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神在月  作者: 道成
12/26

揺り籠~岩戸神殿~初戦闘

今日は神在月のメイン開放当日。

サービス開始時間は18時だ。

今日は金曜日、明日は土曜日。大学の授業は無い。


サービス開始と同時にログインダッシュで駆け抜ける為に自主休講っ……なんて事はなく大学の講義を受けて祝の家で夕飯食べ終わって家に帰ったら風呂入ったり片付け等が終わって後はゲームして寝るだけだって頃には21時を過ぎていた。

祝との集合時間は0時になっていてそれまでは自由行動だ。

現身にはそれぞれ固有のIDが割り振られていて、そのIDで検索をかけることでリアルの知人と神在月内で簡単に連絡を取り合えようになっている。

お互いのIDは交換しているので、合流まではそれで連絡を取り合おうということだ。


ベッドに寝っ転がり早速神在月を起動する。

いやー、今までチュートリアルで操作はしていたけどやっぱドキドキするもんだ。

現身起動を選択すると、いつもの青い空間では無く真っ暗な空間に変わる。

すぐに暗闇の中に小さな光が生まれ一つの光景を映し出す。


小さな光が輝くと白亜の柱に変わる。

すると次々に小さな光が生まれ、争うようにぶつかり合い消えてゆく。

場面は切り替わり青い星が映る。

視界は星の表面に降りると人間、獣人等様々な種族が映し出されていく。

彼らは争い、助け合い繁栄と滅びを繰り返していく。

やがて星全体に大きな荒廃が訪れ再び画面は白亜の柱に切り替わる。

柱は朽ちかけており、周囲に漂う光も弱々しかった。

その中に一際強い輝きを放つ光が現れ朽ちかけた柱の中に入っていく。

すると朽ちかけた柱は輝き、朽ちた箇所が再生し美しい装飾の施された新しい白亜の柱となった。

場面は再び切り替わる。

凄まじい速度で星の繁栄と荒廃。

朽ちかけた、時には完全に壊れた柱の再生。

柱の形状は新しくなる度にその形状は異なるものになっていた。

やがて場面の転換が緩やかになり、星が繁栄している所でまた視界は星全体にを映し出すものとなると、柱の場面に切り替わる。

柱は美しく、周囲も無数の光に満たされている。

そして前触れも無く柱は消滅した。

柱の消滅と同時に虫食いのような穴が生まれ

少しづつ広がっていき

小さな光はその穴に飲まれていく

青い星もまた無数の穴に蝕まれ歪な姿となっていた

そして全てが消えて無くなり

再び周囲は暗くなる


神在月の舞台は一度滅びた世界だ。

今の光景は古き世界が生まれてから滅びるまでの姿だったので小さな光は古き神々だったんじゃないだろうか。


そんな事を考えているといつのまにか、いつも通りの小さい輝きが散りばめられた青い空間になっていた。

けど今までよりかなり暗く、エリア名は「揺り籠」と表示されている。

俺の現身、インクナビュラも半透明の繭のようなものに包まれていて、膝を抱えて丸くなったまま動かない。

髪が微かに揺らめいている。


とくん……とくん……


ゆっくりと何かが脈打つ音が聞こえ、視点がインクナビュラに近づくと、喉の動きなどから静かに呼吸していることがわかった。

何かが脈打つ音もここに来ると大きくなり、この音はインクナビュラの心臓の鼓動だとわかる。

時々瞼や指が少し動き、まるで眠っているようだ。


そして視界はゆっくりと遠ざかる。

視界が遠ざかったため、周囲には同じような繭が無数にあることに気がつく。

中には普通の人間っぽい奴から獣人、骸骨、完全に人型では無いものでは液体の塊のようものが入っている。

視界がさらに遠ざかることでそれらの繭が小さな輝きとなる。

仄かに青い空間の上は完全な暗闇があり、そして更に上は光る文字や線で描かれた模様で覆われている。

視界は更に上がり光る文字を抜け、下を向く。

光る文字は一面を覆っていて、その上には灰色のローブを纏い、フードを目深に被った女がいた。

手には女の身長よりも高い枯れた木の枝のような杖を持っている。


「古き欠片を抱き眠りし神よ、その知は血となりて其を廻り、その血は知となりて其を満たした。残されし古き神が失われ、胎は満たされた。与えられし神よ奪いし神よ新しき世界を望みし神よ、目覚めの時は今」


