桐花と景臣-1
大学の課題は恙なく進んだが、神在月では蜂退治を繰り返し順調に成長したものの、門番竜蜂とは出会えずにいた。
課題から解放されて上機嫌だったプルも次第に静かになってきて怖い。
「今ならそこまで苦戦しなさそうだけど門番竜蜂でてこないね」
ぼそっと呟いたプルの声がちょっと怖い
「ま、まぁ順調に成長できてるしそれはそれでいいんじゃないかな」
「飽きた蜂飽きた蜂退治飽きた」
「どうどう!落ち着け暴れるなっ」
拳を振り回すプルを抑えようとするが神在月内ではステータスの関係で抑え切れない。
なんだこの馬鹿力っ。
俺が非力すぎるっていう話は無しでお願いしたい。
ほら、そこ追及しても仕方ないだろう?
「ぷる待てっ」
「なんだ待てって!俺は犬じゃなー」
暴れてたプルが言いかけて止まった。
と思ったらそのまま俺を持ち上げて駆け出した。
持ち方はこう、お姫様抱っこという奴だ。
駄目だ客観的に状況を想像しようとすると恥ずかしくて死んでしまう。
「ぶっ。無理無理無理たんまどうしたんだよ」
「助けてって声が聞こえたっ」
俺には何も聞こえんないんですけどー!?
地図を見ると俺たちの進行方向にはアクティブエネミーを示す赤い無数の赤い光点がプレイヤーを示す2つの青い光点を追いかけているのが表示される。
うっわこれに突っ込むのか。
「突っ込んで散すからイン君は状況に合わせて宜しくっ」
「おうけーい任せとけ」
サポートってことは闇神に水神か光神あたりをいつでも召喚できるように準備しとくか。
すぐに赤い光点の最後尾に追いつき視線の先に狼の群れが走ってるのが俺の視界に入る。
というかプルの運動性能高すぎないか。
「いくよ。しっかり捕まってて」
「え、俺抱えたまま突っ込むのか!」
「はッ」
プル足に風が渦巻くのを見ると必死に首にしがみ付いた。
次の瞬間一番手前の狼の前に瞬時に移動しその腹に膝を叩きこむと、狼は宙を舞い四散する。
「壱」
プルがそう言葉を発するとまた一匹の狼が舞い上がり四散した。
「弐、参・・・・・・」
プルが数を数えるたびに手前の狼まで瞬時に移動をし一撃で倒していく。
今プルが使っている技『鷹襲撃』という技で、一定距離以内対象の近接位置まで瞬時に移動し一撃与える技だ。
この技で止めをさすと連続した技としてすぐ別の敵に対して使用することができる。
つまり今の状況は『鷹襲撃』を連続で使うことで敵の数を減らしつつ走る狼の先頭集団に追いつこうとしてるわけだ。
という事はプルの精神力の消耗がきつくなるか。
よっし闇神で回復してくのが俺の担当かな。
片腕でプルにしがみついたまま片手で古びた本を開き『闇神召喚:発動.精神力回復』を選択すると、黒く光る文字が浮かび上がり詠唱ゲージが現われるが、
うん、いつも文字をなぞる方の腕でプルにしがみついてるからいつもの方法だと召喚出来ない!
っく、仕方ない。
意を決して黒く光る文字を読み上げる。
「闇の閨に微睡し黒よ 我が声に応え 夜の滴を」
俺の発した言葉に合わせてゲージは満たされていく。それと共に黒い魔法陣が描かれ、その中心に闇神卵が召喚される。
俺の成長に合わせて強化されているらしく。黒い卵にはひび割れ、大きな穴が一つあいていてそこから黒い靄のようなものが漏れている。
魔法陣が一際強く黒く輝くとプルの頭上に黒い滴が一滴落ちその身体包み込む。
効果は精神力を徐々に回復してくれるという優れもの。
しかしこの発動方法はまだちょっと気恥ずかしく中の人に精神的ダメージを与える。
けどいつもの発動方法より早く発動出来るようだ。早口言葉とか練習したほうがいいのだろうか。
一瞬遠い目をするがもう先頭集団に追いつきそうだ。
先頭集団が追いかけてるプレイヤーは銀の髪の少年と金の髪をした少女の現身だ。
少年が少女を抱え(所謂お姫様抱っこ。俺とプルの状況の反対だな!)走っているが2人ともかなりのダメージを追っているようだ。
上手く躱して逃げているようだがこのままだと確実に戦闘不能に追い込まれるだろうが、この距離なら俺の発動系の召喚が届く。
回復か防御か一瞬迷うがダメージカットの防御を選択する。『土神召喚:発動.防壁』だ。
相変わらず片手が塞がってるので黄土色に光る文字を読み上げる。
「土の閨に微睡し蟻皇よ 我が声に応え 守護の砂壁を」
現われた土神卵は闇神卵と同じくひび割れ大きな穴があいている。
穴やひびから砂が溢れ出し目標である少年と少女を覆うと消える。
土神卵さんお得意の一定量のダメージを防いでくれるバフを与える。
ちなみに発動系だったためすぐ退場だ。
敵の攻撃だと思ったらしく少年少女は悲鳴を上げている。
うん、なんかごめん。
まぁプルの『鷹襲撃』であっというまに追いついたしもう大丈夫だろう。
「追いついたぁあああああ!『地陣衝』ッ」
『鷹襲撃』で先頭の狼を撃破するとそのままプルが地面に拳を叩きつけるとそこを中心に円形範囲の衝撃が発生する。
俺はプルに守られててダメージは無いけど少年少女は見事に範囲内だ。
