夜の散歩とぴーけーけーと(祝)
第一層が夜の時間帯に移り行く。
平原フィールドには頭が弱そうなご機嫌な鼻歌が流れている。
「んっふふ~たったらっらたっらたったらっらたらたったた~」
ふんふんふーん。
俺ってば超ご機嫌モードなのだ。
至も神在月に引き込めたし、
予想外にもあんな当たりまで引き当ててくれた。
うん
強い
とても強い
凄く嬉しい
勿論外れを引いたとしてもどうという事は無い。
その時は俺が守ってやればいいんだしね。
俺は、至が友達として傍にいてくれるだけで満足なんだからな。
夜にーに言われて高校へは進学できないってなった時も、至が繋とめてくれた。
正直学生生活に未練が無かったと言えば嘘になるけど、夜にーの決定に反対するほど未練があるわけでもなかった。
学校に行かなくなってもどうせ至は家に来てくれただろうしね。
けどまさか大学まで行けるとは思わなかったな~。
俺がこぶ付きみたいな形で彼女が出来ても長く続かなかったのは正直すまんかったと思ったけど、そんな事で別れるようならどうせ長続きしないでしょっと。
俺に彼女が出来た時に、俺の彼女と保護者枠争奪戦をした時はどうかと思ったっけなぁ。
「んー、夜風が気持ちいいっ」
よいしょっと立ち上がり伸びをする。
ここは、この世界では身体が軽い。
アチラ側とは違う。
まだ思い通りに動かせるというほど馴染んではいないけど、
アチラ側より全然ましだ。
桐花ちゃんと景臣君はまだ現身の扱いに不安もあるし、<光への脆弱性>って弱点ばかりに目がいっちゃってる感があるけどアレは当たりを引いている。
2人の成長が楽しみだ。
PKに粘着されて嫌になって引退コースにならなくって本当に良かった。
けど先に進むにはまだまだ力が足りない。
2人ともいい子だしここはがっちり捕まえとかないとね。
むっふっふ
先の事を考えると楽しくてたまらない。
俺たちはもっと強くならないといけないし、強くなれるための現身はある。
あと仲間だな。ああはいったけど、4人じゃ全然足りない。
心当たりもあるけど、他にもいい人達と出会えるといいな。
突如地面が鼓動を打つように揺れはじめる。
揺れの発生源に目を向けると、遠くに巨大な雄羊が平原を悠然と闊歩しているのが見える。
アレは平原の主だ。
あの雄羊を倒すと次の階層への道が解放される。
しかし、アイツを倒して2層にあがるのは俺や至みたいに余程の当たりを引いたプレイヤーじゃなきゃ当面は無理だ。
「誰が最初にアイツを倒すのかな~。今はまだほっぽっとくけど、あんまりのんびりしてると俺が倒しちゃうぞ」
しばらく俺は竜蜂退治で忙しいからその間に誘蛾灯のように他プレイヤーの目を引き付けてくれればいいかな。頑張って倒しちゃってくれてもいいしね。
「けど、ここまで辿り着くのにどれぐらいかかるんだろう」
今いるのは平原フィールドでも高レベルのアクティブモンスターがいる危険地帯。
しかも夜の時間帯なのでさらに強力なモンスターが沸き始めてる。
「俺だけ強くても仕方無いからなるべく避けたいけど、いつまでも1層で詰まってても困るしなかなか難しい所だよね」
けどどうしても詰まるようなら俺が倒しちゃえばいいけど、それだとあまり意味ないよね。
困ったもんだ。
さすがに俺一人で倒すわけにもいかないし、みんなにも強くなっておいてもらわないと。
ん?
油断するなって?
