桐花と景臣-2
「能力が原因って?」
「その……最初から持ってたんですけど凄い変な能力で……」
思わず聞き返すと言い淀む桐花に変わり景臣が答えてくる。
「<光への脆弱性>日中に光を浴びるとダメージが発生して継続ダメージのデバフを受けるっていう能力。これのせいで平原になっている神意の篝火付近で狩りが出来ないんだ。他にも光系の攻撃に弱いとか弱点能力っすね」
「最初は明るい間は弱い敵を倒して急いで戻るを繰り返してたんですが……」
それは随分酷い初期能力だな。
パーティーリストを見る限り今はダメージが発生していないようだから森の中なら昼間でも大丈夫なのかな。
「あとちょっとで戻れるってとこで他の奴らに殺されたんだ」
「景臣!」
「本当だろ。転送しようとしたところでぎりぎりまで体力の減ってた桐花が殺されたんだ!その後は俺も……」
弱っているところをPKにやられたのか。
余程悔しかったのか地面に座り込んでいた景臣が俯いて唇を噛み締めている。
「だから無理して森の中まできてたんだ。森の中だとダメージは発生していないし、こっちはあんま他のプレイヤーも来てないみたいだし」
プルが影臣の頭を撫でると若干頬が赤くなっているのが見える。
プルの奴わかってやってんのかなぁ。
「岩の影とかを利用しながら急いで森まで来て体力を回復させてから、森と平原ぎりぎりの所でできるだけ弱そうな敵を探して倒してたんです」
大変だったんですよと桐花が苦笑する。
「そんな慎重にやってたのにあの狼の群れにはどうして襲われたんだ?」
「一匹ずつ引っ張ってきて戦ってたんですけど何匹目かの時にいきなり群れが襲ってきて」
「平原側は塞がれてて森の奥に追い込まれたんだ」
「もう駄目だと思ったところをお二人に助けていただいて」
何かトリガーがあったのか巡回してる群れに手を出しちゃったかかなぁ。
「俺たちはまだしばらく森で狩りを続けるけど良かったらこのまま一緒に行かないか」
とりあえずパーティーに誘ってみる。
2人より4人のほうが事故も減るだろうし人のプレイを観察するのも参考になるだろ。
それになにより折角神在月で話したプル以外の最初のプレーヤーだ。
これも何かの縁だし仲良くなりたい。
「おー!イン君がナンパしてる。景臣君いいのー?おねーちゃん取られちゃうぞ」
「ほっとけ。そもそもナンパじゃ無いし」
「お、俺は姉さんがいいなら別に……プルさんとも一緒にいれるし……」
プルがニヤニヤしながら煽ってくるが、俺はプルに絡まれて真っ赤になってる景臣が哀れでならん。
ありゃもう玩具決定だな。
頑張れ少年。おにーさんは応援はしないが暖かく見守っているぞ、ネタとしてな。
よし。一緒に遊ぶならお互い出来ること確認しとくか。
「それで2人の能力はその弱点意外には何かあるのか。さすがにそれだけ酷い弱点だとそれなりの利点が無いとやってられないと思うが」
「そこまで利点かどうかはわかりませんが<双の絆>という能力があります。私と景臣がお互いにかける強化や回復の効果が強化されるというものです。この能力自体も成長に合わせて強化されているみたいなんですけど、どこまで成長してくれるか次第ですよね」
「<光への脆弱性>の方は成長に合わせて弱体化してほしいよねっておいプル何してるんだ」
俺が桐花と能力の確認をしていると記憶の欠片と心の欠片が流れ込んでくる。
プルを見ると景臣と一緒に近くをうろついていたらしい狼を倒している。
「何って暇潰しという名の連携確認に決まってるじゃん。今イン君が思ったように暇で暇で仕方ないから狼潰しをしていたってわけじゃないんだからね」
「プルさん俺の後ろに隠れていっても説得力無いっす」
俺とプルの間に挟まれて、両手をあげて万歳状態になった景臣が苦笑しながら言う。
「景臣君までそんな事言うの!俺の味方だと思ってたのにー」
「ちょ!痛い痛い痛いですって」
むーっとふくれっ面になったプルが景臣の左頬を後ろから抓っている。
いやダメージも発生してないし痛くないだろという突っ込みは必要だろうか。
「もう!プルさんと景臣だけ楽しそうにしてずるいです。私も混ぜて下さい」
桐花はそういうと景臣の右頬をふにっと抓る。
プルは痛そうだが桐花のはなんだか擽ったそうだ。
「よーし桐花ちゃん、俺たち2人て景臣君をお仕置きだっ」
「わ!ちょ、やめ、ふ、ふぁははははは!」
今度は二人で景臣のことを擽り始める。
景臣は逃れようとするがプルに転ばされた挙句馬乗りになって攻め続ける。
桐花はどこから持ってきたのか猫じゃらしのようなもので攻め始めた。
うん。
一見両手に花だし景臣も幸せなんじゃないかなうん。
こういうの好きな男子もいるだろ。
女の子2人から攻められてーって俺は嫌だけどな!
「全く楽しそうだなお前ら」
「そりゃ楽しいよー!んっふっふ。景臣君はここが弱いのか。んじゃこっちはどうだとりゃー!!」
「だ、駄目だって。姉さんやめて!あ、プルさんそこはだ、ふははははははは」
「えい!景臣はここも弱いんですよ。プルさんそこもっと攻めちゃってください」
プルはノリノリモードに突入だ。
俺の手には負えないぞっと。
まぁPK話から暗い感じだった2人の顔も笑顔になっていい感じだ。
プルのお手柄といった所か。
こういうとこプルは上手いよな。
分かってやってるのか天然なのかは議論が分かれる所だけど、俺は分かってやってると思ってる。
ま、そこは友達関係長いしね。
御見通しという奴だ。
というか実際プルのそういうとこに俺も助けられたりしてるしな。
線も細いし身体も弱いけど、芯はしっかりしているし、不思議と人を引き付けるカリスマっぽいところもある。
そのせいでちっさい時はよくやんちゃな奴らに妬まれたり標的にされて俺が守ってやらなきゃってなってたけど、実際俺がいなくても1人でなんとかしてたんじゃないかなって思うこともある。
む、不味いなこの思考はネガティブになる。
「おい、お前らいい加減にしろよ」
「イ、インクナビュラさん、たすけ、て」
やっと助けがきたと思ったのか笑いすぎて潤んだ目で景臣が見上げてくる。
だがしかし世の中そんなに甘くない。
そう、俺も混ざるつもりだ。
見て呆れてるより混ざって楽しんだほうがお得だろ。
俺が被害者じゃないしな!
「俺も混ぜろー!」
叫びながらプルと桐花側に参戦する。
「インクナビュラさんも一緒に景臣をお仕置ですね!」
桐花が嬉しそうにしてる。
「よーしみんなで景臣君をお仕置きだー!」
「ひっ!嫌だぁぁぁぁああああああああ!!」
森の中を景臣の絶叫が木霊した。
悪く思うな景臣。
お前の犠牲は忘れない。
合掌。