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神在月  作者: 道成
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門番竜蜂

ん、すっかり寝てしまったようだ。

祝と約束していた時間に設定したアラームに紛れて女の声が聞こえてくる。


「いーたーるー、至っ!約束の時間だけど寝てるー?」


時間や内容からどうやら祝のようだが聞き覚えがない声だ。

発信者はプルウィウス・アルクス。IDは祝のものだし本人で間違いないようだ。

フレンド申請とPT加入申請が来ているのでどちらも承諾すると、プルウィウスの生命力と精神力のゲージが俺のゲージの下に表示される。


「うー、声大きいって」

「あーもう、やっぱ寝てたんだ……って結構離れた場所にいるけど大丈夫!?」

「敵もそんな強くないみたいだし大丈夫だけど」

「わかった、今そっち行くからそこで待ってて」


地図上のストーンサークルの地点に現れた光点がこちらに向かって移動してくる。

まぁ向こうから来るっていってるしここで引き続き蜂退治に勤しむか。

いや戦うのは俺じゃなくて土神卵さんだけど。

土神卵さんは俺が寝てる間も蜂退治をしてくれてたため「記憶の欠片」と「心の欠片」共に結構貯まっている。

祝……じゃなくてプルウィウスが来るまであとちょっとだけど続けるか。


土神卵さんに任せきりっていうのもなんだし発動系の奇跡の練習も兼ねて参戦するが、攻撃系を使っても一撃で倒せるし状態異常付与系を使ってもすぐに土神卵さんが倒してくれるので練習にもなってない気もする。


「おまたせいた……じゃなくてインクナビュラ」

「いきなりリアルネームで呼ぼうとすんなよ」


後ろからかけられた声に振返るとそこには年は二十歳前ぐらいだろう女性が立っている。

艶やかな黒髪は腰まで伸びており、黒い瞳は強い意志を感じさせるなかなかの美女だ。

ちなみに胸は控えめ、その耳は俺と同じように尖った形をしている。

服装も俺と違って露出の多い物では無く少し和の要素を感じるファンタジーな服装だ。


「というかプルウィウスって長いからプルでいいよな」

「おっけー、俺もイン君って呼ぶから」

「イン君って……まぁいいけどさ」

「ところでイン君は胴装備とか無いの?ひょっとして初期装備?腹筋見せびらかしたい人?」

「いや初期装備だから、あと気にしてるからそのネタで苛めないでくれ」


俺の腹筋を突くプルの頭を思わずぽんぽんしてしまう。

その口調から女の現身を使ってるからといって女のロールプレイをするつもりは無く素でいくらしい。

そこで気が付いたのだがプルは武器を持っていない。

単純に武器が無くて思いつくのは格闘系かひょっとしたら他にも何かあるかもしれないけど聞いたほうが早いだろう。


「なぁ、プルは前衛系なんだろ。武器は何使うんだ?」


そういった俺の眼前に拳が突き出される。

まぁ予想通りかな。


「格闘だよ。初期武器はくすんだリストバンド」


そういうと蹴りや突きをしてみたりと色々ポージングをとってくれる。

そのまま情報交換タイムに突入しお互いの奇跡の確認などをするが、基本的にプルの知ってるゲーム知識を教えてもらうターンと化している。

ちなみに土神卵さんが倒して手にはいる記憶の欠片と心の欠片はパーティーになっているプルにも分配されるようになったため俺にはいる分は減っている。パーティーボーナスがあるのか単純に人数割りではないようだ。

敵を倒して手に入っている記憶の欠片はキクから消耗品や装備と交換に使う、心の欠片は現身性能の強化、所謂レベルアップに使うとのことだ。

また竜蜂というのは森にしか出ない強力な敵で本当なら初期状態は勿論、成長させてもそんなすぐに倒せる敵ではないらしい。

森が比較的近いエリアにあるため油断して入るとエリア境界を巡回している竜蜂に瞬殺されるらしい。

というかそのせいでこのあたりは人がいなかったのか。

あとそんな竜蜂をまだ初期状態の俺が一撃で倒せるのはかなり特異なことらしい。

「え?いきなりチートとかやめてよ?」と言われてしまった俺は無実だ。たぶん。


オープニングイベントの当たり外れで現身の性能差があることが確認されているが、攻略組でもまだそこまでの差は確認されていないそうだ。

他のプレイヤーに妬まれる事もあるからしばらくは人前で戦うなといわれてしまう。

オープニングイベントの当たり外れで性能差があるのは公平じゃないと騒いでる人達もいるからあまり目立って注目を浴びないほうがいいとのことだ。


欠片は二種類とも敵を倒すことで手に入る経験値であり、敵を倒して手に入るドロップアイテムやいらない装備をキクに渡す事でもアイテムに応じた量の欠片が手に入る。

ドロップアイテムと聞いて思わずアイテムウインドウを開くと竜蜂の毒針、竜蜂の羽根が結構な量入手できていた。

それと初期装備をキクに渡すことで記憶の欠片、心の欠片ともに大量に手に入り一気に強化ができ、初期装備を欠片と交換するプレイヤーが続出しているらしい。


「それじゃ早速俺たちも交換して強化しようぜ」

「うーん、それはもうちょっと待ったほうがいいかも」

「ん?なんでだ」


同意してくれるだろうと思ったら反対意見だったことに驚く


「この初期装備って記憶の欠片で交換できるリストに入ってないから二度と手には入らないかもしれないんだ」

「けど初期装備なんて弱いだから構わないんじゃないのか?」

「確かに弱いんだけど、心の欠片で強化をした時に初期装備を装備していると一緒に強化されているプレイヤーもいるんだよね。ちなみに俺の初期装備は強化されたよ。人それぞれでアクセサリーが強化される人もいれば武器が強化される人も、勿論両方強化される人もいるみたい」

