プロローグ-2
きっかけは長い付き合いになる友人、天地祝からの誘いだった。
「なーなーなーなー神在月ってネトゲが始まるんだけどお前も一緒に遊ぼうぜー。もう俺はキャラ作成済なんだよお前もやろうぜーぜーぜー」
2限が終わってさて昼飯だという時に、前の席に座ってた友人が身を乗り出して迫ってくる。
「やだネトゲ怖い廃神怖い顔近いって!そもそも神在月って抽選だか招待状とかが必要なんだろ。そんなの当たる気がしないって」
女から可愛いと人気の顔が近づいてくるのを両手で押し返す。
周囲の女の私と変われオーラやら何だか怪しい興奮気味の視線に背筋が寒くなる。
ちなみに私と変われオーラの中には確実に男のものも混じっている。
-神在月-
日本の有名メーカーによって作成され、間もなくサービス開始となる仮想現実型MMOで、ゲーム内に作成したキャラクターに五感を接続するという最近では主流となった方法を用いたオンラインゲームだ。
ただ、このゲームへの参加方法が特殊であり、有名メーカーの新作ということもあって話題になっていた。
神在月へ参加する方法2つある。
一つは、神在月の公式ホームページにある20分程度かかる性格診断のようなものに回答して抽選。
一つは、このメーカーの仮想現実型ゲームの過去作品を遊んだ人間から抽選。ちなみにオンラインゲームには限らないらしい。
「へっへー。そこは蛇の道は蛇、持つべき物はおにーさまってことで夜にーが関係してる会社だからなんとかなるんだなぁ。てかもうお前の分もアカウントも用意してもらってあるから」
祝の言う夜にーこと優刃夜とは親のいない祝の保護者みたいな人で所謂お金持ってやつ。
初めて会ったのは小学生のころ。病弱で入院がちだった祝に会いに行ったときにだ。忙しい人らしく祝の家に遊びに行っても優刃さんはだいたいいない。
どうやら何人かねじ込めるだけの関係が会社とあるらしい。
「マジですかコネですかいいんですかっ」
最初は断ったものの、元々ゲーム好きで話題の新作に興味はあったから、抽選とかマジ無理と諦めてたとこにぶら下がる餌に食いつがないわけがない。
「おうよー。神と崇めるが良い」
ニヤリとしたその顔はやっぱちょっとうざいがイケメンは様になっている。
「祝神様うざいです」
「だがそれがいいんだろ」
何故か無駄にドヤ顔で言い放ってくる。
確かに祝のそんなところも嫌いじゃないが、認めると調子に乗るのでそんなことは口にしない
「そんなわけあるかばーか」
とでこぴんをしてやった。
その日の授業を全てこなした後、祝と共に大学図書館で復習やら予習をこなして家路につく。
帰りの電車では神在月の話で盛り上がるが、
何せ俺たちの地元駅は大学から電車で1時間30分程度離れでおり、疲ていたのか祝は途中で寝てしまった。
祝は元々、身体が弱くて小学校、中学校と住み込みのお手伝いさんが送り迎えをしていて、
義務教育である中学から先へは進学しない予定だった。
そんな祝が高校、大学へと進学した理由の一つは俺にある。
中学3年生の時に、高校進学といってもどこにいったらいいか分からないし、
折角なら友人である祝と同じところに行きたいと考えてしまう駄目中学生だった。
いつも通り祝の部屋にあがりこんでごろごろしながらゲームやら漫画を読みながら、
なんとなく聞いてみたのだ。
高校はどこへ行くのかと。
それに対する答えは「自分は身体が弱くて、送り迎えが必要だから進学はしない」というものだった。
俺はその返答に驚愕し、ごねにごねた。
本人としては回りに迷惑をかけたくないという理由もあったらしいが、優刃さんの勧めもあったらしい。
「勉強をしたいのなら外に出なくても出来る」
つまり、義務教育以降も勉強をしたいのなら態々外に勉強にしにいかなくても家庭教師でもなんでもつけるということだった。
高校が別になっても放課後は合流して一緒に遊んだり、お互いの学校の文化祭とかいけるんだろうなーと思ってた俺にはあまりにも突然すぎた。
部屋でちょっとした騒ぎにしてしまい、お手伝いさんが祝だと優夜さんに遠慮してしまうだろうから自分から優夜さんに話してみるといってくれてなんとかその場は収まった。
結果、祝は進学できることになったが幾つか条件がつけられることになった。
・祝の進学先は俺と同じとことする
・行きも帰りも必ず俺が付きそい、世話をすること
・外出時は祝が望んでも長時間離れないこと。
・俺が休む時は祝も休む
・もし途中で出来なくなるようであればその時点で祝は退学となる
まぁ、俺は二つ返事で了承し、今に至るというわけだ。
大学に入ってからは勢い的に彼女が出来た時期もあったが、祝のこともあったためどれも長続きはしなかった。
「天地君と私どっちは大事なの」と言われたこともあり、世の中の社会人先輩が通ることもあるだとう「仕事と私どっちが大事なの」を先取りしてしまった気分だ。
ちなみに祝も似たような状況だったらしい。
祝のヤツは高校に入った時もあったらしくマジイケメンコワイといったヤツである。
大学に入ってから俺にもそういうことがあったのは祝のおこぼれか祝に近づくための踏み台みだいなもんだろう。
すっかり暗くなった住宅街を歩きながら、電車の中でしていた話の続きで再び盛り上がる。
祝の方はすでに登録済であり、サービス開始までは操作の練習をしながら、ゲーム内キャラクターの髪の長さや肌の色といった微調整をしているらしい。
格闘メインの前衛系に育てるつもりらしく、「後衛系のキャラでヨロシク」と頼まれてしまった。まぁ、俺はもともと後衛系が好きだからいいんだけどな。
しばらくすると祝の住んでいる高級住宅街に入る。
元々このあたりは普通の一軒家が並んでる中に、少し大きめの一軒家もあったりとするが、
祝の住んでいる場所は道も幅広く作られてるし、庭にプールがある家もあったりと格が段違いだ。
「相変わらずここらはすげーな」
「綺麗だけど人が住んでない家もあるしちょっと寂しい雰囲気だけどね」
贅沢なこといってるけどねと付け加え、祝が苦笑しながら答える。
まぁ、確かにこんな高級住宅街に住んで、家にはお手伝いさんもいて掃除から何やらしてくれるっていうのは、俺からみたら夢の様な生活だし、変わってもらいたい人は山のようにいるだろう。
無事、祝を家まで送り届けると祝の家に置かせてもらっている自転車にのり自宅へと向かう。
俺の家は祝の家からもうちょっと離れてるのだ。
帰ったら早速ソフトをインストールしながら夕飯を食って、登録済ませたら操作の練習をしてしまおう。