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count8:亡者なき聖域(にわ)

桜舞う春の昼下がり。


黒田さんに助けられた俺たちが彼の案内でたどり着いた先─。


「皆さんこちらからお入りください」


鷹瀬たっての希望で鷹瀬に肩を貸してもらい俺は鷹瀬家の鉄門をくぐる。


「─す、すげぇ」


その先には─全く動死体ゾンビなんて野郎どもとは無縁な日本庭園らくえんが広がっていた。


俺同様その場にいた奈悠と莉愛もその庭園ばしょに感嘆を漏らす。


「おお~、凄いお庭だねぇ~!!」


「すごいっていうか……、もうすごすぎですよ!!」


ははは、と俺の隣で微笑する鷹瀬。


でも俺はそのとき思っていたのだ、そうまるで何かが─


「皆さんこちらへ」


「「はい」」


思考は黒田さんの声により停止した。


俺たちは黒田さんに連れられ石橋の掛けられた池の上を通り、枯山水の見える長い廊下を歩いていく。


もう、俺の貧困な言語知識ボキャブラリーじゃ立派としか表現できないほどすげー立派だった。


奈悠も莉愛も俺もその美しき日本の風景に目を奪われる。


「皆さん暫しここでお待ちを」


気がつくと目の前には金箔であしらわれた襖が現れていた。


黒田さんはその中へ入っていってしまう。


「それにしてもすげぇな鷹瀬。こんな庭園いえ持ってる奴実際にみたことねーぞ?」


「お祖父ちゃんの意向です。なんでも組の総本家だからやっぱりこうでなくちゃなって言ってました」


─おお、組の総本家か。


一応先程車中で黒田さんからは聞かされていた。



『ええ、この方は鷹瀬組現頭首鷹瀬 龍牙りゅうが様の御令孫であらせられます鷹瀬 琉奈様でございます』



『─そして私は龍牙様の玉除けをしております黒田 まさきと申します。以後お見知り置きを』



その話はこんな壊れた破滅せかいの中でも呑気に驚いていられるほど全くと言って信じられるもんじゃなかった。


しかしこうしてこんな凄い豪邸ところに連れてこられれば流石にその事実を信じるほかないのである。




「─るぅなぁあああ!!」




「「─え、」」


気づいたときにはもう遅かった。


ばん、と襖が外れるような威力で開き─っていうかマジ外れてるよあれ!?


「ぐぉおおお─っ!?」


そして俺は鷹瀬の肩から弾き飛ばされ、まだ足が直ってない俺は無様に廊下を転がっていた。


「お、お祖父ちゃん!?」


「おうおう琉奈や、無事でよかったぞ!! もうここに来たからにゃあ何の心配いらん!!」


突然現れ、人をぶっ飛ばし、轟くように喋る─まるで暴風のような年輩の男。


がっしりと鷹瀬を抱きしめ、その目には涙を浮かべていた。




─鷹瀬組組長 鷹瀬 龍牙のご登場である。




         ◇



「─悪いなボウズ。琉奈が男に肩貸してんの見て気に入らねーから思わずぶっ飛ばしちまったぜ!!」


「そうっすか……」


これが通された和室での鷹瀬龍牙の第一声である。


がははと豪快に笑い特段悪びれた様子もないご様子である。


こちとらいきなりぶっ飛ばされたので拳撃ストレートでもぶち込みたいところなのだが相手はなんといっても組長。


それにその隣には玉除け、─つまり護衛ボディーガードであり、あの動死体ゾンビの群れの中で男子高校生を難なく救い出せるような実力を持った黒田 柾さんが控えているのである。


とどのつまり俺程度なんかが粋がったところでどうにもならないので、結局ただ座っていることしかできないのであった。


「いや~、それにしてもあんたたちには世話になっちまったみてぇだな」


組長が頭をかきながらニヤリと笑う。


「そ、そんなあたしたちなんて─」


そんな組長の素直な謝辞に困った様子の奈悠と莉愛。


「謙遜すんな嬢ちゃん方!! あんたたちは俺の大事な大事な琉奈を護ってくれたんだ。感謝してもしきれねぇよ!!」


「─は、はあ……」


「それでよぉ、外はまあ……あれだからな、お前たちさえよければこの家で生活してくれても構わねえぜ。俺にできるのはこれくれぇだ」


「「─あ、ありがとうございます!!」」


もちろん断る道理りゆうもなく、俺たちは組長に頭を下げる。


それに続いて黒田さんと鷹瀬がお部屋にご案内しますと俺たちを連れて行こうとする。


─だが、


「─どうしたの銀くん?」 


俺は組長の前に座ったままでいた。


別にまだ攣ったダメージで立てないというわけではなく、俺は自分の意志でそこにいたのである。


「すみません黒田さん。俺、少し組長とお話したいことがあるんですが……」


「……龍牙様と、ですか?」


黒田さんは訝しそうに俺の方を見る。 


そりゃそうだろう。


一介の高校生が初対面にもかかわらず組の頭と話したいというのだ、どう考えてもおかしい話だ。


しかしそれを見て、組長も別に構わねえよと黒田さんに向かって手を振る。


分かりましたと黒田さんはそれに頷き莉愛と奈悠を連れて、鷹瀬とともに部屋の外へと出て行った。


襖が閉められた密室には俺と組長、─たった二人だけが残される。


そうすると組長はどこからか煙草を取り出し火をつけ始めた。


「─あの、組長。少しお話が……」


「ボウズ、別に敬語なんてつかわなくていいぜ。どうせここには俺とお前しかいねえんだ。お前の態度が悪いつっていきなり襲いかかるやつぁいねえよ」


「そうっすか。鷹瀬も同じようなこと言ってましたよ」


そりゃ俺の孫だからなと朗らかに笑う組長。


だが、俺はその快活な組長の笑いを遮り最初に感じていた疑問をぶつけていた。


「組長、─他の組員ひとはどうしたんです?」




一瞬だった。




ほんの一瞬で組長の顔は普通の老人から組頭の表情それに戻る。


それは凄みが感じられるものだったが俺は臆することなく続ける。


「俺たちがここに来てから今まで黒田さんと組長以外誰とも会っちゃいません。組長がこんなところにいるんです、黒田さん独りじゃ少なすぎやしませんか?」


俺の質問に組長はただ黙って煙草を吸っていた。


そして解答こたえを聞くに値するのか、─僅かな時間俺の方をその双眸で射抜くとやがて煙草の煙をぶあぁっと吐き出した。 


もくもくと部屋の中には煙草独特の匂いが立ち込める。


「─聞かねぇほうがよかった、そう後悔するかもしれねえぞ?」


「それでも構いません。今の俺に必要な事は現状ここが楽園なのか、地獄なのか知ることです。でなきゃ、─あいつらを護れませんから」


そう、例え後悔する事になろうとも俺には彼女たちを護るという選択肢みちしか残されていないのだから。


ただ進むしかない、─破滅じごく現実みちを。



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