「もういやぁぁぁ。こんな怖いゲームだなんて聞いてない!」
「姉さん落ち着いて!ダメージが発生してないっ」
姉弟でプレイしてるのかそういうロールなのかは置いといて少年のほうが冷静なようだ。
プルの『地陣衝』は範囲ということもありそこまでダメージは大きくないため『土神召喚:発動.防壁』のバフを貫通していない。
「よし。パーティー申請したから参加して。一緒に狼共をぶっ飛ばそう」
「え、あ、はい!」
プルに促され2人がパーティー欄に追加される。
少年の現身のほうが景臣で少女の現身のほうが桐花かな。
俺もやっとお姫様抱っこ状態から解放だ。
しかし改めて見ると自分より背の低い女にお姫様抱っこな図だった俺より、
白肌銀髪灰目の美少年美少女コンビの目の前の彼らのお姫様抱っこの図のほうが確実に絵になるな。
かなり作りこんでるみたいだし後でじっくり観察激写させてもらおう。
とりあえずパーティー外だったため巻き込まれた景臣と桐花のダメージカットバフのかけ直しも含めて、プルと俺にも土神召喚:発動.防壁のダメージカットバフをいつもの発動方法でかける。
詠唱の邪魔をしようと飛びかかってきた狼はプルが撃破していく。
やっぱりさっきの詠唱発動よりこの文字をなぞる発動の方が時間がかかるけど、これは音が発生しないのが利点なんだろうな。
まぁバフをかけ直したのは保険でしかないわけで、残りの狼はプルがほぼ1人で始末してしまった
景臣と桐花も俺とプルの援護に安心して戦えるようになったのかそれなりに善戦していた。
プル1人で戦力は十分だったので適当に皆を援護しつつ2人を観察する。
景臣はプルと同じで近接物理格闘タイプ。桐花は中遠距離からワンドを使った魔法によるデバフによる敵の弱体と攻撃をが出来るようだ。
景臣が近接で抑え桐花が援護する2人の連携はなかなか上手くインクナビュラさんは感心です。
プルが一撃加えると狼は撃破できいるので、まさに鎧袖一触だ。
「なぎはらえー」とか言いたくなる感じだな。
景臣と桐花も連携しながら着実に一匹ずつ倒して言ってる。
善哉善哉、これはもう勝ったねうん。
あ、お汁粉食べたい。明日のおやつに作るか。
確か桜茶用の桜の花の塩漬けがあったしいれてもいいな。
などなど1人まったりモードで明日のおやつを考える。
さくさく倒された狼は半数ほど倒した時点で撤退していってしまった。
「あー!逃げられた。群れのボスとか出てくるかなーと思ったんだけどなぁ」
ちくしょーとやってるプルのそばで桐花は地面に座り込み、景臣は大の字になってつかれたーとかいってる。
おっし戦闘狂のプルはほっとくか。
「突然乱入してごめんね、大丈夫だった?」
「あ、はい!助かりました、有難うございます。ゲームだってわかってても怖くなっちゃって」
「いやけどあの数はびっくりしちゃうよね、俺もプルのヤツが突っ込んだ時は焦ったし」
「あ、私は桐花っていいます。あっちにいるのは弟の景臣です。ほら、景臣もちゃんとお礼いいなさい」
桐花に促され大の字になってた景臣が飛び起きる。
「有難うございました!桐花が滅茶苦茶恐がるしもう駄目かーって思ってました。けど2人とも凄い強いっすね」
人懐っこい笑みを浮かべ頭をさげてくる景臣の髪に絡みついた落ち葉などを桐花がとってあげている。
微笑ましいなぁ。
「2人とも凄い現身作りこんでるよね。凄いな」
「あはは、桐花が凄い拘ってつくってて、俺のも桐花が設計してくれたんですよ」
「名前は景臣が考えて現身は私が担当だったんですけど、お互いにどういう風にするか話し合ってなかったから見た目と名前が不一致な感じになっちゃったんです」
「俺はもっと和風な感じかなーと思ったからこんな名前にしちゃったんだよね」
「良かったら2人でいる所を写真にとってもいいかなってプルなにすんだ」
本題に入った俺のほほをいつの間にか隣にたったプルが腕をのばしひっぱってくる。
「いやイン君が俺をほっぽってナンパしてるからついね、この手が勝手にね、うん。あ、俺はプルウィウス。プルでいいよ」
「俺はインクナビュラだ。プルいい加減その手を放せ」
「けど桐花ちゃんも景臣くんも可愛いね」
「桐花なんかよりプルさんのほうが可愛いです!」
おや、景臣がなんか張り切ってる。
「景臣!なんかってなによ。けどプルさんもインクナビュラさんもとっても綺麗な現身だと思います」
「イン君は裸族だけどな」
「誤解を招く言い方はよせ、下は履いてるだろ」
いい加減プルの手を無理矢理外させる。と桐花がくすくす笑ってるのが目に入った。
「そういえばこのあたりは敵も結構強いから、取り合いも激しいかもしれないけど君たちぐらいならまだ平原で狩りをしていたほうがいいんじゃないかな」
確かに。
今の桐花と景臣だと敵が一体なら倒せそうだけど、二体でぎりぎり、三体以上になったらもう積みそうな感じだ。
「あー、だよね、そう思うよな。けどなかなかそういうわけにもいかなくって」
景臣が困ったように頬をかき桐花がちょっと項垂れる。
「実は、私達の能力に問題があって、昼間の平原は向いていないです」