わかってるさ
まだ何もかも始まったばかり
「そろそろ落ちたかな~っと」
ぴぴっとログインプレイヤーのリストを出すと、
まだインクナビュラの名前がある。
ありゃ、まだ起きてるのか
"やっほー!いたるまだ起きてるのー"
"っぶ、お前こそまだ起きてるのかよ。体調大丈夫なのか?リアル以上に身体が動かせるからってあんまり無茶するなよ。それに夜更かしが過ぎるとまた体調崩すぞ"
っげ
至が保護者モードになってる
"う、うん。俺もそろそろ寝るよー。体調崩してみんなに心配かけたりしたくないしね"
"そっか。そんじゃ俺は先に落ちるけど祝も早く寝るんだぞ"
そう言うとすぐにインクナビュラの名前がリストから消えた。
落ちてくれたかー
至も保護者モードというかお説教モード入ると意外と長いからね。
それだけ心配してくれてるってのは有難くもあるわけで、
持つべきものは友達だよなぁ。
景臣君と桐花ちゃんの様子はどうかなっと
うん2人ともそろそろ戻る感じか。
よしそれじゃー俺もそろそろお仕事ようかな。
■■■
景臣君と桐花ちゃんが森から出てくるのを遠くから眺める。
よーし尾行開始っと。
周囲を警戒警戒っ。
ん?何をしてるかって?
2人を狙うPKを警戒してるんだよ。
所謂ぴーけーけーって奴!
俺と至の可愛い弟妹分を苛めるヤツは今のうちに排除しとかないと。
今までは俺と至と一緒に戻ってたから狙ってこなかったみたいだけど、
今は二人きりだし狙われても不思議じゃない。
ほら、引っかかった。
2人を追跡しているヤツがいる。
数はっと……3人か。
どう料理してやろうかあれこれ考えてると。
口角が吊り上がるのを感じる。
まずは聞き耳聞き耳っと。
冤罪だったら困るしね。
耳を澄ませ3人の様子を伺う。
「やっと2人だけになったか」
弓を持った冴えない感じの男が言う。
「今日は殺っちゃえそっすね」
短剣を持ったこれまた冴えない感じの男が続く。
「ほーんと。もーストレス貯まってたんだからさっさと2人になれって感じよね」
最後に続くのは丸っとした体に丸っとした鎧を着て丸っとした槌を手にしたネタのような女だ。
下品に笑う3人組は見たところ軽戦士タイプが2人に重戦士タイプが1人。
3人とも前衛かー、しかも最後の重戦士が女なんだけどこれが丸みを帯びた体型で、いやネタなんだろうけどさ。
蹴り飛ばしたら気持ちいいんだろうなーっていう感じに丸っとしてる。
いや樽っぽいのか樽女なのか。
あれはあれで需要がありそうだよなー。
んー、まだなんかいってるな。
「あーいう綺麗な現身使ってるヤツって殺しがいあるよな」
「ほんと!いやもマジむかつくっすナルシストっぽいっすよね」
「綺麗で弱い奴らはほんとPKのしがいあるわよね~。この前までは強いプレイヤーと
一緒にいたから手を出せなかったけど今日は徹底的にネチネチ殺してあげないと」
死刑確定
速攻で退場してもらおう
他の奴らにならまだしも俺の身内に手をだしてた罪は重いよね。
まずは弓男からかな。
逃げられて桐花ちゃんと景臣君に攻撃されてもめんどうだしね。
善は急げっていうしささっとキルしちゃおう。
『鷹襲撃』
一瞬で距離を詰め弓男に踵落としを食らわせ地面に叩きつける。
うむやっぱり一撃でキル完了。
連続発動だ。
そのまま短剣男にも『鷹襲撃』で近接に入り冴えない顔に拳を叩きこむと錐揉みしながら吹き飛んでいく。
おー、格闘ゲームみたいだ。
「っち、PKか!」
樽女が槌を構えるけどもう遅い!
さらに『鷹襲撃』間合いを詰め回し蹴りを腹に叩き込むと、
面白いように転がって行くと岩に打つかって動かなくなる。
「弱い、弱すぎるぜ」
いや俺が強いだけなんだけどね~。
弓男と短剣男は現身を光の粒子に変え岩戸神殿に帰還したけど、
樽女はまだその場に現身を残したままだ。
ふーん、こっちのチェックでもしてるのかな。
まぁあの状態じゃ会話も出来ないし忠告だけしておこっか。
しかし見事に転がってったね。ギャグかと思ったよ。