声とチャットウィンドウから女がキクだということがわかる。

手にした杖が淡く光り、杖の先端から微かに発光する液体が溢れ出す。

先端から数的零れ落ちると光の文字は波紋を生み、強く輝き始めた。


たんっ


キクが杖を光の文字に突き立てるとその光はさらに強まり、深淵の闇を照らしていく。

そして視界は現身の眠る繭の群れへと落ちる。視点はインクナビュラの元へと戻りその身体と重なり接続される。

現身が瞼を閉じていたため視界は完全な暗闇になる。

閉じられていた瞼を開こうとするが、身体全体が重く薄らとしか開けない。

先ほどの光が見えるかもしれないと上を向くと薄暗い青の世界に滴のようなものがゆっくりと落ちてきているのがみえた。

さっきキクの杖から零れた滴だろうか。

俺を覆う繭に落ちると、触れた部分から繭が溶けていった。

俺の身体はゆっくりと上昇していく。

身体はまだ指先ぐらいしか動かせない。


このペースで浮かんでいくとなると結構時間かかりそうだなー

なかなか動かせない身体を動かすことを諦めて遥か彼方に見える小さな光を眺めていると、下のほうから再び心音のような音が聞こえ始め、目の前に半透過のウインドウが開きスタッフロールと共に映像が流れる。

流れる映像は公式ホームページに現身のサンプルとして紹介されていた二刀流の女戦士が戦っている映像だ。踊るように舞い大小様々な敵を葬っていく。

神在月のメインテーマとなっている歌も流れている。

歌っているのは確か人気はあるけど1位を取れない男性デュオだったけ。

曲を出せば2~10位に入るがここぞというとこでさらに人気のある歌手が曲をだして1位を取ったりと運が悪いところもファンにとっては萌えポイントだとか。

確か結構若くて現役高校生とかだったかな。

男だからみんな大好きJKじゃなくてDKだけどな!

あ、俺は「ろりこん」ではないですよと誰かに言い訳してみる。


そうしているうちにスタッフロールが終わり、キクの立つ光る文字が目前に迫っていた。

操作はオートに切り替わり、俺の身体が腕をあげ光る文字に触れるとそこから盛り上がっていき、俺の身長分まで浮き上がると、光る文字は俺の身体に沿いながら元の場所へと戻っていく。


「記憶の欠片を、心の欠片を集めこの揺り籠へ捧げなさい。その対価として貴方は力を得るでしょう」


キクはそういうと俺に杖を向けた。

杖から溢れだした光が魔法陣を生み出し俺を包みこむと、周囲の景色が溶け混ざっていく。

全てが混ざり合い黒くなった視界がふと開けるとそこは広大な洞窟で壁一面に描かれた魔法陣からゆっくり全身が排出され、エリア名が表示される。

岩戸神殿か、岩戸ってことで洞窟なのかな。

魔法陣からは他にも同じようにイベントを終えたであろう他のプレイヤーが出てきている。

コントロールが戻り周囲を見回すと、天然の洞窟に所々手が加わったような作りになっているようだ。

サービス解放直後では無いとはいえさすが初日のスタート地点は人が多い。

尻尾や獣耳といった半獣人もいれば完全に人型じゃないプレイヤーも見かけるがやはり操作が難しいのか動きがぎこちない。


なにはともあれ装備確認だ。

ステータスウインドウの装備の項目を選ぶ。


---

武器: 手: 古びた本.革の装丁は赤茶けており,本体は酸化が酷く失われたページもあるようだ.


防具: 胴手腰脚足: 薄汚れた布. ボロボロの布を腰布として纏っている.薄汚れたサンダルとのセット装備.

---


マテ

この腰布つきのハーフパンツとサンダルは胴~足までのセット装備なのかッ。

あと武器も問題だ。

表紙の革部分が赤茶けて粉っぽくなってるのはレッドロットという革装丁の本の劣化状態になっていて触ると指に粉がついてくる。

開いてみると劣化状態が酷く乱暴に扱ったら容易く破損状態が広がってしまいそうだ。

おおお、初期装備とはいえこれは酷い。

というか早いとこ装備を手に入れないと上半身は裸のままか。


とりあえず装備やら道具の詳しい入手方法は祝から聞くとしよう。待ち合わせまでは時間もあるしそれまではソロで肩慣らしでもするか。

地図を見ながらエリア移動のポイントまで行くと、そこには仄かに光る水晶のような鉱物で作られたストーンサークルがあり中心には天井を貫く巨大な柱が立っていた。

周囲のプレイヤーが柱に触れてしばらくすると消えていくので俺も真似して触れてみると「第一層への転送を開始します」という表示と共にパーセンテージ表示のついたゲージが表示、ゲージがたまりきると青い光に包まれ転送が実行される。