「なるほど、けど今はその初期装備を欠片に交換する人が続出してるっと」

「うん、実際それで手に入る欠片でかなり強化されるからね。初期装備の強化も微々たるものだからその情報を知って交換する人もいる。公式運営の掲示板でも初期装備が強化されるって情報を流してくれる人もいるけど性能が上がるのもほんの少ししか上がっていないことと初期装備を欠片に交換して装備や性能を強化した人の話のほうが分かりやすい強化だからそっちへ食いつく人が多いみたいだね」


初期装備は強化するときに装備をすれば微々たるものだけど性能があがるということは、記憶の欠片で新しい装備を手に入れても心の欠片で強化をする時に初期装備をしておけばいいってことだろう。


「心の欠片での強化は上限がまだ不明だから安易に欠片に交換しないほうがいいってことか」

「そういうこと欠片に交換するにしてもそれを見極めてからでもいいかなってね。とりあえず欠片だけ大量に持ってても仕方ないから強化しに一端戻ろう。心の欠片を使った強化すれば欠片の所持限界もあがるしね」


地図上にここを狩りポイントとして印をつけておき、ストーンサークルまで戻る転送を使おうとしたとき、暴風が突如起こり周囲の木々を薙ぎ倒す。ただの演出だけでなく、俺の生命力は9割、プルの生命力は6削られて瀕死状態だ。

暴風の発生源には今までの竜蜂とは比べものにならない大きさ、人間大の大きさをもつ竜蜂が浮かんでいた。

名前もただの竜蜂ではなく、門番竜蜂とある。

土神卵さんの攻撃は当たってはいるがダメージはあまり通っておらず逆にじりじりと土神卵さんの生命力が削られていく。

風神召喚:発動の生命力回復を数回使い、俺とプルの生命力を回復させる。


「うわー、なんか強そうなのきちゃったよ」

「逃げ切れるかわからんし玉砕覚悟で戦ってみる?」

「イン君がそれでいいなら俺は構わないよ、とりあえずありったけの強化と弱体をお願い」

「おっけ、プルが門番竜蜂の間合いに入ったら召喚:維持を別のにする。土神さんも発動で使えば防御系になるからな」


俺は次々と魔法陣を展開してありったけの強化をプルと俺に、かけていく。

プルも隣で自己強化をしている。


「よし、それじゃ行ってくる。サポート宜しくね」


そう言うとプルは門番竜蜂に向かって駆け出す。

プルが門番竜蜂に接敵したのを確認して氷神召喚:維持を使う。

魔法陣が完成すると同時に土神卵さんが消えて氷神卵が召喚される。

門番竜蜂へ攻撃を指示するとともにすぐ土神召喚:発動をプルに向けて使い一定ダメージを防ぐ砂の防御壁を作る。

さすがに攻撃があたると一撃で貫通してしまうが、それによりダメージはある程度抑えられるため、すぐに風神召喚:発動でプルの生命力を回復させ、土神召喚:発動でまたプルに砂の壁を使う。その合間に雷神召喚:発動で一定の確率で行動をキャンセルさせる麻痺を与え、光神召喚:発動でプルの防御力を底上げあする。


氷神卵の攻撃方法は土神と同じように一緒に召喚された氷を使った攻撃だ。

氷を投げナイフのように射出する攻撃で門番竜蜂に対して土神卵さんより大きいダメージを叩きだしている。

門番竜蜂が麻痺の状態異常になっていることと、プルもすでにある程度強化しているためか門番竜蜂の体当たりは毒針による攻撃をなんとか躱したり致命傷を避けている。

範囲攻撃はどうしてもかわせないためそのたびに回復と砂の壁を張り直し、門番竜蜂の麻痺が切れればかけなおす。

遅延は氷神を維持で使ってるため使用不可能だ。

精神力に余裕が無ければ闇神召喚:発動により自分の精神力を回復させる。

これはなんとかいけるかもしれない。

そう思ったところで門番竜蜂は再び登場時に使った広範囲攻撃を使う、今度は威力が上がっているのか吹き飛ばされて木に叩きつけられ一気に瀕死状態だ。

吹き飛んだプルに門番竜蜂の毒針が迫っている。

不味い、回復も強化も間に合わない。


「プル!避けろっ」

「大丈夫、あと一撃ッ」


そういうとプルは飛び上がると急降下してその蹴りが門番竜蜂の腹部に食い込みそのまま地面に叩き落とし、その勢いは衰えず木に激突する。

それが止めの一撃になり、大量の記憶の欠片、心の欠片が手に入る。

プルは俺の事をかなり特殊のように言ってたけど、門番竜蜂とあれだけ戦えるプルも随分特殊なんじゃないのか。


「お、ドロップアイテム来た!えーっと竜蜂の王蜜っていうのが手に入ったよ。門番竜蜂7体分手に入れると竜蜂の巣への門を開けるんだって」


プルが竜蜂の王蜜を取り出して見せてくれる。

透明な瓶に琥珀色の蜜が少し入っている。

む、なんだかとても美味しそうだ。


「あと6体倒すとこの瓶が一杯になって鍵になるってことか」

「そうだね、とりあえずボロボロだしまた襲われないうちに戻って強化しちゃおう」

「りょーかい」


今度こそ俺たちは転送を行い第一層入口まで戻ると、そこから岩戸神殿に帰還した。


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