腹に繋がっているショタ神の腕まで達するとそのまま俺の身体に流れ込む。同時に身体の中を軟体生物が這いずるような不快感が柔らぎ消えていく。
「これで楽になったかな。次に来る火の神もこれで大丈夫のはずだよ。最後に一言ー!どんな道であっても君自身が望む神の道を貫いてくれたら僕は嬉しかな。それじゃ、ばいばい」
勢いを増した水にショタ神の姿が完全に隠される。やがて全ての水が俺の中に流れ込んだ時にショタ神の姿は無かった。ショタ神のおかげか不快感が全く無くなったので落ち着いて周囲を見渡すと、巨大生物の姿が5体に減っていた。いなくなったのは蟻、蛇、イルカだ。その三体の奥に会った球体の輝きは弱々しいものになり、柱は消えていた。
「水の神のおかげで随分余裕ができたようですね。ただ水の神の結界が消えると今まで以上に辛くなりますよ。火の神よ、水の神の結界が消える前にお願いします」
「え、ちょ!もっと辛くなるのとか無理だって!」
光の神はさらりと辛くなるというが、水の神の手がちょっと入っただけでも一杯一杯だったのに、それがもっと辛くなるとか想像したくない。一旦ログアウトしようとするが相変わらず設定画面は反応しない。Aボタン連打とかイベントスキップとかは無いのかー!
なんとか中断しようとしていると目の前に炎が生まれる。
「我が花嫁よ。これはもはや引くことのできぬ道だ。貴様を選んだ我等を、我等を選んだ貴様を信じよ。我等全てを受け入れる器があると選んだのだからな」
炎の中からは幼女神と同じように各所を鱗に包まれた火の神であろう精悍な顔つきの男が現れた。幼女神と違うのは鱗は赤く、手足は人の物ではなく鋭い鉤爪が生えている。そして後ろではずるりと鱗に覆われた尻尾が動いている。それと高身長に設定した俺よりでかい。威圧感がかなりありちょっと怖い。そしてショタ神に続き俺の嫁扱い!
火の神は牙を剥き肉食獣のような笑みを浮かべると俺の肩に左手をかけると右手で俺の鳩尾に打ち込んできた。いきなりなんつーことをしてくれる!
「い、いっつ……ってあれ、痛くない」
火の神の右手は俺の腹にめり込んだだろう手首から先が消えており、そこから火が揺らめいているのが見える。
「結界が強い。やはり水の神は過保護だ」
火の神は不満そうに言い放つと、手首から火が漏れ出し濃く、強く燃え上がる。火が消えると無くなったはずの右手が元に戻っていた。どうやら水の神が張ったらしい結界が守ってくれたらしいがそれはそれで彼らの目的と反していそうだ。
「って俺と一つになれないと不味いんじゃないだっけ」
「だから『過保護』だといったのだ」
そういうと火の神は俺を片手で抱き寄せる。男の姿をした火の神の胸と密着してしまい、さすがに離れようと押し返そうとするが火の神の身体はびくともしないし、むしろ足には尻尾が絡んできてがっちり固定されてしまう。触れる鱗は火傷してしまうんじゃないかと思うほど熱い。
「あっつ!抱き締めんなーっ。熱い!鱗が熱いんだってばっ」
叫んでみたものの火の神にジロリと睨まれ思わず黙ってしまう。睨まれて気がついたが瞳孔は垂直のスリットになっている。その体躯と相まってかなりの迫力だ。
「脅えるな花嫁よ、此れは我等が初夜ぞ。笑え」
笑えといいつつ見下ろしてくる火の神が怖く必死に笑みを浮かべようとするが、引きつった笑いしか出ない。初夜とかそういう表現を使うなら是非女性の姿でお願いしたいのだけど、光の神と違って火の神はそんなことを言えない空気がある。
「あ、あはははっは、怖いです離してくださいっ」
「それは出来ん。すぐ終わる。恐れるのならば目を閉じているがいい」
火の神は両腕で強く抱きしめてくる。相変わらず鱗は熱いし、強く抱きしめられているため身体も痛い。もういっそ早く終わらせてくれっと思ったところで火の神の鱗が燃え始める。
「えっっちょ!燃えてる燃えてる熱いっ……ってやっぱ熱くない」
火の神の鱗が燃え、その炎が俺と火の神を包み込むが熱を感じるのはその鱗であって、炎からは感じなかった。その熱も鱗が完全に炎に代わってしまうと消える。鱗が消えると今度は火の神の身体全体がゆっくりと炎に変わっていく。
「我が火はここで終わる。されど我が火は貴様の中で燃え続ける。我が花嫁よ、インクナビュラよ、猛き神となれ」
火の神はそう耳元で呟くと全身が炎に変わり燃え上がる。炎に熱さはないが呼吸をするたびに身体の中が、心臓が暖かく、熱くなっていくのを感じる。ただこの熱に苦しさは無く、柔らかく包み込まれているようで不思議に心地よい。
次第に炎の勢いは弱くなり、消えた。
「インクナビュラ、あと四柱で終わります。ここからは意志を強く保ってくださいね」
光の神の不安になるような助言に再び設定画面を開こうとするがやはり反応しない。
いつの間にか頭上にも巨大な陣が敷かれており、それはゆっくりと回転しながら光の粒子を降らせていた。
「あー、もう仕方ないなりょーかいわかったどんとこい!」
「期待してますよ」
思わずやけになって叫ぶと光の神が笑いながら答える、馬鹿にされているような笑いじゃなく、なんだか悪くない感じがする。俺自身も折角のイベントだし嫌々やるより楽しまなきゃ損だよなって気分になってきてた。
「さぁ次は何の神がくるんだ?さっさと続きをしようぜ」
強気になって叫ぶと、レッドカーペットならぬ青いカーペット、ブルーカーペットが俺を目指して転がってくるが、光の神の陣に触れると弾け、陣を囲むように氷の氷柱が発生する。
「ふふ、私達の花婿は頼もしいですね。」
ブルーカーペットの上を1人の女性がこちらへ向かって歩いてくる。花をあしらった青のドレスを身にまとい、その裾とリボンの紐は長く後ろに広がっている。頭には王冠、手には錫杖。女の後ろには氷雪が舞っており、氷の神なのだろうが、神というか女王といった感じだ。土の神とは趣が違うが氷の神も絶世の美女だった。
氷の神がブルーカーペットから光の神の陣の内側にはいると、氷のカーペットも、陣を囲む氷柱もシャリンッという音とおもに砕け、舞う氷雪とともに消える。
氷雪が消え、光の粒子の中を佇む氷の神には幻想的な美しさがあり、思わず見とれてしまう。
「私は氷の神。さぁ私達の式を始めましょう」
そういって俺の手を取った氷の神の手はどこまでも冷たかった。