転送先は転送前と同じようなストーンサークルだが、周囲は洞窟では無く平原になっている。

中心の柱は空に伸び、その先は霞んでいてどこまでも伸びているようだ。

ストーンサークル付近はやはり狩りに便利なのかプレイヤーが多く、のんびり喋りながら敵のポップ待ちをしているプレイヤーもいれば睨みあい怒鳴りあいながら縄張りを主張しているプレイヤーもいる。


ギスギス取り合いも面倒くさいので移動するかなぁ。

ストーンサークルから離れるほど敵が強くなっているらしく、しばらく移動するがやはりまだ人は多い。

だんだん人は減ってくるがその分、敵も強くなっているようなので見つからないように岩陰等に隠れながら先に進んでいく。

しばらく移動して他プレイヤーの気配がなくなると、さらに遠くに森が見えたのでそちらを探検することにした。


森に入ると、人の頭ほどの大きさの蜂が3匹連なって飛んでいるのが見えた。

名前を確認するためにターゲットすると竜蜂と表示される。

戦闘になった時に何もできずに即死しないように、俺のメインの戦力となる維持タイプの召喚をしておく。

古びた本を開き土神召喚:維持を選択するとページの上に文字とパーセンテージ付のゲージが現れるので文字を指でなぞっていくと、それに合わせてゲージがたまり、地面には黄土色に光る魔法陣が描かれていく。魔法陣から黄土色の粒子が舞い上がりしばらく俺の周囲を浮遊、一度本の上に集まり再び散らばると目の前に集まり光を発しながら例によって卵と砂になる。

ゲージは魔法時が完成した段階で100パーセントになっていて、ゲージがたまりきれば本を閉じてもキャンセル扱いにならない。

数歩歩いたときに重大な問題があるこに気が付く。


卵……もとい土神卵さんついてこねぇ。

移動コマンドもねぇ。

いや卵に歩けというのも酷なのかもしれないけど攻撃にも防御にも使える砂で動いてくれてもいいんじゃないだろうか。

仕方ないから抱えて運ぼうとしたらびくともしない。

これは酷い。

俺ってひょっとして外れ引いたのだろうか。

なんとか土神卵を転がそうと試みてると、俺の頬を掠めるように砂の槍が生まれる。

お、怒った?


「ジ、ジジジ」


後方から聞こえた音に振り替えるとさきほど見かけた竜蜂が砂の槍に串刺しになってる。

竜蜂の生命力ゲージが0になるとその身体は光の粒子となって俺の身体に吸い込まれる。

アクティブだったようで俺に反応して襲い掛かってきたところを土神が倒してくれたようだ。

残りの二匹も羽音をたてながら襲いかかってくるがその針が俺に届く前に、砂を鞭上に変形し薙ぎ切ったり槍上に変形させ貫く。いずれも一撃で倒してくれる。

三匹とも光の粒子となり俺の身体に吸い込まれていく。

画面を確認すると「記憶の欠片」と「心の欠片」という数値がたまっているらしい。

キクの話だと強化に使うっぽいけどこれも後で祝に聞けばいいか。

それにしても初期エリアとはいえ一撃でさくさく倒してくれるとはね。動けない代わりにそれなりに強いのかもしれない。


竜蜂のリポップなのか巡回ルートになっているのかすぐに3匹セットの竜蜂がまたやってきて俺に反応して襲いかかってくるが、それに反応した土神に倒される。

こ、これってライバルプレイヤーもいないし何もしなくても敵倒してくれるから物凄く楽なんじゃ。

これは祝との合流までここで竜蜂倒しながら時間潰すしかないな。


ここを拠点にしばらく稼ぐ事に決めたので発動型の召喚でバフをかけておく。

発動型だと光神が防御力上昇の効果だ。

例によって白く輝く魔法陣から白く光る卵が現れると淡い光で俺を覆うと消える。

光も俺を包みきると消えるので、全身が光る怪しい奴にはならないですむ。

しかし白い卵とかもうでかい鶏の卵だよなぁ。


発動型だと残りの召喚は雷神が麻痺付与、水神が毒解除、火神が火礫による攻撃、氷神は遅延、風神が生命力回復、闇神が奇跡を使うための精神力の回復と色々出来すぎて器用貧乏の未来しか見えない。

あ、ちなみに維持の召喚で使ってるために土神の発動型は使えないが、土神だとダメージを一定量肩代わりしてくれる防御壁を張る技だ。

と、とりあえず稼げる時に稼いで祝と楽しく一緒に遊べる程度の強さは保っておきたい。

よし稼ぐぞーと意気込む横で土神卵さんが入れ食い状態でさくさく敵を倒してるので段々飽きてきて土神卵を背もたれに寝落ちてしまった。


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